KADOKAWA Group
ものがたり

『100億円求人』先行連載 第4回

9.ぼくの理想郷

 5年前。
 夏休みの1日目に、ぼくの人生が変わった。
「じゃあね、勇誠」
 そう言った母さんは妹をつれて、出ていった。
 きっかけは、父さんがクビになったから。
 お金がなくなっていって、心も貧しくなっていって。
 父さんは、変わった。
 それからぼくは、ボロアパートに父さんと2人で住むことになったんだ。
 全部が最悪だった。
「元どおりにしないと」
 家も、家具も。前みたいにしないと。
 母さんと妹が返って来られるように。
 元に戻すためには、同じものが必要だった。
 でも、そっくりな家を買ったり、似たような家具を集めたりするのには、大金が必要だった。
 小学生のぼくに集められる金額なんて、ほとんどなくて。
 それ以前に、剣道場に通うお金すら、家にはなかった。
 ずっと努力してきた剣道もつづけられなくなって、優勝を目指してた大会にも参加できなかった。
 ぼくのいままでの努力が、全部崩れた。
「もういやだ。……逃げたい」
 この現実から、逃げたかった。
 布団にうずくまったとき、ふと気づいた。
 いままで、恵まれていたんだって。
 恵まれた環境で、「努力」って言葉を使ってきたんだって。
 いま、この環境じゃ、努力したって、周りの人とはスタート地点がちがう。
 はじめる場所がちがえば、到達したい場所への過程も、そこまでかかる時間もちがう。
 ゾッとした。
 いままでの自分のおごりにも。
 いまの自分の現実にも。
「うわ……しんど」

 そんなとき、ぼくはダークウェブで【蓬莱郷】について知った。
 夢を叶えてくれる理想郷。
 母さんと妹が出ていく前と、同じ生活が取り戻せるかもしれない。
 ぼくの望む場所が、逃げられる場所が、そこにあるかもしれないって、本気で思った。
 そんなとき、ぼくは3人と出会った。

 4年前、現実から逃げられると思って、逃げきれなかったファーストゲーム。
 そこで手に入れたもので、人生は少しだけマシになった。
 でも、日常は変わらなくて、ぼくの首には枷がついている。
 逃げられないって思い知らされるたびに、少しずつヘドロみたいなものが積もっていって。
 ぼくの心を殺していくんだ。
 これから、セカンドゲームがはじまる。
 このゲームが終わるころ。
 きっと、ぼくはいまの壊れた日常から逃げきれる。
 きっと、全部を元どおりにできる。
 だからぼくは、絶対にゲームを成功させるんだ。

第5回へ続く>

この小説は、つばさ発の単行本「角川つばさBOOKS」で2月7日発売!!
面白さは絶対保証! ここからラストまで加速し続ける「だまし合い」のゆくえを、必ず見とどけてね!

つばさ文庫よりひとまわり大きいサイズ・単行本で発売するよ。
(本の売り場がわからないときは、書店員さんに聞いてみてね)
発売日に確実にゲットしたいあなたは、書店店頭やECサイトでの、発売前の予約がオススメです!

連載を読んだ感想や、発売前の期待のコメントは、ぜひ書誌情報ページ「みんなのかんそう」欄にも書きにきてください♪
いますぐ本のページへゴー!

【書誌情報】

前代未聞、大胆不敵。最高にスリリングであざやかな頭脳戦!
舞台:海上に浮かぶ不夜のカジノシティ【トコヨノクニ】。主人公:中学2年生4人組。住む場所も学校も異なる彼らは【報酬:100億円】の求人に呼び集められ、世界が注目する宝をめぐるコンゲームに巻き込まれる。


作:あんのまる  絵:moto

定価
1,430円(本体1,300円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041142257

紙の本を買う

 

\ヨメルバで読めるつばさ文庫の作品が一目でわかる!/



この記事をシェアする

ページトップへ戻る