今回は「イモムシ」についてお話しをしていきます。
まず、「イモムシ」とはどんな虫なのでしょうか?
Wikipediaでは「チョウやガの幼虫のうち、体に目立つトゲや毛が生えていないもの」という定義を立てていました。しかし人によっては、カブトムシやクワガタの幼虫も含む「細長くてプリプリしている見た目のもの」をイモムシと呼ぶ人もいるかもしれません。
本記事では「チョウやガの幼虫」という定義でイモムシについてお話ししていきます。ちなみに「ケムシ」とは何が違うのか?という疑問を持たれる方もいるかもしれませんが、どちらもざっくりと線引きをするだけの言葉であり、「チョウやガの幼虫のうち、毛やトゲが生えているものをケムシと呼ぶ人もいる」くらいの認識で問題ありません。
みなさんも町中や公園でイモムシを見かけたことがあるかと思います。もしかしたら自宅のお庭の植物についていて、大切に育てていた木の葉っぱを全部食べられてしまったなどという苦い経験をしている人もいるかもしれません。先述したように、彼らはチョウやガの幼虫たちです。チョウやガを含むチョウ目の昆虫は「完全変態」という生態を持っており、卵→幼虫→蛹(さなぎ)→成虫へと姿を変えていきます。イモムシのほとんどが草食で、イモムシの種類によって食べる植物が異なります。例えばアゲハチョウの幼虫であればミカン科の植物、キアゲハの幼虫であればセリ科の植物など、彼らは食べられる植物が決まっていることが多いです。
それでは、みなさんの身近で見られるイモムシを数種類紹介します。
身近で見られるイモムシたちを紹介します!
①ナミアゲハ(アゲハチョウ)
ミカン、カラタチ、レモン、サンショウなどミカン科の植物の葉を食べるイモムシです。ミカン科の植物は人の家の庭などにも多く植えられているため、幼虫も成虫も街中で見かけることが多いかと思います。幼虫は刺激を受けると、オレンジ色の臭いツノを出します。人間にとっても臭い匂いをしており、この匂いで外敵を追い払います。
②キアゲハ
ニンジン、パセリなど、セリ科の植物の葉を食べるイモムシです。家庭菜園などをやっている人はよく見かけるイモムシかもしれません。ゼブラ柄が特徴のイモムシで、成虫はナミアゲハよりも濃い黄色をしています。
③アオスジアゲハ
クスノキやタブノキなど、クスノキ科の植物の葉を食べるイモムシです。クスノキは神社などの近くに多く生えていることから、成虫を街中でも見かけることが多い種類です。探すコツとしては「ひこばえ」という、木の根本付近から生えている新芽を探すと簡単に見つけることができます。
④オオスカシバ
上記のチョウたちとは違い、スズメガという大型のガのなかまになります。クチナシという植物の葉を食べるイモムシです。クチナシも人家の庭や街の歩道の横などに多く植えられていることから、幼虫も成虫も街中で多く見つけることができます。成虫の飛んでいる姿はハチのように見えますが、人を攻撃したり、毒を持っていることはありません。探すコツとしては、彼らのうんちを探すことです。幼虫がついているクチナシの下には必ずと言っていいほど、多くのうんちが落ちています。このうんちが見つかれば、オオスカシバの幼虫を見つける手掛かりになります。
⑤セスジスズメ
オオスカシバと同じスズメガのなかまです。ヤブガラシという植物の葉を食べるイモムシです。ヤブガラシは雑草として、人家の庭や町中に多く生えていることから、幼虫も成虫もみなさんの身近に見られることが多い種類です。
イモムシを育てるにはどうしたらいい?
それではそんなイモムシの飼育方法についてお話しします。
さきほど紹介したイモムシたちは、どれも飼育が簡単な種類です。イモムシを飼育すると、イモムシがどんどん餌を食べて大きくなり、やがてサナギになって成虫になる様子を観察することができます。
どのイモムシたちも、基本的には飼育ケースに彼らの食草を入れてあげるだけで飼育することができますが、気をつけるべきことが2点あります。
1つめは、エサとなる食草をこまめに取り替えてあげることです。
イモムシたちは新鮮な葉を食べて成長します。ケースの中に入れている植物はどうしてもすぐに枯れてしまうため、枯れてしまう前に新鮮な葉に交換してあげましょう。切った枝に湿ったティッシュを巻きつけたり、枝を水に刺すことで長持ちさせることも可能です。
2つめは、風通しのよい容器で清潔を保って育ててあげることです。
基本的にイモムシたちは、蒸れてしまうのを嫌います。風通しの悪い容器だと、彼らのうんちからカビが生えてケース内が不潔になることで、イモムシが死んでしまうこともあります。風通しのよい容器で、あまり霧吹きなどはせず、また彼らのうんちをこまめに掃除しながら飼育することが大切です。数週間するとイモムシたちは葉っぱを食べるのをやめて、ケース内をうろうろと徘徊し始めます。これはワンダリングと言って、サナギになる場所を探している行動です。こうなると餌を食べることはなくなるので、ケースから餌を取り除いてあげましょう。
チョウの場合はケースの側面や木の枝など、スズメガの場合はケースの底で蛹になります。蛹になって10日〜2週間経つと成虫が羽化してきます。スズメガの場合は羽化する際に足場が必要となるので、木の枝や鉢底ネットなどを使ってサナギの周りに足場を作ってあげましょう。
しかし、秋にサナギになった幼虫たちは、次の春まで羽化してこないこともあります。その場合、暖かい部屋に置いてしまうと、真冬に成虫が羽化してきてしまうこともあります。秋にサナギになってしまい、1ヶ月以上羽化してこない時は春まで寒い場所でサナギをそっと管理してあげましょう。
チョウやガのなかまの多くが、深夜から朝にかけて羽化することが多いため、なかなか羽化する瞬間を目にするのは難しいですが、もしうまくタイミングが合えば、ケースを動かしたりせずにそっと見守りましょう。大切に育てたイモムシを無事に成虫にさせることができると、とても感動します。
寄生虫対策としてできることはある?
どれだけ大切にイモムシの飼育をしていても、うまく成虫になれないイモムシたちがいます。それは寄生虫に寄生されているイモムシです。イモムシに寄生する昆虫が数種類おり、その代表が寄生バチや寄生バエです。彼らはイモムシに直接卵を産みつけたり、卵のついた葉を食べさせることで、イモムシの体内に寄生します。
イモムシの体内に産みつけられた卵は、イモムシの体内で成長し、イモムシの体の中から脱出して成虫になります。時にはサナギの中で成長して、サナギから寄生バチが羽化してくることもあります。こうなったイモムシは死んでしまいます。
寄生虫対策としてできることは、2つあります。
1つめは、イモムシを卵や小さな幼虫の状態で持ち帰ることです。
イモムシは成長の段階で寄生されることが多いので、卵や小さな状態では寄生されていることが少ないです。
2つめは、餌となる食草をしっかりと拭いてあげることです。
寄生バエなどは、幼虫が食べる植物に卵を産みつける種類がいます。そのため、持ち帰ってきた植物をそのまま与えるのではなく、水に濡らしてティッシュなどで拭き取って、卵を取り除いてあげると、寄生されるリスクが少なくなります。
さいごに
羽化したチョウやガは、元いた場所に返してあげてもよいでしょう。ただ以前の記事には「一度飼育した虫は最後まで責任をもって飼育しましょう」という言葉を書いたにも関わらず、このようなことを書くのは矛盾ではないかと思う人もいるかもしれません
チョウやガの成虫は、家の中で飼育することが非常に難しい昆虫です。そのため飼育にチャレンジしても、羽がボロボロになったり、すぐに死んでしまうことがほとんどです。
しかしイモムシを飼育して完全変態の様子を観察するということは、非常に有意義な経験であり、この飼育をきっかけに昆虫や自然環境に興味を持つ人も増えることでしょう。
そのためチョウやガの幼虫飼育に関しては、成長したあとは野外に放すという行為が例外的に許されてもいいものと個人的には思っています。ただし、自然環境にできるだけ影響を与えないように下記のことを考慮することが大切です。
- イモムシに与える食草は、イモムシを見つけた場所のものを使用する
- 成虫を放す際は、必ず幼虫を見つけた場所で行う
- 一度に多くのイモムシを飼育しすぎない
- 飼育の過程で増やしたものを野外には放さない
上記のことを必ず守り、自然環境に配慮した上でイモムシ飼育を楽しむことが大切です。
写真:PIXTA
【プロフィール】
むし岡だいき
昆虫採集YouTuber 。チャンネル登録22万人 、一番好きな昆虫はコロギス。