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ものがたり

【先行連載】『さよならは、言えない。』2巻ためし読みれんさい! 第5回 取り消された言葉


5月10日発売予定『さよならは、言えない。(2) ずっと続くふたりの未来へ』を、どこよりも早くためし読みできちゃう先行れんさいスタート!
切ないキュンがいっぱいの感動ストーリー、読んでみてね!(全6回)

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◆第5回

目を覚ました玲央(れお)を見て、ある『決断』をした凪(なぎ)。
さっそく凪が起こした行動とは……?

 


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取り消された言葉

 

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「じゃあね、心陽(こはる)。また明日」

「うん! 部活がんばってね」

 部活に行った健介(けんすけ)と香奈(かな)を見送って、校門を出る。

 全国模試まで、あと1週間。今日は、苦手な国語を重点的にがんばろう!

 気合を入れて歩き出したその時、誰かが私の前に立ちふさがった。

「心陽ちゃん、ちょっといいかな」

「えっ」

 とつぜん私に声をかけたのは、大鳳学園(おおとりがくえん)の制服を着た、凪!

 いつもの大人っぽい笑顔だけど、やっぱり目は笑っていない。

 どうして凪が、里見中で私を待ってるんだろう。

 もしかして、玲央になにかあったの……?

 イヤな予感がして、心がざわめく。

 凪は、なにを考えているかわからない表情で、私を見ていた。

「心陽ちゃんに、話があるんだ」

「……っ」

 凪が、私の学校に来てまで伝えたい話って、なんだろう。

 聞くのが怖いけど、聞かないと絶対に後悔する。

「わかった。ここじゃ目立っちゃうから、あっちの公園に行こう」

 田沢(たざわ)さんたちに見つかる前に、移動しなくちゃ。

 私が足早に歩き出すと、凪はだまってついてきた。

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こわさと不安でいっぱいのまま、凪といっしょに公園のベンチに座る。

 少しの沈黙(ちんもく)のあと、凪はおだやかな声で言った。

「玲央の意識がもどったよ」

「えっ。本当!?」

 ガバッと顔を上げて凪を見ると、うなずいた。

「うん。奇跡(きせき)的に回復して、会話もできるし、歩くこともできる」

「よかった……! 本当に、よかった……」

 緊張(きんちょう)でカチコチだった体から、いっきに力がぬけた。

 ホッとして、うれしくて、目の奥が熱くなる。

 でも、どうして凪は、わざわざ私に知らせてくれたんだろう。

 あんなにはっきりと、『もう玲央につきまとわないで』って、約束するように言ってきたのに。

 玲央に近づいてほしくないはずの凪が、私に教えてくれるなんて、ナゾすぎるよ。

「私にそれを伝えるために、わざわざ来てくれたの?」

 ためらいながら、思い切って聞いてみる。

 凪は、「まぁね」と言って、ちょっと目をふせた。

「僕、心陽ちゃんに言い過ぎたよ。悪かった」

「……えっ。ど、どうしたの?」

 とつぜん、凪にあやまられて、アタフタしてしまう。

「玲央が倒れたのは、心陽ちゃんのせいだって言ってしまったけど……。そうじゃなかったのかもしれない」

「どういうこと?」

 凪が話しはじめたことは、あまりに意外だった。

「玲央は、ずっと生きる気力を失くしていたんだ」

「えっ……」

 玲央が生きる気力を失くしていたなんて、知らなかった。

 私の知っている玲央が、そんな状態になるなんて考えられなくて、言葉が出ない。

「でも、最近、少しずつ変わってきた。たぶん、生きたいって欲求が出てきて、苦しくなったんだと思う」

 凪は、私に安心させるように優しい声で言ってくれるけど。

 玲央は、『生きたい』って思ったら、苦しくなってしまうような状況なの?

 玲央って、重い病気なの……?

 頭の中に、次々と知りたいことが浮かんでくる。

 もしかしたら、質問したら、凪は答えてくれるかもしれない。

 でも、もし……すごく、良くない病気だったら……?

 今の私は、こわくて、なにも聞けなかった。

 顔をこわばらせている私に、凪は言葉を続ける。

「玲央は、生きたいから無理をしたのかも、っていうこと。倒れて病院に逆もどりしてしまったのは、その結果かもしれないから、心陽ちゃんは、自分のことを責めないで」

 玲央は、苦しくても、無理をしても、生きたいんだ。

 生きようとしてくれているんだ……。

 不安になることばかりだけど、そのことに、心からホッとした。

「玲央が生きたいって思ってくれて、よかった……」

 思わずつぶやくと、凪はなにかを考えるように口をつぐんだ。

「凪……?」

 ふしぎに思っていたら、凪は、少し言いにくそうに低めの声で言った。

「もう玲央に会いに来ないほうがいいって言ったけど、取り消すよ。玲央に会わせてあげることはできないけど、遠目にちらっと見るくらいなら、いいよ」

「えっ!」

「ただし、僕といっしょのときだけね。玲央とふたりっきりで会うのは禁止」

 二度と姿を見ることもできないって思ってた玲央を、見ることができる……!?

 もう無理だって思っていたことをゆるされて、うれしいけど、急展開すぎて、とまどってしまうよ。

 玲央に会えないし、会っちゃいけないって自分に言い聞かせてたから。

『……心陽』

 最後に会った日――私が、玲央に『さよなら』を言ったあのとき、名前を呼んでくれた玲央の声を思い出す。

『『さよなら』なんて、言わせないって言ったのに、……ごめん』

 玲央はそう言って倒れてしまった。

『さよならなんて、イヤだよ……玲央!』

 私のその声は、きっと玲央にとどいていない。

 遠くから見ることしかできないのなら、言葉をかけることはできないかもしれないけれど。

 せめて、さよならしたくないっていう気持ちだけでも、なんとかして伝えたい。

 私にできることがほんの少しでもあるなら、友だちとして、なんでもやりたいよ!

「わかった」

 私が大きくうなずくと、少しほっとしたような顔をした凪が言った。

「じゃあ、明日の放課後、美咲野(みさきの)総合病院の入口で待ち合わせしよう」
 



玲央のために、自分ができることを探すことにした心陽。
凪といっしょに玲央の入院する病院へ向かう、次回 第6回「窓ごしの想い」をおたのしみに。


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作:高杉六花  絵:杏堂まい

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322166

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