スーパーでまだ生きている生きものを見て「飼ってみたい」と思ったことはありませんか?
魚売り場や漁港での偶然の出会いから始まった、ゆかいな飼育記録が本になりました。
海から水槽へ暮らしの舞台を移した水の生きものたちの「セカンドライフ」をのぞくと、感動・笑い・学びがたくさん!
子どもから大人まで、読むたびに心温まる物語の数々をぜひお楽しみください。
連載第3回は、「さよならはまだ早い 水辺の生きものとのキセキ」の中から、「スッポンの『スブタ』」を紹介します。
※本連載は『水の生きものセカンドライフ 瀕死の生きものを救ったら、ゆかいな日々が訪れた』から一部抜粋して構成された記事です。
噛みつく食材!?
近所の鮮魚スーパーに行くと、オレンジ色のネットに入れられたスッポンを発見した。スッポンは生きていることが分かり、飼うことにした。ネットの間から睨んでくる視線に惹かれて、すぐさま購入することに。
しかし、ここで問題が発生。当たり前だが、お店の人は食材のつもりで包んでくれるので、オレンジ色のネットの上からしっかりとビニール袋で梱包されていた。
いくら肺呼吸ができるスッポンでも、ビニールに入れられてしまっては窒息の危険があるため、その場ですぐさまビニールを外して呼吸が楽になるようにしてあげた。人間も、ビニールをかぶせられたら苦しいし、そのままの状態にしていると窒息してしまうので、それと同じだと思ってもらっていい。
スッポンは水がなくても生きてはいけるが、体表が乾燥してしまうと弱ってしまう生きものなので、自販機で水を購入し、甲羅の部分にかけてみる。この辺りは、人間だと想像しにくいと思うが、空気が乾燥していると風邪を引きやすい、みたいなものかもしれない。
今回は鮮魚スーパーで購入したが、スッポンは日本なら用水路や池なんかにも生息している生きものである。フォルムがカメと似ているので、よく比較されるのだが、その大きな違いをみなさんは知っているだろうか?
実は、カメは甲羅と体が別になっているのに対して、スッポンは甲羅と体が一体化しているのだ。スッポンの甲羅部分を触ってみると少し柔らかくて皮っぽい質感をしているのがよく分かる。人間で説明するとしたら、全身タイツを着ているような感じなのかもしれない。
移動がゆっくりなので、近づいても大丈夫だと思いがちだが、スッポンは噛みつくときだけはやたらとスピードが速いので、指などを安易に近づけないように気をつけよう。
さらにこのスッポンという生きものは、噛みつくスピードが速いだけでなく、力も強い。「スッポンは一度噛みついたら離さない」と言われるほど強靭なあごを持っているので、小さな子どもが噛まれると骨折することもある。
……そんな特徴を知ってしまうと、「本当に痛いのか」を知りたくなってしまうのが僕の悪いところ。スッポンの前に手を差し出すと、勢いよく首が伸びてきて、思ったとおりガブリと噛みつかれてしまった。
「いだだだだだだっ!!」
けっこう大きな声が出るくらいには痛い。
いい歳した大人が泣きたくなるくらいには痛い。
ほんの一瞬噛まれただけなのに、手には丸く噛まれた跡が残っていた。僕はこの日、気軽にスッポンの前に手を出さないようにしようと、心に固く誓った。
最大の武器は愛嬌
スッポンは噛みつく力だけでなく鋭いツメも持っていて、プラスチック製の水槽だと簡単に傷が付いたりする。一応甲羅はあるけれど、攻撃特化型の生きものといった印象だ。
しかし、スッポンの最大の武器は噛む力でも鋭いツメでもない。個人的に最強だなと思うのは、愛嬌だ。我が家で保護して早々、ガラス製の水槽に鼻を押し付けて、こちらをジッと見ている姿を目撃。
ブタっ鼻をこれでもかというくらいに見せつけてくるスッポン。それでも、なぜか愛らしく見えてしまう。なぜだ……なぜこんなにブサイクなのに、かわいいんだ!? しかし、スッポンのかわいさはブタっ鼻だけでは収まらない。
スッポンは、たまに外に出して日光浴をさせると、必要な栄養素を甲羅から取り入れられるので、庭などを散歩させてあげると体調を崩すことが少なくなる。
目の届く範囲で一緒に散歩していると、のっしのっしと歩いていたかと思いきや突然勢いよくトコトコ歩き出したり、土に穴を掘って潜ろうとしたり……好奇心旺盛な様子が見てとれる。スッポンは人に慣れると、近寄ってきたりこちらの様子をよく見るようになったりするらしく、これからどのくらい仲良くなれるのかが楽しみだ。
YouTubeでスッポンの名前を募集したところ、今回もたくさんの候補が届いた。やはり、ガラスに鼻を押し付けている姿が印象的だったので、スッポンの「ス」と「ブタ」を合わせて、「スブタ」という名前をいただくことに。
素敵な名前が付いたので、これからはさらに愛着を持って接することができるだろう。
怖いのに愛らしい…!
仲を深める男旅
どちらが良いというわけではないが、水がないと生きられない魚などと違って、スッポンは外に連れ出すことができるので、かかわり方の違いを感じられる。
ということで、海へ日光浴をさせに行ってみた。いつも散歩させている庭よりもはるかに広く紫外線も強いので、きっとスブタも満足するだろう。砂浜に放してみると、一目散に海へと向かうスブタ。やはり水に惹かれるのか、何度も砂浜へと連れ戻すことになった。
その後は、ふてくされたように砂を掘って潜ったり、僕の元へとやってきてちょっかいをかけたり……と、終始やりたい放題。親切心から、スブタに磯の生きものを見せてあげようと、石に隠れていたヒライソガニを近くに連れて行くと、ガブリと噛みつこうとする瞬間もあった。
ヒライソガニを海へと返して、しばしスブタと日光浴。すると、頭上にトンビがぐるぐると旋回しはじめた。このトンビという鳥は上空から獲物に狙いを定めて急降下し、生きたまま運んでいって安全な場所で食べるのだ。
もしも、スブタが上空へと連れ去られてしまったら、僕には助けることができない。さらわれないように空にも気を配るという、なんともスリリングな日光浴を体験した。
生きものは食物連鎖といつも隣り合わせだ。ヒライソガニを攻撃するスブタは、次の瞬間にはトンビに狙われている。人間の場合、動物に捕食されるのはレアケースだが、自然に囲まれて生活している生きものは違う。毎秒、毎分、毎日、毎年……死ぬまでそうやって生きているのだ。
そう考えると、スブタと出会えたことは特別でかけがえのない縁なんだと思う。
水の生きものとのひょんな出会いの物語はいかがだったでしたか?
本書では、その後の成長記録や貴重な写真はもちろん、生きものとの関わりから見つけた生きもののおもしろさ、いのちの大切さについてもつづられています。
朝の読書タイムや、自由研究にもぴったりな1冊、ぜひお手に取って、新しい世界をのぞいてみてください。