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ものがたり

【先行連載】『さよならは、言えない。』2巻ためし読みれんさい! 第6回 窓ごしの想い


5月10日発売予定『さよならは、言えない。(2) ずっと続くふたりの未来へ』を、どこよりも早くためし読みできちゃう先行れんさいスタート!
切ないキュンがいっぱいの感動ストーリー、読んでみてね!(全6回)

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◆第6回

もう二度と姿を見ることもかなわないと思っていた玲央のいる病院へ、凪(なぎ)とふたりで向かうことになった心陽(こはる)。
心陽は、無事に玲央に想いを伝えることができるの……?

 


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窓ごしの想い

 

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 次の日、学校が終わると、私は美咲野(みさきの)総合病院に急いだ。

 病院の入口で待っていると、すぐに凪がやってきた。

「お待たせ、心陽ちゃん。行こうか」

「うん」

 凪といっしょに、病院の中に入る。

 もう二度と、姿を見ることはかなわないと思っていた玲央を、見ることができるんだ。

 そう思うと、うれしさと緊張(きんちょう)で、胸がドキドキと高鳴ってしまう。

 そんな私を、凪がジロッと見た。

「遠目で見るだけだからね」

「う、うん。わかってるよ」

 ドキドキしてるのが伝わっちゃったみたい。

 しっかりクギをさされてしまったよ……。

 でも、遠目で見るだけだっていい。

 ひと目でいいから、玲央が元気になったことを、確かめたい。

 期待(きたい)と緊張(きんちょう)でカチコチになりながら、階段をのぼる。

 玲央の病室がある2階に着き、ナースステーションに立ちよった。

 面会の申込用紙を書いていると、看護師(かんごし)さんが顔をのぞかせた。

「あら、凪くん。玲央くんのおみまい?」

「石田(いしだ)さん、こんにちは。そうです。玲央に、そこのカフェスペースまで来てもらおうと思ってて」

 凪が答えると、看護師(かんごし)さんの表情がくもった。

「玲央くん、今日はカフェスペースに行くの、ムリかもしれない」

「え……。体調悪いんですか?」

「……ちょっとね。せっかく来てくれたのに申しわけないけど、今日は病室に行くのも、えんりょしてもらったほうがいいかな」

「そう、ですか……」

 凪の顔から、大人っぽい笑顔が消える。

 玲央は、歩く元気もないってことなんだろうか。

 面会できる状態じゃないということに、不安になっていく。

 そんな私たちを見て、看護師さんは安心させるようにほほえんだ。

「心配しなくても大丈夫。バイタルは安定してるし、安静にして様子を見てるだけだから」

「わかりました。また来ます」

 そう言うと、凪はナースステーションに背を向けて歩き出した。

 私は看護師さんに一礼して、凪を追う。

 1階におりると、無言で歩いていた凪が、ピタッと足を止めた。

「心陽ちゃん、今日はごめん。このあと、少し、時間ある?」

「うん……」

「じゃあ、こっち」

 そのまま、迷いのない足取りで病院の出口へと向かう。

 いったい、どこに行くんだろう。

 凪がなにを考えているかわからないけれど、私はついていくことにした。

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 凪に連れてこられたのは、病室の窓に面した中庭だった。

「ここから、玲央の病室が見えるんだ」

 窓を見上げた凪が、2階の一番はしの窓を指さす。

「あそこが玲央の病室」

 病室にはカーテンがかかっていて、午後のまぶしい光をはね返していた。

「今日は玲央の姿を見ることもできないけど、ここなら、玲央の気配だけでも感じられるかも、って思って。でも、あんまり意味なかったかな。ごめん」

 玲央の病室を見ながら、凪がそう言った。

 凪にとって、私は、きっとジャマな存在なのに……。

『玲央は今日、面会ができる状態じゃない』って知った私の不安を、やわらげようとしてくれてるのかな。

 なにも言葉に出さないけど、私が玲央を大切に思う気持ちが、少しは凪に伝わったのかも、って思うと、少しうれしくなった。

「ありがとう。……意味なくなんて、ないよ」

 私はそう告げて、玲央の病室の窓を見上げた。

「凪……。きっとなにも起こらないと思うけど、もうちょっと、ここにいてもいい?」

「……いいよ」

「ありがとう」

 私は、窓を見上げて、心をこめて祈った。

 玲央が、苦しむことのない、楽しくておだやかな毎日を過ごせますように。

 玲央に、『さよなら』を言ったことは本心なんかじゃないって、いつか伝えられますように。

 いつか、私が全国模試で1位をとれた時に、あの王冠(おうかん)のバッジを玲央が受け取ってくれますように。

 お願いです、神様。

 玲央といっしょにいる未来を、ほんの少しでいいので、私にください――。

 やがて、太陽がゆっくりとかたむき、空はあわい朱色(しゅいろ)になっていた。

 どれだけ願っても、いのっても、たりない。

 でも、そろそろ行かなくちゃ。

『ありがとう、もう帰ろう』って言おうとして、凪を振り返った、その時だった。

「あっ……」

 凪は窓を見上げて、おどろいた顔をしていた。

 凪の視線をたどっていくと……。

「……玲央!」

 窓際で、あかね色の空をながめる玲央が見えたんだ!

 そして、玲央の視線が、ゆっくりと下に降りてきて……。

 パチン


 私と玲央の視線が、ぶつかった。

 玲央が、気づいてくれた……!

 見上げた窓ごしに、おどろいた顔の玲央が見えて、胸がいっぱいになる。

「玲央!」

 私は、せいいっぱいの想いをこめて、手を振った。

 玲央も、ふっと笑って小さく手を振り返してくれる。

 わぁ……。

 玲央が、私にむかって、笑って……手を振ってくれてる。

 玲央が、今、すぐそばにいることが、とにかくうれしくて、ほっとして、目の奥が熱くなった。

 できることなら、玲央に伝えたいことがあるんだ。

 でも、病院の窓は、開け閉めできないようになっている。

 ガラスごしじゃ、いくら声で伝えても、きっととどかない。

 伝えられないことが、こんなにもどかしいなんて……。

 なにか、伝える方法はないかなって考えていると、ふと、ひらめく。

 私はカバンの中から、ノートとペンを取り出した。

「ねぇ、凪」

「なに?」

「玲央に、文字でエールを送ってもいい?」

「……そのくらいだったら、別にいいよ」

 凪は少しおどろいた顔をしながら、うなずいてくれた。

「ありがとう!」

 お礼を言って、ペンをにぎる。

 なんて書こう。

 どうやったら、今のこの気持ちを、一番玲央に伝えられるかな。

 玲央はじゅうぶんがんばってる。

 そんな玲央へのエールは、『がんばれ』も『おたがいがんばろう』もちがうって思うんだ。

 だから――……

『いつか約束を果たすから、待ってて!』

 ペンをにぎって、太字で大きくそう書いた。

 私、約束を果たすよ。だから、お願い。生きていて。

 そんな想いをこめて、私は窓を見上げて、ノートをかかげた。

「……っ」

「……」

 言葉はかわせない。

 だけど、視線はしっかり交わっている。

 玲央は、ノートの文字が見えたみたい。

 すぐに、ふっと笑って、うなずいてくれたんだ。

 玲央に届いた……!

うなずいたってことは、『玲央を超(こ)えて、バッジを返す』って約束のことを、覚えてくれているってことだよね。

うれしくて、私もとびきりの笑顔を返した。

窓ごしだけど、玲央と笑顔を交わすことができた。

うれしくて、にじんできたなみだで視界がぼやけていく。

「心陽ちゃん、そろそろ行こう。玲央がつかれちゃうよ」

「あっ。そうだよね。ごめん」

凪の声で我に返った私は、ノートをおろすと、玲央に「バイバイ」と手を振って、中庭を後にした。

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 凪といっしょに病院の建物ぞいを歩く。

 玲央が無事だってわかって、本当によかった。

 でも……。

 玲央と目があって、笑ってもらえて、それだけでうれしいのに。

 やっぱり、窓ごしじゃなくて、直接会いたいなって思っちゃう。

 そんなのダメに決まってるのに、欲が出てきてしまうんだ。

 だって、こんなに近くにいるのに、玲央に会えないなんて、もどかしいよ。

 近いのに遠くて、すごく切ない。

「じゃ、帰ろうか」

「うん……」

 伝えたいことは、まだまだたくさんあるけれど……。

 玲央にエールを送れた。笑顔を見れた。

 それだけで、今はじゅうぶん。

 だから今は、私がやるべきことに集中しよう。

「凪、ありがとう」

「……別に。これからも、約束は守ってもらうからね」

「うん。わかったよ」

 病院の前で凪と別れ、駅へ向かう。

 私が今やるべきことは、来週の全国模試の勉強だ。

 次こそは、順位表に名前がのるように、がんばろう!

 玲央の笑顔を思い出して、ポケットの中の王冠(おうかん)のバッジをにぎりしめる。

 玲央、私がんばるよ。

 バッジをにぎったこぶしを胸に抱いて、私はちかった。
 



終わってしまったと思っていた玲央との関係を、凪のゆるしをもらってつなげることができた心陽。
新たな目標に向かってがんばる心陽に起こる、さらなるドキドキの展開は……?

★玲央の婚約者・星羅(せいら)の呼び出し!?

★夏休みに、大鳳学園(おおとりがくえん)の勉強合宿に参加!?

★合宿で、予想していなかったかたちで玲央と会える!?

くわしくは、5月10日(水)発売の『さよならは、言えない。(2) ずっと続くふたりの未来へ』でたしかめてね!
そして、『さよならは、言えない。』を読んだあとは、本日スタート『スピカにおいでよ』の1巻まるごと連載も楽しんでね。




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作:高杉六花  絵:杏堂まい

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322166

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