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ものがたり

【先行連載】『さよならは、言えない。』ためし読みれんさい! 第5回 キセキの再会


『君のとなりで。』シリーズの高杉六花さんの新シリーズ『さよならは、言えない。』を、ためし読み連載でチェックしよう!


中学1年生になったばかりの心陽(こはる)には、もう一度会いたい、ぜったいにわすれられない人がいて……。
会いたいのに、会えない。伝えたいのに、伝えられない――切なくて苦しいけれど、大切にしたい想いの物語が、はじまります。

1年前、大切な約束をしたけれど、はなればなれになってしまった玲央(れお)と心陽(こはる)。
再会を願う心陽(こはる)に、ついに奇跡がおとずれます……! 



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キセキの再会

 

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 もうすぐ6月になるある日、健介(けんすけ)が部活中に足を骨折して、入院したって話が飛びこんできた。

「学校からちょっと遠い病院なんだけど、このプリント、届けてくれるか?」

 放課後、担任の渋谷(しぶや)先生から職員室に呼ばれた私と香奈(かな)は、プリントのたばを受け取った。

「わかりました!」

「悪いな。頼んだぞ」

 私たちは、保健委員なんだよね。

 だから、これも、委員の仕事のひとつ。

「よし、しかたないから健介のおみまいにいってあげよっか。さみしがってるだろうしね」

「うん!」

 私と香奈は、先生から地図をもらって、里見中を出発した。

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 健介が入院しているのは、学校からちょっと遠い大きな病院だった。

 電車を乗り継いで1時間。

 私と香奈は、無事に美咲野(みさきの)総合病院についた。

 ナースステーションで面会の申しこみをしたあと、健介の病室を探す。

「佐藤健介……。あ、ここだ!」

 健介の病室はすぐ見つかった。

 2階の一番奥から2番目。1部屋に6つベッドのある、大部屋みたい。

 トントンと小さくノックして、様子をうかがう。

 おみまいの人が来ているのか、中はにぎやかで、ノックに気づいていないみたい。

 そーっとドアを開けて、香奈といっしょに中をのぞくと。

 すぐ近くのベッドのカーテンが全開になっていて、マンガを読んでいる健介と目が合った。

 びっくりしたように、健介が飛び起きる。

「心陽(こはる)!? なんで? 俺のみまいに来てくれたの?」

 健介、元気そうでよかった。

 私と香奈は病室に入った。

「健介、大変だったね。足、だいじょうぶ? プリント届けにきたよ」

「サンキュ~! いや~、それにしても、こんな遠い病院まで心陽がみまいに来てくれるなんて、マジ感激!」

 ぱぁぁと顔をかがやかせた健介に、香奈がジトッとした目を向ける。

「ちょっとちょっと。私もいるんですけどーー!」

「あ、香奈も来たの」

「なにそれ! 七星堂(ななほしどう)のプリン買ってきてあげたのに、あげないから!」

「おい、待てよ。じょうだんだって。プリンくれよ」

 フンッ!と鼻を鳴らした香奈は、健介にプリンを突き出した。

「早く治して、部活復帰してよね」

「お、おう」

 ふふっ。香奈ったら、すなおじゃないなぁ。

 健介がいないと調子が出ないって、いつも言ってるもんね。

 健介は野球部で、香奈はマネージャー。

 教室ではいつもおちゃらけてる健介だけど、野球部の練習はすごく真剣にがんばってるんだって、香奈はいつも感心してる。

 ふたりはいつもこんな調子で、とっても仲よしなんだ。

「じゃあ、帰るわ。気が向いたらまたおみまいに来てあげる。行こう、心陽」

「あ、うん。じゃあね、健介。おだいじに」

 香奈といっしょに大部屋を出ようとすると、あっという間にプリンを食べ終えた健介が悲しそうな顔をした。

「ええ~。心陽、もう帰っちゃうの? マジか~。香奈のせいでぜんぜんしゃべれてないじゃん」

「ちょっと健介、どういう意味よ」

 そこから始まったふたりのケンカを聞きながら、先に病室を出た私は、何気なくとなりの病室を見た。

 となりは、個室なのかな。『特別室』って書いてある。

 何気なく、その下のネームプレートを見た私は、「あっ!」と声を上げた。



 青山玲央



 まちがいなく、そう書かれていた。

「玲央……?」 

 北海道にいるはずの、玲央?

 いや、そんなわけないよね。同姓同名の、別の人……?

 頭の中が疑問でいっぱいで、パニックだよ!

 そのとき、ドアがゆっくりと開いて――……。

 部屋から出てきた黒髪の男子に、私は息をのんだ。

 おどろきすぎて、信じられなくて、声が出ない。

 だけど、まちがいない。

 きれいな黒髪に、涼しげな目元。


 ――本当に、玲央だ!


 パチン。

「……っ」

 目が合うと、玲央は、おどろいた顔をした。

 私のこと、覚えてるってことだよね。

「あのっ」

「あれ!? となりの部屋の名前……『青山玲央』!?」

 とつぜん、私と玲央の間に、香奈が割りこんできた。

 玲央は、香奈を見て眉をひそめる。

「……誰?」

「全国模試で1位の人ですよね!?」

『青山玲央』は、模試でがんばっている香奈にとっても有名人で、あこがれの人だって、この前言ってた。

 だから、おどろきで思わずさけんじゃうのも、無理はない。

「ちょ、ちょっと香奈! ここ、病院……!」

 でも、大声出しちゃダメだよって、あわてて止めた、そのとき。

「ちょっとあなたたち! さわがないでちょうだい! ここは病院ですよ!」

 案の定、すっ飛んできた看護師(かんごし)さんにしかられちゃった。

「すみません! 香奈、行こう!」

 看護師さんと玲央に頭をさげると、私は香奈の手を引っ張って、エレベーターに乗った。

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「あの青山くんに会えるなんて……。勉強方法とか教えてもらいたいよ~」

 病院を出て、駅へ向かう間、香奈はずっとぽわんとしていた。

 私も、ずっと会いたかった人と、ぐうぜん出会ってしまって、混乱してる。

「でも、病室に名前が書いてあるって、入院してるってことだよね?」

「……」

 香奈の言葉に、ハッとした。

 さっきは再会できたことに、ただただおどろいていたけれど、たしかにそうだ。

 玲央は、どうして入院してるんだろう。

 健介みたいに、ケガしちゃったのかな。 

「それにしても、すっごいイケメンだったね、青山玲央。頭がいい上に、イケメンだなんて。そんな人、いるもんなんだね」

「……うん」

 玲央は、あいかわらずかっこよかった。

 ううん。去年より、もっともっとかっこよくなってたし、ぐんと背も伸びてた。

 ほんの一瞬だったけど、再会のあの瞬間を思い出すと、ドキドキと胸が高鳴る。

 玲央に話したいことも、聞きたいことも、たくさんあるのに。

 逃げるみたいにして、病院を出てきてしまった。

 でも、ここで……東京で会えたってことは、これからまた、会える機会があるかもってことだよね。

 ちらりと振り向いて、病院を見る。

 また玲央に会えますように――……。

 そう願いながら、香奈といっしょに駅へと歩いた。



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もう一度会いたい

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 家に帰った私は、去年、玲央(れお)からもらった王冠(おうかん)のバッジをながめながら、思いをめぐらせた。

「玲央……」

 会いたいって願い続けていた玲央に、ぐうぜんだけど、ついに再会できた。

 思い出の中の玲央よりも、ずっとかっこよくなっていた。

 でも、北海道にいるはずの玲央が、どうして東京にいるんだろう。

 手紙の返事が返ってこなかったり、私から送った手紙がもどってきてしまったのは、なぜ?

 玲央自身が北海道からはなれてしまったから……なのかな。

 それとも、病院にいたっていうことは、入院していたから……?

 冷静になると、次から次へと疑問がわいてきて、ぐるぐる考えてしまう。

「ああ……だめだ。ぜんぜん集中できない」

 勉強机につっぷして、私は大きなため息をついた。

「考えたって、解決しないのに」

 わかってるけど、いろいろ考えこんじゃって、まったく宿題が進まない。

「はぁ……」

 立ち上がって、私はベッドにころがった。

 窓の外は、夕映えの空が広がっている。

 玲央も、病室からこの夕焼けを見てるのかな……。

 そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。

 このままじゃ、だめだ。もやもやしすぎて、なにも手につかない。

 こうなったら、もう一度、玲央に会いに病院に行ってくるしかない。

 ひとりで何も言えない、行動できないままの自分を、変えることができるって、教えてくれたのは、玲央だ。

 だから、玲央に、どうしても聞きたかったことをたずねてみよう。

「よし……! 明日、玲央に会いに行こう」

 私は一歩ふみ出して、学校帰り、病院に行くことに決めた。


 

ようやく会うことができた玲央に、ぶつかっていく決意をした心陽。
玲央とはまた会えるの? 話をして、1年前みたいにもどれるの……?
気になるつづきは、第6回「誤解(ごかい)された……?」を今すぐチェック


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\新シリーズを、先行連載でだれよりも早くおためし読み!/



作:高杉六花  絵:杏堂まい

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322166

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