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ものがたり

泣き虫幼なじみが王子様系アイドルに!? ドキドキが止まらない溺愛ラブストーリー♥『アイドル幼なじみと溺愛学園生活 君だけが欲しいんです』【特別ためしよみ連載】第1回


中1に進学したばかりの美織が再開したのは、今を時めく王子様系アイドルに変身した元泣き虫の幼なじみ・俊だった。毎日、美織しか見えない俊に溺愛されるドキドキの学園生活、スタート!
『アイドル幼なじみと溺愛学園生活 君だけが欲しいんです』の特別試し読み!

 



 

☆一話 三年ぶりの再会


「きゃー! 俊(しゅん)さまーっ!」

 校門をくぐるなり、割れんばかりの黄色い歓声が上がる。

 隣を見ると——俊が、ニヤリと口角を上げて投げキッスをしていた。

 またわき上がる女の子たちは、それぞれに思いの丈を叫びはじめる。

「今日も一番カッコイイです!」

「大好き! 次のライブはぜったい参戦するね!」

「こっち向いてー!」

 そのうち生徒指導の先生が飛んできて、みんなを無理やり教室に戻らせていた。

 はぁーっ、とわざとらしいため息が私の耳にかかる。

「罪だよなぁ、イケメンって。ね? 美織(みおり)」

 深みのある中低音ボイスで囁き、私にドヤ顔をしてくる俊。

 ……もうっ! さっきも、数人の女の子たちから睨まれていたんだからね!?

 と、私が内心焦りまくっていることなんて知る由もなく、俊は相変わらずニコニコとして肩を寄せてきている。

「ちょっと、近いってば」

「だって美織、手もつないでくんないんだもん」

「当たり前でしょ!? いくら幼なじみだからって……」

 そのとき。すっ、と真剣な表情になる俊を見て、思わず息をのむ。

 こちらを見つめる大きな瞳に、吸いこまれてしまいそうだ。

「……ずっと前から、僕は美織のことだけが好きだって言ってるよね?」

 なんで——いつから、こんなことを言うようになったの!?

 俊は、いつも泣き虫で、私にとって守るべき弟みたいな存在……だったのに。


 三年ぶりに俊と再会したのは、つい先週の出来事だった。

「んん〜??」

「どうしたの? 美織」

 今日は中学校の初登校日。

 すっかり春めいてきて、また新たな出会いを期待して胸を膨らませていたところ……だったのだけど。

 ふとつけたテレビに、最近話題のあの人が映っていて……何度も首をかしげてしまう。

 そんな私を見て、お母さんは卵焼きを作る手を止め、振り向いてくる。

「なんかあったの?」

「いや……」と、一瞬ためらったけど、ついにたずねることにした。

 それはもう、ずーっとすごく気になっていたこと。

「この柊木俊(ひいらぎ しゅん)って子、あの俊に似てない?」

 テレビに映っているのは、去年、トップアイドルの京極蓮司(きょうごく れんじ)(通称・れんれん)がオーディションを開催し、最近デビューを果たしたと話題の〝Top-of-King3〟。十代の男性三人組のアイドルグループで、今は様々な音楽チャートで一位をとっている。

 私が指さしているのは、そのTop-of-King3のセンターであり、私と同い年の柊木俊。

「んん? あの俊って?」

「ほら、小三くらいまで私がずっと仲良くしてた男の子」

 お母さんったら、なにをとぼけているんだろう?

 俊といえば、俊だ。

 家が隣で、いつも私の後ろにくっついて行動していた、弟みたいで可愛い幼なじみ。

 なぜか前髪が長くて暗いし、弱虫だったから、幼稚園の砂場でつくったお城を壊されたりしていつも泣いていた。

 私は、そんな俊をいじめる子たちを怒っては追い払い、ずっと守っていた。

 俊の両親はあまり仲良くなかったみたいで、俊が小学校に上がる頃には離婚して、俊は父親に引き取られていた。名字が鈴木(すずき)から変わらなくてよかった、なんて泣きそうな顔で抱きついてきたのを、今でも覚えている。

 だから、私がいないと誰かにやられて泣きじゃくっていたり、一人で寂しそうにしている俊がどうしてもほうっておけなくて。私は常にそばにいたんだ。

 俊も、そんな私のそばに、ずっといた。

 三年前、俊のお父さんの仕事の都合で引っ越し、離れ離れになるまでは……。

「俊くんは、鈴木俊でしょ? この子は柊木俊じゃない」

「……だから、芸名なんじゃないかなって……」

 言いながらも、私はだんだん恥ずかしくなってきた。

 だって、テレビに映る柊木俊は、誰よりもイケメンで、キラキラの笑顔を振りまいて自信たっぷりに新曲について語っている。

 あの泣き虫な俊と同一人物だなんて……ナイナイ!

 冷静になって考えてみれば、今でも俊とは月二くらいは手紙でやりとりしているし……もし、アイドルになんてなっていたら、ぜったいに教えてくれるよね?

 やっぱりありえないや。と、お母さんが机に置いてくれた卵焼きを頬張ってテレビを消そうとするけど……画面いっぱいに映る柊木俊の顔を見て、つい手を止めてしまう。

 すっと通った鼻筋に、小顔ではっきりとした輪郭。そして、くりっとした大きな瞳は淡く透き通った海色。……俊の前髪の下も、こんな目だったなぁ。

 いつも、綺麗だなぁ、もったいない、と思って見てた。

 けど同時に、誰にも知られていない宝物を独り占めしているみたいで、なんだか嬉しかった。

 そんなことを思い出しながら、テレビ画面をぼーっと見つめる。

 柔らかそうな黒髪も、見れば見るほどあの頃と一緒だった。

「笑い方が、そっくりなんだよねぇ」

 そう。私は俊の笑い声が特に大好きだった。

 いつも泣いてばっかりの俊が、笑うときはお腹に手を当てて大口を開け、びっくりするくらい響く声を出すんだ。

 あの無邪気な姿が見たくて、私は隙があれば変なポーズをしたりして、俊を笑わせていたっけ。

「うふふ。まぁ、気のせいなんじゃない?」

「……そうかなぁ。ていうか、お母さん、なんでさっきからそんなにニヤついてるの?」

「ええ〜? 気のせいよぉ」

 なんだか嬉しそうなお母さん。ぜったいにおかしい! と思ったけど、それから何度問いつめてもはぐらかされ、私はそのうち諦めた。

 もう、知らない。

 テレビを消し、まっさらな制服に腕を通す。チェック柄のスカートをはいたところで、私もやっと笑顔になれた。

 まぁ、柊木俊くんみたいにカッコよかったら、友達百人できそうだけど! 私は私で、心機一転。中学校では、ぜったいに上手くやるんだ。中学校では——。

 少しの不安と、漠然とした期待を胸に。

「いってきます!」と、大きく手を振って家を出る。

 太陽の光がさんさんと降り注いでいて、近所の川面がキラキラと輝いていた。そこに流れる桜の花びらを見て、つい、ふふっと声をもらしてしまう。俊とここでよく遊んだなぁ……。

 懐かしいなぁ、元気にしてるかな? 俊。

 そういえば、俊も今日が初登校日だって言ってたな。

 入学式の日にスマホをプレゼントしてもらったから、いつでもメッセージ送れるし! 俊には手紙で連絡先を送って、柊木俊のことも話してみよう。

 スキップしたくなる気持ちを抑え、通学路を早足で歩いていく。

 そのとき、一際テンションの高い声が後ろから響いてきた。

「おっはよ〜! みおりんっ!」

 ぐっと肩に体重を乗せられた私は、「わっ」と思わず倒れそうになる。振り返ると——やっぱり、大親友の小鳥遊凪咲(たかなし なぎさ)がいた。

「びっくりしたぁ。おはよ、凪咲」

「えっへへ〜。今日はぁ、後ろから登場してみたっ!」

「もう、そこの曲がり角から出てくると思ったのに」

「残念〜っ、まさかの電信柱に隠れてましたっ!」

 満面の笑みで、イタズラっぽく舌を出す凪咲。今日も、ちらりと見える八重歯が可愛らしい。三つ編みのツインテールがいつもより高い位置にあって、気合いが入っているのがわかった。凪咲も、初登校日を楽しみにしてたんだなぁ。

 私と凪咲は、小三の頃からの仲だ。俊が転校していった後、入れ替わるように凪咲が転校してきて、家が近いから一緒に登下校するようになったんだ。持ち前の明るさで誰とでも距離を詰められる凪咲は、クラスに馴染むのも早くて眩しかったなぁ。

 可愛くて、アイドルみたいな凪咲は人気者だけど、ずーっと私のことを大親友だって言ってくれるんだ。

 まっすぐなみおりんが大好きっ! って。

 曲がっていることが大嫌いな私だけど……時には迷うこともあって。でも、凪咲はそんな私を気に入ってそばにいてくれるから、一人じゃないんだって安心できる。

 俊がいなくなってから心寂しくなっていたけど、凪咲のおかげで毎日が楽しくなったなぁ。本当に、私は恵まれている。

 中学でも、また素敵な出会いがあるといいな。

 そんなふわふわとした気持ちで、桜並木を歩いていく。

 このときの私は、これからドキドキしっぱなしの無茶苦茶な学園生活を送ることになるなんて、夢にも思っていなかったんだ。

 

 学校に着くと、一年生の教室が並んでいる廊下に、クラス発表の貼り紙があった。

 大勢のなかをかき分けて進み、私もなんとか自分の名前を探す。

 花垣美織(はながき みおり)、花垣美織……っと。

 あった! C組だ。

「——えっ!?」

 そのとき。思わぬ人物の名前が目に飛び込んできて、私は言葉を失ってしまう。

〝鈴木 俊〟

 三年前に離れ離れになった、私の可愛い幼なじみ。

 確かに、同じクラスの欄に、俊の名前があったのだ。

「嘘、うそ、ウソ……!」

 人目も気にせず、私はひとり舞い上がり、その場で何度も足踏みをする。

 俊って……あの俊……っ!?

 そう、だよね……!?

 帰ってきてるんだ……っ!

 でも、なんで? そんなこと、一言も聞いてないよ!?

「きゃ〜! みおりんっ、また同じクラスだよぉ〜! うちらさぁ、小学校卒業前から同クラになりたいって話しまくってたもんねぇ! よかった……ん? みおりん?」

「あっ……よかった! ご、ごめんっ凪咲! ちょっと先行ってるね!」

「えっ!? みおりん〜っ!?」

 他の名前がいっさい目に入らなくなった私は、あわててC組の教室まで向かう。

 俊が……っ、俊がいるんだ!

 ガラッと勢いよく扉を開ける。

 けど、振り向いた子たちのなかに、俊の姿はなかった。

「……なぁーんだ、まだ来てないのかぁ。俊め、会ったらぜったいに問い詰めてやるんだから」

「——なにを問い詰めるの?」

 耳元で、懐かしい声がする。

 落ち着いた、なのに響く、少しだけ低い声。

 振り向く前に、私は後ろからぎゅうっと抱きしめられる。

「やっと会えた、僕の可愛い美織」

 瞬間。

 ぎゃああぁぁー!! とつんざくような女の子たちの叫び声が上がる。

「えっ、待って!! あれって、俊さま!?」

「え!! ヤバい!! 本当に俊さまじゃん!!」

「メガネかけててわかんなかった!! めっちゃイケメン!!」

 あちこちから聞こえてくる〝俊さま〟〝カッコイイ〟の声。

 首にがっしりと腕をまわされたまま、おそるおそる振り向くと、そこには——

「覚えてる? 僕のこと」

 今朝、テレビ画面に映っていた、あの〝柊木俊〟がいた。





第2回へつづく(6月1日公開予定)

『アイドル幼なじみと溺愛学園生活 君だけが欲しいんです』は、カドカワ読書タイムより2024年6月13日(木)発売!

幼なじみの王子様系アイドルから溺愛が止まらない!
キュンがいっぱいの学園ラブストーリーをお楽しみに!


著者: 木下 すなす イラスト: あさぎ屋

定価
1,375円(本体1,250円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784046835475

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