3 ワクワクのお団子屋台!
「マメちゃん、よかったねー♪ お団子屋さんの出店なんて、食べホーダイじゃんっ」
「今回は食べるほうじゃなくって、売るほうだけどねっ。ほんっと楽しみだね!」
本日、テスト明けの土曜!
S組から派遣された五人は、朝から学園都市駅で待ちあわせだ。
これから、あしたの七夕祭りに協力してくれる、商店街のお団子屋さんにおジャマするんだ。
準備期間がまさかの一日しかないから、S組はテスト直後からドタバタ!
手わけして、同時進行で屋台の準備も進めてる。
お団子の仕入れ担当は、うてなとあたし、それに涼馬くんに唯ちゃん、健太郎くん。
ちょうど無人島の五年メンバーだ。
梅雨のあいまだけど、今日はうまいこと晴れてくれた。
ひさびさの青空に、気分もサイッコーにすがすがしいよ!
問題のSテストの合格ラインは、攻守陣の合計300点中、240点。
……で、結果は、あたしはプラス1点。うてなはプラス3点(「守」が98点だったんだよ! すごすぎる!)。
胃がキリキリするほどギリギリだけど、なんとかクリアできたんだっ!
「ほんとにキセキだったよねー。うてなとマメが合格できたの」
「『帰れま1000』のおかげかなぁ」
前を行く唯ちゃんと健太郎くんに、あたしはズバッと頭をさげる。
「ほんとーにお世話になりました! 塩鬼センセーも!」
「だぁれが塩鬼だ」
商店街のカンバン地図をながめてた涼馬くんが、こっちをギロリにらんでくるっ。
「アハハハハッ」
あたしは笑いでごまかしつつ、カンバンの前に立ちどまった。
ええと、お団子屋さんは――と探してると、となりから視線。
「なに?」
「……まぁ、マメもうてなも、よくがんばったよな。ホメてやるよ」
いきなりワシワシッと頭をかきまぜられた!
「わわっ⁉」
腕がひっこむと、そこに、口もとをゆるめた涼馬くんの笑顔。
初夏の風が、ふいに彼の前髪をゆらした。
あたしを見つめる赤茶の瞳は、太陽の光に透けてきらめいて、すごく……きれいだ。
時が止まったみたいにホウけてると、
ワシワシワシワシッ!
今度は犬にやるみたいに、強くかきまぜられる!

「ちょっ、前髪がぐちゃぐちゃになる!」
「ハハッ。S組生徒は、いかなる時も油断大敵だろ」
彼は勝手に満足して、さっさと歩きだしちゃう。
「も~~っ」
あたしは必死に前髪をなおしながら、その背中を見送る。
涼馬くんって、そこらの男子みたいにイタズラしたりすんだな。
そのくせ、あのオトナっぽくて優しい笑い方。
ずるいなぁとくちびるを噛む。
ねぎらう笑顔が、ノドカ兄と重なって見えちゃった。
あたしは兄ちゃんのために、彼を疑ってかかんなきゃいけない立場なのにさ。
――と、うてながあたしの腕に飛びついてきた。
「リョーマ、マメちゃんの前髪は大切にだぞっ。クセッ毛って、毎朝ドライヤーで大変なんだからなっ」
「そ、そんな情報は共有しなくていいって!」
みんなで笑いながら、商店街のでっかいアーケードをくぐる。
前を歩く涼馬くんを、うてなと唯ちゃんも追っかけていった。
あたしはみんなをながめながら、健太郎くんとのんびりついていく。
「涼馬ってすっごいよね。全科目、満点だったって。オレ、ぜんぜんダメだ」
彼はとなりで、ハーァと大きな息をつく。
「健太郎くんだってスゴイよ。『守』は満点だったんでしょ? それに訓練でも、うてなと二人で〝ディフェンダーのデキるコ〟代表でさ」
「テストや訓練は、準備をがんばれば、どうにかなるから」
「えぇ。あたしはがんばっても、あんまりどーにもなってない」
「双葉さんこそスゴイよ。実地訓練のとき、ほんとにそう思った」
彼はにっこり笑う。
だけどちゃんと笑いきれてない……ように見える。
本気で落ちこんでる?
「マメちゃーん、行くよ~っ」
「あ、うんっ」
うてなに呼ばれ、みんなに追いついたころには、健太郎くんはもうフツーに笑ってて。
あたしはちょっと、ホッとしたんだ。
「河久保商店街」ってアーケードの文字は、ずいぶんレトロに見える。
完成から四十年もたってる、古い商店街なんだそうだ。
天井には、吹き流しの大きな七夕かざりが風に泳いでる。
メイン通りの左右は、ちっちゃなお店がギッチリだ。
一階と地下一階あわせて百五十店、地下二階には大駐車場まで完備!
自宅通いのあたしはほぼ来ないけど、寮のコたちは遊び場にしてるんだって。
今日も朝から、おおぜいのお客さんでにぎわってる。
コロッケ屋さんに、ソフトクリーム屋さん、カフェに八百屋さん。
ウキウキしてきちゃうなぁっ。
そんでもって、こんな平和な景色のなかを、無人島メンバーと歩いてるのがフシギなかんじだ。
「出店に協力してくれる団子屋さんは、中央階段のすぐとなりのはずだ」
「あっ、あった! アレだね!」
あたしはさっそく、お団子マークのカンバンを発見。
「ナカムラ団子」ののれんの下で、背の小さなおばあちゃんが、キョロキョロしてる。
うてなは風の速さでダッシュ!
「おばーちゃーん! 去年ぶり~っ! お団子食べに来たよー!」
「コラァ! 食べに来たんじゃなくて、仕入れの打ちあわせに来たんでしょっ」

唯ちゃんのストップもきかず、うてなはおばあちゃんに、ネコみたいにすり寄ってなつく。
おばあちゃんもニコニコ、うてなの頭をなでてくれた。
「みんな、朝からごくろーさんだねぇ」
「学園五年S組です。今日は急なおねがいを聞きいれてくださって、ありがとうございます」
涼馬くんはリーダーらしく、しっかりしたあいさつだ。
あたしたちもあわてて、彼にならう。
「そんなかしこまんないで。S組さんってコトは、大きくなったら、町を守ってくれるコたちなんだからね。たまの楽しみ、わたしも全力で応援するよぉ」
おばあちゃんは目じりのシワを深くして、笑ってくれる。
それから、なぜかあたしの頭を指さし、「アァ!」と大きな声をあげた。
「あなた、覚えてるよ! 去年のお祭りで、ウチのお団子を何度も買いにきたでしょ。わたしね、『フタバちゃん』ってアダ名つけてたんだよ。頭の、そのかざりがフタバみたいだから」
あたしはポニーテールのヘアゴムをパッとつかむ。
「えっ。あたし、ホントに『双葉』なんです! 苗字が双葉!」
「あらあらっ、そうなのぉ。やっぱり。わたしね、商店街じゃ有名な探偵さんなのよ」
彼女はドヤッと胸を張ってみせる。
すんごくオチャメでかわいいおばあちゃんだな。
楽しい一日になりそうな予感に、あたしたちもウフフッと笑った。
***
地下一階のシャッターを開け、米粉のずっしりしたふくろを作業場に運びこむ。
健太郎くんからパスされたのを、あたしが受けとり、それを涼馬くんへっ。
かけ声つきで、リズムよく!
毎日ハードな筋トレをしてるあたしたちには、力仕事はドンと来いだっ。
ちょうど業者さんが荷物を届けにきて、せっかくだから、お手つだい中なんだ!
一階の売り場では、うてなと唯ちゃんがお店番をしてる。
かわいい売り場とちがって、地下は殺風景なふんいきだ。
コンクリートのカベにそって大きな機械がずらりと並び、真ん中にスチールのテーブル。
蛍光灯につながる電気の配線も、換気扇のダクトもむき出しのまま。
お店ってより倉庫ってカンジだなーと思ってたら、お団子屋さんが入るまえは、ホントに倉庫だったんだって。
「こんな荷物、いつもおばあちゃんが一人で運んでるんですか? 大変ですよね」
「え? なぁに? わたし、耳が遠くてね。左っかわから話してくれる?」
とんとんっと耳をたたいてみせる、おばあちゃん。
よく見てみたら、左耳に補聴器が入ってる。
耳のフックが、お団子もようだ!
「わあっ、かわいい!」
「うふふ。娘からのプレゼントよ。で、さっきのなんだって?」
「荷運び、いつもおばあちゃんがやってるのかなって」
「あー、前は娘がやってくれたんだけどね。でもお団子づくりは力仕事よ。わたしだって負けちゃいないわ」
おばあちゃんはカベの写真に目を向けた。
「ナカムラ団子」ののれんの下で、おばあちゃんとソックリなおばちゃんが笑ってる。
二人はおんなじエプロンをつけて、おんなじ笑顔だ。
「さぁて、お手つだいごくろうさん。じゃあ、あしたの話をするまーえーにっ、」
おばあちゃんは、機械から出てきた、練りたてのお団子生地をつまみ。
ポンポンポンッとあたしたちの口にほうりこんでくれたっ。
あっつあつで、もっちもちのお団子!
「ほっ、ほっ、ほひふぃいでひゅっ!」
「ほんとだ、ウマい」
「オレ、作りたてのお団子初めてっ。このままでおいしいね」
三人そろって目を輝かせたとたん、
「ずるいー‼ ボクも食べたぁいーっ!」
S組の食いしん坊が、すっごいイキオイで階段を駆けおりてきた!
「お団子の販売予定数は四百皿で。朝の仕入れは、何人ならご迷惑になりませんか?」
「そうねぇ、作業場もそんな広くないから。去年は三人だったと思うよ」
「では、その人数でおじゃまします」
テーブルをかこんでの打ちあわせは順調だ。
リーダーが必要なことをテキパキと聞きだしてくれる。
「涼馬。どうせお皿を使うなら、クシにさすのは省略していいんじゃないかな。手で団子にさわらないほうが、食中毒の予防になると思うんだ。かわりに竹ようじをそえたらどう?」
健太郎くんは、さすがのディフェンダーらしい意見だ!
「うん。もう夏場だしな。健太郎の案でいこう」
おおおっ。あたしもなにか役に立たなくちゃっ。
学校への書類を書いてただけのあたしは、あわてて頭を働かせる。
「そうだっ。去年はアンコが一番人気で、すぐ品切れになっちゃったんだよね。あたし食べそこなってくやしかったから、今回はアンコを多めに発注するといいと思うっ! アンコの次は、みたらし、きなこ、しょうゆの順番で売りきれてたよ。発注の数、その順でどう?」
――あれ。力説しすぎた?
注目してきた三人は、そろってきょとんとしてる。
「おやまぁ。フタバちゃんは本当にお団子が好きなんだねぇ」
「なるほど、今年の屋台のために、去年から出店を観察しといてくれたんだな?」
「涼馬も認めた『観察眼』の持ち主は、さっすがだなぁ」
男子二人にまで、ニマニマからかわれちゃったよ。
「そーですー。去年から、この日のために準備してたんですー」
口をとがらせてみせたけど、けっきょく、あたしだって笑ってしまった。
「サバイバー!!② 緊急避難! うらぎりの地下商店街」
第2回につづく