KADOKAWA Group
ものがたり

【どこよりも早く先行ためし読み!】最新刊『絶体絶命ゲーム13』 第1回


この小説、危険すぎ! 累計72万部の圧倒的人気シリーズ『絶体絶命ゲーム』待望の最新刊を、どこよりも早くためし読み!
気になる新キャラの2年生、クセモノぞろいの3年生を相手に、春馬たち1年生はどう戦う――!?
(毎週水曜日・全4回)


※『絶体絶命ゲーム』コミック公開中!

このお話は…

【絶体絶命ゲーム】とは――?

「自分の力では、人生を逆転させられない!」
と感じている子どもに、ひそかに招待状が届けられる謎のゲーム。

勝てば、どんな望みでも叶う。
負ければ、命の保証なし。

小学生のときから、そのゲームに何度も参加させられた春馬。

今、春馬のかよっている私立・渋神中学は、どうやら絶体絶命ゲームになにかが関係あるらしい。

春馬たちの入学式の日にも、ゲームが仕掛けられていた。
今日は、先輩たちの卒業式。もしや、今回も――???




0 「谷間の世代」のゆううつ?


「きみたちは、未来を考えたことはあるのかな?」

 さらさらした金髪にととのった顔立ちの風祭ミッシェルが、やさしい口調できいた。

「将来、なにになりたいかということかな?」

 品行方正を絵に描いたようなメガネをかけた男子、岸快晴がききかえした。

「そうじゃない。5年後、10年後、50年後も、きみたちは今と同じ、ということだよ」

 ミッシェルは制服の上に、きらきら光る刺繍の入った大きなマントを羽織っている。

「それって、どったごどなが?」

 黒髪のポニーテールの女子、十和田凛子が津軽弁できいた。

「中学を卒業して、高校、大学に進学して、社会に出たあともずっと死ぬまで、きみたちは『渋神四星の後輩で、武藤春馬と滝沢未奈の先輩』と言われるんだ」

「しょうがないだろう。年齢は逆転できねぇ」

 がっしりした体格の男子、古賀大将が投げやりに言った。

「それなら、きらめく先輩と優秀な後輩のはざまで、一生、日陰を生きていくつもりですか?」

 ミッシェルに言われて、快晴は暗い顔で言う。

「なるほど、ぼくたちは『谷間の世代』ということか」

「谷間って、どういうことだよ?」と大将がきいた。

「ぼくたちの上と下の学年が特別に優秀で、その間にいる平凡な存在ってことだよ。偏差値が、 この学年だけ谷のようにさがっているだろう」

「わぁの偏差値は、そったらに低ぐねじゃ。青森の地元では、神童ど呼ばれあったんよ」

 凛子がすかさず言った。

「偏差値だけの問題じゃないんだ。世の中には、めだつ存在がいる。きみたちは、めだつ先輩と後輩の間に生まれた、世にも不運な世代なんだ」

 ミッシェルが、自虐的に言った。

「不運だげじゃ、すまさぃねじゃ。わぁは、このままだど東京にいられねぇ。今のままだど、奨学金は打ち切りだって言われた……。そうなったら青森さ帰るすかねぇ」

 凛子がくやしそうに言った。

「そんなのダメだ。おれは、凛子とはなれたくねぇ」

 大将が、声をふるわせて言った。

「凛子は渋神中学の奨学金で、東京に出てきたんでしたね」

 ミッシェルが、気のどくそうに言った。

「成績は問題ないだろう?」

 快晴の質問に、凛子は首を横にふった。

「わぁは、3学期の成績が良くねがったの……。優秀な1年生を奨学生にすると言われたじゃ」

「武藤春馬と滝沢未奈がめだつせいで、1年生に注目がいってるんだ。あの2人のせいだ!」

 大将が、吐きだすように言った。

「ぼくたちも、森山美里がいてくれたら、こんなことにはならなかった。……2年前の入学式の『絶体絶命ゲーム』で、ぼくが早々に渋神四星に負けたから……」

 そう言って、快晴は唇をかみしめる。

「くやんでも、怒っても、なにも解決はしないですよ」

 ミッシェルの口調は、かわらずやさしいが、表情はとても冷たい。

「そいだば、なにが解決策はあるのがよ?」

 凛子が、藁にもすがる思いできいた。

「ありますよ。……卒業式の日に『絶体絶命ゲーム』をやるんです」

「本気で言っているのかい?」

 快晴が、目を丸くしてきいた。

「もちろん、本気です。『絶体絶命ゲーム』で勝って、2年生が優秀だと認めさせるんです」

 ミッシェルの言葉に、快晴は考えこむ。

「わぁ、やりでぇ。ゲームで勝って、優秀だと認めさせる。そすて、奨学金を継続すてもらう」

 凛子が言うと、大将もつづく。

「おれも協力する。1年生と3年生に勝ちてぇ!」

「渋神四星も武藤春馬と滝沢未奈も、ゲームにはめっぽう強いよ」

 快晴が不安を口にした。

「それでも、やるしかないですよ。これは、学年対抗の─戦争です」

 ミッシェルが、楽しそうに言った。

「せ、戦争って……それは大げさだろう」

 快晴が言うと、ミッシェルはしずかに首を横にふる。

「いいえ、それくらいの覚悟がないと、渋神四星や春馬と未奈には勝てません」

「……わぁは、やる。勝って、渋神中学さ残るじゃ」

「おれもやる。凛子が東京に残れるなら、なんでもやる」

 大将が、力強く言った。

「ぼくは反対だ。3年生や1年生と戦うなんて、無意味だ。学生時代は、自分の力をのばすことに全力を尽くすべきだ。まわりと比べる必要はないんだ」

 快晴の言葉に、ミッシェルはあきれた顔をする。

「それは戦わない言い訳です。自分たちの力を認めさせたいなら、戦って勝つしかないんです。ここで勝負をしなかったら、きみたち……、いや、わたしたちは一生、後悔します」

「……そんなことは、ない」

「岸快晴、きみの心は晴れているのかい? 快晴なのかい?」

 ミッシェルに聞かれて、快晴は、はっとなる。

「2年前の『絶体絶命ゲーム』で脱落してから、きみの心は晴れたことがない。そうじゃないのかい?」

「それは……」

「『絶体絶命ゲーム』で失われた自信は、『絶体絶命ゲーム』でとりもどすしかないんです」

 ミッシェルに言われて、快晴はじっと考える。

「……わかった。『絶体絶命ゲーム』をやろう」

「それでいいんです。なにも、心配はいりません。2年生には、この風祭ミッシェルさまがいます。……このゲームは、きみたち、いいえ、わたしたちの敗者復活戦です」



1 呼び集められた8人

 その日、私立渋神中学では卒業式がおこなわれる予定になっていた。

 式がはじまる1時間前、武藤春馬は学校の玄関にいた。

「おはよう」

 うしろから声をかけられた。

 その声に、春馬は気持ちがなごやかになった。

 ふりかえると、同級生の滝沢未奈がいる。

 彼女とは小学5年のときの『絶体絶命ゲーム』で知り合い、そのあとゲームをつうじてなかよくなり、同じ渋神中学に進学した。

 この1年間を同級生としてすごして、未奈の魅力に惹かれていた。

「ぼーっとして、どうしたの? もしかして、花粉症になった?」

 未奈の的外れな言葉に、春馬は自然と笑顔になった。

「いや、そうじゃないよ。ただ、春の陽気で少しぼんやりしてたんだよ」

「うん、春っていいよね。春馬の名前にも、春があるものね」

 まぶしいくらいの未奈の笑顔を、春馬はじっと見た。

「……あと数日で中学2年になるけど……あたしたちの距離はかわらないのかな?」

 未奈が、さりげない口ぶりで言った。

「……えっ……そ、そうだね。うん……」

 そのことは、春馬も気にかけていた。

 渋神四星が卒業して、平穏なときがきたら、きちんと話をしようと思っていた。

「なんでもないわ。気にしないで。……それよりも、春馬も生徒会に呼びだされたの?」

 未奈が話題をかえた。

「……うん、そうなんだ。未奈もなのか?」

「内密に話があるとメールがあったの」

「同じだよ。これって悪い予感がしない?」

 春馬が、あたりを見ながら言った。

 玄関にも廊下にも、だれもいない。

「無人の学校に、生徒会室への呼びだし……。まるで、『絶体絶命ゲーム』だ」と春馬。

「やっぱり、そうよね」

「でも……。もし、なにかあったとしても、未奈がいるなら心強いよ」

 春馬が、はっきり言った。

「あたしも同じよ。春馬といっしょなら『絶体絶命ゲーム』も、負ける気がしないわ」

「まぁ、なにもないのが一番だけど」

 春馬が言うと、未奈が「そうね」と答えた。

 

 渋神中学の校舎は、教室のある西棟、玄関や職員室のある中央棟、部室などのある東棟と、3つの棟がつながっている。

 春馬と未奈は、東棟の3階にある生徒会室の前にやってきた。

 警戒しながらドアを開けた春馬を、同級生の花宮栄太郎がむかえた。

「春馬と未奈も、生徒会から呼びだされたんだね」

「……栄太郎もなのか?」

「ぼくだけじゃないよ」

 生徒会室の奥に、入学式の『絶体絶命ゲーム』でいっしょに戦った松山亜沙美がいる。

「わたしは剣道部の部長から、呼びだされたんだけど……」

 亜沙美が、首をかしげながら言った。

 剣道部の部長は、渋神四星で『鉄人』と呼ばれている相沢武蔵だ。

「……この4人って、入学式の『絶体絶命ゲーム』に参加させられたメンバーだよね」

「もしかして、春馬は『絶体絶命ゲーム』の心配をしているのかな?」

 栄太郎は運動と音楽は苦手だが、頭脳明晰で学年で一番の情報通だ。

『絶体絶命ゲーム』に関しても、ネットの裏サイトなどで調べていてくわしい。

「入学式にゲームがあったんだから、卒業式にも『絶体絶命ゲーム』があるんじゃないか?」

 不安そうにきいた春馬に、栄太郎は笑顔で答える。

「実は……………………あるよ」

「やっぱり」

「でも、心配はいらない。卒業式のゲームは、在校生が卒業生に仕掛けるものなんだ」

「それって、あたしたちが3年生に仕掛けるということ?」

 未奈の質問に、栄太郎は「そうだよ」と答える。

「へー、下剋上みたいで、おもしろそうじゃない」

 亜沙美が、能天気に言った。

「それはどうかな……。在校生が勝ったら、卒業生との関係が悪くなるんじゃないか?」

 春馬がきくと、栄太郎はうなずく。

「そうなんだ。卒業生は勝って当然、負けたら大恥だろ? このゲームが原因で、卒業生と在校生の間に、大きな溝ができたこともあったみたいだ」

「卒業したあと、高校や大学で同じ学校になることもあるから、先輩と後輩は良好な関係のほうがいいだろうね」

「それで、ここ数年は卒業式のゲームはおこなわれていない。当然、今年もやらないよ」

「うん。それをきいて、一安心だ」

 春馬が言うと、未奈が首をかしげる。

「それじゃ、どうして、あたしたちはここに呼ばれたのかな?」

 そのとき、生徒会室のドアが開き、渋神四星の4人がやってくる。

「お招き、ありがとう。いとおしい後輩たちよ」

 背の高い色白のイケメン、渋神四星で『変人』と呼ばれている野井翔が言った。

「ハイハイハーイ! みんな、こっちを見て、春馬から一発芸をやって!」

 ビデオカメラで春馬たちを撮影している大きな瞳の美少女は、渋神四星で『鬼才』と呼ばれている堂本咲子だ。

「やりません!」

 春馬がきっぱりと断ると、咲子は「のりが悪いなぁ」と頬を膨らませた。

「おまえたち、おれさまを呼びだすなんて、100年はえぇんだよ!」

 そう言った日焼けした男子は、渋神四星で『鉄人』と呼ばれている相沢武蔵だ。

 うしろにいる小柄な女子は、渋神四星で『天才』と呼ばれている生徒会長の北条雅だ。

「ぼくたちは、先輩たちを呼びだしていません」

 春馬が言うと、武蔵が「はぁ……」と不満の声をあげる。

「……それじゃぁ、だれが、おれさまにメールしてきたんだ?」

 武蔵が言うと、春馬たちは顔を見合わせる。

「ぼくもメールをもらったんだけど、どういうことかな?」

 翔がスマホを出して、送られてきたメールを見せる。

 

   野井翔様

   卒業のお祝いをしたくメールしました。

   卒業式の朝、9時に生徒会室でお待ちしています。

                後輩代表・武藤春馬

 

「こんなメールは、送っていません」

 春馬が、もう一度否定した。

 咲子、武蔵、雅にも似たようなメールが送られてきたという。

「なーんだ、春馬が祝ってくれるんじゃないのか。残念……」

 咲子が口をとがらせる。

「今日の卒業式は、中止のようね」

 雅が、しずかな口調で言った。

「なるほど、そういうことなのか」

 翔が、だるそうに言った。

 咲子と武蔵もなにが起きているか察したようで、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「えっ? どういうことですか?」

 栄太郎がきいた。

「……おそらくだけど、『絶体絶命ゲーム』をやらないとならないようだよ」

 春馬の言葉に、栄太郎と未奈と亜沙美が驚く。

「あたしたちは、『絶体絶命ゲーム』を仕掛けてないわよ!?」

 未奈が否定すると、春馬が首を横にふる。

「在校生って、1年生だけじゃないだろう」

「……まさか、2年生が、ってこと?」

 未奈がきくと、栄太郎があることを思いだす。

「あぁぁぁぁ、そう言えば、半年前、パリから転校してきた2年生が『絶体絶命ゲーム』の世界大会に出場したといううわさが……」

「それって、信頼できる情報なの?」

 未奈にきかれて、栄太郎は「それは、うわさだから……」と肩をすぼめた。

 ふと、渋神四星の4人がふりかえった。

「……先輩を待たせるなんて、マナーが悪いね」

 翔が、とうとつに言った。

 春馬たちが廊下に目をむけると、4人の2年生が歩いてくる。

 先頭は、2年生のリーダー的存在の快晴、そのうしろに凛子と大将、最後尾にきらきら光る刺繍の入った大きなマントを羽織ったミッシェルがいる。


次のページへ


この記事をシェアする

ページトップへ戻る