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ものがたり

新時代の新型ミステリー登場! 『歩く。凸凹探偵チーム』先行ためし読み 第1回「怪奇⁉ 真夜中に鳴るチャイム事件」


【「名探偵」は1人きりじゃない。「全員主役」のミステリーがスタート!】

自閉症のアルクの毎日には「こだわり」がいっぱいで、ちょっとメンドクサイ。でも、そんなアルクだからこその「気づき」が、みんなのナゾ解きの「カギ」になるんだ! 個性凸凹なチーム全員でナゾを解く、新しいタイプのミステリー。キミにはこのナゾが解けるかな?(毎週火曜日・全3回更新)

【このお話は…】
ぼく・理人と、いとこのアルクは、毎日いっしょ。
「右手」と「左足」みたいな2人だ。
ぼくらがそろって登校したある朝――事件がもちこまれた。
ぼくらのクラスメイトのオヅが、大騒ぎをしながらいどんできた、そのナゾとは…!?



1    怪奇!真夜中に鳴るチャイム事件

「おはよーございます!!!」
 今日も7時ジャスト。
 アルクが、ぼくんちの玄関のドアを開けた。
 ………………朝から元気よすぎ……。
「理人くん、おはよーございます!!!」
「ふが」
 リビングに入ってきて、そのままソファーに座るアルクを横目に、ぼくは、どうにかひと口目のトーストを飲みこんだ。
「おはよう、アルくん。理人は、つい3分前に起きてきたばかりよ。朝が弱いにもほどがあるわ」
 母さんはためいきをつきながら、慣れた手つきでアルクに新聞をわたした。
「理人も、あいさつくらいしなさい」
「ふぁい……おはよ、アルク」
 アルクは、母さんの弟の、1人息子だ。
 つまり、ぼくのいとこ。
 マンションの、となりの部屋に住んでいる。
 ぼくと同じ、6年生。
「歩」という漢字で、「アルク」と読む名前をつけたのは、アルクのお母さんだ。
 そのお母さんは、アルクが小学生になる前に、死んでしまった。
 だから、アルクは、ぼくんちですごすことが多い。
 夕飯も、ぼくんちで食べる。
 だけど、夜は決まった時間に自分ちにもどる。
 アルクの父さんが出張で家にいないときでも、1人で、自分ちで眠る。
 朝ごはんは、自分ちで食べ、それから、ぴったり7時になると「おはよーございます!!!」とぼくんちにやってくる。
 それが、アルクの「ルール」だ。
 毎日、規則正しい一日をおくることが、アルクは好きだ。
 アルクがやってくる朝7時は、まだぼくは、もうろうとしている。
 でも、高学年って、そんなもんじゃないの。
 遅寝&遅起き。
 ぼくを待つあいだ、アルクは新聞を読む。
 アルクは国語が苦手で、小説はぜんぜん読まない。
 けど、新聞は好きらしい。
 ぼくが朝ごはんをたいらげるあいだに、新聞のすみからすみまで、キッチリ目を通すのが日課なんだ。

    ★
 そんなアルクを喜ばせることが、この朝あった。
 アルクといっしょに家を出たぼくが、太陽のまぶしさに、めまいすら感じながら、どうにかたどり着いた学校の門のところで。
 同じクラスの小月守、通称オヅが、なにか紙を配っていたんだ。
「さあさあ、押さないで押さないで。虹小新聞創刊号、たっぷり用意しておりますので、みなさまにございまーす!!」
 ……うーん、こいつも朝から、やたら元気がいい。
 オヅのやつ、先週はおなかが痛いって保健室で寝てた日もあるのに、もう、ぼくの倍は元気だ。
 どうやったら朝からそんな大きな声が出るんだろう。
 だれも新聞をもらいに殺到してないし、押してもいないのに。
 オヅの配ってる紙は、普通の新聞より小さい。
 ページも少ない。
 それでも「新聞」と聞いて、アルクの目がかがやいた。
「アルクだけじゃけえのぉ、ぶちうれしそうに、もろうてくれるのは」
 オヅが、ばりばりの広島弁でこたえる。
 そりゃそうだろーオヅ。
 いきなり「新聞」なんて紙を手わたされても、とまどうのがフツーの反応なんじゃないかな。
「——お天気コーナーが、ありません」
 さっそくその場で紙に顔をつっこんだアルクが、ぼそりと言う。
 アルクは、新聞の天気予報のコーナーが好きなんだ。
「次号では、ちゃんと作るけぇ、期待しとってえや、アルク」
 オヅは、うれしそうにこたえる。
 そのユーモラスな口調とはイメージがちがうけど、几帳面で、律儀なやつだ。
 きっとアルクとの約束は守るだろう。
「オヅって、新聞係だったっけ?」
「ちがうわい。あんな子どもだましな新聞づくりなんか、やっとれるわけなかろー。『先生にインタビュー!』なんて、ぬるい壁新聞、おもしろいって思えんわ。新聞づくりってのは自分でニュースを拾ってこなくちゃだめなんじゃ。自分の目と足でなっ!」
 オヅは、自分ではかっこいいこと言ったと思っているんだろう。
 なんかポーズを決めている。
「はあ。だけど、よく先生が許可したなあ」
「ばーか。なんでそこへ先生が出てくるんじゃ。全部自分でやっとる。市役所で、無料で印刷機を使えるんじゃ。紙は持ちこみじゃけどな」
「紙はこづかいで買ったのか?」
 紙だって、買えばけっこう高い。
 あっというまに、こづかいがなくなっちゃうだろう。
「それも考えてあるわいの。新聞、見てみなって。宣伝が入っとるじゃろ」
 宣伝?
 アルクの持ってる紙を見ると、たしかに書いてある。
「虹小そばの文房具店には、『ドリーム』にはない、こんな商品がありますよ」——なんてことが、くわしく書いてある。
 ドリームっていうのは、大きなショッピングセンターだ。
 そのとなりには『おはだの手入れをしてみたいと思っている人に!』なんてキャッチフレーズといっしょに、化粧品店の紹介もある。
 大人気のキラキラパフュームが、お試しさせてもらえるとか。
「『広告宣伝費』いうことで、協力してもらう約束をつけとるんじゃ」
「えっ、それ大丈夫なのか?」
「学校にはナイショじゃけえ。お店には、学校の校外学習なんじゃいうて説明しとる。だから新聞名は、ダサいけど学校の名前を入れたんじゃ」
「へ—————」
 オヅの悪知恵……というか、行動力に、すなおに感心する。
 あらためてアルクの広げた新聞に目を落としてみる。
 新聞の1面トップ記事の大きな文字は「怪・真夜中にチャイムが鳴る!?」だ。
「深夜0時に学校のチャイムが鳴りよったって、学校の近くに住んどるやつが言うててさあ、記念すべき第1号の記事にした、いうわけよ」
「へえ……」
 夜中のチャイムか。それは近所めいわくな話だなあ。
「あれ? 理人ならここは『先生がタイマーセットをまちがえただけだろ』とか言うんじゃ」
「それはない」とぼく。
「へ? なんでじゃ?」
「この学校のチャイム、旧式だろ。いったんセットしたら、変更するのがめんどうなんだよ。だからさ、短縮授業の日なんかも、いつもどおりの時間にチャイムが鳴って、校内放送で訂正するんだ。たった1日のために、セット変更なんかしてられないってこと」
「へえ〜〜。理人。おまえって、いろんなこと知っているのぉ。じゃあ、なんで、夜中に鳴るんじゃろ」
「それは今のところ、わからない」
「今はわからんでも、いつかはわかるいうこと?」
 オヅがつっこんだそのとき、ぼくのとなりでアルクが言った。
「————チャイムは、3月14日の放課後から、正しいです」
 オヅに言ったというより、つぶやいたっていう感じだ。
「ん、なにアルク? 『14日から正しい』って……それまでは時間が正しくなかったってことか?」
 ぼくがたしかめると、アルクは、こくりとうなずいた。
「1分、遅れてました」
 ふむ……。
 カシャッ
 そのとき音がして振りむくと、オヅがスマートフォンでぼくたちの写真をとっていた。
「理人、腕をくんで考えこむポーズ、ぶち探偵っぽいで!」
「るせー勝手に撮るな」
「我が新聞社は探偵を募集しとるんじゃ。オレが謎を探して
くるから、それを解決する探偵がいるんだ、そしてオレが記事を書く!」
「知るか。それよりオヅ、通学路でスマホ使って、大丈夫なのかよ」
 オヅんちは、今年、校区外に新しく家を建てた。
 本当は転校しなきゃいけなかったけど「小学校生活もあと少しなのに」って言い分が通って、そのまま、この学校に通っている。
 お母さんの車で送迎してもらうために、連絡用のスマホを持つことを特別に許可されている。けど、校内では使用禁止。
 登校したらすぐに、先生に預けることになっている。
「まだ、校門の中に入ってないんだから、いいじゃろ。新聞はパソコンで作るんじゃけど、スマホは校内じゃ使えんじゃろ。校内では、これで撮影するつもりよぉ」
 と、使い捨てカメラを見せてくれる。
「でも、これだと使い切ってからじゃないと現像するのがもったいないし、プリント代もかかるし、大きさ変えたりできないし、不便なんよのぉ。そのうち、先生に見つからんような、こまいデジカメ買おうと思っとるんじゃ。こづかいためて」
 ためいきをつきながらも、オヅは横を児童が通ると、シュビッと近づいて新聞をわたしている。
 文章力もあるし、カメラやパソコン、機械はなんでも得意。
 なのに、その能力もバイタリティも、勉強にはちっとも使わずに、授業中のいねむり率ナンバーワンなやつだ。
 ぼくとアルクは、オヅをほうって、先に教室にいくことにした。

    ★
 教室に入ると、みんなけっこうオヅの新聞を読んでいる。
「なあ、夜中のチャイムって、やっぱ、霊のしわざかなあ? だって、この学校の横って、昔は墓地だったんだって」
 と、前の席の川野が振りかえって、ぶるっと震えてみせた。
 新聞で『霊がチャイムを鳴らしている』って断言してるわけじゃない。
 真夜中チャイムの記事の最後に『昔、学校のそばに、墓があったらしい』とあるだけだ。
 うそはついてないけど、バッチリ興味をひける。
 オヅの悪知恵にひっかかってる川野にむかって、ぼくは冷静にこたえる。
「あのさ、人類の歴史は何千年ってあるんだぜ。あちこちでいろんな人は死んでいるだろうよ。それがいちいち化けてでて悪さしたら、日常生活なりたたないだろうが。それに霊がわざわざ真夜中にチャイム鳴らす意味がわかんねえ。訴えたいことがあるなら、昼間にリンゴンリンゴン鳴らしたらいいだろ?」
「理人くん、虹丘小学校のチャイムの音はリンゴンリンゴンではありません」
 アルクが横から、細かいことにつっこむ。
 ちょうど朝のチャイムが鳴り、オヅがすべりこんできた。
 ぼくの右横の席についたオヅは、
「のぉ、新聞読んでくれた?」
 と、つついてくる。
 真夜中のチャイムの記事のなかには、学校の近所の人のインタビューが数人分のせてあった。
「夜中ごろ、たしかにチャイムの音を聞いた」と。
「その音は、どこか不気味で怨念めいたものが感じられた」と。
 さらに「チャイムの機械の時間設定を先生にたのんで確認してもらったが、0時にセットはされていなかった」と……。
 ふむ。
「オヅ、質問。真夜中のチャイムは、いつから鳴りはじめた?」
 記事にそこは書いていなかったから、気になった。
「おおっ。理人、記事に興味持ってくれたんかー。うれしいのぉ。……いつからか正確なことはわからん。春休みに夜更かししたやつが気づいて教えてくれたんじゃ。それで、あちこち聞きこみしたら、そういえば夜中聞いたような気がするって人が、たくさんいたんじゃ」
「職員室のチャイムの機械、『0時にはセットされてない』って確認したのはいつ?」
「3日前。先週の金曜日じゃ。高木先生にたのんで、見てもらったんじゃ」
「金曜日以後も、0時のチャイムは鳴ったのか」
「いや、金曜夜は確認できなかった。土日はチャイムが鳴らない設定じゃし……」
 そして今日は、月曜日。
 ————なるほど。
「なあ、オヅ。もう0時のチャイムは、鳴らないんじゃないかな」
 そう言ったぼくの顔を、オヅがじっと見る。
 そのとき、担任の田野先生が入ってきた。
 日直の「起立」の言葉に立ちあがりながら、そのつづきは、指文字でオヅに伝えた。
 オヅとぼくは、手話を習ったことがある。
 手話は少ししか覚えられなかったけど、指文字は覚えている。
 指の動きで五十音を表現するんだ。
 オヅもおぼえているはずだ。
 ぼくの指の動きを読んだオヅは、なにも返事せず、まっすぐ前をむいた。
 その日、オヅが、真夜中のチャイムの話題をぼくにすることはなかった。

    ★
 その日の真夜中。11時半。
 母さんはまだ起きている。
 ぼくの部屋から玄関へは、リビングを通らないといけない。
 ぼくはベランダに出る。
 3階だからそんなに高くはないけど、飛び降りるわけにはいかない。
 ひもをしっかり体にくくりつけて、ゆっくりと降りる——なんてことも、もちろんしない。
 高所恐怖症だよ、ぼくは。
 じつは、もっといい方法がある。
 となりのアルクのベランダと、ぼくんちのベランダの間のしきりは、外してあるんだ。
 おじさんが出張のときも、アルクは夜、自分の部屋へ帰る。
 夜中、心配でも、いちいち合鍵で玄関をあけて、入っていくのは不便だし。
 アルクのほうからも、いざというときは簡単にぼくんちへ来ることができるよう、ベランダをつなげたんだ。
(それでも、朝はかならず玄関からうちへやってくるアルクだけど)
 靴はベランダに持ってきておいた。
 それを持って、ぼくはアルクの部屋へ入った。
 おじさんは、今日は出張でいない日だ。
 ぼくはアルクんちの玄関を通って、外に出るつもりだ。
 ベランダを通ってアルクの部屋へ。
 ベランダへのガラス戸は、いつも鍵を開けておくルールだ。
 起こさないように、そっと入る。
「○△※×◎◆———っ!!!!!」
 痛い!
 大声を出さないようにするのに苦労した。
 フィギュアだ。
 本格的なやつではなくカプセルトイで出てくる小さな人形。
 アルクはプロ野球にハマっていて、いや、正確にはプロ野球選手の人形集めにハマっていて、ならべて遊んでいることが多い。
 それを片づけずに眠ったらしい。
 小さな人形のくせに、ふむと、とんでもなく痛い。
 声を出さずに悶絶しながら、それでもどうにか玄関へむかおうとしていたら、
「理人くん?」
 アルクがベッドから起きあがった。
「あ、起こしちゃった? ごめん、アルク。まだ11時半だよ。眠っている時間だよ。もう一度寝てください」
 と言うのに、アルクはてきぱきと着替えはじめた。
 アルクには、「こだわり」が多い。
 だれにだって、こだわりの1つや2つあるだろうけど、レベルがちがう。
 アルクは徹底的にきっちりと守る。
 夕飯はぼくんちで食べても夜には自分ちへもどり、10時ちょうどに眠る。
 朝6時に起きて、7時ちょうどにぼくんちに来る。
 ほかにも「こだわり」は、たくさんある。
 そのうちの1つが、
「麻田アルクは、有川理人といっしょに行動する」ということ。
 ぼくも、それはいやじゃない。
 アルクは、兄弟のようで親友のような、不思議な存在なんだ。
 だけど、今日だけはついてこなくていい。
 ただ真夜中の学校に行って、あることを確認したいだけなんだから……。

    ★
 0時少し前。校門前についた。
 結局、アルクもついてきた。
 しゃがんで、目を閉じている。眠いんだろうな。
 アルクは苦手な音がする場所では、イヤマフをつける。
 ヘッドフォンみたいなかたちのもので、今はそれを首にかけている。
 真夜中だから、アルクの苦手な音なんてしないのに、習慣で持ってきたのだろう。
 その数分後のことだ。
「小月くん、こんばんは」
 顔もあげずにアルクが言った。
 ぼくが気づくと、すぐそばにオヅが立っていた。
 ぼくには、なにも聞こえなかったのに。
 イヤマフをしてないときのアルクは、やたら耳がいい。
 かすかな足音を、ちゃんと聞きわけていたのだろう。
「こんばんは、アルク、理人」
「来たんだな」
「そりゃあ来るわいのぉ。指文字で、今夜0時チャイムが鳴らんかったら犯人はオヅ——なんて言われたらのぉ。——でも、なんでオレが犯人なんじゃ、理人」
「犯人はオヅだ、なんて言ってないだろ。オヅなのかってきいただけだろ」
「似たようなもんじゃろ。なんで、そう思った?」
「動機と、可能性からだよ」
 ぼくはまっすぐにオヅを見つめながら、説明をはじめた。
 オヅは、機械に強い。
 チャイムの時間変更だって、やればきっとできる。
 だけど、職員室には、いつも人がいる。
 でも、あれは3月14日。ホワイトデーのこと。
 クッキングクラブがクッキーを作って、職員室へ差し入れをして、先生たちはみんな、そのまわりに集まっていた。
 ぼくは科学クラブの先生に用があって職員室をのぞいた。
 けど、科学クラブの先生はいなかった。
 そのとき、職員室のすみっこに、オヅがいた。
 色画用紙などの備品がおいてある場所だったので、選んでいるのかなってそのときは思ったんだけど……、チャイムの機械は、あの奥にあるんだよな。
「——チャイムは、3月14日の放課後から、正しいです」
 しゃがんで地面に顔をむけたまま、またアルクが言った。
 アルクの「3月14日からチャイムの音が正しい」って言葉をきいて、その日の職員室でオヅを見かけたこと、思いだしたんだ。
「そのとき、オヅは、0時にチャイムが鳴るようにセットしたんだろ。そのついでに、チャイムの機械本体の時間が1分遅れていたのを、直したんだ。オヅ、そういうところ几帳面だよな」
 オヅはなにも言いかえさずに聞いている。
 ぼくはつづける。
 0時にチャイムが鳴ってることを何人かが気づいたら、今度はセットを解除しないといけない。
 真夜中のチャイムのことがあまりに騒ぎになると、先生がチャイムを調べるだろう。
 だれかが勝手に0時にセットして鳴っていただけじゃ、ただのいたずらで、謎でもなんでもなくなってしまう。
 はやめに解除したい。
 だけど、なかなかできなかった。
 春休みは職員室に入る用もないし、新学期もチャンスが少ないからだ。
 先週金曜日は、避難訓練があった。
 そのときオヅは「おなかがいたい」と言って、保健室に行った。
 保健室の先生も外に避難していたのを見かけた覚えがある。
 オヅは「1人でねてますから」とか言って、残ったんじゃないのか。
 保健室のとなりは職員室だ。
 職員室には事務の先生だけ。
 オヅが1人忍びこんでも、気づかないかもしれない。
 事務の先生の席からは、チャイムの機械の場所は、見えにくいし。
 無事に解除して、その放課後、0時にはセットされていないことを先生に確認してもらった。
 そして、土日のあいだに新聞を完成させて、印刷した。
 市役所の印刷コーナーは土日もあいているから、できたんだ——。
 ぼくが長い推理を言い終えると、一瞬、あたりがシンとなった。
「——って、どれもただの想像だよ。オヅには、0時にチャイムが鳴るようにすることができたってこと。そして、新聞のネタがほしかったっていう、動機があるってこと。ぼくがわかってるのは、それだけだ」
 と、ぼくは両肩をすくめた。
 オヅが、うっすら微笑んだ。
「今日の放課後、理人は職員室へ行って、0時にセットされとらんか自分でも確認したんじゃろ?」
「うん。セットはされてなかった」
「もし今夜0時にチャイムが鳴ったら、オレが犯人じゃないって証拠になるわけじゃね」
 オヅが、挑戦的な顔になる。
 ……たしかに。
 セットされてないのにチャイムが鳴ったら、ぼくの推測は全部くずれる。
 オヅは、校舎の真ん中にある時計を見上げた。
 その時計は正確だ。
 少しひんやりした風が、ぼくたち3人の間を吹きぬけた。
 そのとき、時計の短い針と長い針が重なった。
 0時だ。
   キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
 0時になると同時に、レトロなチャイムの音が鳴った。
「チャイムが……鳴った?」
 学校のチャイムは、たしかにセットされてなかった。
 先生には帰るときにも、もう一度チェックしてくれるようにたのんでおいた。
 鳴るはずがない。
 すると、アルクが立ちあがった。
「音が、ちがいます」
 ぼくの顔を見て、きっぱりとそう言った。
「……!」
 鳴らないと思っていたチャイムに、おもわず動転していたけれど、そう言われてみれば……。
 音の大きさも響きも、ちがってないか。
 アルクが校門を乗りこえた。
 夜、校庭に入っただけでは、警報機は鳴らなかった。
 でも、校舎に入ると、きっと警報機が鳴る。
 アルクが校舎に入らないか心配したけど、アルクは、校庭の桜の木のそばで立ち止まった。
 大きな枝の根元にスマートフォンがおいてあった。
 そのブルーのスマホには、見覚えがあった。
 オヅのだ。
 オヅがやってきて、スマホを取りあげてポケットにしまった。
「……チャイムの音を出せるアプリがあるんじゃ。理人が来るまえにセットしといたわ」
 オヅは、それだけ言うと、ぼくらに背中をむけて、校門のほうにむかう。
 そのうしろすがたに、なんだかぼくは腹がたってきた。
「おいオヅ! インチキしてまで、特ダネがほしかったのか? 新聞ってのは、真実を書くもんじゃないのかよ!」
「わかっとる」
 オヅは、振りむいてはくれなかった。

    ★
 翌朝。
 寝不足で、ぼくがいつもよりいっそう重い足をひきずって学校に近づくと、
「号外! 号外〜!」
 と元気のいい声がきこえた。
 新聞を配っているオヅのすがたが見えた。
 ……おい……。
「おはようさん、理人、アルク」
 オヅはぼくのすがたを見つけると、笑顔で1部、さしだした。
 ぼくたちは1部ずつ受けとって、そのまま教室にむかう。
 ゆうべ、あれから号外を作ったのか?
 無料印刷へいく時間はない。
 家のプリンターか、コンビニでコピーしたのか。
 1ページ片面だけとはいえ、広告もなく、赤字覚悟で作ったんだろう。
「新聞には真実だけ」
 っていうぼくの声に心を動かされて作った号外か……ん?
 号外なのに、天気予報コーナーがある。
 アルクとの約束だからか。
   天気予報コーナー ずっといい天気
 そう書いてあるだけだけど、オヅオリジナルのお天気マークを見て、アルクが笑顔になる。
 少しなごんだ気持ちが、記事を読んで、ふっとんだ。

『真夜中のチャイム事件の真相』
前号掲載の「真夜中のチャイム事件」。じつは、あの記事は我が新聞社からの挑戦状であった。
3月14日、記者の1人が、ひそかに職員室のチャイムの機械を0時にセットし、この謎をしかけた。その音を聞いた人が現れたあと、セットを解除したのだ。
真相はごく単純なものであった。だが、ある2名が、この真相をつきとめたスピードは、評価に値する。
我が新聞社は今後もさまざまな謎の解明をしていく予定である。それには謎解きが得意な記者が必要であった。そのための推理力をためす、採用試験をかねたのが創刊号であった。
晴れて2名が、我が新聞社専属の探偵となった。
探偵の力を借りたい読者は、ぜひ情報をお寄せいただきたい。

 なんだっ、このつっこみどころ満載の号外は!
「記者の1人が」って、そもそも記者はオヅ1人しかいないだろうが!
 そもそも、推理力がいるほどの事件でもない。
 そして、この写真はなんだ——っ!
 記事の中に小さな写真があって、よく見ると、校門のところでとられたらしいアルクとぼくだ。
 しかもまるで犯罪者のように、目のところに黒い線をいれて!
 ぐぬぬぬぬ。
 オヅが来たら、山ほどの苦情を言ってやる。
 謎解きなんか、だれがするものか。
 朝礼のチャイムすれすれ、オヅが教室に飛びこんできた。
「理人! アルク! さっそく、謎解きの依頼がきたぞ——!」
 うれしそうなガッツポーズのオヅを見て、ぼくは、かるくめまいがした。

アルクの気づいたことがヒントになって、無事にナゾは解けたけど…
すべてはオヅのたくらみだってっ⁉
次回、「新聞チーム」の専属探偵となって動きはじめる理人とアルクの前に、
新たなナゾが…! どうぞお楽しみに!!
(次回更新は1月30日(火)予定)



『歩く。凸凹探偵チーム』は 2月7日発売予定!


作:佐々木 志穂美 絵:よん

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322890

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