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ものがたり

『絶体絶命ゲーム3 東京迷路を駆けぬけろ!』【新刊発売!リプレイ連載】第4回

 

◆21 ラストスパートの大激走!

 

 住宅街をぬけると、広い通りに出た。

「千川通りだ。このまま走っていくと、練馬駅に出る。そこから豊島園まで、すぐだぞ!」

 秀介が言う。

 体は限界だ。だけど、負けたくない。

 亜久斗に負けたくない。

 勝って、願いをかなえたい。

 未奈を助けたいし、奏を歌手デビューさせてあげたい。

 でも、それだと、願いは2つになるのかな?

「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 うしろから、未奈と奏のあらい息づかいが聞こえてくる。

 2人とも、もう限界のはずだ。

 それなのに足を止めようとしない。

 未奈には、30分のペナルティーがあるから、もう勝てないことが決まっているのに……。

 走る春馬のとなりに、未奈がおいついてきた。

「……後悔してないから」

「なに?」

「……あたし、『絶体絶命ゲーム』に、参加したこと、後悔、してない」

「ぼくは……ぼくもだ。後悔してない」

 このゲームに勝って、未奈や秀介と、ふつうに会えるようにしたい。

 みんなで、渋谷や原宿にもいってみたい。

 未奈といっしょに、また、お台場にもいきたい!

 そのとき、先導していた秀介の自転車の前に、子どもが飛びだしてきた。

 「うわぁ!」

       キキキィ─!

 秀介は、あわててハンドルを切る。

 子どもには、ぶつからなかったが、秀介は派手にころんでしまう。

 思わず声をかけそうになった春馬を、秀介の手がとめた。

「よせ、おれは大丈夫だ。いけ! このまままっすぐいけば練馬駅だ!」

 ……秀介、ありがとう。

 春馬は、心の中で礼を言うと、そのまま走りつづける。

 走っていると、まわりの人が道をあけてくれる。

「がんばれよ」「亜久斗に負けるな」「もう少しでゴールだぞ」「春馬、かわいい」

 ネットで見た人が、見物のために、ゴール周辺に集まってきたらしい。

 春馬たちに声援を送るようすは、まるでマラソン大会だ。

 「3人のために、道をあけてください!」

 歩道を、金髪の美少女が叫びながら、春馬たちと並走する。

「あれは……!」

 未奈が、疲れきった目を見ひらく。

 彼女は、秋の『絶体絶命ゲーム』でいっしょに戦った、永瀬メイサだ!

 メイサは、春馬たちが走りやすいように、いきかう人に声をかけながら並走する。

 彼女の元気な顔を見て、春馬は涙がこぼれそうになる。

 未奈も泣いている。

 悲惨な人生を生きてきたメイサは、死ぬために『絶体絶命ゲーム』に参加した。そして、自分の命を犠牲にして、春馬たちを助けようとしてくれた。

 そのメイサが、元気な顔で、また春馬たちを助けている。

「残りは少しだよ。がんばって」

 練馬駅の前で、メイサは立ち止まり、春馬たちに手をふる。

 手をふりかえすことはできない。

 でも、きっと想いは伝わっただろう。

 練馬駅前から豊島園までの道に入ろうとして、気がついた。



道が、車両通行止めになっている。

「なんだ、これは?」

 車道のまんなかに、タツが立っている。

「タツさん、これは……」

「ゲームの最高潮だからね、通行止めにしたンだよ。さぁ最終決戦、全力の走りを見せておくれよォ!」

「そ、そう言われても……亜久斗は先に……。あれ?」

 練馬駅の出口から、亜久斗がにがにがしい顔で出てきたところだ。

「亜久斗は電車でいったんじゃないのか?」

「イエローカードのペナルティで練馬駅で30分足止めしてたのよ。でも、その間にこまったことがおきちゃったのサ」

「─電車が動かないんだ」

 むっとした顔で、亜久斗が言った。

「ネットで実況を見てて、熱狂した人たちが、豊島園行きの電車を止めちまったのサ。これって、不測の事態なんだよ。その代わりに、ここから豊島園までの道を通行止めにしたから、豊島園まで競走してくれるかい」

 駅前の時計を見あげる。
 

 8時54分

 残りは6分しかない。

 練馬駅から豊島園まで競走。

 「さぁ、ここからが、正念場だァ─!」

 タツの言葉と同時に、亜久斗がダッシュをかけた。

「負けるか!」

 春馬も駆けだす。

 池袋からここまで駆けてきた春馬と、電車に乗ってきた亜久斗では疲れがちがう。

 亜久斗は、余裕で飛ばしていく。

「……くそっ……!」

 道路に電光掲示の時計がおかれているのが見えた。

 8時56分


 本当に、マラソン大会のようだ。

 必死に走るが、亜久斗の背中は、少しずつ遠ざかっていく。

 未奈と奏は、春馬より、さらにうしろを走っている。

 そのとき、

 「うぁぁあぁ─!」

 叫び声がして、春馬の横を、未奈がラストスパートをかけた。

 ぐいぐいと、亜久斗の背中に追いついていく。

 彼女には、まだこんな力が残っていたのか……? いや、そうじゃない。

 未奈はずっと春馬のうしろを走っていた。マラソンでは、1番を走る者は正面からの風を受けるが、2番手は、直接、風を受けないから体力が温存されるという。

 未奈は力を温存していたのだろう。

 それでも、彼女には30分のペナルティーがある。

 1番でゴールしても、優勝にはならないはずだ……。

「……もしかして」

 わかった、彼女がスパートをかけたのは、優勝するためじゃない。

「亜久斗! 前のゲームで、あたしを脱落させたお返しよ!」

 そう言うと、未奈は亜久斗の背中に、体当たりした。

 「うわぁ!」

 運動神経抜群の亜久斗だが、ふいうちの体当たりに、バランスをくずされる。

 それでも、ギリギリころばない。

 ころんだのは、未奈だけだ。

「反則だ、未奈。2枚目のイエローカードで、脱落だ。電気ショックをくらえ!」

 亜久斗が言うが、未奈はにやりと笑う。

「脱落は覚悟のうえよ。でも、電気ショックは受けないわ」

「あぁ、そうか……スマホはおれが壊したんだったな」

 一瞬、亜久斗にすきができた。

 未奈が、亜久斗の足を蹴りつける。

「ぐっ……!」

 運動神経のいい亜久斗も、これには耐えられず、ころんだ。

 その横を、春馬が駆けていく。

「……春馬、勝って!」

 未奈が叫ぶ。

「おれが負けるはずがない!」

 立ちあがった亜久斗が、再び全力で駆けだす。

 ゴールの豊島園は目の前だが、春馬にはもう、体力が残っていない。

 8時58分
 

 残り2分。うしろから駆けてきた亜久斗が、春馬にならぶ。

 もう限界だ。これ以上、速く走れない。

 亜久斗が、春馬をぬいた。

 ゴールが視界の中にある。でも、ダメだ。

 なんとか亜久斗のうしろをついていくが、春馬にはもう、ぬきかえす体力が残ってない。

 ダメだ、勝てない。

 未奈を助けることはできない。

 奏を歌手にすることもできない。

 …………いや、ちがう。それなら、できるかもしれない。

 ぼくが勝たなくてもいいなら……それは、できる。

「亜久斗、悪いな!」

 春馬が叫ぶと、亜久斗がふりむく。

「亜久斗、ぼくは、最低のお人好しだ!」

「なに?」

 春馬は思いきり、亜久斗にタックルをかけた。

 2人は、ゴールの手前5メートルのところで倒れる。

 そのまま、春馬は亜久斗の両足を必死でしめつけた。

「春馬! おまえ、自分がなにをやっているか、わかっているのか!」

「ごめん、ぼくといっしょに脱落してくれ」

「おまえ……!」

 春馬は全力で亜久斗をおさえこむ。

 8時59分

 

「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 そのとき、奏が、あえぎながら走ってくるのが見えた。

「おまえ、まさか」

「亜久斗も、彼女の歌を聞いただろう」

「はなせ!」

「ぼくは、奏を歌手にしたい。彼女は、世界中の人の心を揺さぶる歌手になる!」

「卑怯だぞ!」

「亜久斗がそれを言うなよ」

「おまえ、バカだろう。奏が勝っても、自分は死ぬんだぞ!」

「彼女の歌には、命をかける価値がある!」

 よろめきながら、奏が2人の横を駆けていく。

「……アタシは勝つの。……生きるため、夢のため、竜也のため……絶対に勝つの!」

 最後の力をふりしぼり、奏は足を止めない。

「奏、いけ。ゴールしろ! 夢をかなえるんだ!」

 春馬が叫ぶ。

「これは正当防衛だから、イエローカードじゃないぞ」

 亜久斗は、春馬を殴りつけて、ふりほどく。

「おれが負けるはずがないんだ!」

 駆けだそうとする亜久斗の足を、春馬がつかむ。

 うしろからきた未奈も、もう一度、亜久斗に飛びつく。

 それもふりほどいて、亜久斗は走ろうとする。

 そのとき、時計が8時59分から8時59分になる。

「『絶体絶命ゲーム』の優勝者はッ─鹿野、奏だァァア!」

 タツが飛びだして叫ぶ。

 鬼吉がやってきて、奏を片手で持ちあげた。

 ネットの中継を見て集まった人たちから、拍手と歓声があがる。

「おれが……負けたのか……」

 亜久斗が呆然と言う。

「いいや、これはきっと、勝利だよ」

 春馬は、祝福されている奏を見て言った。

「どうして、これが勝利なんだ。おれたちは負けたんだぞ」

「そうだけど、この世界のためには、奏が優勝するのが、一番いいことだったんだ」

「…………お人好し」

 そう言うと、亜久斗は、手首につけていたスマホをほうり投げて、去っていく。

「あたしたち、これからどうなるのかな?」

 未奈が言う。

「どうかな……。壊れたスマホだと、電気ショックもないし」

「殺されるのかな?」

「わからないけど……ただじゃすまないだろう」

「もし、殺されるなら、悔いは残したくない」

 春馬と未奈は、どちらからともなく、手をにぎりあった。

「ゲームに参加したこと後悔してない。未奈と、また会えたから……」

「あたしも……。苦しかったけど、春馬といっしょで楽しかった」

 2人のうしろに、黒服の大男が立つ。

 春馬と未奈がふりむいた瞬間、大男は2人に催眠スプレーをかけた。

 



 ◆22 そして、新たなるゲームへ 

 

 目をさました春馬は、知らない部屋にいた。

 豪華な作りのリビングに、春馬は1人、ソファーで寝かされていた。

「……ようやく、目をさましたようだね」

 春馬の前には、高級そうな黒のスーツに、大きなサングラスをした男がいる。

「『絶体絶命ゲーム』、とても楽しませてもらった。とくに、春馬の活躍は目ざましかったね」

「あなたは、だれですか?」

「長生きしたいなら、わたしがだれか気にしないことだ」

 春馬はじっと男の顔を見た。

 大きなサングラスで顔を隠しているが、どこかで見たことがある。

 でも、だれかはわからない。

「今回のゲーム、ネットできみたちの戦いを動画配信していたんだけど、大反響だよ」

「……お金もうけのために『絶体絶命ゲーム』をやったんですね」

 男はおおげさに両手を広げ、「ノー」と否定した。

「ネット配信で入るお金なんて、微々たるものだよ。わたしは、そんなケチな男じゃない。それよりも、きみたちが必死で戦うすがたを世間に見せたかったんだ。すべての大人が、子どものもつ能力に、もう一度、目をむけるようにしたかった」

 なんだって?

「今の日本、いや、今の世界は子どもの存在をかるく見ている。そういう大人の目を、さまさせたかった」

 ……なにを言っているのか、わからない。

「とにかく、もうぼくたちに用はないんですね。家に帰してくれるんですね」

 その男は、首を横にふる。

「いいや、きみはゲームに負けた。負けた者は、代償を払わなければならない」

「ぼくを、殺すんですか?」

「そうすることもできる。『絶体絶命ゲーム』には、命の保証はないからね。でも、その代わり、きみに提案があるんだ」

 ……いったい、なにを言いだすんだろう?

「最後にもう1回、ゲームをしてみる気はないかい?」

 サングラスの奥で、男の目が光った。

「また、やれっていうんですか?」

「その代わり、次に勝ったら、今度こそ、きみの希望どおりに、未奈や秀介と自由に会うことをゆるそう。そして、われわれは、きみたちの前から、永遠にすがたを消す」

 本当だろうか。

「約束するよ。最後のゲームに参加するかい」

 もう絶対に、金輪際『絶体絶命ゲーム』はやりたくなかった。

 でも、これが最後なら……。

 勝たなければ、未奈や秀介に会うことができないままなら……。

「やります!」

 春馬は、力強く言った。

「そうか、そうじゃないとね」

「次は、最後の『絶体絶命ゲーム』なんですよね」

「約束するよ。次のゲームに勝てば、きみたちは自由だ。楽しみにしているよ」

 男が部屋を出ていくと、春馬はぽつんと部屋に残された。

 もう1回、ゲームをやらなければならない。

 次のゲームに勝ったら、未奈と自由に会える。

 急に眠気がおそってきて、春馬は再び、ソファーに横たわった。

 

─『絶体絶命ゲーム④』につづく


 


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新書判
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作:藤 ダリオ  絵:さいね

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