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ものがたり

【どこよりも早く先行ためし読み!】最新刊『絶体絶命ゲーム13』 第1回

2 禁断の卒業式のゲーム?


「お待たせしました」

 快晴が言うと、武蔵がにらみつける。

「まずは、遅れてきたことの謝罪だろう」

「ぼくたちは、遅れていません。先輩たちよりも早く学校にきて、先輩たちがそろうのを待っていたんです」

「呼びだした場所にきてなかったら、意味ないだろう!」

 怒る武蔵を、翔が制する。

「その件は、もういいよ。それで、ぼくたちにどういう用事かな?」

「2年生は、卒業式の『絶体絶命ゲーム』を実行することにしました」

 快晴が、はきはきと言った。

「生意気に『絶体絶命ゲーム』を実行するだって! 今、『冗談です、ごめんなさい』とあやまったら、なにもなかったことにしてやってもいいぞ」

 武蔵が、おどかすように言った。

「わぁは、本気じゃ。渋神四星も武藤春馬も滝沢未奈も、こわくねぇ。みんな、倒すじゃ」

 凛子が、力のこもった声で言った。

「えっ、なによ? どうして、わたしの名前が入ってないのよ」

 亜沙美が不満そうに言うと、「ぼくの名前もないんだけど……」と栄太郎がつぶやいた。

「せっかく、集まったんです。中で、おだやかに話をしましょう」

 ミッシェルはそう言うと、渋神四星の間を歩いて生徒会室に入っていく。

「彼が、『絶体絶命ゲーム』世界大会に出場したといううわさの、風祭ミッシェルだよ」

 栄太郎が、小声で春馬に知らせた。

「どうして、マントを羽織っているんだ?」

 春馬が首をかしげてきいた。

「これもうわさだけど、ヨーロッパのある国の貴族の血をひいているらしいよ」

 栄太郎が説明した。

 その会話をきいたミッシェルが、春馬と栄太郎にほほ笑みかける。

「説明ありがとう、可愛い1年生くん」

「うっ、うぅぅ……」

 栄太郎はミッシェルのあやしい魅力に、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。

 4人の2年生は、生徒会室に入ってくる。

「それで、どういうルールで『絶体絶命ゲーム』をするのかな?」

 翔がきいた。

「1年生も入れて、学年対抗戦にしてもらいました」

 快晴が言うと、未奈が不満そうな顔で質問する。

「それって、2年生と3年生で戦うだけじゃ、ダメなんですか?」

「1年生も参加してもらいます」

「2年生と3年生の間に、確執があるのは知っています。2年前の入学式の『絶体絶命ゲーム』で、快晴先輩たちとゲームに参加した森山美里さんが、渋神四星のせいで行方不明になった。死んだといううわさまで流れた」

 春馬が言うと、快晴がすかさず答える。

「そのとおりだよ。ぼくたちは3年生をうらんでいる」

「いつの時代も、後輩というのは、先輩がにくらしいものなのよ」

 雅が、平然とした顔で言った。

「そして、その逆もあるんだよ」

 快晴も、平然とした顔で言った。

「えっ……でも、ぼくたちは、2年生にうらまれるようなことはしていないと思うけど……?」

 春馬は、納得できずに首をかしげた。

「優秀な後輩というのは、優秀な先輩くらい、にくらしいものなんだよ」

「要するに、ねたみだ」

 翔が、皮肉っぽく言った。

「まぁ、そうだね。ぼくたちは、きらきら輝いてる1年生がねたましいんだ。それで、一泡吹かせてやりたいんだ。それが、1年生を巻きこんだ理由だよ」

 快晴の言葉に、春馬は頭をかいた。

「そんなことを言われてもな……」

「1年生はこまりますよね。でもね、あとの祭りなんです。……もう、ある人物にたのんでしまったから、手遅れなんですよ」

 ミッシェルが言った。

「……たのんだって、どういうことですか?」

 春馬がきいた。

「ゲームをやるなら、真剣勝負じゃないとおもしろくないでしょう。それで、ある人物に今回の『絶体絶命ゲーム』のプロデュースを依頼したんです」

 春馬と未奈は、顔を見合わせた。

 いやな予感がする。

   ザッザッザッザァァァァ……

 とつぜん、機械音がして、生徒会室に設置されている大型モニターの電源が入った。

 春馬たちが視線をむけると、モニターに長身の美女、深井アイが映る。

 

『みなさん、おはよう。

 みなさんを、深い愛でつつみたい。

「絶体絶命ゲーム」主催者の深井アイよ。

 渋神四星の4人、卒業おめでとう。

 武藤春馬と滝沢未奈、また会えてうれしいわ。

 そして、ミッシェル、わたしをたよってくれて、ありがとう。

 卒業式の「絶体絶命ゲーム」は、わたしがプロデュースすることになりました。

 ちなみに、卒業式は延期したので、今日は心おきなくゲームを楽しんでね。

 ゲームは1年生チーム、2年生チーム、3年生チームの学年対抗となります。

 優勝チームは、すべてが特別待遇となるA級特待生と認定されます。

 そして、最下位チームは、奈落に転校してもらいます。

 ゲームのくわしい内容は、案内人からきいてちょうだい。

 それでは、健闘を祈ります』

 

 そこで、アイの映像は消えた。

「な、奈落ですって……」

 雅が、眉をひそめて言った。

 翔、咲子、武蔵も憂鬱な顔をしている。

「奈落って、なんですか?」

 春馬がきくが、雅たちは教えてくれない。

「それよりも、ミッシェルは深井アイと知り合いなのか?」

 翔が話題をかえて、質問した。

「わたしが『絶体絶命ゲーム』世界大会に出たときに、世話をしてくれたのが、彼女です」

「おいおい、それなら2年に有利な八百長を仕掛けてくるんじゃないのか」

 武蔵が言うと、ミッシェルは大げさに両手を広げて首を横にふる。

「わたしたちの目的は、2年生が優秀だと認めさせることです。八百長なんてしたら、勝負をする前から負けたと言っているようなものです。そんなことは、しません」

「その言葉は信じましょう。でも、ミッシェルには、ほかにも目的があるんじゃないの?」

 雅にきかれて、ミッシェルはにやりと笑った。

「さすが、北条雅先輩ですね。わたしのことを調べていたんですね」

「あなた、ゲームのスリルにとり憑かれた、いわゆるゲーム依存症でしょう」

「そのとおりです。わたしは父親の仕事の関係で、世界中をめぐったんです。中には、いつ殺されてもおかしくない、危険な国もありました。そんな国で生活して、あのヒリヒリするような刺激が、たまらなく楽しくなったのです。それが、日本に帰ってきて、退屈で退屈で退屈で……」

「それで、深井アイに『絶体絶命ゲーム』をたのんだのか?」

 翔が、あきれた顔できいた。

「刺激がほしいわたしと、今の境遇から抜けだしたい2年生の思惑が一致したのです」

 ミッシェルが言うと、ほかの2年生がうなずく。

 どうやら、2年生もミッシェルのゲーム依存症は知っていたようだ。

 そのとき、カシャという音が部屋に響いた。

「これって、もしかして?」

 未奈がドアを確認すると、鍵がかかっている。

「やられたわ」

「こっちも開かないよ」

 栄太郎が、窓を確認して言った。

「閉じこめられたみたいだな。いつもなら、このあと……」

 春馬が顔をあげると、シューと音がして、給気口からガスが流れてくる。

「また、睡眠ガスか……。あれ、でも眠たくならないぞ」

 生徒会室にいる12人は、給気口から流れてくるにおいに顔をしかめる。

「……こ、こ、このにおいって……く、く、く、くさいぃぃぃぃ……」

 亜沙美が、鼻をおさえて言った。

「うっ……なんだこれは……」

 春馬も両手で、鼻と口をおさえた。

 鼻が曲がりそうなほどの悪臭が、部屋に充満する。

「う、う、う、うそでしょう……」

 未奈が必死にドアを開けようとするが、びくともしない。

「おれが、ドアをこわしてやる!」

 武蔵が、鼻と口を手でおおいながら叫んだ。

 「うぉりゃぁぁぁぁ!」

 武蔵が、いきおいをつけてドアに体当たりしようとする。

 瞬間、ドアが開いた。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 武蔵は廊下に飛びだしていった。

「……ド、ドアが開いたわ。……部屋から出られるわよ!」

 未奈が、鼻をおさえながら叫んだ。

 雅、翔、咲子が真っ先に生徒会室から出て、次に2年生の4人がつづいた。

 最後に、栄太郎、亜沙美、未奈と春馬が生徒会室から出た。

「春馬、あれって、だれかな?」

 栄太郎が、廊下の先を指さした。

 オレンジ色の髪を玉ねぎのようにたばねた、奇妙なヘアスタイルの小柄な女の子がいる。

「ごめんなさいね。くさかったでしょう」

 小柄な女の子は、鼻にかかったようなかん高い声で言った。

「もしかしてだけど、ゲームの案内人ですか?」

 春馬がきくと、小柄な女の子は口を大きく開いてにやりと笑った。

「そうよ。アタイは今回の『絶体絶命ゲーム』の案内人、ざまーミロよ」

 ミロは、陽気な口調で言った。

「…案内人なら、この悪臭について説明してもらおうじゃねぇか?」

 武蔵が強い口調できくと、ミロはむっとした顔をする。

「睡眠ガスと悪臭ガスをまちがえたのよ。やりなおせばいいんでしょう!」

 ミロはそう言うと、隠し持っていたスプレー缶を春馬たちにむけた。

「ハイ、やりなおし!」

 ミロは、スプレーを噴射する。

「結局、眠らされるのか……」

 睡眠ガスをかけられた春馬は、意識が遠くなる。



3 3つのボタン

 
 春馬は、チャイム音で目を覚ました。

 幅4メートルほど、長さが6メートルほどの長方形の部屋だ。

 正面の壁に『1年生控え室』と書かれていて、その横に大きなモニターがある。

 窓はなく、右の壁にドアがある。

 床には、分厚いじゅうたんが敷かれている。

 未奈と亜沙美はぼーっとしているが、栄太郎は1人でドアを開けようとしている。

「そのドアは開くのかな?」

 春馬が声をかけると、栄太郎が首を横にふる。

「ダメだ。鍵がかかっているよ」

「やっぱり。……ところで、栄太郎はアイの言っていた『奈落』って、知っている?」

 春馬にきかれて、栄太郎は困ったような顔をする。

「……うわさならきいたことがあるけど……」

「どういううわさか、教えてくれないか」

「まともじゃないやつらを集めた施設があって、それが奈落だと……」

「まともじゃない……って、なんなんだ?」

「暴力的だったり、邪悪だったり……、手に負えない人たちらしい。でも、うわさだよ」

「それ、あたしもきいたことがあるわよ」

 未奈が話にはいってくる。

「その中には、『絶体絶命ゲーム』に志願していたけど、断られた人もいるって……」

「『絶体絶命ゲーム』に参加させられないほど、危険な人物たちということか……」

 春馬は、「奈落」ときいたときの、渋神四星の態度が気になった。

 みんな、いやなものに触れたようだった。

 あの態度から考えると、うわさは事実ではないだろうか?

「奈落の話は気になるけど、今はこのゲームに勝つことが先決よ」

 未奈に言われて、春馬はわれにかえった。

「うん、そうだね。今日のゲームに集中しよう」

「あのさぁ、このベストってなにかな? なにか変なのが書いてある」

 亜沙美が、みんなの服装を見て言った。

 春馬たちは、防弾チョッキのような頑丈なベストを着せられている。

 ベストには、『S』『E』『P』『O』『N』の5つの文字が書かれている。

「これ、脱げないみたいよ」

 亜沙美が、ベストを脱ごうと四苦八苦している。

 そのとき、4人のベストの5つの文字が順番に光っていき、『N』でとまった。

 瞬間、キーーーーーーーッという、鳥肌が立つような耳ざわりな不快音がきこえてくる。

「うわぁ、これはなんだ」

 春馬は耳をおさえるが、不快音を完全に遮断することはできない。

 未奈、栄太郎、亜沙美も耳をおさえながら苦しんでいる。

 不快音は1分ほどで消え、ベストの『N』の文字の光も消えた。

「……今の音って、なんなの?」と亜沙美。

「無理矢理に脱ごうとしたので、脱ぐなという警告だと思う」

 春馬の説明に、亜沙美はうんざりする。

「……あの案内人だけど、睡眠ガスと悪臭ガスをまちがえたりして、信用できないわ」

 未奈が言うと、栄太郎と亜沙美が大きくうなずく。

「そういう話はしないほうがいいぞ。この部屋には……」

 春馬が室内を見まわすと、天井に監視カメラがある。

「ぼくたちの話は、すべてきかれているみたいだね」と栄太郎。

 そのとき、ザザザッ……と音がしてモニターの電源が入った。

 そこに、案内人のミロが映る。

『みんな、おはよう。

 あらためて紹介させてもらうわ。

 ゲームの案内人、ざまーミロよ。

 よろしくね。

 ひとことだけ言っておくけど、人はだれでもまちがえることはあるわ。

 睡眠ガスと悪臭ガスをまちがえたくらいで、グダグダ言わないでよね』

 やはり、この部屋の会話はきかれているようだ。

 ミロがゲームの説明をつづける。

『みんなには、いくつかゲームをやってもらって、ポイントを競ってもらうわよ。

 最終ゲームの終了後、ポイントのもっとも高かった学年のチームが優勝よ。

 そして、ポイントの低い最下位の学年のチームは、奈落いき。

 ゲームの途中でポイントが0になったら最下位決定で、即、奈落いきよ。

 最初の持ちポイントは、3チームとも10ポイントよ。

 まず、第1ゲームをはじめる前に、それぞれのチームのリーダーを決めてちょうだい』

 ミロに言われて、春馬たちは顔を見合わせる。

「当然、リーダーは春馬だよ」

 栄太郎が言うと、未奈と亜沙美も同意する。

 1年生チームのリーダーは、春馬になった。

 2年生チームは快晴、3年生チームは雅に決まったと、モニターのミロが言った。

『それでは、さっそく、第1ゲームよ』

「待って、その前にぼくたちの着せられているベストの説明をしてください」

 春馬がきくと、ミロが頭をかく。

『1年生から質問があったので説明するわよ。……って言うか、ベストの説明してなかったかしら。まぁ、いいわ。ハハッ、ハハハハハ……』

 ミロは笑ってごまかすと、何事もなかったかのようにベストの説明をする。

『みんながつけているアルファベット5文字が書かれたベストの名前は、ペナルティーベストよ。それぞれのゲームで負けるとアルファベットの文字が光って、光がルーレットのように移動して、とまった文字のペナルティーが実施されるのよ。それと、無理矢理にベストを脱ごうとしたときも、ペナルティーが発動するようになっているわよ』

「この『N』は、おそらくノイズ(noise)、雑音だ」

 春馬が言った。

「ほかのアルファベット、『S』『E』『P』『O』はなにかな?」

 未奈がきいた。

「わからないけど、わからないまま、ゲームを終わらせたいね」

 春馬の言葉に、未奈、栄太郎、亜沙美がうなずいた。

『それじゃ、第1ゲームをはじめるわよ。

 第1ゲームは「競走」よ。

 各チームのリーダーに、競走してもらうわよ。

 スタートと言ったら、今いる控え室から出て、ゴールになる中央棟の特別室に入ってよ。

 制限時間は3分で、間に合わなかったチームはマイナス10ポイント。

 つまり、第1ゲームにして、奈落いきよ。

 それでは、よーい、スタ─って、1つ忘れてたわ。

 ドアを開けるには、A・B・Cのボタンを同時に指で押して

 ボタンを押している間だけ、ドアは開くわよ。

 第1ゲーム、スタ――――トよ!』

 ミロが叫ぶと同時に、モニターはカウントダウンにかわる。

   03:00……02:59……02:58……02:57……

「A、B、Cのボタンって、どれだ?」

 春馬は、部屋の中を見回す。

「あったよ!」

 栄太郎が、正面の壁にあるAボタンを見つける。

「Bはここよ!」

 未奈は、Aとむかい合わせの壁にあるBのボタンを見つける。

 2つのボタンは簡単に見つかったが、Cボタンはすぐには見つからない。

「壁と床にはないようだな。それなら……」

 春馬が言うと、未奈たちは天井を見る。

「あったわ。あそこよ!」

 亜沙美が、天井にあるCボタンを指さした。

「でも、このボタンって……」

 亜沙美がジャンプするが、Cボタンにはとうてい届かない。

「これは無理だわ」

 天井までの高さは、床から2メートル50センチほどある。

「春馬、わたしを肩車して。そうしたら、届くわ」

 亜沙美が言うと、春馬と未奈と栄太郎が首を横にふる。

「それだと、春馬が部屋から出られないよ」と栄太郎。

「あっ、そうか。……でも、それじゃ、どうやって?」

 亜沙美が首をかしげる。

「なにか方法があるはずだ」

 春馬が考える。

 この部屋には、4人しかいない。

 栄太郎がAボタンを押して、未奈がBボタンを押して、春馬に肩車された亜沙美がCボタンを押すとドアは開く。しかし、亜沙美を肩車している春馬は、部屋から出られない。

 モニターに、残り時間が表示されている。

   ……02:03……02:02……02:01……02:00……

 残り時間は、2分。

 このままだと、ここから出られずに脱落だ。

「ねぇ、わたしが乗れるような台はないの?」

 亜沙美がきくが、この部屋には机や椅子などない。

「……見てわかるでしょう。なにもないわ!」

 未奈が、いらいらした口調で言った。

 春馬は、きょろきょろとあたりを見まわす。

 AとBのボタンは、むかい合わせの壁にある。

 Cボタンは、AとBの中間の頭上の天井にある。

「そうか、こうすればいいんだ」

 春馬は部屋の端にいき、じゅうたんを丸めはじめる。

「なにしているの?」

 栄太郎がきく。

「これを丸めて棒状にするんだ。そして……」

「あたしと栄太郎が、丸めたじゅうたんの端を肩にのせるのね」

 未奈はそう言うと、春馬を手伝ってじゅうたんを丸める。

 栄太郎も気がつく。

「なるほど、さすが春馬だ!」

 栄太郎もいっしょにじゅうたんを丸める。

 じゅうたんは、6メートルほどの細長い円柱になった。

「これをどうするの?」

 亜沙美は、まだわかっていない。

「2人が、丸めたじゅうたんの端を肩にのせて、AとBのボタンを押すんだ。そして、1人が丸めたじゅうたんの上に乗って、Cボタンを押すんだ」

 春馬が言うと、亜沙美もようやく理解する。

「Cボタンを押すのは、この中で一番軽そうな未奈がいいんじゃないかな?」

 栄太郎が言うと、亜沙美がむっとした顔をする。

「それでいいわ。未奈のほうが、わたしより背が低いから、体重は軽いのよね」

 亜沙美はそう言うと、丸めたじゅうたんの端を肩にのせて、Bボタンの前にいく。

 栄太郎は、亜沙美とは反対側を肩にのせてAボタンの前にいく。

 2人の中間、Cボタンの下に春馬と未奈がいく。

 春馬は、ちらりとモニターに映るタイマーを見る。

   ……00:55……00:54……00:53……00:52……

「こっちは準備オッケーよ」

 亜沙美が言うと、「こっちもいいよ」と栄太郎がかえす。

「未奈、たのむよ」

 春馬が、未奈を円柱状になったじゅうたんの上にあげる。

「平均台みたいなものね。こういうのは得意よ」

 未奈はバランスをとって、じゅうたんの上にのった。

「それじゃ、たのんだよ」

 春馬は、ドアの前に駆けていく。

「いいよ!」

 春馬が言うと、栄太郎と亜沙美がボタンを押す。

 未奈も天井に手をのばして、Cボタンを押した。

 ドアが開いた瞬間、春馬は部屋を出た。



第2回へ続く(5月31日公開予定)
 

スリルの頂点をゆく絶対的人気シリーズ。
最新刊『絶体絶命ゲーム13』は、6月14日発売!


作:藤 ダリオ 絵:さいね

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322289

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