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『君のとなりで。』シリーズの高杉六花さんの新シリーズ『さよならは、言えない。』を、ためし読み連載でチェックしよう!
中学1年生になったばかりの心陽(こはる)には、もう一度会いたい、ぜったいにわすれられない人がいて……。
会いたいのに、会えない。伝えたいのに、伝えられない――切なくて苦しいけれど、大切にしたい想いの物語が、はじまります。
何も言えない、何もできなかったころの自分から『変わる』ことをあらためて心に決めて、玲央(れお)に会いにいくことにいた心陽。
はなればなれの間の1年間に、いったい玲央に、何が起こったの……?
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誤解(ごかい)された……?
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次の日、学校が終わり、部活に行く香奈(かな)を見送ると、私は学校を飛び出した。
これから、美咲野(みさきの)病院に行って、玲央(れお)に直接聞くんだ。
どうして、手紙を返してくれなくなったの?って。
――言いたいことを、きちんと言える私になる。
それは、あの日、玲央を約束したことだから。
私は、制服のポケットから、玲央からもらったお守りのバッジを取り出した。
いのるようににぎりしめて、またポケットに戻す。
「よし、行こう」
意を決して、私は美咲野病院に向かった。
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ひとりで病院に行くなんて初めてだから、ドキドキする。
きのうと同じく、玲央の病室のある階に行って、ナースステーションに立ちよった。
面会の相手の名前には、『青山玲央(あおやまれお)』。面会者の名前は、『山口心陽(やまぐちこはる)』と書く。
……どうしよう。緊張してきた。
長いろうかをゆっくり歩いて、一番奥を目指す。
特別室にたどりついた私は、ドアの前で、大きく深呼吸した。
ネームプレートには、やっぱり『青山玲央』の文字。
昨日は、一瞬しか会えなくて、おたがいおどろいておしまいだったけど。
ちゃんと会えたら、玲央ならきっと、「久しぶり!」って笑ってくれるよね。
「よし!」
自分をふるい立たせ、手の中でお守りのバッジをぎゅっとにぎる。
行け! 私! ノックするんだ!
意を決して、扉をノックしようとしたその時。
「あれ? 心陽!?」
となりの大部屋から、車いすに乗った健介(けんすけ)が出てきた。
「あっ。健介……」
健介は、私の顔を見るなり、ぱぁぁっと目をかがやかせた。
「一人でみまいに来たのか? えっ。マジ!? それって、もしかして……。俺のことが好きだから!?」
「へ!?」
な、な、なに言ってるの!?
言っている意味がすぐにはわからなくて、口をぱくぱくさせていると……。
「コホン」
後ろからせきばらいが聞こえてきた。
「!!」
振り向くと、そこに立っていたのは、玲央だった。
うそ!?
今の健介の言葉、玲央に聞かれた……!?
「あ、奥の部屋の人ですよね? すみません。今どきます」
そう言って、健介は私の腕をひっぱった。
私がろうかの真ん前に立っていたから、玲央が病室にもどれなかったんだ。
でも、私が会いたいのは健介じゃない。玲央なのに!
「あの……」
私が玲央に話しかけようとする声に、健介の声が重なった。
「すげーうれしいよ。まさか心陽が俺のこと好きなんて」
「えっ!?」
違うよ! ぜんぜん、まったく違うよ!
好きとか恋とか、よくわかんないけど、健介のことは友だちとしか思ってないのに!
「あっ、部活のみんなが来た!」
違うってちゃんと言おうとしてたのに、ろうかの向こうから、野球部の人たちがぞろぞろやってくるのが見えた。
「おーい、みんなー。こっちこっち」
うわっ!
これ以上ここにいたら、野球部の人たちに誤解(ごかい)されちゃう。
それは、絶対に避(さ)けなきゃ!!
「じゃあ、私は帰るね!」
私はくるっと回れ右をして、逃げるように早足で歩きだした。
「えっ。心陽!? ちょっと待てよ」
追いかけてこようとする健介は、そのまま、野球部の人たちにわいわい囲まれている。
私は、振り返りもせずに、ずんずんろうかを歩いた。
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やっと会えたのに
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最悪だ。玲央に誤解(ごかい)されたかもしれない。
私が健介のことを好きだって、思われていたらどうしよう。
なぜかは分からないけど、そう思われるのは絶対にイヤだった。
ぐちゃぐちゃに混乱したまま、私は病院の中を歩き続けた。
とにかく、ただ、あの場所から離れたくて、階段をのぼりつづける。
ついに、階段がとぎれた。
顔を上げると、屋上に出るドアが見えた。
そのまま、ドアノブに手をかけて、体重をかけて押し開ける。
すると、そこは……。
「わぁ……すごい」
目にとびこんできたのは、色とりどりの春の花。
病院の屋上は、小さな庭園になっていた。
「マリーゴールドに、パンジーだ」
ちょうど1年前に、北海道で、玲央と一緒に花壇(かだん)の手入れをしたことを思い出す。
『雑草抜き、けっこう大変だな。あ、ミミズ』
『ぎゃあ! 私、ミミズ苦手!』
『かむもんじゃないし、そんなにきらわなくてもいいだろ』
びっくりした私が、思わずしりもちをつくと、玲央はミミズを土に戻したあと、手を差し出して、笑いながら助け起こしてくれた。
玲央は、教室ではクールだけど、ふたりきりだとよく笑った。
そんな玲央の笑顔に、いつも元気をもらっていたんだ。
私にとっては、大切な、宝物のような思い出。
玲央は、覚えているのかな……。
ズキン、と胸の痛みを感じながら花壇を見つめていると、後ろからドアが開く音が聞こえた。
「心陽」
この声……!
ずっと、聞きたい、会いたいって思っていた、私を呼ぶ声。
はじかれたように振り向くと、玲央が立っていた。
「……玲央」
勇気を出して病院に行ったのに、そこで起こったのは、誤解(ごかい)されそうな大ピンチ!?
どうしようもない状況だったけど、玲央は心陽を追いかけて、会いにきてくれた――。
玲央は、心陽にいったい何を話すの? この1年間の間に、玲央に、いったい何があったの!??
続きは本でチェックしてね。
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