KADOKAWA Group
NEW ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!① いじわるエースと初ミッション!」第1回 めざせ、サバイバー!

3  ジゴクのアタッカー訓練!

「うおぉぉぉ~~~っ!」

 うてなが全力ダッシュで突進してくる!

 あたしは両うでをカベにつき、背中をうてなに向け、準備バンゼン!

 彼女があたしの背をふみ台に、えいやっとカベのてっぺんに手をかける──はずが。

「うぉあああ~~っ?」

 気のぬけた声がうしろに響いた。

 五メートルも離れたとこで、うてながべちゃっと地面にツブれてる!

「うてなっ!?」

 むくっと起きた彼女のところに、涼馬くんが歩みよる。

 彼女の足首に指でふれたあと。

「楽さーん、ねんざです。ケガ人一名、保健室お願いします」

「ほーい」

 ひょいっと楽さんの小ワキに抱えられていく子ネコ。ならぬ、うてな。

「うてなっ、大丈夫!?」

 駆けよろうとしたあたしをさえぎり、涼馬くんが仁王だちになった。

「大丈夫か心配したほうがいいのは、自分のほうだろ。ビリっけつ」

 眉をあげた彼は、あきれた目の色だ。

 あたしは左右を見まわし、さらに校庭を見まわす。

 そしたら正門のあたりに、とっくに着がえ終わって、しかも帰りの荷物まで背おってる、みんなの姿が!

 彼らはあたしを同情の目でながめてから、手をふって門を出ていく。

「みんな、いつの間にクリアしてたのっ!?」

「マメちゃぁん、ごめん~~っ。あとはたのんだぁ~~……」

 うてなの最期の声が、涼馬くんのカラダのむこうで遠ざかってゆく。

 風が木の葉をまきこみ、ぴゅううっと吹きさっていった。

 あたしはその場にカクッとヒザをつく。

「いいか、双葉マメ。アタッカーってのは、現場でイチバン前に立って働く担当だ。テロの時には敵と戦い、火事の現場でもまっさきに突入する。そのアタッカーが、カベも登れずにモタモタしてたら、要救助者を救けるどころか、自分が死ぬぞ」

 死ぬ──。

 大っキライな言葉に、ビクッと肩がふるえた。

 あたしは砂をつかみ、涼馬くんを強く見上げる。

「そんなのイヤだ。あたし、死なせないし、死にたくないっ!」

「……ふーん? 言うことはいっちょまえだな」

 涼馬くんの瞳が、さらに温度を下げる。

「なら、ちょーどいいや。『サバイバーになるのが夢で、向いてなくたって、あきらめない』って、あんたのカクゴ。ここでポッキリ折ってやるよ」

 決意を折るなんて言われて、引きさがれるワケない。

 あたしはかならずサバイバーになって、ノドカ兄に追いつくって決めてるんだ!

 それに、どうしてもS組にいなきゃいけない目的もあるんだから……っ。

「……ううん。ゼッタイに、折られない!」

 すでに体力も精神力も、ゲンカイ突破。

 だけど両ヒザをパンッとたたき、ムリやり立ちあがった!



「注意! ゴー!」

「了解!」

 涼馬くんの合図に、全力で応える!

 彼はカベのまんなかあたりをタンッとけり、てっぺんに両手をかける。

 踏み台もなしの助走なしで、あのジャンプ力!

 あたしのほうはカウントをはじめた。

「3!」

 涼馬くんはひょいっと体を持ちあげ、カベのてっぺんに着地。

 同時にあたしは、五メートルはなれた位置から全力ダッシュだ!

「2!」

 カベのまえで思いっきり踏みきり、大きくジャンプ!

 ふり返った涼馬くんが、うでを突きだしてくる!

「「1ッ!」」

 二人で声を重ねた!

 カベのまんなかをけりあげ、彼の手を目がけて、まっすぐに体をのばす!

 あたしと彼の指先が、ぐんっと近づき──!

すかっ。

「あれっ?」

 あとわずか一センチのところで、あたしは何にもない宙をつかむ!

「アアアアアッ~~!」

 重力に引っぱられ、そのまま地面へ!

 砂ぼこりを巻きあげて、またおしりから着地しちゃった!

「痛ったぁ……っ」

「三十二本め、失敗。なんでこんな何度やっても、タイミング合わないんだろうな」

 目のまえに、涼馬くんがカルい身のこなしで着地した。

 彼は助けおこそうとしてくれたのか、手をさし出しかけて。

 ハッと我にかえって、うでを引っこめる。

 けどあたしのほうだって、じんじん痛む腰にムチうって、自力でズバッと立ちあがった。

「まだやんのか?」

「もちろんです! お願いします、リーダー!」

 したたり落ちてきたアセを、ぐいっと手の甲でぬぐう。

「……あっそ」

 涼馬くんはあきれてる半分、おもしろがってる半分って顔だ。

「うわさの〝担当ナシ〟さん、根性はスゴイわね……」

「今まで一人もいなかったよなぁ、担当ナシって。あのノドカさんの妹ってホントかな。試験官はプロの教官だし、『あの人』もいたらしいし? どっかしら、光るとこはあったハズだけど」

「わたしにも解析不可能だわ」

「失礼なっ。マメちゃんは、正気をうたがうくらいのガンバリ屋さんなんですよっ」

「アハハ。うてなちゃん、フォローしてんの、それ?」

 ほかのリーダーさん二人と、うてなのぷりぷり怒る声。

 手当てを受けてもどってきた彼女と楽さんに、くわえて七海さん。

 三人は缶ジュースとポテトチップスのふくろを朝礼台に広げて、ほのぼのお茶会中だ。

「三十三本め、行きますっ!」

ダダダダッ、ダンッ!

すかっ、どしゃっ。

 あたしはまたもや重力に敗北した。

「……………………なんで! 涼馬くん、わざとタイミングずらしたりしてないっ!?」

「してねーよ」

 カベの上から、タメ息がふってくる。

「じゃー、ぼくらはそろそろお先に」

 楽さんたちが夕暮れ空を見上げて、立ちあがった。

「涼馬も、寮の夕ごはんタイムが終わるまえに帰っておいでよ。うてなちゃんとマメちゃんは、自分ちから通学だっけ? 暗くなるから、はやく帰んなさいね」

「はーい。でもボクは、マメちゃんが終わったら、いっしょに帰りまーす」

「うてなさんは、家でロープワークをやってください。あなた、一番おそかったです……」

 ぎくうっと肩をすくめたうてなも、しぶしぶ腰を持ちあげた。

「うてなー、つきあわせてゴメンねーっ。帰り道、ひとりで歩けそう~っ?」

「だいじょぶ、電話でパパ呼ぶから。リョーマ、ボクのマメちゃんいじめんなよ!」

 うてなは涼馬くんにイーッと歯をむきだす。

「さーな、コイツしだい。楽さぁーん、おれのぶんの夕メシ、部屋に置いといてください」

「「まだやんの」」

 ほっぺたをケイレンさせた、うてなと楽さん。

「S組のSは、サバイバーのSじゃなくて、スパルタのS……」

 七海さんは名言をのこし、二人とともに歩みさっていく。

 ……リーダーって、キャラが濃くないとなれないのかな。

カァ、カァ、カァ。

 巣に帰っていくカラスたちの影が、足もとを横ぎっていく。

 とうとう、涼馬くんと二人きりになってしまった。

「どーするよ。双葉マメ」

「三十四本めっ! お願いします!」

 がくぶる震える足をパンッとたたき、

 あたしはふたたび、フルパワーでカベへと駆ける!


すかっ。どしゃっ。


▶次のページへ


この記事をシェアする

ページトップへ戻る