
宗田理さんが本当に届けたかった新作! 2025年版 新『ぼくらの七日間戦争』!
こんどは、女子だけの「解放区」を作って、親や先生を追いかえす。ところが、犯罪グループの事件に巻きこまれて、英治たちと女子の共同作戦! ハラハラドキドキの物語を今すぐチェック!(全3回)
中学2年の夏休み、クラスの女子が姿を消した!? 子どもだけの「解放区」を作るため、ある場所に立てこもったのだ! 女子だけでライブ配信やファッションショーを行い、親や先生を追いかえす。そして、最高の七日間に……なるはずが、犯罪グループの事件に巻きこまれ、ひとみと純子が誘拐されてしまい――!?
宗田理さんが届けたかった新たな『ぼくらの七日間戦争』!
『ぼくらの秘密基地』
(宗田理・原案 宗田律・文
YUME・絵 はしもとしん・キャラクターデザイン)
※これまでのお話はコチラから
二日(ふつか) ライブ配信(はいしん)
1
翌朝、七時半。
「ひとみちゃん、まだ帰らないみたいね」
朝食を食べにダイニングルームに入った英治に、詩乃が深刻な顔で話しかけた。
「ひとみの母さんから、また電話があったの?」
「そうよ。朝まで一睡もできなかったみたい。あなた、昨日、相原くんたちと連絡を取っていたでしょう? 手がかりみたいなものはつかめなかったの?」
「これといった情報は、まだ集まってない」
英治だって、だれだって、ひとみたちのことは心配だ。でも、ライブ配信を見るまでは、中途半端なことは言えない。
「昨日から帰ってないんだろう? 警察に届けたほうがいいんじゃないか?」
父親の英介(えいすけ)が割って入った。
「私もそう思うわ」
「いや、それは……」
「英治、やっぱり何か知ってるな?」
「知らないよ。まだ変に騒ぎたてないほうがいいと思っただけさ。相原たちとはずっと連絡を取りつづけてるから、手がかりが見つかったら、みんなで捜(さが)しにいくよ」
英治は、そう答えるしかなかった。
九時三分前になった。
英治は、自分の部屋の机の上のスタンドにスマホを立てかけた。
相原が送ってくれた動画サイトにアクセスすると、九時ちょうどにライブ配信が開始された。
だが、画面は真っ暗、無音のままで、時間だけが過ぎていく。
やっぱり単なる迷惑メールだったんじゃないかと、英治が疑いはじめたとき、耳慣れたパーカッションのリズムがかすかに聞こえてきた。
その音はじょじょに大きさを増してくる。
そして、一定の音量まで達すると、トランペットによる印象的(いんしょうてき)なメロディが流れてきた。
「炎のファイターだ!」
興奮して、つい声を発してしまったが、相手の挑発に乗ってはいけないと思いなおし、大きく深呼吸をして心を落ち着かせた。
そんな英治の行為をあざ笑うかのように、続けて、あの詩の朗読が始まった。
『生きてる 生きてる 生きている
つい昨日まで 悪魔に支配され
栄養を奪われていたが
今日飲んだ“解放”というアンプルで
今はもう 完全に生き返った
そして今 バリケードの中で
生きている』
(編集部注・アンプルは薬などを入れる容器です。ここでは手段(しゅだん)要素(ようそ)の意味です)
声はAIで加工されていて、だれがしゃべっているのかはわからないが、これは、そっくりそのまま解放区放送と同じだ。
それならこの後、ひとみたちのことに関する、何らかの「発表」もしくは「要求」があるはずだ。
『生きてる 生きてる 生きている
今や青春の中に生きている』
朗読が終わり、炎のファイターの音が、だんだん小さくなっていく。
いよいよ来るぞ。
英治は息をのみ、身構えた。すると、次の瞬間、
『中山(なかやま)ひとみ、堀場久美子(ほりばくみこ)、橋口純子(はしぐちじゅんこ)……』
と、AIがたっぷりタメをつくりながら、ゆっくりとしたテンポで話しだした。
機械的な低い声が、ズシリと腹の底に響(ひび)く。
『二年一組の女子たちは、ある場所に監禁(かんきん)されている』
「監禁だって?」
英治は眉(まゆ)をひそめた。
『だが、安心しろ。全員無事だ。なぜなら、彼女たちを監禁しているのは……』
しばしの沈黙の後、ずっと真っ暗だった画面が、不意にぱっと明るくなった。
そして、その真ん中に、
『わたしたちだから~!』と叫びながら、ひとみ、久美子、純子が飛びこんできた。
「はあ?」

スタンドに立てかけていたスマホをつかみ取り、それをじっと見つめる英治。
画面の中の三人はやけに楽しそうで、背後からも、何人かの女子のはしゃぎ声や笑い声が聞こえる。とても監禁されているようには見えない。
「これは、どういうことだ?」
スマホに向かって思わず問いかけてしまったが、こちらの声はひとみたちに届かない。
すると、ライブのチャット欄(らん)に、
〝自作自演(じさくじえん)?〟と、相原の質問が現れた。
『まあね。ちょっと、みんなをおどかしてやろうと思っただけ』
久美子がそれを読んで、すぐに反応した。
〝じゃあ、おれのスマホにこのライブ配信のことを知らせたのも?〟
『そう。わたしたち。相原くんに知らせれば、みんなに伝わるだろうって』
なるほど、そうやってコミュニケーションを取ればいいのか。
〝本当か? 悪いやつにやらされてるんじゃないだろうな?〟
英治もチャットに書きこんでみた。
『だいじょうぶ。どこにも悪いやつなんていないよ』
『それよりわたしたち、解放区を作ったの』
久美子に続いて、ひとみが言った。
〝解放区? だから解放区放送のマネを?〟
『完璧(かんぺき)だったでしょう?』
たしかに、さっきのオープニングで一年前の夏が一瞬でよみがえり、胸が熱くなったのは事実だ。
〝解放区なんてどこに作ったんだ?〟
天野がきいた。あの廃工場はすでに取り壊(こわ)され、高級マンションになっている。
『それは言えない。女子だけの秘密』
〝ケチだなあ。場所くらいいいじゃんか〟
『ダメ~』
純子が正面を向いて、胸の前で大きく手をクロスさせて×をつくると、
『去年は、中に入れてもらえなくて、悔しい思いをしたからねー』
と、となりにいるひとみが、純子の顔をのぞきこむようにしながら同調した。
〝じゃあ、まだ家に帰らないつもりか?〟
『もちろん。今日だって、明日だって、帰るつもりはないよ』
相原からのチャットに久美子が答えた。
〝親にも言ってないんだろう?〟
『親に言ったら、解放区でも秘密基地でも何でもないじゃん。そんなこと、相原くんが一番良くわかってるでしょう?』
〝それはそうだけど、心配してるぜ〟
『たまには、うるさい親や先生、むさくるしい男子たち抜きで、ガールズトークを繰りひろげたい日もあるの』
『わたしたちだって、いろんな悩みがあるんだから』
『親には、うまいこと言っといてよ』
三人が、順番にたたみかけてくる。
〝どこにいるのかも教えずに、うまいことやれなんて無茶言うなよ〟
『ちょっと、菊地くん。去年は、わたしたちが外から助けてあげたから、大人たちをやっつけることができたんでしょ。今年はそっちがサポートする番だよ』
ひとみが、すぐに食いついてきた。
〝だけど、なんて言えばいいんだよ〟
『そんなこと、菊地くんたちが考えてよ。だから、こうして連絡したんだから』
〝無責任だなあ〟
〝ところで、そこには何人いるんだ?〟
相原がきいた。
『八人』
〝八人なんて、なかなかの人数じゃないか。ひとみたちのほかには、だれがいる?〟
『内緒』
〝それをきいておかないと、親たちに対応のしようがないぜ〟
『そっか。じゃあ、教えるよ』
ひとみはそう返事すると、
『まずは富永律子(とみながりつこ)。さっきの解放区放送の仕掛けは律子がやってくれたの』
と言いながら、カメラの前に律子を呼びこんだ。
英治は驚いた。学校でも、中尾に匹敵するほどの秀才と言われている彼女が、まさか参加しているとは思わなかったからだ。
それから、同じようにして、『朝倉佐織(あさくらさおり)、白井奈緒(しらいなお)、井原由香(いはらゆか)、吉岡三希(よしおかみき)』と、残りの四人を紹介した。
クラスメイトなので、みんなよく知る顔だが、最後の三希だけは違った。
三希は、新学期が始まってすぐに学校に来なくなり、その後、夏休みになるまで一度も姿を見せていなかった。それなのに、この解放区には参加したようだ。
〝これで全員だな〟
『うん』
〝八人で集まって、何するんだ?〟
〝解放区なんだから、そりゃ権力と戦うんだよ〟
谷本の質問に、天野がちゃっかり答えている。
『そんな面倒くさいことしないよ。語りあったり、楽しいことをしたいだけ』
『そうだよ。やっと、わたしたちだけの秘密基地を手に入れたんだから』
久美子と純子があっさり否定した。
〝女子だけじゃ、危なくないか?〟
〝なんなら、おれがボディーガード兼コックとして飯作りに行ってやるぞ〟
柿沼と日比野のコメントが並んだ。
『日比野コックには少し気をひかれるけど、今回は遠慮(えんりょ)しとく。料理なら純子がいるし』
『ここは去年きみたちがいたところと違って、とても安全で快適な場所なの。だから、心配しないで』
そんなの解放区じゃねえよ、と英治はツッコミを入れたくなったが、やめておいた。
『じゃあ、お父さんやお母さんが騒ぎだしたら、よろしくやっといてね。わたしたちのスマホはみーんな、つながらないようになってるから』
女子中学生が、昨日から家に帰らず、連絡も取れなかったら、騒いでいないほうがおかしい。
〝やるしかないだろう。そのかわり、何かヤバいことがあったときは必ず連絡しろよ〟
相原がしぶしぶ了承すると、最後に念を押した。
『だいじょうぶだと思うけど。じゃあね』
女子たちが大きく手を振り、ライブ配信は終了した。