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80万部突破の「こわいもの係」や「キミト宙へ」シリーズの
人気作家・床丸迷人さんの新シリーズ「しゅご☆れい探偵」を一足早く公開中です!
しゅご☆れい探偵➀ 床丸迷人・作
『たからさがし』
4 折り入ってのお願い
……え? 怒らせた?
「あれ? あのとき玲(れい)って怒ってたの?」
たしかに、ちょっぴり不機嫌(ふきげん)そうではあった……かもしれないような、そんな気がしないでもないようなあるような……。
“怒ってたよ”
「そ、そうなんだ。でもなんで? オレ、なにかしたっけ?」
“わたしと電話でお話して、シュゴくんがうれしそうにしてたから、だよ”
……?
なんでそれで玲が怒るの?
“うわぁ、シュゴくん、ニブすぎっ”
ちーちゃんがあきれたような悲鳴をあげた。
“シュゴくんのことが好きだからに決まってるでしょ!”
……へ? だれが?
“玲さんだよっ!”
え? え? え?
えっと、好きってのはいわゆる、その、れ、恋愛的な意味?
ってことは、それってつまり俗っぽい言い方をすれば、玲がちーちゃんにヤキモチを焼いたってこと?
“だよ”
いやいやいやいや。
「ないない、それはないよ」と、笑い飛ばす。
「オレと玲はたまたま家がおむかいさん同士で、小一からたまたま六年間ずっと同じクラスだけどさ。玲がオレのことを恋愛対象として見てるとか、そんなの全然あるわけ……」
そこまで言って、軽く息をのむ。
「……え、えっと。ひょっとして、そうなの?」
“『ひょっとして』じゃないよ、まったく。シュゴくんって、そっち方面は、からっきしなんだから。恋愛検定は0点の赤点の再試験確定だよっ!”
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い、いや、そんなこと言われましても。
そもそもそういうのって、オレ、あんまり意識したこともなくって……。
“あーぁ。そんなんじゃ、わたしをおよめさんにしてくれるって約束したことも、忘れてるでしょ?”
……は? へ? は?
「え、オレ、そ、そんなこと言った?」
“言ったよ。積み木でお城作ってるとき、わたしが『シュゴくんのこと、すき』って言ったら、『じゃあ、おおきくなったらけっこんしようね』ってプロポーズしてくれたもん”
ぶふっ……と、思わず噴きだす。
いやいやいや、ぜんぜんまったく一ミリも覚えてないし。そもそも、それをプロポーズって言っていいのか?
“ええー!?”ちーちゃんが非難の声をあげる。
“じゅうぶんプロポーズだよぉ。それともまさかシュゴくん、純粋な乙女心をもてあそんだだけなの?”
「いやいやいやいや、そそ、そういうのじゃなくって……」
せっかくお風呂に入ったのに、めちゃくちゃ冷や汗をかいてしまっている。
“ショック。わたし真剣だったのに”
ちーちゃんの声色がずどんと落ちこむ。
“あのときシュゴくんも、『ぼくもちーちゃんのこと、だいすき』って言ってくれたんだよ……”
「え、えっと、あの、その……ごめん」
オレがしどろもどろで謝ると、ちーちゃんは、えへへと明るく笑った。
“いいよいいよ、許してあげる。若気の至りってヤツだよね。それに大変残念なんだけど、いろいろ事情があってわたし、シュゴくんのプロポーズ受けられなくなっちゃったんだ。こっちこそごめんね”
……え?
それって、だれか別に好きな人ができたってこと、かな?
まぁ、幼稚園のころのちーちゃんのかわいさから考えれば、小学五年生になった今現在、男子にモテモテであろうなんてことは、かんたんに想像がつくけれど。
“ふふ、それは秘密だよ。でもシュゴくん、もうすこし女の子のこと勉強しなくちゃダメだよ”
なぜ、こんなことでダメ出しされなくてはならないのか。
“明日、玲さんにちゃんと謝るんだよ、わかった?”
はい。なんか、すみません……と、一人頭を下げつつ、あの泣き虫でおどおどしていたちーちゃんが、これだけハッキリしゃきしゃき話すようになったってのが、うれしくもあった。
「ちーちゃん、すっごく元気そうで安心したよ。昔、身体弱かっただろ? オレが卒園するころはずーっと休んでて、会えなかったし」
“えへへ、ご心配なく”
スマホを当てた耳にひときわ元気で明るい声が響いた。“最近は病気知らず。ここ数年は風邪(かぜ)一つ、ひいてないよ”
力強さを感じさせるもの言いに、ホッとうれしいため息が出る。
“でも、シュゴくんの低すぎる恋愛偏差値(れんあいへんさち)をまのあたりにして、今ちょっとだけ頭痛がしてるけどね”
ケッコー口が悪くなっている……ような気がする。
「ところでこっちにはいつ、何の用で来たの? 観光?」
“ううん、遊びには来てない”
……え? それじゃなんで、ちーちゃんのスマホが落ちてたんだ?
頭に浮かんだ疑問をぶつけようと口を開きかけたところで、しかし、ちーちゃんが、
“ごめんシュゴくん。昼間は『いろいろくわしく話す』って言ったけど、ホントは話せないことがいっぱいあるんだ。だから、なにも聞かないでほしいの”と、まるでオレの思考を読みとったかのように先手を打ってきた。
“今はこまかい事情は話せないの。そのスマホのこともふくめて。ごめんなさい”
「……あ、あぁ」
そう言われると、もはやなにも言えなくなる。
“それで、すっごく勝手なんだけど、シュゴくんに折り入っての頼みごとがもう一つだけあるんだ”
「へ? 頼みごと?」
“あ、一つじゃなくって四つになるのかな。んで、できれば……ううん、絶対、玲(れい)さんもさそっていっしょに動いてほしいの”
玲も? なんで?
“二人で力を合わせてほしいから。だって二人がケンカしたままじゃ、わたしが困るんだよ。仲良くしてもらわないといけないんだから”
……意味不明すぎる。
そもそもケンカなんかしてないし。たぶん。
“もう、そんなのんきなこと言って。そう思ってるのはシュゴくんだけだよ。とにかく明日、玲さんに謝ってお願いして、それから、シュゴくんと玲さんでいっしょに事件を解決してください”
へ? 事件? 解決? なんだか物騒なワードが飛びかっている。
「頼みごとって、いったいなんなんだ?」
“あ、う、うん。えーっとね、シュゴくん、わたし今からかなりヘンなこと言うけど……その、びっくりしないで聞いてね”
ちーちゃんはすこし口ごもった。
“あ、あのね……”
〈第5回へと続く〉
次回の更新は3月7日(月)を予定しているよ☆
楽しみに待っててね!
作:床丸 迷人 絵:雨宮 もえ
- 【定価】
- 748円(本体680円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046321527