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ものがたり

『絶体絶命ゲーム3 東京迷路を駆けぬけろ!』【新刊発売!リプレイ連載】第4回


11月9日発売の最新刊『絶体絶命ゲーム12 ねらわれた歌姫を守れ!』には、
初代・絶体絶命ゲーム王者が、ふたたび登場。
あの熱いゲームをもう一度読みながら、最新刊を待とう!(全4回)

 

◆第4回
[これまでのお話]
とうとう第5チェックポイント。
これまでのゲームと同じく、参加メンバーがそれぞれ受けとったメールを見せ合うことで、チェックポイントの場所をつきとめた春馬たち。お台場だ。
だがそこで意外なことが。竜也が、これまでずっと協力しあってきた幼なじみの奏にむかって「悪いけど、おまえには脱落してもらう」と言いはなって…!?
いったい2人になにがあったのか!? ゲームはラストスパートへ!!
(この小説は『絶体絶命ゲーム3 東京迷路を駆けぬけろ!』に収録されています)


◆17 生きるための裏切り

 

「どういうことなんだ?」

 春馬が聞くと、竜也は視線をそらした。

 奏は呆然としている。

「正直、脱落するのが怖くなっちまったんや」

「それを承知でゲームに参加したんだろう」

「そうなんやけどさ。上野公園で脱落しそうになってビビッた。やっぱ死ぬのはイヤや」

「……竜也、それって本気で言ってるの?」

 奏が震える声で聞いた。

「マジや。オレは脱落したくねぇ」

「それじゃ、アタシは……?」

「自分のことは自分で考えぇ!」

 竜也が言いはなつと、奏はこぶしをにぎって体を震わせる。

「それになぁ。ここまできたら、オレが優勝するかもしれへん。1億円が手に入れば、この最低最悪な人生を変えられる」

「最低最悪なのは、竜也じゃないの」

 横で聞いていた未奈が文句を言った。

「うるせえ、お前は関係ないやろ! 奏を助けたいなら、お前らのだれかが脱落しろや!」

「そ、それは……」

「結局、お前たちだって同じなんや! だれだって、自分が一番大切なんや!!」

 春馬も未奈も、言いかえせない。

 奏に助けてもらったのに、助けられない。

「竜也には、がっかりだわ……イエローカードをもらってまで助けたのに」

 怒りを押しころすように、奏が言った。

「助けてくれて、ありがとうさん。これでお別れや。万が一生き残れたら、絶対に歌手になれよ」

「あんたに言われなくても、絶対、歌手になってやるわ!」

 奏は涙声で言った。

「オレは、お台場にいく。じゃーな!」

 そっけなく言うと、竜也は上野駅にむかって歩きだす。

「あれ、亜久斗がいない」

 未奈に言われてまわりを見ると、亜久斗のすがたはすでに上野駅の改札をとおるところだ。

「未奈、ぼくたちもお台場にいそごう」

「時間なら余裕があるよ」

「なにがあるかわからない。急いだほうがいい」

「でも、奏のことはどうするの?」

 未奈に聞かれて、奏がふりむく。

 彼女は、必死に涙をこらえていた。

「あぁ……、アタシのことは気にせんといて……」

 そう言った彼女の瞳から涙がこぼれる。

 未奈はかける言葉が見つからないようだ。

「アタシ、お台場にいっても脱落やん。それなら、最後の時間まで好きなところにいたい。そうね、渋谷でもいこうかな……じゃあね、2人とも」

 おどけた口調で言うと、奏は駅にむかって去っていく。

 春馬は、その態度が気にかかった。

「……かわいそうだけど、あたしたちはなにもできないんだよね」

「いこう、未奈」

 トラブルがなければ、余裕で時間内に到着できるはずだ。

 それなのに、胸騒ぎがする。

 とてもイヤな予感がする。

 

 春馬と未奈は上野駅から、山手線の電車に乗った。

 時間は5時37分。

 車内はすいていた。アプリで、到着時間を確認する。

 上野駅を出た山手線は、11分後に新橋駅に到着する。

 そこで、6時発のゆりかもめに乗り換える。お台場海浜公園に到着するのは6時13分。

 上野からお台場は、このルートが一般的だ。

 亜久斗も竜也も、同じ電車に乗るはずだ。

 あれ、イヤな予感はこれかもしれない。

 全員が同じ電車でむかって……なにかのトラブルで電車が動かなくなったら、どうなるんだ?

「春馬、奏のことを考えているの?」

 未奈が話しかけてくる。

「あっ、うん……」

 春馬はあいまいな返事でごまかした。

 頭の中で考えた、最悪の事態が気にかかる。

「春馬は、奏の歌を聞いてどう思った?」

「あぁ、すごいと思ったよ。両親と有名な歌手のコンサートにいったことがあるけど、それ以上の歌声だった。歌を聞いて、あんなに感動したのは、はじめてだ」

「あたしも同じよ。彼女が歌ったら、まるで時間が止まったみたいだった。だから、彼女を守るためにゲームに参加した竜也の気持ちがよくわかったんだけど……」

「そうだよなぁ。それなのに、どうして竜也は態度を変えたんだろう」

「……死ぬのが怖くなったからでしょう」

 ほんとうに、そうだろうか。

 

 山手線は、なにごともなくJR新橋駅に到着した。

 春馬と未奈はJRの改札を出て、ゆりかもめの新橋駅にむかう。

 少し前を、竜也が歩いていくのが見えた。

「竜也も、同じ電車に乗るようだな」

「あんなやつ、どうでもいいわ。それより、奏は新橋駅で降りなかったね」

 さっきまで、奏も同じ山手線に乗っていたが、新橋駅では降りず、そのまま乗っていった。

「ほんとうに、渋谷にいくつもりなのかな?」と未奈が聞いてくる。

「どうかな……」

 あの電車に乗っていたら、渋谷駅や原宿駅につく。

「制限時間の6時30分になったら彼女は電気ショックだよね。渋谷駅でそれを受けたら……」

「それなんだけど、あの電気はこのスマホから出ているはずだ。だから、スマホを捨ててしまえば電気ショックからは逃れられる」

「そんなことをしても、すぐに『絶体絶命ゲーム』の主催者に捕まるんじゃない?」

 未奈の言うとおりだ。ぼくたちは、おそらく監視されている。

「いきなり殺されるかもしれない。でも……」

 春馬は歩きながら説明をつづける。

「その気になれば逃げられるよ」

「どういうこと?」

「スマホを捨てれば、電気ショックはない。奏は山手線に乗っていった。渋谷駅より先に着く、品川駅で降りて新幹線に乗れるし、浜松町駅でモノレールに乗り換えて、羽田空港にいけば、飛行機に乗れる。飛行機なら危険物は持ちこめないよ」

「そういえば、上野で奏と竜也はなにか話をしていたよね。その相談かな?」

 未奈に言われて、春馬はあのときの状況を思いだす。

 奏と竜也は言い争うように話をしていた。逃亡の相談をしていたのだろうか。

 あの2人ははじめから、死を覚悟してゲームに参加していたのかもしれない。

 もしかしたら、綿密に計画を練っていたかもしれない。

「……例えば、こういう計画じゃないかな。1人が脱落しそうになったとき、その者は、殺される前にゲームから逃走するんだ。そして、残った1人にすべてをゆだねる。優勝して賞金を手にしたあと、2人はどこかで落ちあう」

「すごいけど……、そんなにうまくいくかな。あたしたち大人じゃないんだよ」

 そこが問題だ。

 子どもだけだと、大人の許可がないと入れない場所、買えないものがある。それに、昼間は人にまぎれられても、夜に子どもが1人で歩いていたら、めだつ。

 逃亡の話じゃないとしたら、2人はなんの話をしていたんだ?

 午後6時、春馬と未奈は、ゆりかもめに乗った。

 新橋駅を出たゆりかもめは、順調に進んでいく。

 お台場海浜公園駅まで、あと1駅だ。

 ところが、電車は、1駅まえの芝浦ふ頭駅のホームにとまったまま、なかなか発車しない。

 時刻表では6時7分発車のはずが、もう10分をすぎる。

「おかしいぞ」

 そのとき、車内放送が流れる。

「車内で急病人が出たので、救助しています。お急ぎのところ、ご迷惑をおかけしますが、もうしばらくお待ちください」

 


18 最悪の計画

 

 イヤな予感は的中した。

「もしかして、この電車はわざと止められたのかもしれないぞ」

「どういうこと?」と未奈が聞く。

「この急病人は、竜也かもしれない」

「ええっ!?」

 開きっぱなしのドアを出て、春馬と未奈は電車を降りた。

 うしろの車両のドアの前に、駅員と野次馬が集まっている。

「急に倒れたみたいだぞ」「まだ子どもみたいだな」「けいれんしてるみたいよ」

 春馬がのぞくと、電車内で竜也が倒れている。

「オレにさわるな、医者を呼んでくれ!」

 電車内から、竜也が叫ぶのが聞こえる。

「オレはめずらしい病気なんや。みんな、オレに触るな! 電車を動かすな!」

 集まった人たちが、あとずさりする。

「……やられた。これが竜也と奏の計画だったんだ」

「どういうこと?」

「ここで電車が止まれば、だれもお台場にいけない」

「イエローカードでしょう」

「それも上手く利用したんだ。電車を発車させない行為で竜也はイエローカードをもらう。その電気ショックで、まわりの者は驚いて近寄れない」

「この電車が動かなかったら、どうなるの?」

「……ぼくたちは脱落だ」

「で、でも、竜也も脱落でしょう!? この電車が動かなかったら、だれもお台場にいけないわ」

「亜久斗は着くよ。彼はこの電車に乗ってなかった。前の電車でいったんだろう」

「ちがうと思う。さっき検索したとき、あの時間に上野を出て、これよりも前の電車は間にあわなかった」

「どういうことだ?」

 じゃあ、亜久斗はどこにいったんだ?

 そして、竜也の狙いはなんだ?

 もしかして……!

 春馬は、スマホでお台場のマップを見る。

 「ああっ!」

「どうしたの?」

「見落としていた駅がある! お台場をとおる電車は、ゆりかもめだけじゃない。りんかい線がある。そして、お台場にはもう1つ、東京テレポート駅がある。遠回りになるけど、新橋の先にある大崎駅でりんかい線に乗り換えれば、東京テレポート駅にいけるんだ!」

「奏は新橋駅で降りなかった」

 「……そうだったのか!」

 春馬は自分の頭をたたいた。

「竜也と奏の計画がわかったぞ! 彼は、ぼくたちをここで足止めさせて脱落させる計画なんだ。そして、奏は大崎駅で乗り換え、りんかい線で東京テレポート駅に着く。もし、亜久斗もゆりかもめを選んでいたら、時間内にチェックポイントに到着できるのは、奏だけだった」

「参加者が1人になったら、その者が優勝!」

「上野で、奏が泣いていたのは、竜也に裏切られたからじゃない。竜也が犠牲になって、奏を優勝させようとしたからだ」

「ウソでしょう。竜也っていいやつじゃない」

 未奈は感動したようだが、すぐに冷静になる。

「あれ……、でも、あたしたちはどうなるの?」

「電車が動けば、あと6分でお台場海浜公園駅に着くけど……。竜也はどんな手を使ってでも、電車を遅らせるだろうな」

「そうなったら、あたしたち……」

「脱落だ」

 春馬はスマホで時間を確認する。

  
6時13分 
 

 まずい、残り17分しかない。

「春馬、なにか手はないの!?」

「電車を使わずに、お台場にいければいいんだけど……」

「歩いていけない?」

「そうか、レインボーブリッジは、徒歩でもわたれるはずだ!」

 春馬はマップで確認する。

 芝浦ふ頭駅から、レインボーブリッジを徒歩でわたるには、20分以上はかかりそうだ。

「ダメだ、もっと早くお台場にいく方法はないかな」

「品川駅からバスが出ているはずだけど」

 新橋駅まで引きかえして、山手線で品川駅にいき、バスに乗り換える?

「それも間にあわない!」

「こうなったら、奥の手を使うしかないわね」

 未奈は大きく深呼吸する。

「なにか方法があるのか?」

「一か八かの賭け、最低最悪の方法。春馬は少し離れていてね」

 そう言うと、未奈は駅員のほうに歩いていく。

 ……まさか。

 春馬は止めようとしたが、手遅れだった。

「あの、すみません。大急ぎでお台場にいきたいんですけど、どうすればいいですか?」

 未奈が駅員に声をかける。

 ゲーム参加者以外との会話は、反則、イエローカードで1分間の電気ショックだ。

 駅員は親切に教えてくれるが、未奈には電気ショックが襲ってくる。

 体を震わせながらも未奈は笑顔をたもったまま、駅員の話を聞く。

「あ……ありが……とうござい……ました」

 お礼を言ったあと、未奈はよろめくようにベンチに座りこんだ。

 まだ電気ショックはつづいているようで、体を震わせている。

「未奈、無茶だよ!」

「あたしはまだイエローカードをもらってなかったから。それにお台場にいく方法を聞けたよ」

 電気ショックが終わったらしく、未奈は笑顔を見せる。

「近くにお台場レインボーバスのバス停がある。乗れば10分もかからないって」

「そうか、ありがとう」

「お礼は無事に着いてから。それに、バスの時間はわからないよ」

 いそいで改札を出る。

 ほかに手はない、バスに賭けるしかない。

「1分をあらそう、走ろう!」

 春馬ははずかしいけど、未奈の手をつかんだ。

 未奈が、その手をにぎりかえしてくる。

 2人は手をつないだまま、大きな通りを走った。

 芝浦三丁目バス停がある。

 バス停で、春馬は時刻表を見る。

「マジか……!」
 バスがくるのは6時24分 

「間にあうかな?」

「わからないけど、もう、これしか方法はないんだ」

 時刻どおりに、レインボーバスがやってきた。

 すばやくバスに乗ると、バスは、すぐにレインボーブリッジに乗った。

 空が暗くなり、レインボーブリッジや、まわりのビルの照明がきらきらと光って、きれいだ。



 ゲームの最中じゃなかったら、未奈といっしょに美しい夜景を見られて、楽しかっただろう。

 でも、今はそれどころではない。

「春馬、大変だよ」

 未奈は夜景に目もくれず、スマホで検索している。

「どうした?」

「アプリで調べなおしたら、バスがお台場海浜公園駅前の停留所に到着するのは、6時32分。間にあわない!」

 なんだって!?

「いや、まだわからないぞ。チェックポイントは駅や停留所じゃない、『お台場』だ。レインボーブリッジをわたって、お台場地区に入ればOKかもしれない!」

 早く、橋をわたりきってくれ!

 春馬は、窓の外とスマホに表示される時刻を、交互に見た。
 

  6時28分 
 

 バスは、ゆったりとしたスピードでレインボーブリッジを走っていく。

 たのむ、早くしてくれ。もう時間がないんだ。

 もし、まだイエローカードをもらっていなかったら、運転手に叫んでいたかもしれない。

「春馬……」

 未奈が弱々しい声を出した。

「大丈夫だ。絶対に間にあう」

 春馬は祈るように言うと、もう一度、未奈の手をにぎった。

 6時29分
 

 バスのゆく手に、レインボーブリッジの出口が見えてきた。

 6時29分47秒、48秒、49秒、50秒、51秒、52秒……。

「出口!」と未奈が言う。

 バスはレインボーブリッジをわたりきった。

 間にあわなかったのか……!?

 春馬と未奈の手に、ギュッと力がこもる。

 脱落するとしても、2人いっしょだ。

   ブルブルブル……

 スマホが振動した。
 

 第5チェックポイント到着


 よかった、なんとか間にあった……。

 春馬は座席の前の背もたれに、ぐったりともたれかかった。

「やったね、春馬」

 となりで安堵の声を出した未奈を見て、春馬は小さな声で笑った。

 これが遊園地のアトラクションだったら、どれだけ楽しいだろう。

 未奈と笑顔で顔を見あわせる。

 しかし、2人はすぐに現実にもどされた。

   ブルブルブル……

 もう1通メールが届いた。
 

 第5チェックポイント 脱落者は─赤城竜也
 

 スマホのディスプレイに、救急車に乗せられた竜也の動画が映る。

 白衣を着て、竜也を診ている救命士は、鬼吉だ。

 それに気がついた竜也は、逃げようとするが、鬼吉に注射をうたれる。

「……奏、オレのぶんも生きるんや。そして、歌手に……」

 竜也は白目をむき、口から泡を吹くと動かなくなった。

 


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