
みなさんはカイコという昆虫をご存知でしょうか?
カイコは人間にとって、もっとも身近な昆虫と言っても過言ではありません。
彼らは私たちが日常で使用してきた絹糸の生産には欠かせない存在であり、わたしたち人間の暮らしを支えてくれた昆虫です。
今回はそんなカイコという昆虫についてお話しします。
カイコっていったいどんな昆虫?
はじめに、カイコという昆虫がどのように誕生したのかというお話をします。
カイコとはチョウ目カイコガ科に属するガのなかまです。しかし、自然界には生息していない昆虫です。なぜ自然界には生息していないかというと、カイコは「人間が品種改良によって生み出した昆虫」だからです。カイコの誕生には5000年以上の歴史があるといわれています。中国に生息していたクワコというガのなかまを、長くて丈夫な糸をとるために長い年月をかけて品種改良した結果、誕生したのがカイコといわれています。


クワコの幼虫(写真上)と成虫(写真下)。
カイコは長い間、人間に品種改良されながら飼育されてきたことから、自然の中で育つ能力がなくなってしまいました。例えば、カイコは成虫になると他のチョウやガと同じく翅を持ちますが、この翅で空を飛ぶことはできません。また幼虫時代も、脚の力が非常に弱いため、風の強い野外などで踏ん張ることができないといわれています。
そのためカイコは、人間にとって非常な身近な昆虫でありながら、野外に探しに行っても見つけられない昆虫となっています。ただし、カイコの祖先と言われているクワコというガは、桑の木を探していると幼虫を見つけることができます。
カイコはどのように人間と関わってきたのか?
人間はカイコを絹糸の生産に利用してきました。
カイコは幼虫時代に桑の葉をたくさん食べて成長します。そして大きくなった幼虫は、たくさんの糸を吐いて繭を作り、その繭の中で蛹になります。この繭の大部分は1本の糸で作られており、最大で1500mになるといわれています。その繭を作る糸が、私たちが使っている絹糸の原料となっています。


カイコが作った繭を煮沸することで、繭を固めているセリシンという糊の物質を溶かすことができます。そして丁寧にその糸を解いて、糸を巻き取ります。その糸を何本か束ねて作られたものが絹糸となります。昔から私たちの衣服などに使用されてきました。煮沸する作業は、繭の中に蛹がいる状態で行います。蛹から成虫が羽化してしまうと、繭を破ってしまったり、羽化後のおしっこで繭を汚してしまったりすることから、1本の綺麗な糸がとれなくなってしまうためです。
しかし茹でられてしまった蛹も、魚の釣り餌の「さなぎ粉」や人間の食用に利用されています。この絹糸産業は明治時代以降の日本を支えてきましたが、近年では衰退しつつあります。かつては日本の絹糸は品質がよいとされてきましたが、近年では海外の輸入品も品質が向上したり、ポリエステルなどで安く丈夫な素材を作れたりするようになったことから、日本で絹糸を生産する場所はどんどん少なくなっていっています。絹糸産業が衰退するということは、カイコが飼育されている場所も少なくなってきているということです。

カイコを育ててみよう!
自然界には生息していないカイコですが、ネットの専門ショップなどで購入することができます。基本的にはショップで購入した際に、飼育方法などの説明書が付属していることが多いので、それを見ながら飼育することが可能です。今回はそんなカイコの飼育方法を簡単に説明します。
カイコが卵から孵化して繭を作り始めるまでの期間は約1ヶ月です。ショップにもよりますが、カイコの幼虫はさまざまな大きさで購入することができるので、自信がない方や初めての方はある程度成長した大きさの幼虫を複数匹購入することをおすすめします。

カイコの幼虫は先述したとおり、桑の葉を食べます。家の近くに桑の木が生えている人はそこから新鮮な葉をもらってきて与えるのがよいでしょう。ただし、野外でとってきた葉には寄生虫の卵や埃などが付いている場合があります。そのため、幼虫に与える前にそれらの葉を水洗いして、キッチンペーパーなどでしっかり拭くことをお勧めします。桑の葉を用意できない場合はシルクメイトなどの、桑の葉が原料の人工飼料を与えて飼育することもできます。桑の葉の場合も人工飼料の場合も、幼虫の糞と一緒に古い餌を新鮮な餌に頻繁に交換してあげましょう。カイコの幼虫は病気になりやすいため、清潔で風通しのよい容器で飼育します。


シルクメイト
孵化して1ヶ月程度成長すると、幼虫は水分の多い糞をします。これはガットパージといい、蛹になる前に自分の体内の食べ残しなどを全て出し切る行動です。水様便を出し終えた幼虫は歩き回って、繭を作る場所を探します。そのまま飼育ケースなどで飼育していても問題なく繭を作りますが、厚紙などで作られた「まぶし」という区切られたスペースや、トイレットペーパーの芯などを使うと、カイコたちが個別に綺麗な繭を作ってくれやすくなります。


しばらくすると、たくさんの糸を吐いて繭を作ります。繭は、最初は薄く弱いため、触ったりせずにそっと見守りましょう。繭を作り終えてから2週間ほどで、繭を破って成虫が羽化してきます。とても硬い繭ですが、成虫は口からコクナーゼという物質を出して、繭ののりをとかしながら脱出してきます。

羽化した成虫のカイコの寿命は1〜2週間程度です。カイコの成虫は、食事をするための口がなく、成虫になると何も食べたり飲んだりすることはありません。そのため餌を与えたりする必要はありません。
羽化したオスとメスのカイコを同じケースに入れておくと、すぐに交尾をしてたくさんの卵を産みます。1匹のメスで200個近く産卵することもあるため、たくさんの数を飼育する余力がない方は、産卵させることは避けましょう。
さいごに
今回は人間と密接な関わりを持つ昆虫カイコについてお話ししました。
飼育も難しくなく、専門ショップで簡単に手に入りますし、また飼育を通じてたくさんのことを学んだり感じたりすることができる昆虫です。成虫の姿もとっても可愛いですよ。
これを機にカイコについて色々と調べてみてください。
【プロフィール】
むし岡だいき
昆虫採集YouTuber 。チャンネル登録22万人 、一番好きな昆虫はコロギス。