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2025年版 新『ぼくらの七日間戦争』!『ぼくらの秘密基地』ためし読み 第3回

宗田理さんが本当に届けたかった新作! 2025年版 新『ぼくらの七日間戦争』!
こんどは、女子だけの「解放区」を作って、親や先生を追いかえす。ところが、犯罪グループの事件に巻きこまれて、英治たちと女子の共同作戦! ハラハラドキドキの物語を今すぐチェック!(全3回)



中学2年の夏休み、クラスの女子が姿を消した!? 子どもだけの「解放区」を作るため、ある場所に立てこもったのだ! 女子だけでライブ配信やファッションショーを行い、親や先生を追いかえす。そして、最高の七日間に……なるはずが、犯罪グループの事件に巻きこまれ、ひとみと純子が誘拐されてしまい――!? 
宗田理さんが届けたかった新たな『ぼくらの七日間戦争』!



『ぼくらの秘密基地』

(宗田理・原案 宗田律・文

YUME・絵 はしもとしん・キャラクターデザイン)





※これまでのお話はコチラから

 

二日(ふつか) 解放区(かいほうく)放送


       


 久美子が、学校からの帰り道で、ひとみと純子に相談(そうだん)を持ちかけたのは七月半ばのことだった。

「ねえ、解放区(かいほうく)やらない?」

「突然(とつぜん)、何言いだすの?」

「解放区って、去年男子たちがやった、あの解放区?」

 久美子の話があまりに唐突だったので、二人とも立ちどまってしまった。

「ひとみも純子も、うらやましがってたじゃん。子どもたちだけで、秘密基地みたいなところで過ごすのいいなって」

「たしかにうらやましかったな。わたしたちだって仲間のはずなのに、女子だからって中に入れてくれなかったしね」

「大人にチクるよ、って言ったら、あわてて協力してくれ、なんて言いだすし」

「情報収集とか、誘拐犯(ゆうかいはん)さがしとか、外でいろいろやらされたね」

「連絡は全部トランシーバー。まあ、あれはあれで楽しかったけど」

 純子はそう言うと、晴れわたる夏の空を見あげた。三人が再び歩きはじめると、

「で、今年も解放区をやるってこと?」

 ひとみがきいた。

「そう。今年は、わたしたちがやるんだ。それも女子だけで」

「女子だけで? いいね! やりたい、やりたい!」 

「わあ、わたしも参加したい! だけど、女子だけでできるの?」

 純子が急に冷静になってたずねた。

「だいじょうぶ。ちゃんと計画は立ててある。だから、まず二人に話そうと思ったの」

「へえー。久美子が計画立てるなんて、めずらしいこともあるんだね」

 ひとみが純子と顔を見あわせた。

「わたしだって、やる時はやるよ」

「そうだよね。ごめん」

「と言っても、たまたま解放区になりそうな場所を見つけただけなんだけど……」

「それ、どこにあるの?」

「わたしの家から歩いて三十分くらいかな」

「そんなに遠くないね」

「大人や男子の力を借りずに立てこもるんだから、近くじゃないと」

「解放区って言うからには、中は広いの?」

 純子がきいた。

「それなりにね。去年の廃工場とまではいかないけど」

「この辺りに、そんな場所あったっけ?」

「まあ、わたしでなきゃ見つけられなかったと思うよ」

「すごい自信」

 ひとみが目を丸くした。

「そういう意味じゃなくってさ。実は、ウチの会社が解体を頼まれている物件なんだ」

 堀場建設(ほりばけんせつ)という建設会社を営んでいる久美子の家は、建物の解体工事も請けおっている。

「解体する物件を解放区にするの?」

「そう、忍びこむんだよ」

「そんなことして、だいじょうぶ?」

 純子が不安そうにきいた。

「家主さんからウチの会社への引きわたしが八月一日なんだけど、もちろん、それがすんでからだよ。どうせまっさらにしちゃうんだから、いいでしょう?」

「そういう問題なのかなあ?」

「だって、すごい豪邸(ごうてい)なんだよ」

「それ、答えになってないし」

「でも、豪邸なんて一度でいいから住んでみたいな」

 苦笑いする純子のとなりで、ひとみが目をキラキラさせている。

「でしょ? 純子は?」

「住みたいか住みたくないかってきかれれば、もちろん住んでみたいよ。だけど、堀場建設の人たちが作業してるでしょう?」

「そりゃ、作業してる日は無理だよ。休みになるタイミングをねらうんだ」

「休みになるタイミング?」

「お盆休みがあるじゃん」

 久美子が得意げに言った。

「そっか」

「会社のお盆休みはいつから?」

 ひとみがきいた。

「八月九日から九日間」

「じゃあ、一週間くらいいける?」

「余裕(よゆう)でしょ」

 久美子が親指を立てた。

 ひとみはすでにやる気満々のようだが、純子の顔はまださえない。

「解体中の家なんて、危なくない?」

「だいじょうぶ。家の解体を始めるのはお盆明けの予定なんだ。それまでは安全だよ」

「八月一日が引きわたしなのに、やけにのんびりしてるんだね」

「家主さん側の事情みたい。くわしくはまた話すよ」

「解体前に空白期間があるのかあ……」

 純子は腕を組んで考えている。

「純子、大人も男子も入りこめない、わたしたちだけの世界を作るんだよ。こんなチャンスめったにないよ。やってみよう!」

 ひとみが声をかけると、

「……そうだね!」と、ついに純子が笑顔を見せた。

「ねえ、久美子。解放区ってことは、クラスの女子たちも誘うんでしょう?」

 ひとみは、もうすっかりその気になっている。

「当然だよ」

「三希も来てくれるかな?」

 純子が言った。

「ミキって……、二年生になって、すぐに学校に来なくなっちゃった……」

「そう。わたし、小学生の時に仲良かったから、気になってるんだ」

「不登校のこと?」

「うん。突然だったでしょ。あの子、両親がいなくて、おじいちゃん、おばあちゃんの家から通ってたんだけど……」

「家庭の事情かな?」

「学校で何かイヤなことがあったとか?」

 久美子につづいて、ひとみがきいた。

「理由はわからない。不登校になってから何度か電話やメールをして、一度だけ話ができたんだけど、すぐに切られちゃって……」

「そうだったんだ」

「でも、解放区になら来てくれそうな気がするんだ」

「解放区は、学校なんかとまったく違うからね。わたしたちだけの特別な場所だよって言えば、きっと興味をもつよ」

「だといいんだけど……。まずはなんとか連絡をつけなくちゃ」

「そうだね。困ったことがあったら協力するから、何でも言って」

「ありがとう」

 純子がうれしそうに応えた。


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