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ものがたり

新時代の新型ミステリー登場! 『歩く。凸凹探偵チーム』先行ためし読み 第2回「それは、呪いのラブレター⁉事件」


【「名探偵」は1人きりじゃない。「全員主役」のミステリーがスタート!】

自閉症のアルクの毎日には「こだわり」がいっぱいで、ちょっとメンドクサイ。でも、そんなアルクだからこその「気づき」が、みんなのナゾ解きの「カギ」になるんだ! 個性凸凹なチーム全員でナゾを解く、新しいタイプのミステリー。キミにはこのナゾが解けるかな?(毎週火曜日・全3回更新)

【このお話は…】
虹小新聞発行人・オヅにのせられて、
すっかり「学校の探偵」になってしまった理人とアルク。
今度の事件は「もらうと、なぜか不幸な事件がおきるラブレターのナゾ」だって⁉



2    それは呪いのラブレター!?事件

「なあ、理人……本当にだめかぁ?」
 今日の体育は、サッカーだ。
 校庭へむかう間も、オヅはまだ、ぶつぶつ言っている。
「あのなあ。ラブレターの相手がだれか、そんなこと調べるのが探偵の仕事なのか?」
 オヅの新聞を読んで、探偵への依頼がきた。
 いつの間にかかばんに入っていたラブレターの、差出人を捜してくれというものだ。
 名前が書かれていなかったらしい。
 ぼくはオヅにむきあって、言った。
「まず、第一に、ぼくは探偵ではない。第二に、かりに探偵だったとしても、ラブレターの差出人捜しは探偵の仕事ではない」
「そんなことないと思うんじゃけど」
「だいたいいまどき、ラブレターってありえないって思わないか。ラブレターなら名前書かなきゃ意味ないだろ。わかってほしければ自分で名乗ってくるだろうし、名乗らないなら名乗らないなりの理由があるってことだ。それを、関係ない人間がほじくっていいわけがない」
 うん。われながらリクツが通っている。
「でも依頼人は知りたい思うとるんよ」
「オヅがやってるのは探偵社じゃなくて、新聞社だろ。これ調べたからって、『○○くんが○○さんにラブレター!』、なんて記事にできないだろ。意味ないじゃないか」
「それが……それだけじゃないかもしれん」
 そのとき、先に校庭に出ていた女子が、数人走ってきた。
 ぼくらの数メートルうしろにいた田野先生のところへかけよる。
「先生。大変です。三田東くんがケガして」
 それを聞いて、オヅがとびあがる。
 ミタのことを心配して……というわけではないらしい。
「理人、やっぱりこれ新聞社と探偵の仕事じゃ! ラブレターをもらったやつには不幸がおこっとるんじゃ!」
「……は?」
「差出人不明のラブレターをもらったやつは、これまでに3人いたんじゃ。一応ネタとして調査中だったんじゃけどな。そこに今朝、差出人を捜してほしいって依頼がきたんじゃ。そいつが、無記名のラブレターをもらった4人目なんじゃ」
 オヅがいきごんで言う。
「最初にラブレターもらった2組の喜多川一也は、最近ケガしとるんじゃ。塾から帰ろうとしたら、自転車がパンクしていて、転んだらしい。2番目にラブレターもらったオレらのクラスの丸谷信二は、自転車のかごに入れていた物を盗まれたって言うてた。そのうえパンクもさせられていたって。そこまで聞いて、なんかのぉ心がざわざわしてのぉ……。ミタはなにも事件はないって言っていたんじゃけどな。ほいじゃけど、なんか心配でのぉ。これは調べんといけん思うて、3人のラブレター、預からせてもろうたんじゃ。結局、ミタも、ケガしたろ……! ラブレターをもろうた3人ともトラブルっておかしいじゃろ」
 うーん……。
 ビミョーだ。
 たまたま、その3人によくないことがおこったと考えられないこともない。
 ただ、ちょっとだけ気になることはある。
 3人の共通点を見つけてしまったから。
 ぼくの見つけた共通点は、2種類ある。
 そのうち1つの共通点を持っている人は、ほかにも数人思いうかぶ。
 だけど、もう1つの共通点は——ほかにあてはまる人は、虹丘小6年には、あと1人しかいない。
「今回依頼してきた『もう1人のラブレターもらった人』って2組の桐野美波じゃないよな?」
 ぼくの言葉に、オヅがとびあがった。
「どどどどうしてわかったんじゃ理人! やはり理人は名探偵じゃわ!」
「4人には共通点があるんだ。だけど、だからといって、それがラブレターをもらう理由にも、ケガさせられる理由にもならないよ」
 ミタが、校庭を横ぎって、こっちにくる。保健室にいくんだろう。
 自力で歩いているし、大ケガじゃない。
 でも、派手にすりむいたひざが、痛そうだ。
 ゲタ箱で、ミタが脱いだ靴を、手にとった。
 かかと部分がやぶれている。急にやぶれたせいで、ころんだのだろう。
 だけど、そのかかとの傷み方が不自然だ。
 切り目でも入れられていたんじゃないかな……。
 自然にやぶれたにしては、靴はかなり新しい。
 ミタは早く校庭に行きたくて、靴の、はきごこちがいつもとちがうことなど気にとめず、走っていて、かかとがやぶれてころんだんじゃないかな……。
 もし、ころんだ場所が階段だったら?
 車が走っているようなところだったら?
 もっとひどいケガだったろう。
 そう考えると、ぼくの眉間にたてじわが寄った。
「——なあ、オヅ。もし、これがだれかが故意にやったことなら、ゆるせないな」
 すると、我が意を得たりというように、オヅがとびあがった。
「じゃろ? 探偵の出番じゃろ!?」
「ちがうだろ。先生に言うべきだろ。これから桐野さんにもなにかあったら、どうすんだよ」
 ぼくが指摘すると、オヅはちょっと肩を落とした。
「ほうよのぉ」
「ただ……、先生にわたす前に、ぼくもそのラブレターってやつ、見ておきたいかな」

    ★
 次の休み時間、まずぼくたちがいったのは、「依頼人」の桐野さんのところだ。
 桐野さんがもらったラブレターは、まだ預かってない。
「このラブレターの差出人、調べてくれるんでしょ?」
 桐野さんが言う。
 桐野美波さんは、くるっと上むいたまつげと、くちびるをつやつやさせた女の子だ。
「いや。これは先生にわたしたほうがいいよ」
「えっ、どうしてよ?」
 桐野さんが、不満そうに口をとがらせる。
 ぼくはまじめな顔で言った。
「ほかに、無記名ラブレターを受けとった3人がトラブルにあっているんだ。桐野さんにもなにかあったら困るだろ。先生にきちんと調べてもらったほうがいい」
「3人? 三田くんにも、なにかおきたの?」
「さっき体育の前に、ころんでケガしたんだ」
 桐野さん、自分以外に、3人がラブレターをもらってるって知っているのか。
 そして、さっきのミタはともかく喜多川くんと丸谷にトラブルがあったことも、知っている……。
 桐野さんが手わたしてきた封筒は、ピンク色だった。
 百均で売られているのを見たことある。
 なかに入っている紙もピンク色だ。
 開くと、手書きではなく、パソコンで打った手紙だった。

   美波さんの大きな目が好きです。
   くちびるもキュートです。
   笑顔が素敵です。
   だれよりも美人だと思います。
   心もやさしくて最高です。   匿名より

 …………。
 なんじゃこりゃ。
 桐野さんがちょっと得意そうに言う。
「こんなにほめてもらったら、お礼の一言も言いたいでしょ。探偵なら、さがしてくれるわよね」
 ぼくが手紙を封筒にもどそうとすると、ふわりとあまい香りがした。
 ……この香りは……、と手をとめると、
「キラキラの香りよ」
 と桐野さんが答えた。
「キラキラ?」
「ええ? まさか知らないの?」
 人気アイドルのキラキラは、男子より女子に人気のファッションリーダー的な存在で、キラキラがプロデュースしたファッションアイテムは、なんでもバカ売れ。
 特に、自分と同じ「キラキラ」と名付けたパフュームは、大人気で売り切れ状態。
 手に入らない……とのこと。
 桐野さんが熱く語ってくれた。
「ああ、あれか。うちの新聞に広告のせてくれた化粧品店のおばちゃんが言うてたやつじゃ。ドリームでは売り切れのパフュームが、うちにはまだあるって。けど、そんなに手に入らんもんなら、たくさんの人に使うてもろうたほうが楽しいから、この店で自由に使わせてあげるんじゃ、言うてたわ」
 女子たちは、ときどき店にいって、おばちゃんに手首にほんの少しかけてもらうらしい。
「キラキラ」の香りは、バラの香りに似ていて、その香りが消えるまで、ゴージャスな気分になれるそうだ。
「わからんのぉー。どうしてそがあな香りがついとるんじゃろ。この手紙って男子からじゃないんか?」
 オヅが首をかしげる。
「バラのパフュームを使うのが女子だとはかぎらないだろ」
「まあ、そりゃそうじゃな」
「キラキラパフュームを手紙につけると願いがかなうって、有名なのよ。だからじゃない? あとの3人の手紙もこの匂いだったでしょ」
 桐野さんの言うとおりだった。
 3通の手紙も、あまく香った。
 だけど、手紙の内容は、桐野さんのとはぜんぜんちがう。
 あとの3人の手紙は、同じ文面だった。

   好きです。
   大好きです。
   あなたのこと、いつもかげから見ています。
   私がだれなのかわかるように、秘密の合図をおくるね。
   この手紙のことは、だれにもないしょだよ。

 桐野さんがもらった手紙より本気っぽく感じるけど、またもやパソコンで打った文字。
 どんな子が書いたのか、気配がまるで感じられない。
 それに、本気のラブレターなら、たとえ3人同時に好きになったとしても、同じ文面で送ったりするわけないと思う。
 喜多川くんたちにぼくも話を聞いた。
「最初はさあ、初めてもらったラブレターかと舞いあがったんだー。塾のかばんに入っていて、だれからだろうって、どきどきして」と喜多川くん。
「塾から帰ったら、いつのまにかかばんのなかに入っていたんだよ。オレらの塾、虹丘小から通っているのは男子ばっかりでさあ、よその学校の女子がくれたラブレターだと思ったよな。それで学校で自慢したら、喜多川くんも三田くんも塾で同じのをもらったっていうから、がっかりさ。こりゃ、からかわれたんだなって」と丸田くん。
「でも、なんでこの3人なんだろうな?」とミタ。
 3人とも青葉塾に通っている。
 ここから自転車で15分。新しくできた、かなり大きな進学塾だ。
 3人は、学校でお互いのラブレターを見せあったらしい。
「学校にこの手紙を持ってきたとき、ほかの子にも見せた? 桐野さんも見た?」
「うん。まわりにいた何人かは見たよ。オヅにもそのとき見せたんだし、桐野さんもいたよ」
「桐野さんに来た手紙は、塾ではなく学校でかばんにいれられている。文面もちがう。だけど香りはいっしょなんだよな」
 すると、
「ちがいます」
 それまでだまってそばにいたアルクが急に声をあげた。
「この手紙は、立石化粧品屋さんの匂いです。桐野さんの手紙は、デパートの匂いです」
 立石というのは、ただでキラキラを使わせてもらえる化粧品店さんのことだ。
 でも、デパートの匂いっていうのはどういうことだ?

     ★
 うちの街には、駅前に、そんなに大きくないデパートがあって、2階に化粧品コーナーがある。
 放課後、ぼくたちはそこへむかった。
 階段をかけあがったアルクは、外国メーカーの高級化粧品売り場を指さした。
 男子小学生だけじゃ、ちょっと近づきにくいなあ……。
 せめて、だれか知り合いでも通ってくれたらいいのに。
 アルクが、まっすぐに売り場へ入っていく。
 あの売り場に、キラキラと似た香りのものがあるのか?
 アルクはこのあたりを通ったときぐうぜん嗅いで、覚えていたんだろう。
 アルクは、あるブースの前で、ぴたりと足を止めた。
「ここ」
 でも、記憶力は抜群でも、会話がうまいとは言えないアルクが、お店の人にうまく事情が説明できるとは思えない。
 ぼくにだって、できる気はしないけど……しかたない。
 売り場の店員さんたちは、つんとすましてるように見えて、めちゃくちゃ話しかけにくい。
 どう見ても、ぼくたちはお客じゃないもんな。
「あ、あの、すみません。ここ、キラキラと似た香りのもの、ありますか」
「キラキラ?」
 店員さんの眉間にしわがよる。
 ガラスケースのなかを見ると、びっくりするくらい高い化粧品が並んでいる。
 キラキラは、小学生だって買おうと思えば買える値段のはずだ。
 ここのは、うちの母さんにだって買えない値段だ。
 母さん……その単語で、いい案をひらめいた。
「あのぉ、山手町4丁目の桐野といいますけど、母にたのまれたんです」
「ああ! 桐野さまの? 息子さんもいらっしゃったのねえ。お嬢さんも気に入ってくださっている、いつものパフュームでよろしいのかしら」
 と、小さなびんの入った箱を出してくれる。
「言われてみればたしかに、キラキラに少し似た香りですよね、でも深みがまるでちがいますもの。そのちがいがわからない方には、キラキラをつけていると勘ちがいされてしまうって、買うのをやめるかたもいらっしゃって……。あら、私、ぼっちゃん相手になにを言っているんでしょう」
「あ、ぼくお金を忘れてきたみたいです。またあとできます。すみませんっ」
 アルクの手をひっぱって、化粧品売り場から走り去りながら。
 ぼくの頭の中で、霧のようだった真実が、ぼんやりと形になっていくのを感じた。


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