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『君のとなりで。』シリーズの高杉六花さんの新シリーズ『さよならは、言えない。』を、ためし読み連載でチェックしよう!
中学1年生になったばかりの心陽(こはる)には、もう一度会いたい、ぜったいにわすれられない人がいて……。
会いたいのに、会えない。伝えたいのに、伝えられない――切なくて苦しいけれど、大切にしたい想いの物語が、はじまります。
1年前、心陽(こはる)が『思っていることをきちんと言える自分になりたい』、『勉強をがんばりたい』と思うきっかけをくれた、玲央(れお)との出会い。
でも、ふたりの間に、別れのときがやってきて――?
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お別れと約束
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この日をきっかけに、私と青山くんは、たくさん話すようになった。
いっしょに花壇(かだん)の世話をして、笑い合って、毎日楽しくて。
青山くんの家に招待してもらったこともあった。
りっぱな門と、広い庭の奥にある、すてきな洋館。
青山くんのお母さんやお父さんはいなくて、執事(しつじ)さん、なのかな?
上品なおじいさんが、おいしい紅茶をいれてくれたんだ。
やっぱり青山くんは、私とはぜんぜんちがう世界の人なんだな、って思ったりしたけれど。
青山くんはそんなのぜんぜん気にしてないみたい。
私に、いつもしっかり向き合ってくれた。
そして、いつの間にか、私と青山くんは、「心陽」「玲央」って呼び合うほど仲良くなっていたんだ。
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でも――……。
玲央とのお別れは、あっけなくやってきた。
小6の夏休み、私は、東京へ転校することになったんだ。
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放課後、学校の近くの公園で、私は玲央とならんでブランコにゆられていた。
北海道の夏の始まりの夕方は、ぐんと気温が下がってはだざむい。
風が静かに吹き抜けていって、私たちの髪をなびかせていく。
「東京か……。遠いな」
「うん。飛行機じゃないと行けないし……」
北海道から東京は、海を越えなくてはいけないから、とても遠い。
もう会えなくなっちゃうんじゃないかって、悲しくて不安で泣きそうだよ。
玲央と仲良くなれてから、3ヶ月。
毎日たくさん話をした。
時には、こうやって公園で待ち合わせをして、いっしょに本を読んだり、勉強を教えてもらったりもした。
これからもずっといっしょにいられるって、あたりまえのように思ってたんだ。
私は、はぁ……とため息をつく。
となりのブランコに座っている玲央が、ぽんと頭をなでてくれた。
「そんなに落ちこむなよ」
「だって……。夏休み中に引っ越しなんて、ショックすぎるよ。夏祭りとか、花火大会とか、海とか……。ほかにも、玲央といっしょに行きたい場所も、やりたいこともたくさんあったのに!」
「まぁな」
「それに……。私、玲央のおかげで、少しだけ自分に自信を持てるようになったんだよ。でも、玲央とはなれちゃったら、また元通りの自分になっちゃいそう。いま、玲央に、さよならなんて、言いたくないよ」
あの日、玲央が背中を押してくれたみたいに、自分の思っていることをはっきり言うことは、まだできていないけれど。
でも、いやなものはいやだって、言えるようになってきたところだったんだ。
「……」
ブランコをゆらしていた玲央が、ピタッと止まった。
「玲央?」
急にどうしたんだろう。
視線を向けると、玲央はズボンのポケットから、小さな箱を取り出した。
「心陽。……これ、見て」
ふたを開けると、王冠(おうかん)のバッジがかがやいている。
「玲央、これって……!」
目を見開いた私は、バッジにクギづけになった。
ウワサでは聞いていたけど、実物を見るのは初めて!
「これ、模試で、一年間の成績が全国1位になったらもらえるバッジじゃない!?」
「そうだよ」
さらっとそう言えちゃう玲央がすごい。
玲央に『俺をこえてみろ』って言われてから、3ヶ月。
いっしょに勉強して、すごくがんばったけど、夏休みの模試の結果はさんざんだった。
玲央みたいに、全国1位を1年間取りつづけるのって、やっぱり、ものすごいことなんだ。
かっこいいな、玲央は。
キラキラかがやくバッジがよく似合う。
「初めて実物を見たよ! すっごくかっこいいね」
「これ、心陽にやるよ」
「え!? 玲央、なに言ってるの?」
全国1位の人しかもらえない、とっても貴重(きちょう)なバッジだよ。
全国の小学生があこがれてるバッジだし、玲央の努力の結晶(けっしょう)なのに!
「こんな大切なもの、もらえないよ!」
「もうひとつ持ってるんだ」
そう言って、もうひとつ箱を取り出す。
玲央の手の上で、おそろいの2つのバッジが、キラキラとかがやいていた。
「へっ? もしかして、4年生も5年生も1位だったの?」
「うん」
2年連続全国1位って、すごすぎるよ!
「玲央ってやっぱり、特別な人だよ」
「でも、心陽は俺をこえるんだろ?」
ちょっぴりいじわるに笑う玲央に、私は大きくうなずいた。
「もちろん! いつか絶対、玲央をこえるよ!」
ぐっとこぶしをにぎりしめて宣言すると、玲央は優しい顔で笑った。
「じゃあ……いつか、心陽が自分でバッジを取ったら、返してくれればいいよ。心陽が1位をとるまで、待ってるから」
「……っ」
「それに、俺は、心陽に渡したのとおそろいの、もうひとつのバッジを見て、心陽もきっと、どこかでがんばってるんだな、って思うことにするよ。だから、心陽ががんばってるとき、きっと俺もがんばってる。俺たち、離れてもがんばれるよな?」
「……玲央」
玲央は、私をはげまそうとしてくれてるんだ。
玲央の優しさを受け止めるように、私は玲央の目をまっすぐに見つめた。
「うん! がんばる。ありがとう、玲央」
玲央は、私の手にキラキラしたバッジをのせてくれた。
「うまくいかないとき、へこたれそうなときは、これ見てがんばれ」
「うん。お守りにするね」
手でつつんで優しくにぎると、なんだって乗り越えられる気がしてきた。
「東京と北海道は離れてるけど、この空はつながってる。同じ空の下で、いっしょにがんばろう。目指すところは同じだ」
「うん!」
「それに、離れていたって、手紙でやりとりすればいい」
「たしかに、そうだね。それに、中学生になってスマホを持ったら、電話だって、メッセージだってできるようになるよね」
「そうだな。心陽に『さよなら』なんて、言わせてやらないよ」
そう言うと、玲央は、いたずらっぽく口のはしを上げて笑った。
とつぜんの転校で、目の前が真っ暗だったけれど、玲央と私は、これでさよならじゃない。
私たちは、これからもずっと、いっしょにがんばっていけるんだ。
目の前が、いっきに明るくなったんだ。
「……心陽」
優しい声で名前を呼ばれて、となりを見ると。
玲央は、まっすぐ私を見つめていた。
「お前が、いつもがんばってること、俺はちゃんと知ってるから」
「……うん」
「初めて話したときみたいに、心陽は、自分がなりたい自分になれるし、この先何があっても乗りこえられるって、覚えておいて」
玲央のまなざしが、ぐっとやさしくなる。
「俺は、いつも、どこにいても、心陽を応援(おうえん)してるから」
「玲央……」
玲央がそんな優しいことを言うから、ずっとこらえていた涙がこぼれてしまうよ。
ふるえる口で、私は、今一番伝えたいことを言った。
「私、玲央と離れても、がんばる。だから、いつかまた絶対に会おうね」
「ああ。またいつか、きっと会おう」
「きっとじゃなくて、絶対! 夏祭りも、花火大会も、海も、いつか行こうね。はい、約束!」
ずいっと小指を突き出すと、玲央は「はいはい」って笑いながら小指を出した。
「うん。約束だ」
そうして、私たちは約束の指切りをしたんだ。
元気満タンになった私は、ブランコからいきおいよく飛び降りた。
「よし、帰ろう!」
玲央は苦笑しながら、ゆっくりブランコから降りる。
「気をつけろよ。ころんでケガするぞ」
「わかってるって」
仲良くなってからいつも、つまずいてころびそうになったときは、玲央に支えてもらってた。
でも、引っ越したら、支えてくれる玲央はいない。
「転ぶのは、また玲央に会えたときにする」
「いや、転ぶなよ。あぶないだろ」
顔を見合わせた私たちは、金色の夕日を浴びて、たくさん笑った。
またきっと、玲央に会って、こうやって笑い合いたいな。
いつかの未来、もっと自信を持って玲央といっしょにいたいって、そう思ったんだ。
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引っ越しをして、玲央とはなればなれになっても、文通は続いた。
新しい学校になれることも、友だちづくりも、勉強も、大変だったけど。
玲央からもらったバッジと手紙に支えられて、がんばれたんだ。
でも……。
玲央からの手紙の返事は、どんどんおそくなっていって――……。
冬が始まるころには、とうとう返事がこなくなってしまった。
ついには、私が送った手紙も、宛先(あてさき)不明でもどってきてしまったんだ。
玲央、どうしたの?
私は、玲央がきっと遠い北海道でがんばってるって思って、がんばったよ。
……いっしょにがんばろうって約束した玲央は、いま、どうしてるの?
『いつかまた絶対に会おう』って、ゆびきりしたあの約束を、忘れてしまったの?
『さよなら』なんて言わせてやらないって言ったのは、玲央なのに。
心の中で何度問いかけても、答えは返ってこない。
それでも私は、玲央を忘れることなんてできなかった。
それから、私はバッジをお守りにして、受験勉強をがんばった。
結果は、無事に合格!
あこがれの『私立里見中学校』に入学することができた。
今の私があるのは、玲央と出会ったおかげ。
「玲央……」
今でも私は、約束のバッジをながめては、玲央を想い続けているんだ。
はなれても、同じ気持ちでがんばっていく約束をした心陽と玲央。
それなのに、なぜか、玲央からの連絡はとだえてしまって……。
再会を願いつづける心陽に、このあと、奇跡が起こります!
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