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ものがたり

最新刊『絶体絶命ゲーム14』先行連載 第2回 『奈落』の王者

【スリルの頂点を極める最強シリーズが、新たなステージへ!】

この小説、危険すぎ!? どこにあるとも知れない【奈落】という場所に連れてこられた、春馬と未奈。ここにいるのは「絶体絶命ゲームに裏切られた人たち」……? 大人気シリーズ最新刊!(毎週火・金曜日更新・全3回)

【このお話は…】
前回の絶体絶命ゲームで、最下位になったために、ナゾの施設『奈落』に送られた、春馬と未奈。
飛行機→船→馬車を経由して、はるばる連れてこられたのは、古い城…!?
檻から出ることはできたが、うしろには獣が迫っている!!
春馬と未奈は乗りきれるのか!?



3    扉を開けろ!

 春馬と未奈は門をくぐって、大きな木製の扉の前にやってくる。
 しかし、扉は閉まっている。
「ここを開けてくれ!」
 叫びながら、春馬が押しても引いても、扉はぴくりともしない。
「どうなっているんだ?」
 春馬は困惑する。
「開けてください!」
   ドンドンドン!
 未奈が扉をたたくと、カタカタカタ……と音がする。
 鎖が巻きあげられて、粗末なはね橋が上がっていく。
「扉をたたくと、はね橋が上がる仕組みだったのか?」と春馬。
 オオカミたちは堀のきわまでやってくるが、橋が上がっていて、こちらにはこられない。
「……間一髪で助かったみたいね」
 未奈が、ほっとした表情で言った。
「いや、建物に入るまでは、安心できないよ」
 春馬が言うと、扉を見ていた未奈がなにかに気がつく。
「……ここになにか描かれているわ」
 扉の表面に、文字や図形が描かれているが、汚れていてよく見えない。
「いいものがあるよ」
 春馬は、扉の横においてあった柄の長いほうきを手にする。
「ちょっと掃除させてもらうよ」
 春馬は、ほうきで扉の汚れをおとした。

   城に入りたかったら、この問題を解きなさい。
   問題。
   一筆書きで、横にある9つの点をすべて通るように直線でつなぎなさい。
   線の折れ曲がった回数が少ないときは、城に入れます。
   線の折れ曲がった回数が多いときは、はね橋が下ります。
   なにもしなくても、3分後、はね橋が下ります。
   直線を描くときは、木箱にはいっているインクを使うこと。

 問題の横に、直径5ミリの黒丸が7センチ間隔で、縦に3列、横に3段ならんでいる。
「これって、9点を一筆書きする、有名な問題よね」
 未奈が、拍子抜けした顔で言った。
「そうだけど、曲がる回数が指定されていないのは、どうしてかな?」
 春馬が、首をかしげる。
「折れ曲がる回数の正解は、3回だったわよね」
 未奈が言うと、春馬が解説する。
「うん、そうだ。右上の点から中央の点を通って左下の点、そこで折れて左の中の点を通って左上の点を通りこしたところで折れて、中央の上の点から右の中点を通りこして、そこで折れて右下の点を通って中央の下の点を通るんだ」




「こういうのはどうかな?」
 未奈は指で、扉に描かれた9つの点をなぞる。
「これなら、折れ曲がる回数は2回よ」

 




「うん、いいアイディアだ」
 そう言った春馬だが、まだ納得していなかった。
「インクは、木箱の中にあるって書いてあったわね」
 未奈がさがすと、扉の下に木箱がある。
 中には、細い筆とインクのボトルがはいっている。
「描くわよ!」
 未奈が筆を持ったとき、春馬がとめる。
「いや、待って!」
「どうしたの?」
「なにか、いやな予感がするんだ」
 春馬はそう言って、じっと考える。
 カタカタカタ……と音がして、巻きあげられた鎖が下ろされていく。
 はね橋が、ゆっくりと下りていく。
「3分たったみたい。……描くわよ!」
 未奈が筆の先にインクをつけようとしたとき、春馬がひらめいた。
「これは、ひっかけ問題だよ!」
「えっ、どういうこと?」
「問題文に、インクの指定はあるけど、筆の指定はない」
「そうだけど……。もう、時間はないわよ」
 はね橋は、どんどん下りていく。
 堀のむこうで、オオカミたちが待ちかまえている。
「筆がインクといっしょに木箱にはいっていたら、それを使うものだと思いこむ。でも、ほかのものでもいいんだ。たとえば……」
 春馬は、扉の横においてあったほうきを手にとる。
「そうか。そういうことね!」
 未奈も、その方法に気がついた。
 春馬がちらりと、はね橋を見る。
 数匹のオオカミが、下りきっていないはね橋に飛び移ってくる。
 未奈が、春馬の持ったほうきの穂先にインクをかける。
 数匹のオオカミがはね橋を駆けて、春馬と未奈にむかってくる。
「こうすれば、折れ曲がりの回数は、0だ!」
 春馬は、ほうきで太い1本の線を横に引いた。
 その線は、9つの点の上を通っている。
 瞬間————春馬と未奈の立っている床が、開いた。


4    『奈落』の王者

「うわぁぁぁぁぁぁ……」
 春馬が叫ぶ。
「キャ———————」
 未奈は悲鳴をあげた。
 開いた床の下は斜面になっていて、春馬と未奈は長いすべり台をすべるように下りていく。
 そして、城の中庭の真ん中あたりに落ちた。
「……どういうこと? あの解答で正解じゃなかったの?」
 未奈が、立ちあがりながら言った。
「ここに入れたということは、正解なんじゃないかな」
 春馬は立ちあがると、あたりを見まわす。
 外からは、4階建てのビルくらいの高さの建物に見えたが、実際は5階建てのようだ。
「春馬、だれかくるよ」
 未奈が、警戒するように言った。
 ポンチョのようなかたちの、おそろいの服を着た、20人ほどがやってくる。
 みんな、小学校高学年から中学生くらいの日本人のようだ。
 集まってきた20人ほどは、生気のない疲れた顔をしている。それでいて、春馬と未奈には興味があるようで、品定めでもするようにじっと見ている。
「あの、ここが『奈落』ですか?」
 春馬が聞いても、みんな無反応に見下ろしている。
「ねぇ、どうなの? 教えてよ!」
 未奈が、いらいらした口調で言った。
「——そうよ」
 女子の声がした。
 ショートヘアーで整った顔立ちの女子がそう言いながら、2人の前にやってくる。
「ここが、『奈落』のⅠ区。地獄の一丁目よ」
 整った顔の女子は、じっと春馬の顔を見る。
「Ⅰ区、だって……?」
 春馬が言うと、男の怒鳴り声が聞こえてくる。
「おまえら、邪魔だ。作業にもどれ!」
 集まっていた子どもたちが、蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。
 ぼさぼさ髪の大男が、春馬と未奈の前にやってくる。
「おまえが、武藤春馬か?」
「そうだけど……」
「おれについてこい。女もいっしょにこい!」
 大男の言葉に、未奈はカチンとくる。
「あたしは滝沢未奈。ちゃんと名前があるのよ!」
「うるせぇなぁ! 2人とも、黙ってついてこい」
 大男が歩いていこうとするが、春馬と未奈は顔を見合わせている。
「手間、かけさせんじゃねぇ!」
 大男は、春馬の襟首をつかみあげると、そのまま引きずるように進んでいく。
「ちょっと、春馬を放しなさいよ!」
 未奈が言うと、うしろから女の笑い声が聞こえる。
「ふふふふふ……。おまえ、おもしろいな」
 未奈がふりむくと、背の高いやせた女がいる。
「……あなたは、だれなの?」
 背の高い女は、未奈の前にくる。
「わたしは、冨永エマ。そいつは、入来我雄。自己紹介は、これでいいかい?」
 エマも我雄も、ほかの者と同じポンチョのような服を着ている。
「まぁ、いいけど……。滝沢未奈よ」と未奈。
「知っているわ。クジトラさまが、おまえたちに会いたいそうよ。ついてきな」
 エマはそう言うと、我雄の前を歩いていく。
「おとなしく、ついてこいよ!」
 我雄はそう言って、春馬をはなした。

 4人は、入り口の扉を背にして、左隅にある部屋に入った。
 教室ほどの広さの部屋で、天井から豪華なシャンデリアがつるされている。
 中央におかれたテーブルに、たくさんのスナック菓子、スイーツ、果物、ジュースなどがおかれている。
 壁には大型の液晶テレビが設置してあり、数種類のテレビゲームがつながっている。
 奥にある革張りの高級ソファーに、ベリーショートで筋肉隆々の男がふんぞりかえっている。
「クジトラさま、武藤春馬と滝沢未奈を連れてきました」
 エマが、ベリーショートの男に言った。
 春馬と未奈は、その男の前に突き飛ばされる。
「おう、よくきたな。ここのボスをしている鯨岡虎彦だ。クジトラと呼んでくれ。よろしくな」
「ボスって……『奈落』って学校じゃなの?」
 未奈の質問に、クジトラたちが馬鹿にしたように笑う。
「学校だって!? ここはもっといい場所だ。安住の地だよ」
 クジトラが、自慢げに言った。
「そうなの? ちょっとしか見てないけど、安住の地には思えないわ……」
 未奈が、首をかしげる。
「おまえたちは、どうして『奈落』にきたんだ?」
 クジトラが聞いた。
「それは……、色々と事情があるのよ」
 未奈がごまかした。
「まぁ、いい。聞かないでおいてやるよ。ここにいる連中は、みんな訳ありだからな」
 クジトラが言うと、エマがつづけて言う。
「ここが気にいらなかったら、いつでも出ていっていいのよ。正門側の扉は、中からは簡単
に開くわ。ただし、外には血にうえたオオカミがいるけどね」
 春馬は、クジトラたちをじっと見ていた。
 3人とも『奈落』の紹介映像に映っていた人物だ。
 あの映像では、彼らのうしろに秀介がいた。
 彼らは、秀介を知っているはずだ。
「ぼくは、ここに人を捜しにきたんです。上山秀介といって……」
 春馬がとうとつに話しだして、クジトラたちが眉をひそめる。
「おまえ、勝手に話しだすんじゃねぇ!!」
 我雄が、春馬の腹にパンチを打ちこむ。
「ウッ!」
 春馬は、その場にうずくまる。
「……殴るなんて!」
 未奈が怒りと恐怖で体を震わせる。
「ピーピーうるせぇから、黙らせただけだ!」
 我雄が、言い捨てる。
「未奈、いいんだ……」
 春馬が、平気なふりをして言った。
「ここに、上山秀介というやつはいねぇ。そうだろう、康明」
 クジトラがそう言うと、部屋の隅にいた黒縁メガネをかけた色白の男子が返事をする。
「はい、クジトラさま。ここに、そういう人はいません」
 春馬と未奈が、目をむけるとその男子は自己紹介をする。
「ぼくは、ここで雑用係をしている平野康明といいます」
 クジトラも康明も、中庭に集まってきた者たちと同じポンチョのような服を着ている。
「そういうことだ。康明、2人を部屋に案内してやれ。それから、あそこに連れていけ」
「はい、クジトラさま」
 康明は従順にこたえる。

 春馬と未奈は、康明に連れられて、部屋を出た。
「クジトラさまには、逆らわないほうがいいですよ」
 康明が、まわりにだれもいないことを確認して言った。
「あの人、そんなにこわいの?」
 未奈が聞くと、康明がぼそぼそとした声で説明する。
「そういうんじゃないんです。クジトラさまは、ここの正式なボスなんです。だから、ぼくたちは言うことを聞かないとならないんです。逆らうと、ここから追い出されて……」
「オオカミのえさかい?」
 春馬が聞くと、康明が「はい」と言った。
「なるほど、ここは絶対的権力者のいる独裁国のようなところなんだな」
「そうかもしれません。でも、ぼくには安住の地です」
 康明の言葉に、春馬は違和感をおぼえる。
「ここが安住の地って、どういう意味かな?」
「……ここにいるのは、色々な理由で居場所のない者たちなんです」
「居場所がないって、どういう意味?」
 未奈が聞いた。
「家だけでなく、あらゆる世間から見捨てられた者です。ここは、居場所がない者が、静かに生きられる場所なんです」
 康明の答えに、春馬は暗い気持ちになった。
 どこの世界でも、そこに対応できない者はいる。
 そういう者は、邪魔者あつかいされて、目立たないところに追いやられてしまう。
 ここは、そういう居場所のない者たちの隠れ家なのかもしれない。
「ここが『奈落』のⅠ区なら、Ⅱ区やⅢ区もあるのかな?」
 春馬がつづけて聞くと、康明は困った顔をする。
「あるらしいけど……。ぼくはくわしく知りません」
「そうか……」
 春馬と未奈は、康明について歩いていく。
 クジトラの部屋のむかい側にある、白くて大きなドアが少し開いている。
「あれ、あの部屋はなに?」
 未奈が、ドアの開いている部屋に気がつく。
「……そうですね。この部屋も案内しておきましょう」
 康明はそう言うと、白い大きなドアの部屋に春馬と未奈を連れていく。
 天井の高い、白壁の広い部屋だ。
 奥に祭壇のようなものがあり、そのむこうに幾何学模様の大きな扉がある。
「……ここは、礼拝堂かな?」
 春馬が、部屋を見回して言った。
「この城が建てられたころには、そうだったみたいです」と康明。
「あの扉はなに?」
 未奈が、幾何学模様の大きな扉について聞いた。
「これもうわさですけど、『奈落』のⅡ区につながる扉だと言われてます」
 康明の答えに、春馬が興味をしめす。
「長い間、開けられてないみたいだけど、開くのかな?」
 春馬は扉を調べるが、簡単には開かないようだ。
「それよりも、部屋にいきましょう」
 康明はそう言うと、礼拝堂を出ていく。
 春馬と未奈もしかたなく、礼拝堂を出た。

奈落を支配する「ボス」クジトラたちと出会った春馬たち。
奈落の映像に、秀介といっしょに映っていたはず……
だがここに秀介はいないと言われて!?
(次回更新は12月12日[火]、楽しみにしていてね!)



『絶体絶命ゲーム14』は 12月13日発売予定!


作:藤 ダリオ 絵:さいね

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322555

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