KADOKAWA Group
ものがたり

【スペシャル連載】サバイバー!! 第9回


「いみちぇん!」「星にねがいを!」で大人気! 
あさばみゆきさんの新シリーズ「サバイバー!!」を公開中!

「う、うてな!?」

 ヤバイ! こんな高さから落ちたら、首の骨を折っちゃう!

 あたしは彼女を受けとめようと、猛ダッシュする! けど、

「どけ!」

 肩をつかまれ、思いっきり後ろに引かれた!

 すぐ横を、ダレかがすさまじいイキオイで駆けぬけていくっ!

 あたしは尻もちついて、それでもすぐに、バッと前を見やった。

ドッ!

 一瞬のうちにあたしを追いぬいたそのヒトは、バネみたいにヒザを沈ませて重力を逃がし、全身でうてなのカラダを受けとめた!

 砂ぼこりが大きく舞いあがる。

「……ビ、ビックリしたぁっ」

 茶色いケムリの中から、うてなの声!

 ぶじだった!?

 二階の高さを頭から落っこちたのに、キセキだよ……!

 きっとプロのサバイバーが救けてくれたんだっ!

「うてな、ケガは!? ごめん!」

 あたしは腰のぬけたまま、彼女のところへ這いよる。

「うん、だいじょぶ……っ」

 うてなを抱きとめた人は、彼女をぺいっと放りだした。

「あとちょっとって気のぬけた時は、事故を起こしやすい。訓練につき合わせるなら、自分の限界だけじゃなく、相手のようすも気にかけろ」

 ぎろり、あたしに向けられた、キビしい目。

 ——(りょう)()くんだ。

 まさか同級生が救けてくれたのかって驚くと同時に、身がすくんだ。

 今までで、イチバン怒ってる目……!

 そ、そりゃ、うてなを大ケガさせるとこだったんだから、当然だ。

「……ごめんなさい。あの、うてなを救けてくれて、ありがとう」

「あんたは。ケガ」

 彼はあたしの全身をじろりと確かめて、いきなり手をつかんできた。

 血豆のつぶれた、ばんそうこうだらけの手を見られてしまった。

 こんなの、あたしの不器用のショウコみたいで恥ずかしい。

 パッとひっこめて隠すと、彼は、自分のほうがケガしたみたいに眉をひそめた。

「ひどいな。ふつうクラスのほうがラクできるぜ。こんなふうに痛めることもない」

 しかられるってカクゴしてたあたしは、ぱちぱち目をしばたたく。

「……ラクをしたいなんて、思ってないよ。S組のコたちは、だれも思ってないでしょ?」

 だって、あたしを救けてくれたサバイバーたちが、簡単にスゴイ人になったなんて思えないもの。

 ノドカ兄だって、きっとそうだったハズだ。

 そして——涼馬くんだって。

 この人の手のひらのカタさを、あたしは知ってる。

 正面からジッと見つめかえすと、

「…………あっそ」

 涼馬くんは息をつき、投げだしたカバンを取りにもどっちゃった。

 彼の歩いていく先に、(ゆい)ちゃんや(けん)()(ろう)くんたちが待ってる。

 S組のなかでも、成績ポイントの高いコたちの集団だ。

 サバサバしてカッコイイ唯ちゃんは、アタッカー授業でいつも涼馬くんにホメられてる。

 ほんわかムードの健太郎くんは、ディフェンダー授業で、うてなに並ぶ実力者。

 そんなみんなが、こっちを気まずい顔でながめてる。

 けど、あたしと目が合ったら、取りつくろうように手をふってくれた。

「これから寮の食堂で、『一週間おつかれパーティ』するんだぁー! 二人も来るっ?」

「六年のナオトさんと()()()さんも出てくれるって! ハイ・ウォールのコツとか、教えてもらえるかもよっ。オレたちじゃ、うまく説明してあげらんないしさー!」

「さそってくれてありがとーっ! またのチャンスに!」

 パーティって気分にはなれなくて、両手を合わせてごまかしちゃった。

 アドバイス……は、涼馬くんからいっぱいもらってるんだけどね。

 それでも上達しない、ダメダメなあたし。

 だけどみんなは、そんなあたしをこまりつつも仲間に入れようとしてくれる。

 優等生たちらしい、オトナな優しさだ。

 けど、それが今のあたしには、むしろ痛いかもしんない。

 ほんとに〝担当ナシ〟だなって、レベルのちがいに情けなくなるっていうか……。

「うてなは行ってきたら?」

「いいよぉ。ボクはマメちゃんといるー」

 涼馬くんと合流したみんなは、わきあいあいと校門を出ていく。

 立ちあがりながら、あたしは首が下をむいちゃう。

「でも、涼馬くんの言うとおりだよね。さっきはムリさせちゃってゴメンね」

「ううん、ボクがウッカリしたせいだよ。でもリョーマさぁっ。マメちゃんだってボクを救けようとしてたのに、わざわざ尻もちつかせるコトないじゃん。あいつ、ほんとにマメちゃん限定ツンツンだよなー!」

 うてながプンスカ、ほっぺたをふくらませる。

「う~ん。涼馬の名誉のために、いちおうフォローしといてあげようかな?」

 いきなりの、背後からの声。

 ふり返ったら、(がく)さんと(なな)()さんがすぐソコに立ってた。

 二人も寮に帰るところだったみたいだ。

 楽さんはほっぺたをかき、涼馬くんの消えたほうに目をやる。

「さっきのね。マメちゃんだったら、二人とも大ケガだったよ。落ちてくる人間を受けとめるってむずかしいワザなの。だからきこまれないように、確実ざけてあげたんじゃない?」

 思いもよらない言葉に、あたしは目をしばたたいた。

「じゃあ、涼馬くん、あたしのことも守ってくれて……?」

「ボクも、ただのイヤがらせだと思ってた」

「ハハッ。くっそマジメに『理想のサバイバー』をやってる涼馬だよ? わざと乱暴はしないなー」

 あたしはうてなと顔を見合わせる。

 ひどいカンちがいをした自分に、カァッとほっぺたが熱くなった。
「でも、あんなに冷ややかな涼馬さんは、初めて見ますね」
「たしかに。マメちゃんってば、いったい涼馬に何しちゃったの」

 やっぱり去年からいっしょの二人も、ヘンって思うような態度なんだ。

 ますます肩が落ちちゃうよ。

「あたしの成績がサイテーだからですかね……。現場で〝担当ナシ〟に足ひっぱられたら、みんなの命にかかわるって言ってましたもん」

「あー、なるほど。そのうち実地訓練もあるからねぇ」
 ナットク顔でうなずいた楽さんに、あたしは逆にぽかんとする。
「実地訓練とは——、一年に何回か、とつぜん行われる訓練で、ボソボソボソ……」
 七海さんが説明をはじめてくれたけど、ぐぬっ、ぜんぜん聞きとれない!

 あたしは彼女のメガホンを、サッと口にあてた。

「予告なしで、いきなりサバイバルな場所に放りだされるんです」

 やたらとクッキリ聞こえた言葉が、めちゃくちゃ不穏だったぞ!?

 ——でも、もしかして、その訓練って……。

「そうそう。くわしいコトはヒミツだけどね。なんもない砂漠とか、コンテナ船で海を漂流とか。一番キツかったのは、(はい)(こう)(ざん)火災現場学校現場いとって、ほんとにをつけるからね

「ほ、ほんとの火災ですか!? その中に放りだされる……って、すごくハードな……」

「そんなの、うっかりしたら死んじゃうじゃん」

 思わず声がふるえるあたしたちに、二人とも平気な顔でうなずく。

「サバイバーが、いきなりのサバイバル状況に対応できなかったら、話になんないからね」

「あなたたちもS組に入るとき、約束の書類を書いたはずです。『学校にあずける』『S組にかかわることはヒミツにする』などなど……」

 うてなが青ざめた。

 たしかに保護者といっしょに直筆でサインしたの、あたしも覚えてる。

 もし学校で死んでもモンク言うなってイミ——? って、びっくりしたんだ。

「実地訓練では、ケガ人はたくさん出ますし、過去にはゆくえ不明になった生徒もいると聞きます。命がけですから、〝担当ナシ〟さんとチームを組みたい人は、正直、いないのではと」

「しかもその時のチームの成績は、プロになるまでついて回ってくるんだよね。そりゃ、チームポイント下げられんのは、ぼくもイヤっちゃあイヤかな。というかイヤです」

 七海さんに続き、楽さんまでも、追いうちのヨーシャないお言葉だっ!

「だけどあたし、どうしても、サバイバーにならなきゃで」

 あたしはゆるゆるとメガホンを下ろした。

 服の下、だいじなホイッスルに手をあてる。

 これをくれたノドカ兄とは、もう半年も会えてない。

 しっかりしなきゃって、がんばってはいるけど。

 心にはぽっかり……大きな穴があいたままなんだ。

 今わたしとノドカ兄をつないでくれる場所は、S組だけしかない。

 だからこそ、どうしても彼とのヤクソクを守りたい。

 つぎ会えたときに、「ちゃんとサバイバーめざしてるよ!」って、胸をはれる自分でいたいから。

 ——でも。

 ほかのコたちには、あたしの存在がメーワクだってのは、本当だよね。

 一生懸命やってもトクイがないコは、夢をあきらめるしかない……のかな。

 ギュッとこぶしをにぎりこむ。

「先生たちも、マメちゃんは実地訓練に入れないと思うけどね。ヘンなうわさも流れてるし」

「うわさ? 実地訓練のことでですか? それってどんな」

「アホらしいようなのだよ。ま、ケガしないように、自主トレもほどほどにね」

 センパイたちは、ひらひら手をふって歩みさっていく。

 おつかれさまでしたって頭を下げ、あたしは二人の背中をじっと見おくった。

 ……くやしいなぁ。

 みんなみたいに、トクイのない自分がくやしい。

「マメちゃんっ!」

ばむっ!

 うてなに思いっきり背中をたたかれ、ゲェホッとむせる。

「まだS組が始まったばっかじゃん! チームもボクと組めばいいんだし。もしも実地訓練にあたっても、ボクがディフェンダーとして、マメちゃんを守ってみせるよ!」

 ねっ、とのぞきこんでくる彼女の、心配そうな瞳。

「ありがと、うてな」

 あたしはキュッと、ふくふくホッペを抱きよせる。

 うてなをアテにするなんて、サバイバーとしてナシだけど。

 でも実地訓練までには、きっといっぱい、自分を成長させるチャンスがあるはずだ。

 胸のホイッスルを、しっかりとにぎりこむ。

 ノドカ兄も「マメなら、なんにだってなれる」って信じてくれた。

 そばにいなくたって、あの言葉はずうっと覚えてるよ。ノドカ兄。

 ——あたしは、双葉マメ。

 今は、指でつまめちゃうような、つまんないタダの豆でも。

 あきらめずに水をあげつづけたら、ぐんぐん伸びて、天までとどく豆の木になれる——ハズッ!

 まずは自分で自分を信じてみよう!

 だけど今日はもう、涼馬くんの忠告どおり、ハイ・ウォールの訓練はやめとかなきゃな。

「じゃ、授業の復習しよっか!」

「じゃ、帰ろっか!」

 同時に正反対のことを言っちゃったあたしたち。

 二人して砂ぼこりまみれの顔を見合わせ。

 ブハッとふきだして笑いあった。

 今日は待ちに待った、二泊三日の遠足合宿!

 ず~~っと、勉強&訓練だけの日々をすごしてきて。

 山でハイキングなんて、テンション上がっちゃうよねっ!

「ええと、『おおぜいの負傷者を、いっぺんに救助するとき。まずはダレから手当てするかを、選んで決めましょう』」

 しかし〝担当ナシ〟はバスに座るなり、すかさず勉強するのだっ。

 あたしはこの一か月でいよいよ、クラスメイトから、「マメちゃんなら、このくらいデキてればいいよ。がんばりすぎも良くないよ」なんて、なぐさめられるようになってしまった!

 このままじゃダメだっ!

「お。それ、選別(トリアージ)のトコ?」

 教科書を読みあげてると、となりの席から、うてなが顔をよせてきた。

「それって、ケガ人がいっぱいの時に、歩けるかみてー、呼吸あるかみてー、脈とってーって、手当ての順番を決めるヤツだよね」

「さすがうてな! ばっちりだね」

「えへへー。ディフェンダーのことだからさ。けど他のはホンットだめ。あのアタッカー鬼リーダー、さわやかに、ちょースパルタだしさぁ。もう、あいつの授業うけたくなぁーい!」

 うてなが嘆きながら、キャラメルを教科書にのっけてくれた。

「ありがと、うてな」

 ぱくっと食べちゃったあとで、はたと気がついた。

「えっ。なんでオカシ持ってんのっ? お弁当もオカシも、配られるから持ってきちゃダメって、遠足のしおりに——、」

「これでマメちゃんも同罪だ~っ」

 食いしん坊のうてなは、ひゃっひゃっひゃとワルい顔で笑う。

「お、居のこりコンビも三号車か。ヨロシクね」

 ヒョイッとのぞきこんできた、にこにこ笑顔!

 楽さんっ!!

「「おひゃよンゴざいまンゴッ」」

 キャラメルを飲みこみそうになっちゃって、二人してセキこむ!

「な、なになに。そんなにビックリするほど、ぼくがカッコよかった?」

 ジョーダン(?)を言いながら、楽さんは奥の席へ。

 そのすぐあとに、気配のないお人形さん——じゃないや、七海さんが続く。

「なにやら、あまい香りがしますね……」

   ぎくうっ!

 あたしたちは身をすくめ、超高速で口の中のキャラメルを溶かす。

「あれ。七海さんも楽さんも三号車? ミニバスでリーダーがそろうって、すごい確率ですね」

 足どり軽く中に入ってきたのは……っ、風見涼馬!

 ほかの生徒たちから、ワッと喜びの歓声があがる。

 五年はうてなとあたし、(ゆい)ちゃんと(けん)()(ろう)くん、涼馬くん。給食班のメンバーだ。

 あとは楽さんたち六年が四人。

 以上、生徒九人でこのミニバスはみっしり満席だ。

(ただし、でっかい筋肉先生が、一番まえの座席をふたつ占領してる)

「〝担当ナシ〟も来るのかよ。今すぐ帰れ」

「いやですー」

 今朝もツンツンな涼馬くんに、あたしはげぇぇって顔を、さらにしかめて返す。

 すると彼もあたしを冷たーく()()ろして、()のひらを()きだしてきた。

「違反キャラメル、没収

「「うええええっ」」

 どうしてバレてんのっ!

 縮みあがるあたしたちに、涼馬くんはシラッとして、キャラメルの(はこ)をかっさらう。

「においで分かんだよ。楽さんたちは目をつぶってくれただけだ」

 と、前の席から、先生ののぶとい声。

(ふた)()マメと(そら)()うてな、成績ポイントからマイナス1点なァー」

「ギャ! 先生っ、あたし30ポイントしかなかったんですけどっ。今、あと何点ですか!?

「ボクのもっ!」

「双葉マメは、のこり20ポイントきってるぞ。空知うてなは、マイナスは多いが、ディフェンダー訓練でポイント回復してたからな。70から()わってない」

「ワァ……」

 絶句するあたしに、涼馬くんはあきれたタメ息だ。

「〝担当ナシ〟のほうは、いよいよこの遠足で、S組からサヨナラだろうな」

 うしろの席へ歩いてく彼を、あたしはふるえながら見おくる。

 ちょうど、パチッと健太郎くんと目が合った。

 と思ったら、彼はニガ笑いで、そそっと前に視線をそらす。

 だよね。コメントしづらい気持ち、わかりマス……。

「え、え~とさ、五年生。『(きょう)(ゆう)(がく)(えん)、ナゾの怪事件』って知ってる?」

「なんですかソレッ。おもしろそう!」

「よーし、オレが教えてあげよう。実地訓練に出た、未知危険生物のはなし!」

 めんどうみのいいセンパイ、千早希さんとナオトさんが、あわててみんなを盛りあげてくれる。

 危険生物? 未知のって、エイリアンとかUMAみたいな?

 みんなは、たぶん楽さんが言ってた「ヘンなうわさ」にキョーミしんしんだけど。

 あたしは遠足どころじゃない気分になっちゃった。

 はぁぁ……っと息をつき、教科書にべしょっと顔をうつぶせた。

 あれ、あたし寝てた?

 目を開けたとたん、こめかみがズキッと痛んだ。

 お昼のお弁当をバスで食べたあと、いつの間にか、ぐっすり眠りこけてたみたいだ。

 あたしの肩にもたれかかってるうてなが、ぷうぷう寝息をたててる。

 バスの中はぶきみなほど静かだ。

 もう現地に到着したのかな。

 立ちあがって、みんなを見まわしてみたら

「い、いないっ!?」

 (うん)(てん)(しゅ)さんも、(まえ)(せき)にどかっと(すわ)ってた(きん)(にく)(せん)(せい)——

 涼馬くんたちリーダーも、まるっといない!

 変だ。ざわっと両うでにトリハダが立つ。

 あたしはハジかれたように席を立ち、バスの外へとび出した。

 

「……なんだこれ」

 砂浜にうちよせる白い波。そよそよとポニーテールをゆらす、潮風。

 上空に円をえがく、とんびの影。

 あたしはバッとしゃがんで、波うちぎわの濡れた砂を手でにぎる。

 本物だ。夢じゃない。

 なんで海っ!?

 

この物語の続きは、「サバイバー(1)いじわるエースと初ミッション!」の紹介ページのためし読みボタンから読めるようになるよ。

まさかすぎる展開に、マメたち9人の命運や――いかにっ!!?

 


※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。



作:あさば みゆき 絵:葛西 尚

定価
726円(本体660円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046320780

紙の本を買う

電子書籍を買う


 

☆感想が届いているよ!

すっごく面白いです! 次が気になる終わり方なので 楽しみだし飽きません!
こういう系のお話を始めて読んだけど、思った以上にすごく面白かった
ウデ立てふせをしながら『サバイバルの5か条』を言うなんて…マメちゃんすごいーー!!
マメちゃんが自主練とかをしていて頑張れって応援したくなった。
出来なくても、諦めずに頑張っている所が好きです!!!

いつも感想うれしいです♪ たくさん届いていてのせられなかった感想も、ぜんぶ読ませてもらっています。
先行おためし読みをさいごまでたのしんでくれて、ありがとうございました!
ますますハラハラドキドキな展開がまちうけるこの続きの物語、本で読んでみてくださいね☆(担)


この記事をシェアする

ページトップへ戻る