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ものがたり

最新刊『絶体絶命ゲーム14』先行連載 第3回 ゲームに参加できなかった者たち?

【スリルの頂点を極める最強シリーズが、新たなステージへ!】

この小説、危険すぎ!? どこにあるとも知れない【奈落】という場所に連れてこられた、春馬と未奈。ここにいるのは「絶体絶命ゲームに裏切られた人たち」……? 大人気シリーズ最新刊!(毎週火・金曜日更新・全3回)

【このお話は…】
はるばる『奈落』に連れてこられた春馬と未奈。
どうやらここは学校ではないらしい。ボスのクジトラは「安住の地」だといったけれど……!?
春馬たちは、奈落の住人たちと顔を合わせる!



5    ゲームに「参加できなかった者」たち?

 春馬と未奈は、康明に建物を案内してもらっていた。
 この城は5階建てで、上から見ると正方形をしていて、中央に中庭がある。
 城の四隅には、建物よりも2階分くらい高い円柱状の塔が建っている。
 春馬たちの入ってきた正門側の扉が南で、クジトラの部屋が北西、礼拝堂は北東になる。
 康明は、最初に未奈を4階の部屋に案内した。
 女子の部屋は4階で、男子の部屋は5階になっている。
「ここで、暮らせというの!?」
 部屋を見た未奈が、不満そうに言った。
 6畳ほどの部屋は、石の壁に小さな窓が1つ空いているだけ。
 家具は粗末な木製のベッドのみで、テレビやパソコンやエアコンなどの電気製品は1つもない。
 それに、明かりは蝋燭だ。
「いやなら、出ていくしかないですよ」
 康明は、申し訳なさそうに言った。
「出ていくって、外にはオオカミがいるんでしょう?」
「ぼくにはなにもできません」
 康明に言われて、未奈はむっとして言う。
「つまり、出られないということじゃない」
「ベッドの上にある制服に着替えたら、中庭にきてください」
 康明はそう言うと、部屋を出ていく。
 ベッドの上に、みんなが着ていたポンチョのような服がおかれている。
「これが、ここの制服なの?」
 未奈は、不満そうにつぶやいた。

 5階の春馬の部屋も、未奈と同じ窓が1つの簡素な部屋だった。
「着替えたら、中庭にきてください」
 そう言って部屋を出ようとした康明に、春馬が声をかける。
「この部屋には、電灯がないんだけど?」
「明かりは蝋燭だけです」
「クジトラの部屋には電気製品があったから、電気はきているんだろう?」
「あそこはボスの部屋なので、特別です」
「そう言えば、さっき、クジトラは正式なボスだと言っていたけど、正式とはどういう意味なんだ?」
「それは……」
 康明は、口ごもる。
「なんだい?」
「説明すると長くなるから……。とにかく、クジトラさまはここの正式なボスなんです」
 康明の答えに、春馬は首をかしげる。
「とにかく、制服に着替えたら、中庭にきてください」
 康明は、早口で言うと部屋を出ていった。
「これが雅先輩たちがおそれていた『奈落』か……」
 つぶやいた春馬は、制服に着替えながら考える。
 秀介に会えると思って、ここにきたけど間違いだったかな?

 中庭では、先に着替えた未奈と康明が待っていた。
「それじゃ、ついてきてください」
 康明はそう言うと、建物の角にある円柱状の塔にむかっていく。
 春馬と未奈は康明に連れられて、塔の中のらせん階段を下りて地下階へいく。
 そこは、広い洞窟のようになっていて、幅の広い川がゆるやかに流れている。
 川のまわりにはライトが灯っていて、明るくなっている。
 30人ほどの小中学生が、ざるをもって川辺の砂をあさっている。
 我雄とエマはうろうろ歩きまわって、そのようすを監視している。
「春馬と未奈には、今日から砂金の採取をしてもらいます」
 康明に言われて、未奈は顔をしかめる。
「あたしたちに働けというの?」
「働かざるもの、食うべからず。いやなら、オオカミの群れの中を歩いて帰るんだな!」
 我雄が、意地わるく言った。
「……本当に、砂金がとれるのかな?」
 そう言いながら、春馬は砂金採取をしている人たちの顔をちらちら見る。
「とれるよ。その砂金と、食料を交換しているんだ」
 我雄が言った。
「食料? その食料は、だれがここに運んでくるんだ?」
 春馬が聞くと、我雄があきれたように言う。
「今の時代、ネットがつながっていれば、地の果てだって荷物は届くんだよ」
「ネットがつながっているのか?」
「おまえはいちいちうるさいな! それより、働け!」
 我雄は、春馬をつかまえると川に投げいれた。
   バシャーン!
 川の水はおどろくほど冷たく、一瞬で凍りつきそうだった。
 春馬が体をふるわせて、水面から身をおこす。
「ちょっと、ひどいじゃない!」
 未奈が、我雄に食ってかかる。
「おまえも、冷たい目にあいたいのか!」
 我雄がおどかすが、未奈は動じない。
 みんなが作業の手をとめて、春馬と未奈をちらりと見る。
 しかし、すぐに作業にもどる。
 ここにいる者は、ただひたすらに砂金をさがしている。
「……これじゃ、まるで牢獄だ」
 春馬が、体をふるわせながら言った。
「牢獄って、あなたは牢獄に入ったことがあるの?」
 川の中からそう言ったのは、中庭で会ったきりっとした顔立ちの宝来有紀だ。
「なんだ、有紀か」
 我雄が言い捨てる。
 有紀と呼ばれた女子は、砂金採取の作業をやめて春馬と未奈の前にくる。
「あなたたちがどう思うかなんて知らないけど、ここはわるい場所じゃないわ」
 有紀が、静かな口調で言った。
「ぼくは、そうは思えないけど……」
 春馬が言うと、有紀が首を横にふる。
「砂金採取さえしていれば、文句は言われない。食べ物だってもらえる。生きていけるわ」
「でも、自由がないでしょう」
 未奈が言うと、有紀が苦笑いで聞く。
「外の世界のほうが、不自由に思う人もいるわ」
「ここより、外の世界のほうが不自由なんて……?」
 けげんな顔をした未奈に、有紀はうらやましそうに言う。
「あなたは、恵まれているのね」
 有紀は、さびしそうに言った。
「ふつうだと思うけど……」
「それが恵まれているのよ。外の世界に、安全な場所がない人が大勢いるよ」
 有紀の話を、ここにいる者たちはじっと聞いている。
 我雄とエマも、つい、聞き入っている。
「……『絶体絶命ゲーム』に出ていたら、こうじゃなかったんだ……」
 康明が、感情のたかぶった声で言った。
「『絶体絶命ゲーム』だって!」
 春馬が、思わず大きな声を出した。
「やっぱり、あなたたちも『絶体絶命ゲーム』に裏切られたの?」
 有紀に聞かれて、春馬と未奈は顔を見合わせる。
「……『絶体絶命ゲーム』に裏切られたって、どういうこと?」
 春馬が質問した。
「ゲームに勝てば1億円をくれるとか、どんな願いでもかなえてくれるとか。期待だけさせておいて、結局、参加もさせてくれない。——あなたたちも、そうだったんでしょう?」
 有紀の説明に、春馬は目を見ひらく。
「もしかして、ここにいるのは『絶体絶命ゲーム』に応募したのに、参加できなかった者なのか?」
 春馬に聞かれて、ふしぎそうに有紀は首をかしげる。
「そんなところだけど……」
「そうか……」
 春馬は、ここにいる者をまじまじと見た。
 みんな、なにかをあきらめたような生気のない顔をしている。
『絶体絶命ゲーム』への参加を希望したが、参加できなかった者たち。
 命の保証のない危険なゲームだが、人生に追いつめられた状況なら、一か八かでも勝負をする価値はある。
 しかし、応募した全員が『絶体絶命ゲーム』に参加できるわけではない。
 むしろ、参加したくても、できない人のほうが多いのか。
 そして、参加できない人は、どうなるか?
 最後の望みだった『絶体絶命ゲーム』に参加できないのは、生きていく望みが完全に消えたも同じではないのか……。
「……もしかして、あなたたち、『絶体絶命ゲーム』に参加したことがあるの?」
 無言になった春馬に、有紀が聞いた。
 春馬と未奈は、小さくうなずいた。
「本当に!? 本当に『絶体絶命ゲーム』に参加したの?」
 有紀が念を押す。
「……参加した」
 春馬が答えると、川辺の砂をあさっていた人たちも、手をとめてこちらを見た。
「参加して、結果はどうだったんだ!?」
 いきおいこんで聞いたのは、康明だ。
「それは……」
 春馬は言いしぶるが、未奈がまっすぐに答える。
「あたしはゲームに勝って1億円をもらったわ。それで、妹は手術ができたの」
 全員の刺すような視線が、未奈に集まる。
「……そうなんだ。運のいい人がいるんだな。やっぱり、ぼくは運がわるいんだ」
 康明は、泣きそうな声で言った。
「なるほど、あなたたちは選ばれた人なのね」
 有紀は、冷たい声で言った。
「話はそれくらいでいいだろう。それよりも、仕事をしろ」
 我雄が我に返って言うと、春馬と未奈にざるをわたした。
「春馬、どうするの?」
 未奈が、とまどったように聞いた。
 ここにいる全員が、春馬と未奈の行動に注目している。
「今は、言われた通りにしよう。ここがどういうところか、もっと知りたい」
 春馬と未奈はざるを持って、見よう見まねで砂金の採取をはじめる。
 ……なんだろう?
 砂金採取中、春馬は何度もまわりからの視線を感じた。
 顔をあげると、視線をむけていた者はすぐに目を伏せる。
 新人に興味をしめしているのかもしれないが、もっとちがう重苦しい雰囲気を感じる。

 その日は夜まで、春馬と未奈は、砂金の採取をさせられた。
 春馬は、作業をしながら、秀介をさがしたが、見つけられなかった。
 康明が言うように、秀介はここにいないのかもしれない。
 疲れきって部屋にもどった春馬は、ベッドに横になると、一瞬にして眠りにおちた。


6    真夜中の追跡

 春馬と未奈が、『奈落』にきてから1週間がすぎた。
 朝早くから夜遅くまで、ただただ砂金の採取をする生活だ。
 食事は砂金の採取量で決まるらしいが、ここにきてからは1日1食、パンひと切れほどだ。
 それでも、ここの者たちは文句ひとつ言わず、黙々と砂金の採取をしている。
 そのようすは、ここから抜け出すことをあきらめたというよりは、ここの生活に満足しているようにも思える。
 彼らは本当に、ここが安住の地だと思っているのだろうか?
 その夜、砂金の採取を終えた春馬は、部屋にもどって考えていた。
 このままここにいても、無駄な時間をすごすだけだ。
 そろそろ、なにか行動したほうがよさそうだ。
 作業にも慣れて、夜でも体力が残っている。
 まずは、城の中がどうなっているか、調べよう。
   コンコン
 春馬が部屋を出ようとしたとき、ドアがノックされた。
 だれだろう?
 春馬がドアを開けると、廊下に未奈がいる。
 彼女には、部屋の場所を教えていた。
「こんな時間に、どうし……」
 春馬が聞こうとすると、未奈は待ちきれずに部屋に入ってくる。
「えっ……?」
 驚いた春馬だが、以前にも同じようなことがあった。
 小学5年生の夏、最初に『絶体絶命ゲーム』に参加したときだ。
 春馬の部屋に、突然、未奈がやってきた。
 あのときのことを思いだして、不意に笑みがもれる。
「……あれ、今、笑った?」
 未奈に指摘されて、春馬は下をむいた。
「い、いや、なんでもない。……それより、どうしたの?」
「建物の中を調べていたんだけど……」
「こんな時間に、1人で部屋を出るなんて……」
 春馬が言うが、未奈がさえぎる。
「そんなことより、廊下を歩いている人影を見たの。あやしいでしょう」
「えっ?」
「まだ、廊下にいるはずよ」
 未奈はそう言うと、ドアを少しだけ開ける。
 2人がのぞくと、真っ暗な廊下を歩いていく人がいる。
 顔は見えないが、女子のようだ。
 春馬と未奈は、その人物を目で追うが……。
 廊下の曲がり角で、その人物は消えた。
「あとをつけてみよう」
 未奈はそう言って、廊下に出ようとする。
「危険だよ」
 春馬がとめると、未奈が顔をしかめる。
「怖いの?」
「そ、そんなことないよ。ただ、こういう古い城は、色々な因縁があるかも……」
 春馬の話の途中で、未奈は廊下に出ていく。
「まぁ、いいか……」
 春馬はため息をついて、部屋を出た。
 2人は、女子が消えた廊下の角にやってくる。
 暗さに目がなれて、まわりが見えるようになってくる。
 そこに、角の塔に入るドアがある。
「消えたんじゃないわ」
 未奈が言うと、春馬がほっと胸をなでおろす。
「おばけじゃなかったね」
「いってみましょう」
 未奈が、ドアを開けて中に入っていく。
「しょうがないな……」
 春馬も、塔に入る。
 塔の中は、らせん階段になっている。
 耳をすますと、上から話し声が聞こえてくる。
 春馬と未奈は音をたてないようにして、階段を上がっていく。
「遅くなって、ごめんね。食事を持ってきたよ」
 女子が、だれかに話しかけているようだ。
 この上に、だれかいる。
 もしかして、秀介だろうか?
 砂金取りの中にはいなかった、それなら……!
 春馬は、足ばやに階段を上がっていく。
 突然、前からまばゆい光がむけられた。
「えっ!」
 春馬が、思わず声を出した。
 階段の上にいたのは、有紀と呼ばれていた女子だ。
 彼女が、春馬に懐中電灯の明かりをむけたのだ。
「懐中電灯を持っているのか……?」
 そう言った春馬に、有紀が冷たい声で質問する。
「わたしに、なにか用事でもあるの?」
「それは……」
 とまどう春馬にかわって、未奈が言う。
「夜中にどこへいくのか興味があって、つけてきたのよ」
「どこにいこうと、わたしの勝手でしょう」
 答えた有紀の背後に、鉄格子が見える。
 その先は暗くてわからないが、だれかいるようだ。
「うしろに、部屋があるのか?」
 春馬が聞いた。
「答える必要はないわ」
 有紀はきっぱり言った。
「それなら、勝手に見せてもらうよ」
 春馬が階段を上がろうとすると、有紀が立ちふさがる。
「……いいよ」
 有紀のうしろから、少女の声がきこえてきた。
「……秀介じゃないのか!?」
「……」
 有紀が黙って道をゆずると、春馬と未奈は階段を上がっていく。
 そこに、鉄格子のはまった部屋があり、中におかっぱボブの小柄な少女がいる。
「はじめまして、ぼくは土黒虹子。きみたちのことは、有紀から聞いている。おもしろそうな新入りが入ったとね」
 虹子は、おだやかな口調で言った。
 春馬と未奈が自己紹介すると、虹子は満足そうな顔で言う。
「ぼくと会えるなんて、これは運命かもしれないな」
「虹子は、どうして閉じこめられているの?」
 未奈が、心配そうに聞いた。
「悪い子だから、お仕置きで閉じこめられているんだ」
「お仕置きって……、だれからのお仕置きなの?」
 未奈が聞くと、虹子は首をかしげる。
「よくわからないけど、ぼくは悪い子らしいよ」
 虹子の説明に、未奈が怒る。
「だれのお仕置きにしろ、こんなところに閉じこめるなんてひどいわ!」
「いいんだよ。ここは、静かで心が休まる。それよりも、春馬と未奈は『絶体絶命ゲーム』に参加したことがあるんだって、その話を聞かせてよ」
「あるけど……」
 未奈が言うと、春馬が口をはさむ。
「その話の前に、1つ教えてほしいことがあるんだ」
「なに?」
「ぼくたちは、人をさがしにここにきたんだ」
 春馬が言うと、有紀がけげんな顔で聞きかえす。
「こんなところに、人さがしにきたの?」
「そうなんだ。上山秀介といって、ぼくの親友だ」
 短い間のあと、虹子が思いだしたように言う。
「そういえば、前に1人、いなくなったよね。たしか、運動神経のいい男子だ」
 虹子の答えを聞いて、春馬ははっとなる。
「もっとくわしく教えてくれないか」
「ぼくは、ここから出られないからよく知らないんだ。有紀は知っているだろう」
 虹子に言われて、有紀がしかたなさそうに話をする。
「……それなら、7カ月くらい前にきた男子かな。ここではいちいち名乗らないから、名前まではわからないけど、サッカーをやっていたとか言っていたわね。……身長は、あなたよりも少し低いくらいかな」
「秀介だ。……それで、彼はどうなったんだ!?」
 やっと、手がかりを見つけた!
 春馬は、興奮をおさえながら聞いた。
「ここにきて、2カ月くらいでいなくなったわ。おそらく、出ていったのね」
「……出ていったって、正門からかい?」
 春馬が聞くと、有紀が首を横にふる。
「あそこから出ていけば、だれかが気がつくし、外のオオカミが騒ぐからわかるわ」
「それじゃ、秀介はどこから出ていったというの?」
 未奈が聞いた。
「もう1つ、裏口の扉があるのよ」
「——もしかして、礼拝堂の扉かな?」
 春馬が聞いた。
「そうよ。あれの奥は長い通路になっていて、その先には——『Ⅱ区』があるそうよ。ただ、わたしもくわしくは知らないわ」
「……秀介は、裏口の扉からⅡ区にいったのかな?」
 春馬は、首をかしげて言った。
「ここの中にいなくて、外のオオカミにも食べられていないとしたら、Ⅱ区にいるんじゃない」
 有紀の言葉に、春馬は勇気がわいてきた。
 秀介は、Ⅱ区にいるかもしれない。
「春馬、明日にでも礼拝堂の扉のむこうを調べよう!」
 未奈が言うと、有紀が首を横にふった。
「あの扉は開かないわ。ただ、開く方法はあるわ」
「方法って?」
 春馬が聞くと、有紀は少し考えてから答える。
「……ぺ・天使と勝負をするの。勝ったら、裏口の扉は開くのよ」
「ぺ・天使って、だれ?」
 未奈が、けげんな顔で聞いた。
「ぺ・天使は名前のまんま、ペテン師のような女だ」
 虹子が口をはさんだ。
「そのぺ・天使とは、どうすれば勝負できるんだ?」
 春馬が、興奮をおさえて聞いた。
「ここの建物内の会話はすべて盗聴されているわ。だから、ぺ・天使との勝負を希望すれば、彼女があらわれるわ」
「盗聴って、クジトラに聞かれているということ?」
 未奈が聞くと、有紀が首を横にふる。
「もっと上の、ここを管理している連中よ。クジトラは、ここの監視人みたいなものよ」
「ぺ・天使と勝負して、負けたらどうなるんだ?」
 春馬が聞いた。
「そのときは、正門から出ていかないとならないの」
「……オオカミのえさになれってこと?」と未奈。
「そういうことね」
「裏口の扉を開けるためだけに、命をかけさせるのか!?」
 春馬が、疑問を口にした。
「そうじゃないの。……ぺ・天使に勝ったら裏口の扉が開いて、ゲームがはじまるのよ」
「ゲームって、まさか……」と春馬。
「『絶体絶命ゲーム』よ」
 有紀の話を聞いて、春馬は頭をかかえる。
「ここにきても『絶体絶命ゲーム』なのか」
「『Ⅰ区』と『Ⅱ区』の間に、『絶体絶命ゲーム』のゲーム・エリアがあるらしいわ」
「裏口の扉のむこうへいくには、『絶体絶命ゲーム』をやらないとならないのか」
 春馬は、頭をかきながら言った。
「もしかして、その『絶体絶命ゲーム』も、勝ったら、願いをかなえてもらえるの?」
 未奈の質問に、有紀はうなずいた。
「1年半前、クジトラがゲームに勝って、ここを仕切るボスになったのよ」
「そうか。それで、クジトラが正式なボスなわけか」
 春馬が納得した。
「『絶体絶命ゲーム』で決められたボスだから、逆らうと、なにをされるかわからないの。城の外に出されるかもしれないし、最悪……」
 有紀はそこまで言って、口を閉ざした。
「最悪、なに?」と春馬が聞く。
「『Ⅱ区』送りかも知れないわ」
 有紀は、暗い声で言った。
「『Ⅱ区』には、いったことがないんでしょう? どうして、そんなにおそろしいところだと思うの?」
 未奈の質問を聞いて、困った顔をした有紀にかわって、虹子が答える。
「春馬と未奈は、日本で最低最悪と思えるような人と会ったことある?」
「うん、まぁ……、そうだな。いやな人に会ったことはあるけど。それが、どうかしたの?」
 春馬の答えに、虹子は満足そうな顔をする。
「『Ⅱ区』は世界中の、そういう人を集めた場所だよ。ぼくは、そこにいたんだ」
「「えーっ!」」
 春馬と未奈が、同時に言った。
「それで、春馬と未奈はぺ・天使と勝負するの?」
 虹子に聞かれて、春馬は少し考えてから答える。
「ぼくは勝負する」
「当然、あたしも勝負するわ」
 未奈が、すかさず言った。
「それなら、今回のゲームのプレイヤーは、ぼくをいれて3人だ」
 虹子が言うと、有紀が目を丸くする。
「な、なに? 虹子もぺ・天使と勝負するつもりなの?」
「そうだよ。ここでの暮らしもあきたし、少し刺激がほしくなった。あぁ、そうか、忘れていた。有紀はどうする?」
「わたしは……」
 有紀は躊躇する。
「迷うなら、参加しなくていいよ。ぼくがぺ・天使に勝って、『絶体絶命ゲーム』を開始させるから。そこから、参加すればいい」
「ほかにやってくれる人はいないのかな?」
 春馬が聞いた。
「いないよ。ここにいる者は、生きてないんだ」
 虹子が言うと、どこからか博多弁の女の声が聞こえてくる。
『それなら、『絶体絶命ゲーム』の準備をするばい。それまで、みんなは眠っとってくれん』
 春馬は声の主をさがすが、まわりには自分たちしかいない。
「今のは、だれの声かな?」
 春馬が聞くが、だれも答えてくれない。
 まわりを見ると、有紀、虹子、未奈が倒れている。
「……そ、そういうことか」
 春馬も睡魔におそわれて、その場に倒れた。

『奈落』にいるのは、「絶体絶命ゲームに参加できなかった者」たち!?
囚人のようにすごす人たちを見ながらも、どうすることもできない。
秀介の足跡をたどり、ここから脱けだすことを決めた春馬たちは――。

このつづきは12月13日(火)発売の『絶体絶命ゲーム14 親友を追って!奈落I区の戦い』を読んでね!

 


作:藤 ダリオ 絵:さいね

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322555

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