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ものがたり

2025年版 新『ぼくらの七日間戦争』!『ぼくらの秘密基地』ためし読み 第1回

宗田理さんが本当に届けたかった新作! 2025年版 新『ぼくらの七日間戦争』!
こんどは、女子だけの「解放区」を作って、親や先生を追いかえす。ところが、犯罪グループの事件に巻きこまれて、英治たちと女子の共同作戦! ハラハラドキドキの物語を今すぐチェック!(全3回)



中学2年の夏休み、クラスの女子が姿を消した!? 子どもだけの「解放区」を作るため、ある場所に立てこもったのだ! 女子だけでライブ配信やファッションショーを行い、親や先生を追いかえす。そして、最高の七日間に……なるはずが、犯罪グループの事件に巻きこまれ、ひとみと純子が誘拐されてしまい――!? 
宗田理さんが届けたかった新たな『ぼくらの七日間戦争』!



『ぼくらの秘密基地』

(宗田理・原案 宗田律・文

YUME・絵 はしもとしん・キャラクターデザイン)





 

一日 女子たちが消えた⁉


       


 ギラギラと照りつける夏の太陽が、水面にも反射している。

 菊地英治(きくちえいじ)は、相原徹(あいはらとおる)、柿沼直樹(かきぬまなおき)、日比野朗(ひびのあきら)、安永宏(やすながひろし)、天野司郎(あまのしろう)の五人と、区民プールにいた。

 競泳プールで、英治、相原、安永の三人が二十五メートルを泳ぐ、順位を競っている。

「おーっと、安永選手が頭一つ抜けだしました。あとの二人は、ほとんど横並びかー?」

 天野の実況(じっきょう)に熱がこもる。

「さあ、このまま逃げきるか。どうだ? どうだ? ゴール! 安永選手の勝ち! 二位はタッチの差で相原選手だ」

「おれの方が早くなかったか?」

 プールからあがると、英治が天野に文句を言った。

「いや、相原だったぞ。なあ、日比野」

「おれ、よく見てなかったから、わかんないや」

 日比野は、大盛りのかき氷に夢中だ。

「どっちでもいいよ。それよりコレで遊ぼうぜ」

 柿沼が、真っ赤なビーチボールを空に投げあげた。

 安永が、横から手を出してそれを奪うと、「カッキー、こっちだ!」と言って、走りだした。

 それから六人は日が暮れるまで、時間を忘れてたっぷり遊び、泳ぎまわった。

 みんなと別れて一人になったとき、英治は急ぎ足になった。せめて暗くなる前に家に着かないと、母親の詩乃(しの)に何を言われるかわからない。

 ひところより日が短くなったが、暑さは相変わらず厳しく、夕方になっても少しも和らぐことはない。

汗だくで自宅の玄関ドアを開けると、「ただいま」を言うより先に、「英治!」と、詩乃の声が飛んできた。

「まだ七時前だろう?」

 ここで謝ったら負けだ。英治は、努めて平静をよそおいながら家に上がった。

 ダイニングテーブルには、すでに晩ご飯が並んでいる。

「そうじゃないのよ。あなた、いままでだれと遊んでた?」

「相原と安永とカッキーと……」

「女の子たちは? 一緒じゃなかったの?」

「女の子たちって?」

「ひとみちゃんとか、久美子ちゃんとか」

「男子だけさ。毎日こんなに暑くちゃかなわないから、区民プールに行ってたんだ」

「そう……。ねえ、彼女たちが今日どこに行ったか知らない?」

 詩乃の顔が曇っている。

「知らないよ。なんでそんなこときくんだよ?」

「さっき、『ひとみがまだ帰らないんだけど、英治くんたちと一緒じゃないかな?』って、お母さんから電話があったの」

「なんでもかんでも、おれたちのせいだと決めつけるのはよしてほしいな」

「そういうつもりで言ったわけじゃないと思うけど……」

「ひとみのことなら、久美子(くみこ)か純子(じゅんこ)にきけばわかるだろ」

「それが、ひとみちゃん、久美子ちゃんや純子ちゃんと一緒に出かけていて、まだだれも、帰っていないんだって」

「え?」

 英治は、ダイニングルームの掛け時計を見た。長針が、まもなくてっぺんに達しようとしている。

「朝、家を出たそうよ。それなのに、女の子がこんな時間まで帰らないなんて少し心配ね」

 言われてみればそのとおりだ。

「たしかめてみる」

 急に胸騒(むなさわ)ぎを覚えた英治は、ひとみのスマホに電話をかけた。

 電源が切られているというアナウンスがあるだけで、呼びだし音すら鳴らない。

 続けて、久美子と純子にも電話してみたが同じだった。

「出ない?」

 そうきく詩乃に、英治は静かにうなずくと、

「他の連中にもきいてみる」と言って、すばやくスマホを操作(そうさ)し、英治たちの仲間で作ったSNSのグループに、次のようなメッセージを送った。

『ひとみ、久美子、純子がいなくなった。どこにいるか、心当たりのあるやつがいたら教えてくれ』

 このグループには、ひとみたち三人も入っている。普通にSNS(エスエヌエス)を確認できる状況にいるのなら、何らかの返事があっていい。

 英治はそばにスマホを置いて、テーブルの上のカレーライスを食べはじめた。すると、

『いなくなったって、どういうこと??』

『マジかよ』

といったストレートな反応から、

『ほっとけばいいよ』

『もう帰ってくるだろ』

という無責任なものまで、いくつか返信があった。

 だが、本人たちからの連絡はなく、彼女らの行方がわかるような有力な情報も見当たらない。夕飯時なので、英治のメッセージを見ていない者もまだ多そうだ。

 気になるコメントが飛びこんできたのは、食事を終えて、自分の部屋に入ってまもなくのことだった。

『佐織(さおり)もまだ帰ってないみたいだぜ』

 発信元は柿沼だ。

 いなくなったのは、三人だけだと思いこんでいたが、そうではなかったようだ。だとすると佐織以外にも、もっといるかもしれない。

『女子だけでどこかへ出かけたのかな?』

 英治は、グループのみんなに質問を投げかけた。しばらくして、

『夏休み前に、教室のすみで女子たちが集まってコソコソ話してるのを見た』

と、宇野(うの)から返事があった。

『どんな話をしてた?』

『「何を相談してるの?」って、ひとみにきいたら、「男子には関係ない」と言って逃げられた』

『あいつら、おれたちに秘密で何か企んでいたんだな』

 逃げられたとはいえ、宇野はよく観察している。英治は、ひとみたちのそんな行動に気づきもしなかった。

『その秘密の計画を実行する日が、今日だったのか?』

 天野がコメントした。

『女子たちがまだ何人も家に帰ってないんだから、おそらくそうだろう』

『いったいどこに行ったんだ?』

『集団誘拐されちまったとか?』

『まさか』

『じゃあ、川か山へでも行って遭難(そうなん)したとか?』

『カッキー、ヤバいことばかり言うなよ』

 英治は思わずつっこんだ。SNSでのやり取りは、顔が見えないだけに、じょうだんか本気かわからない。

『でも、ありえない話じゃないぜ』

『たしかにな。どこに何をしに行ったのか、さっぱりわからないんだから。せめて行き先くらい、おれたちに教えておいてくれればよかったんだ』

 天野も柿沼に同調している。

『今からでもいいから、このSNSに知らせてくれないかな』

 宇野が続いたが、知らせることができるのなら、とっくにそうしているだろう、と英治は思った。


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