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【先行連載】しゅご☆れい探偵 第3回


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しゅご☆れい探偵 床丸迷人・作


『たからさがし』
 

3 ボディガードの思い出

 

 宿題を終え夕食を終え、お風呂にも入ってさっぱり。

 ベッド脇に置いた目ざまし用デジタル時計の表示は『19:52』となっている。

 キレイに片づけた勉強机の上にちーちゃんのスマホ、そして押し入れから引っぱり出してきた『よいこの森幼稚園 卒園アルバム』を並べて置く。

 ドキドキと胸を高鳴らせつつ、アルバムのページをゆっくりゆっくりとめくり、あのころのちーちゃんの姿を探す。

 オレの世代の卒園アルバムなのだから当然のこと、その年に卒園する子どもの写真を中心に作られているわけで、年が一つ下だったちーちゃんが写っている写真はなかなか見つからない。

  ……でも、たしか……。

 オレの記憶が正しければ……。

 お!

 あったっ! やっぱりあった。

 オレの目は、アルバムの中ほどのページの、左すみにあるちいさな写真にクギづけになった。

 秋のもみじ山遠足の写真を集めた中の一枚。

 帰りのバスの中の様子を撮ったやつだ。

 楽しい遠足で遊び疲れたのだろう、日よけたれの付いた帽子に水色のスモック姿のオレとちーちゃんが、二人がけの席でもたれあい頭を寄せあって居眠りをしている。

 そろって口をパカッと開けたあどけない二人の寝顔がわれながらほほ笑ましく、思わず笑みがもれる。

「ん?」

 よくよく見てみると、オレの右手とちーちゃんの左手はギュッとつながれていた。

 そうだったなぁ……。

 胸の中に点ったちいさな灯りが、身体のしんをやさしく焦がす。なんともせつない感覚に、自然と身体がよじれた。

 

  ――早生まれということもあったのだろうけど、ちーちゃんは同世代の子とくらべてずいぶんと身体がちいさく、線が細かった。

 肌の色は透きとおるように白く、髪の毛も茶色がかっていて、ハタから見ていてなんともはかない印象の女の子だった。

 その姿、たたずまいをたとえるなら、風の中で力なく揺れているかぼそいロウソクの炎って感じだろうか。

 そして、そのイメージにたがわず性格もひかえ目で消極的。

 声もちいさく自己主張できないタイプで、積極的に友だちに声をかけるなんてこともしないため、いつもひとりでポツンとしていた。

 そんな彼女だから、ちょっと意地の悪い友だちからのいじめのかっこうの標的になることも多かった。

 先生の目につかないところで砂をかけられたり、転ばされたり、はいていたくつを遠くに投げられたり。

 もちろんちーちゃんには先生に言いつける勇気などもなく、ただなされるがままに一方的にやられ、いつもかげでめそめそ泣いていた。

 

 ……そう。

 だからオレはいつも、ちーちゃんのそばにいた。

 オレは、写真の中のちーちゃんの寝顔を指先で見つめながら、あの暑かった日のことをはっきりと思いだしていた。

 

 ――オレが年長のぞう組だったころの、ある夏の日。

 園庭のすみっこで、ちーちゃんがいじめられていることにたまたま気づいたオレは、とっさにその輪の中に飛びこんで、年下のいじめっ子たちを目いっぱいの声で怒鳴りつけた。

「いまから、このこをいじめたら、ゆるさないからな。ずっとだぞ」

 



 

 それまで特にちーちゃんと親しくしてたとか、仲が良かったってわけじゃない。そもそもそのときまで、千夜という名前すら知らなかったくらいだ。

 が、とにもかくにもそのときのオレは、大勢で一人をいじめるというひきょうな行為が許せなかった。

 オレは(あのころも、そして今も、だが)けして、身体がおおきくて腕っぷしが強いとか、ケンカに自信がある武闘派(ぶとうは)だとか、そんなタイプではない。

むしろ、ひょろっとしたもやしっ子系である。

 けどそのときは、心の中に、ごうと燃えあがった正義感や年長者の責任感につき動かされて、とにかくただ無我夢中(むがむちゅう)、たかぶった感情のままに行動したのだった。

 その日以来、オレは自由時間になるとすぐにちーちゃんのところに飛んでいって、いじめっ子たちに目を光らせつつ、いっしょに遊ぶようになった。

 お絵かきしたり、積み木ブロックで怪獣や飛行機を作ったり、園庭に出てすべり台や砂場で遊んだり。

 小さな騎士(きし)気取り、なんちゃってボディガードではあったけれど、すくなくともよいこの森幼稚園にいる間はずっと、ちーちゃんを守ってあげようってそう思っていた。

 けど。

 年が明け、寒い冬がようやく過ぎ去ろうとしていた三月の半ば……オレの卒園式を目前にひかえたころから、ちーちゃんは幼稚園を長く休むことになった。

 先生に聞いたところでは、ちーちゃんは生まれつき身体が弱く、また、季節の変わり目にはよく体調をくずすということだった。

 結局、ちーちゃんに「さよなら」も言えないまま卒園したオレはその後、父親の転勤でバタバタとN県からH県に引っこすことになる。

 六歳の子どもにとって、あまりにめまぐるしすぎる世界の転換。

 見知らぬ土地、新しい家、小学校、入学式、ピカピカのランドセルに教科書、N県の方言とは違う言葉、クラスメート、時間割、勉強、給食、先生、宿題、お道具箱。

 すべてが新鮮で刺激的(しげきてき)な日々。

 そんな毎日を重ねていくうちに、よいこの森幼稚園での思い出はどんどん新しい情報に上書きされ、埋もれていく。もちろんのこと、ちーちゃんのことも自然と忘れていき、今日の今日まで思いだすこともなかったのだった。

 

  なんだか冷たい薄情者(はくじょうもの)……って思われるかもしれないけど、その年齢のころの人づきあいなんてそんなものだろう。同じ小学校に通ったりしなければ、幼稚園のときの友だちなんて、すぐに疎遠になってしまうものじゃないのかな。

 だいたい、オレはちーちゃんのフルネームすら知らないのだ。だから、連絡の取りようもなかったわけで。

 ……と、がんばって自分を正当化したところで、時間は夜の八時となり、約束の時間ぴったりにスマホがブルブルと震えた。

 液晶画面には『千夜(ちよ)』と表示されている。 

 ちーちゃんは今、どんな小学五年生になっているのかな?

 身長はどうだろう、体育なんかは苦手かもだけど、勉強はできそうだよな、意外に芸術家タイプだったりして……なんて考えながら通話ボタンをタップして、スマホを耳に当てる。

「もしもし」

“もしもし”

 ちーちゃんのすこし舌足らずの声が返ってくる。“もしもし、シュゴくんですか?”

 『シュゴくん』と呼ばれて、また胸の奥にあたたかな灯りがともる。

「あ、う、うん」

“シュゴくん、ごめんね”

 なぜかちーちゃんはいきなり謝った。

「え? なにが?」キョトンとなるオレ。

“わたしのせいで、玲さんを怒らせちゃったでしょ”

 ちーちゃんは申し訳なさそうにそう言った。

 

 

〈第4回へと続く〉
 

次回の更新は2月28日(月)を予定しているよ☆
楽しみに待っててね!

 


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