6 サバイバルは命がけ!
「今回の実地訓練は、名づけて、『生きのこれ、無人島サバイバル』! ってとこかな」
浜べに転がった岩をイスがわりに、九人のメンバーが輪になった。
みんなキンチョーにぴりぴりした顔で、まんなかの楽さんを見上げてる。
さすがS組のメンバー。
だれ一人「帰らせて!」なんて口にしない。
泣きごと言ったら恥ずかしいって空気だ。
うてなもふだんより静かに、ヒザにこぶしをのせて黙りこんでる。
だけど急にズバッと手をあげた。
「はいっ! ボク、バスを運転して、みんなでさっさと脱出しちゃえばイイと思いますっ!」
うえっ!?
まさかの発想に、みんなギョッとしちゃったけど。
ハハハッと楽さんが笑って、うででバッテンをつくる。
「ぶぶー。ムリで~す。おそらくぼくらは、フェリーでバスごと、この島へ運ばれた。先生と運転手さんはそのままフェリーで帰ったんだろうね。となると、バスが通れる道がありませんっ」
「わたしたち、車の免許も持ってないですしね……」
「大体そんなコトしたら、一発でS組からサヨナラだぜ。きっと学校の監視カメラも、あちこちについてる。要救助者もない、ただの訓練で逃げだすなんて、サバイバーとして話になんないからな」
涼馬くんがつけたした言葉に、うてなだけじゃない、あたしも顔がこわばる。
脱走したら、サバイバーへの道はおしまい。
なんとしてでも訓練期間をたえぬくしかないワケだ。
楽さんはあたしたちをぐるりと見まわした。
「じゃっ、もうヤルしかないってカクゴしたところで。実地訓練では、『攻守陣』の担当をそろえた三人で、一チームを作ることになってます。それはもちろん、自分の担当に、一人きりで責任をもってもらうためだね。チームポイントもつくから、同じチームになったコとは仲よく助けあって」
ニッと笑う彼の、むしろいつもより生き生きしてる瞳。
「ということで、さっそくチーム分けといこうか! 五年生はまだ担当がアヤフヤだよね。まずは三人集めて、だれがどの担当にするか、相談しあって決めてくださーい」
楽さんが手をたたいて合図したとたん。
みんなリーダー三人のトコへ、飛びつくように誘いにかかった。
このチーム分けって、サバイバル生活を左右する、すっごく大切な条件だぞ。
自分の担当をやりきれないコと組んだら、その後がタイヘンだもの。
……って、そりゃあたしのコトだ!
前にリーダーたちに言われてるけど、〝担当ナシ〟と組みたい人なんていないよね!?
思わずヤバイって凍りついてたら、
「マメちゃんっ。ボクたち、もちろんいっしょのチームだよ」
「あっ、ありがと、うてな! 救世主!」
「約束したじゃん。親友だもんね。マメちゃんは、ボクが守るっ!」
となりから抱きついてきたうてなに、情けないけど、心底ホッとする。
でも、手を合わせて彼女をおがんでる場合じゃないぞ。
三人目をつかまえなきゃ。
あたしはひとまず、近くにいた唯ちゃんの肩をたたいてみる。
「唯ちゃん、よかったらあたしたちと──、」
「やっ、そのっ! ごめん! 唯は七海さんとこに入れてもらいたくて」
サッと身を引かれちゃった。
今度はうてなが、楽さんに話しかけようとしてた千早希さんをのぞきこむ。
「あのー、ボクたちとチームに」
「あ~、ごめんね。マメちゃんと二人で組むなら、こっちも二人決まっちゃってるから」
みんな、周囲からソソソッと逃げていく。
これ、あたしと組むのが罰ゲーム! って空気だよ。
「なんだよみんなー! じゃあいいよ、ボクとマメちゃんで、二人チームでもっ」
うてなはぷんすか地団太をふむ。
「うてなっ。落ちついて」
とはいえ、このまま二人きりじゃ、ぜんぜん生きのこれる気がしないよ……っ。
みんなが後ずさった結果。
あたしたちから半径二メートル、みごとな空白地帯ができあがってる。
万事休す!!
「おれが入る」
ふいに聞こえてきた、カサついた低い声。
あたしはオロオロしてた首をピタッと止めた。
「ええっ!? オレたちと組もうよ!」
「ワルいな」
ソデをつかむ健太郎くんをことわり、「彼」がこっちに歩いてくる。
「おれがアタッカー、うてながディフェンダーで、あまりの双葉マメがキャンパーだ。いいな?」
ぽっかり空いたあたしのまえに、風見涼馬がどさりと腰をおろした。
「えっ、えっ、な、なんでっ。だって涼馬くん、あたしのことキライなのに」
あたしは現実が信じられなくて、音速のまばたきをする。
「キライなんて言ってない。存在がメーワクだって言ってる。おれはただ、訓練で死ぬ人間を出したくないだけだ。あんたがまっさきにヤバそうだろ」
なるほど、リーダーとしてのセキニンカン!
しかし塩鬼リーダーと無人島生活……かっ。
めっちゃたよりになるけど、精神的にはめっちゃキビしそうだ。
でもこのままじゃ、二人チームになるとこだったんだもの。
「ありがとうございます! 助かります!」

あたしはイキオイよく頭をさげる。
「なんだよー、リョーマってツンデレだったのかっ?」
ヒジで打ってニヤニヤするうてなに、涼馬くんはついっと顔をそむけた。
「実地訓練はギブアップできないから、しょうがねーだろ。これにコリたら、すぐふつうクラスに変えてもらえよ」
「ううん。コリても、あきらめない」
頭をあげたあたしと涼馬くんの間で、ばちばちっと火花が散る。
「……こんなトコまで連れてこられても、まだ言うか」
「だって、ゆずれないモノはゆずれない」
「うわぁおー。チーム結成、喜んでいいのかビミョーなかんじー」
ひきつり笑いをうかべたうてなが、ウデであたしたちのキョリを遠ざける。
そして。
ぶじ、〝担当ナシ〟と同チームを逃れたみんなは、ホ~ッと胸をなでおろしたのでした。
七海さんが、しおりの「持ちもの」にあった連絡帳へ、チーム表を書きあげる。
楽さんはソレをながめて、うんうんと満足げだ。
「よぉし。チーム分けもできたとこで、いよいよ実地訓練スタートだね。では、今この瞬間から、伊地知楽はみんなのリーダーではなく、楽班のリーダーになりました。今後はみんな、ほかのチームとは関わりあわず、三人だけでどーにかしてね」
……なるほど。
もう楽さんや七海さんを頼ることはできないのか。
あたしたちのリーダーは、風見涼馬、ただ一人になる。
いよいよ、先生も保護者もいないこの島で、三人きりのサバイバル生活が始まる……!
あたし、手がふるえちゃってるよ。
気づかれないように指をにぎりこみ、うてなと、そして涼馬くんと視線をかわす。
うてなはコーフンしてるのか、ほっぺたが赤くなってる。
涼馬くんはふだんと何も変わらない、ヨユーで冷静な横顔だ。
楽さんは全員を見まわして、最後ににっこり笑った。
「あと二つだけ。バスの燃料、軽油は使用不可とします。うっかり山火事になって、自分たちで災害を起こしましたなんて、笑っちゃうからね。火のカクホは、自分たちの手でどうぞ。
あと、連絡帳に、毎日の日記をつけること。学んだコトを書きとめたり、復習したりするのにも使ってね。これは訓練終了後に、先生に提出する宿題でーす。
では各チーム、訓練終了まで、ぶじに生きぬいて!」

***
あたしは訓練のっけから、うわぁぁぁ……っと頭をかかえ、しゃがみこんだ。
涼馬班キャンパー、双葉マメ。
ミニバス争奪じゃんけん大会、みごと敗北しました……!!
屋根があってイスもある、イチバン快適そうなお宿=バスは、七海班の陣地になっちゃった。
あたしたちの装備にテントはない。
ってことは、バスをとられちゃったあたしたちは、ほんとの野宿だよ!
「で、キャンパー。おれたちの陣地はどーすんだ。言っておくが、おれは相談のらないからな」
涼馬くんに冷たく言われ、あたしは視線をさまよわせた。
「わ、わかってるよ。せっかく仮でも担当をもらえたんだから、しっかりやります!」
「たのむぜ。キャンパーがちゃんと働いてないと、のこり二人は生きていけない」
彼はテストするリーダーの目になってる。
それにうてなの、ハラハラ心配する顔。
責任重大すぎる担当に、心臓がすんごい震えてるけどっ。
「まっ、まかせて!」
あたしは強がって、ドンッと胸をたたいた。
七海班の陣地になったバスは、半円をえがく砂浜の、北のはしっこだ。
奥はゴロゴロした岩場地帯で、そのまま山のガケに続いてる。
どどどどどこか、ほかに住めそうな場所は……っ!?
あたしは砂浜の南のさき、堤防の奥にのぞく建物に視線をとめた。
あそこならきっと、テントなしの野宿よりはマシだよね?
だって屋根があって、床があるはずなんだから!
「サバイバー!!① いじわるエースと初ミッション!」
第2回につづく