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ものがたり

【先行連載】『さよならは、言えない。』2巻ためし読みれんさい! 第3回 失恋同盟


5月10日発売予定『さよならは、言えない。(2) ずっと続くふたりの未来へ』を、どこよりも早くためし読みできちゃう先行れんさいスタート!
切ないキュンがいっぱいの感動ストーリー、読んでみてね!(全6回)

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◆第3回

玲央(れお)と凪(なぎ)との関係を問いつめられて、切ない気持ちをよりつのらせてしまった心陽。
きずついた気持ちのまま、親友の香奈(かな)にあやまろうとがんばる心陽に、意外な展開が……?

 


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失恋同盟

 

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 結局、朝は田沢(たざわ)さんの足止めで、香奈と話ができなかった。

 ホームルームの予鈴(よれい)のあと、すぐに担任の先生が教室に来ちゃったんだ。

 休み時間のたびに、あやまる機会をうかがっていたんだけど……。

 今日は、午前中に小テストが続くから、休み時間に席を立つ人はほとんどいなくて。

 香奈も、ずっと席に座って勉強していた。

 その後も、話しかけるタイミングをのがしたまま、あっという間にお昼休みになってしまった。

 香奈、今日もいっしょにおべんとう、食べてくれるかな。

 きのうメッセージでもらった『話したいこと』も気になるし、不安でいっぱいだよ。

 とにかく、香奈とおべんとうを食べながら、きのうのことをあやまろう。

 そう思い直して、席を立とうとすると。

「心陽、きのうはメッセージもらってたのに、返事しないままでごめん」

 香奈が私の席までやってきて、そう声をかけてくれた。

 私もあわてて立ち上がり、首を振る。

「ううん! 私こそ、おそい時間に送ってごめんね」

「今、ちょっといい? 話があるの」

「えっ。う、うん」

 いつも明るくて元気な香奈の表情が、暗いように見えるのは気のせいかな。

「教室じゃちょっと話しにくいから……。おべんとう持って、中庭に行こう」

「うん……」

 やっぱり、おこってるんだよね……。

 ざらりとしたイヤな予感が、胸の内側に広がっていく。

 香奈になんて言われるんだろう。すごくこわいよ。

 でも、逃げちゃダメだ。ちゃんと向き合おう。

 きのうのことをあやまって、香奈の話をしっかり受け止めよう。

 まとわりつく恐怖(きょうふ)を振りはらって、私は香奈のあとを歩き出した。

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 中庭のすみっこにある、小さな切り株にすわると、香奈はふーっと息をついた。

「心陽……」

「うん」

「きのうはありがとね」

「へっ!?」

 予想外の言葉に、私はマヌケな声を出してしまった。

 ちょっと待って。今、「ありがとう」って言われたよね? 

 なんでだろう。私、香奈に感謝されることなんてした覚えがないよ。

 目をぱちくりさせると、香奈はふふっとてれ笑いを浮かべた。

「きのう、心陽のおかげで、健介(けんすけ)とふたりで、たくさん話せちゃった。気を使ってくれてありがとね」

「えーっと……」

 香奈は笑顔だし、聞きまちがいじゃないみたい。

「でもさ……。私、健介のこと、あきらめることにしたんだ」

「えっ。あきらめるって……」

 それって、つまり……。

「もしかして、香奈、健介のこと……」

「うん。野球部に入部してからずっと、健介のことが好きだったんだ」

「そうだったんだ……」 

 香奈が、はじめて打ち明けてくれた恋心。

 おどろきもあるけれど、「やっぱり」って気持ちの方が大きい。

 なんとなく、そうなんじゃないかなって思ってたんだ。

 香奈と健介は、いつも軽口を言い合うくらい仲がいいから。

 部活をがんばる健介を、香奈はいつもまぶしそうに見つめていたしね。

「あいつ、野球バカだしさ~。それに、私の事、ぜんぜん恋愛対象じゃないんだもん」

 あっけらかんとしてるけど、香奈の目は少し赤い。

 昨日、たくさん泣いたのかもしれない……。

 ――私と、いっしょだ。

 そう思ったら、香奈に打ち明けたい気持ちがこみあげてきた。

「……私も、あきらめることにしたんだ」

 昨日から、心の中でヒリヒリしてるそのことを、思い切って口に出す。

 香奈は、「えっ!?」と目を丸くした。

「心陽、好きな人いたの!?」

「うん……。好きって気づいたのは、すごく最近なんだけどね」

「それって……健介?」

 気まずそうな顔の香奈に、私はブンブンと首を振る。

「ち、ちがうよ! この学校の人じゃないんだ」

「そっか。ていうか、心陽も恋してたんだね。しらなかったよ!」

「うん。でも、恋って気づいたとたんに、失恋しちゃった感じなんだけどね」

「そうだったんだ。ということは、健介も失恋したってことだ」

「えっ。健介も!?」

 どういうこと?

 首をかしげる私を、香奈がじーっと見つめる。

「ねぇ心陽。まさか、気づいてなかったの?」

「なんのこと?」

「健介の好きな人、心陽なんだよ」

「えええっ!?」

 思わず大きな声を出してしまって、あわてて口を押える。

「ごめん、香奈。大きな声だして」

「あははっ。その反応からすると、本当に気づいてなかったんだね」

「まったく知らなかったよ! まさか……」

 健介が私のことを好きだなんて!

 なにかのまちがいじゃない? 香奈のかんちがいとか?

 でも、そういえば……。

 玲央に会いにひとりで病院に行った時に、健介にかんちがいされたことがあったっけ。

『すげーうれしいよ。まさか心陽が俺のこと好きなんて』

 今思えば、そう言っていたときの健介、すごくうれしそうだったな……。

 ということは、本当に本当に健介は私のこと……!?

 うわわわっ。気まずくて、冷やあせがふき出てしまう。

 だって、香奈が健介のことが好きなのに……。

 でも、「私のせいで」とか、「ごめんね」って言うのは、おかしいよね。

 逆に香奈を傷つけてしまいそう。

 じゃあ、こういうときって、なんて言ったらいいんだろう。

 私は、どんな気持ちでいたらいいんだろう。

 どうしたらいいかわからなくて、目が泳いじゃうよ。

 ひとりでアタフタしてる私に、香奈はいたずらっぽく笑った。

「気にしないで。健介の態度、あんなにわかりやすいのに気づいてないなんて、心陽らしいよ。っていうか、3人いっぺんに失恋って、笑うしかないよね。失恋同盟でも組んでおく?」

「失恋同盟!」

「ふふふ。すっごくフクザツな同盟だけどね」

 ふんいきを明るく変えてくれた香奈の優しさに救われて、私もようやく少し笑顔になれた。

 こういうとき、とっさにこんな言葉が言える香奈は、やっぱりすごいよ。

 私も、香奈を笑顔にできるようになりたいな。

「よし、おべんとう食べちゃおうか!」

「わっ。そうだね! お昼休み、あと20分しかない!」

 私たちはいそいそとおべんとうを広げて、「いただきます!」と手を合わせた。

「心陽のお弁当、いつもきれいな色だね~」

「そうかな?」

「そうだよ! 私のなんて茶色だらけだよ。まぁ、私の好物ばかり入れてくれる結果なんだけど」

「香奈のおかず、いつもおいしそうって思ってた」

「じゃあさ、失恋同盟記念で、一番お気に入りのおかずを交換(こうかん)しちゃう?」

「いいね! 私の一番のお気に入りは……花形の卵焼きかな」

「かわいい~! まん中にソーセージが入ってる! 私は、お母さん特製のからあげ!」

「わ~。おいしそう!」

 おたがいのおかずを一品交換して、私たちは楽しくおべんとうを食べた。

 ――キーンコーンカーンコーン……

 授業5分前のチャイムを聞きながら、香奈が、力強くこぶしを突き出す。

「失恋の痛みは恋でしかいやせないって言うし、私、新しい恋をがんばるわ! 心陽もがんばれ!」

「うん」

 私も手をにぎって、香奈のこぶしにコツンと合わせる。

 自分だってつらいのに、おうえんしてくれる香奈が本当に大好きだ。

 新しい恋は……しばらくできそうにないけれど。

 香奈みたいに、少しでも前向きになれるようにがんばろうって気持ちになってる。

 玲央にバッジを返すって約束は、果たすことができなくなってしまったけど……。

 それでも、玲央を超(こ)えるっていう目標は、そのままにしておきたい。

 目標を失って、これ以上心がからっぽになったら、私はきっと、なにもかもがんばれなくなってしまいそうだから。

「香奈、私もがんばるよ」

 そう宣言して、私たちは教室に向かって歩き出した。

 私、世界中にひとりぼっちなんかじゃなかった。

 恋も勉強もがんばろうって、はげまし合える香奈がいる。

 それに、もう二度と会えなくても、恋しちゃいけなくても、玲央は私の心の中にいる。

 玲央との思い出も、玲央の笑顔も、玲央がくれた言葉も、私の記憶から消えることはない。

 玲央が、私の心の支えだってことは、変わらないんだ。

「よし。顔を上げて、前を向こう」

 小さくつぶやいて、青空を見上げた。

 この空の下で、玲央はきっと、せいいっぱいがんばってる。

 だから私も、うつむいていないで前に進もう。

 玲央への恋心を忘れられるくらい、勉強をがんばろう。

 約1か月後、6月末にある2回目の全国模試を、全力でがんばろうって決心した。


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――凪①


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 玲央が倒れてから1週間が過ぎ、6月に入った。

 集中治療室を出て、特別室にもどれたけれど、ねむったままの状態が続いている。

 凪(なぎ)は、星羅(せいら)といっしょに特別室に入ると、玲央に笑顔を向けた。

「玲央、来たよ」

「今日は私もいっしょよ」

 学校帰りに、病院に来るのが凪の日課になっていた。

 星羅も、バレエのレッスンの合間をぬって、週に3回は様子を見に来ている。

 もしかしたら、今日こそは目を覚ますかもしれない。

 来るたびにそんな期待をいだくけれど、今日も玲央は目を閉じたままだった。

「バイタルは、正常値にもどったんだけどね」

 看護師(かんごし)の石田さんのつぶやきに、星羅が首をかしげる。

「バイタル……?」

「ああ、『脈拍(みゃくはく)』『呼吸』『血圧』『体温』のことよ。玲央くんに話しかけてあげてね。聞こえてるかもしれないから」

「……はい」

 石田さんは玲央の点滴(てんてき)の残量を確認すると、病室を出て行った。

 夕日に照らされた玲央の寝顔を見つめながら、星羅がしずんだ声で言う。

「もしかして、玲央は、目覚めたくないのかな……」

「そんなことないよ。玲央は今、がんばってるんだ」

 凪は、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 そうだ。玲央は今、生きようとがんばってる。

 目覚めたくないなんて、思っているわけがない。

 星羅を置いていくなんて、玲央がするはずないんだ。

 たしかに――……。

 北海道の小学校を卒業して、東京にもどってきた玲央は、生きる気力を失ったみたいに、投げやりになっていた。

 だけど、大鳳学園(おおとりがくえん)の入学式では、僕と星羅といっしょに楽しそうにしていた。

 4月の模試だって、あいかわらず全国1位だったし、それに……。

 久しぶりに街に遊びに行って、クレープを食べて、楽しそうだった。

「……」

 ふいに、そのときいっしょにいた『もうひとり』を思い出して、凪は視線を床に落とした。

 心陽の手を引いて、突然走り出した玲央の、生き生きとした顔。

 公園で、楽しそうに話すふたりの姿。

 ――玲央のあんな表情、久しぶりに見たな……。

 うつむいた凪に、星羅が心配そうに声をかけた。

「……凪?」

 呼びかけられた凪は、記憶をふりはらうように軽く頭をふって、星羅に笑顔を向けた。

「だいじょうぶ。明日こそ、目覚めるかもしれないよ」
 



切なくて、つらいこともあるけれど、香奈と『失恋同盟』でさらに絆を深めた心陽。
そんなころ、凪は、玲央と心陽の関係が気になっているみたいで……?
次回、心陽・玲央・凪の関係に変化の予感!? 第3回 「恋を忘れるために」をおたのしみに!


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作:高杉六花  絵:杏堂まい

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322166

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