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ものがたり

【先行連載】『さよならは、言えない。』ためし読みれんさい! 第4回 お別れと約束


『君のとなりで。』シリーズの高杉六花さんの新シリーズ『さよならは、言えない。』を、ためし読み連載でチェックしよう!


中学1年生になったばかりの心陽(こはる)には、もう一度会いたい、ぜったいにわすれられない人がいて……。
会いたいのに、会えない。伝えたいのに、伝えられない――切なくて苦しいけれど、大切にしたい想いの物語が、はじまります。

1年前、心陽(こはる)が『思っていることをきちんと言える自分になりたい』、『勉強をがんばりたい』と思うきっかけをくれた、玲央(れお)との出会い。
でも、ふたりの間に、別れのときがやってきて――? 



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お別れと約束

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 この日をきっかけに、私と青山くんは、たくさん話すようになった。

 いっしょに花壇(かだん)の世話をして、笑い合って、毎日楽しくて。

 青山くんの家に招待してもらったこともあった。

 りっぱな門と、広い庭の奥にある、すてきな洋館。

 青山くんのお母さんやお父さんはいなくて、執事(しつじ)さん、なのかな? 

 上品なおじいさんが、おいしい紅茶をいれてくれたんだ。

 やっぱり青山くんは、私とはぜんぜんちがう世界の人なんだな、って思ったりしたけれど。

 青山くんはそんなのぜんぜん気にしてないみたい。

 私に、いつもしっかり向き合ってくれた。

 そして、いつの間にか、私と青山くんは、「心陽」「玲央」って呼び合うほど仲良くなっていたんだ。

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 でも――……。

 玲央とのお別れは、あっけなくやってきた。

 小6の夏休み、私は、東京へ転校することになったんだ。

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 放課後、学校の近くの公園で、私は玲央とならんでブランコにゆられていた。

 北海道の夏の始まりの夕方は、ぐんと気温が下がってはだざむい。

 風が静かに吹き抜けていって、私たちの髪をなびかせていく。

「東京か……。遠いな」

「うん。飛行機じゃないと行けないし……」

 北海道から東京は、海を越えなくてはいけないから、とても遠い。

 もう会えなくなっちゃうんじゃないかって、悲しくて不安で泣きそうだよ。

 玲央と仲良くなれてから、3ヶ月。

 毎日たくさん話をした。

 時には、こうやって公園で待ち合わせをして、いっしょに本を読んだり、勉強を教えてもらったりもした。

 これからもずっといっしょにいられるって、あたりまえのように思ってたんだ。

 私は、はぁ……とため息をつく。

 となりのブランコに座っている玲央が、ぽんと頭をなでてくれた。

「そんなに落ちこむなよ」

「だって……。夏休み中に引っ越しなんて、ショックすぎるよ。夏祭りとか、花火大会とか、海とか……。ほかにも、玲央といっしょに行きたい場所も、やりたいこともたくさんあったのに!」

「まぁな」

「それに……。私、玲央のおかげで、少しだけ自分に自信を持てるようになったんだよ。でも、玲央とはなれちゃったら、また元通りの自分になっちゃいそう。いま、玲央に、さよならなんて、言いたくないよ」

 あの日、玲央が背中を押してくれたみたいに、自分の思っていることをはっきり言うことは、まだできていないけれど。

 でも、いやなものはいやだって、言えるようになってきたところだったんだ。

「……」

 ブランコをゆらしていた玲央が、ピタッと止まった。

「玲央?」

 急にどうしたんだろう。

 視線を向けると、玲央はズボンのポケットから、小さな箱を取り出した。

「心陽。……これ、見て」

 ふたを開けると、王冠(おうかん)のバッジがかがやいている。

「玲央、これって……!」

 目を見開いた私は、バッジにクギづけになった。


 ウワサでは聞いていたけど、実物を見るのは初めて!

「これ、模試で、一年間の成績が全国1位になったらもらえるバッジじゃない!?」

「そうだよ」

 さらっとそう言えちゃう玲央がすごい。

 玲央に『俺をこえてみろ』って言われてから、3ヶ月。

 いっしょに勉強して、すごくがんばったけど、夏休みの模試の結果はさんざんだった。

 玲央みたいに、全国1位を1年間取りつづけるのって、やっぱり、ものすごいことなんだ。

 かっこいいな、玲央は。

 キラキラかがやくバッジがよく似合う。

「初めて実物を見たよ! すっごくかっこいいね」

「これ、心陽にやるよ」

「え!? 玲央、なに言ってるの?」

 全国1位の人しかもらえない、とっても貴重(きちょう)なバッジだよ。

 全国の小学生があこがれてるバッジだし、玲央の努力の結晶(けっしょう)なのに!

「こんな大切なもの、もらえないよ!」

「もうひとつ持ってるんだ」

 そう言って、もうひとつ箱を取り出す。

 玲央の手の上で、おそろいの2つのバッジが、キラキラとかがやいていた。

「へっ? もしかして、4年生も5年生も1位だったの?」

「うん」

 2年連続全国1位って、すごすぎるよ!

「玲央ってやっぱり、特別な人だよ」

「でも、心陽は俺をこえるんだろ?」

 ちょっぴりいじわるに笑う玲央に、私は大きくうなずいた。

「もちろん! いつか絶対、玲央をこえるよ!」

 ぐっとこぶしをにぎりしめて宣言すると、玲央は優しい顔で笑った。

「じゃあ……いつか、心陽が自分でバッジを取ったら、返してくれればいいよ。心陽が1位をとるまで、待ってるから」

「……っ」

「それに、俺は、心陽に渡したのとおそろいの、もうひとつのバッジを見て、心陽もきっと、どこかでがんばってるんだな、って思うことにするよ。だから、心陽ががんばってるとき、きっと俺もがんばってる。俺たち、離れてもがんばれるよな?」

「……玲央」

 玲央は、私をはげまそうとしてくれてるんだ。

 玲央の優しさを受け止めるように、私は玲央の目をまっすぐに見つめた。

「うん! がんばる。ありがとう、玲央」

 玲央は、私の手にキラキラしたバッジをのせてくれた。

「うまくいかないとき、へこたれそうなときは、これ見てがんばれ」

「うん。お守りにするね」

 手でつつんで優しくにぎると、なんだって乗り越えられる気がしてきた。

「東京と北海道は離れてるけど、この空はつながってる。同じ空の下で、いっしょにがんばろう。目指すところは同じだ」

「うん!」

「それに、離れていたって、手紙でやりとりすればいい」

「たしかに、そうだね。それに、中学生になってスマホを持ったら、電話だって、メッセージだってできるようになるよね」

「そうだな。心陽に『さよなら』なんて、言わせてやらないよ

 そう言うと、玲央は、いたずらっぽく口のはしを上げて笑った。

 とつぜんの転校で、目の前が真っ暗だったけれど、玲央と私は、これでさよならじゃない。

 私たちは、これからもずっと、いっしょにがんばっていけるんだ。

 目の前が、いっきに明るくなったんだ。

「……心陽」

 優しい声で名前を呼ばれて、となりを見ると。 

 玲央は、まっすぐ私を見つめていた。

「お前が、いつもがんばってること、俺はちゃんと知ってるから」

「……うん」

「初めて話したときみたいに、心陽は、自分がなりたい自分になれるし、この先何があっても乗りこえられるって、覚えておいて」

 玲央のまなざしが、ぐっとやさしくなる。
 
「俺は、いつも、どこにいても、心陽を応援(おうえん)してるから」


「玲央……」

 玲央がそんな優しいことを言うから、ずっとこらえていた涙がこぼれてしまうよ。

 ふるえる口で、私は、今一番伝えたいことを言った。

「私、玲央と離れても、がんばる。だから、いつかまた絶対に会おうね」

「ああ。またいつか、きっと会おう」

「きっとじゃなくて、絶対! 夏祭りも、花火大会も、海も、いつか行こうね。はい、約束!」

 ずいっと小指を突き出すと、玲央は「はいはい」って笑いながら小指を出した。

「うん。約束だ」

 そうして、私たちは約束の指切りをしたんだ。

 元気満タンになった私は、ブランコからいきおいよく飛び降りた。

「よし、帰ろう!」

 玲央は苦笑しながら、ゆっくりブランコから降りる。

「気をつけろよ。ころんでケガするぞ」

「わかってるって」

 仲良くなってからいつも、つまずいてころびそうになったときは、玲央に支えてもらってた。

 でも、引っ越したら、支えてくれる玲央はいない。

「転ぶのは、また玲央に会えたときにする」

「いや、転ぶなよ。あぶないだろ」

 顔を見合わせた私たちは、金色の夕日を浴びて、たくさん笑った。

 またきっと、玲央に会って、こうやって笑い合いたいな。

 いつかの未来、もっと自信を持って玲央といっしょにいたいって、そう思ったんだ。

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 引っ越しをして、玲央とはなればなれになっても、文通は続いた。

 新しい学校になれることも、友だちづくりも、勉強も、大変だったけど。

 玲央からもらったバッジと手紙に支えられて、がんばれたんだ。

 でも……。

 玲央からの手紙の返事は、どんどんおそくなっていって――……。

 冬が始まるころには、とうとう返事がこなくなってしまった。

 ついには、私が送った手紙も、宛先(あてさき)不明でもどってきてしまったんだ。

 玲央、どうしたの?

 私は、玲央がきっと遠い北海道でがんばってるって思って、がんばったよ。

 ……いっしょにがんばろうって約束した玲央は、いま、どうしてるの?

『いつかまた絶対に会おう』って、ゆびきりしたあの約束を、忘れてしまったの?

『さよなら』なんて言わせてやらないって言ったのは、玲央なのに。

 心の中で何度問いかけても、答えは返ってこない。

 それでも私は、玲央を忘れることなんてできなかった。

 それから、私はバッジをお守りにして、受験勉強をがんばった。


 結果は、無事に合格!

 あこがれの『私立里見中学校』に入学することができた。

 今の私があるのは、玲央と出会ったおかげ。

「玲央……」

 今でも私は、約束のバッジをながめては、玲央を想い続けているんだ。

                  
  
 

はなれても、同じ気持ちでがんばっていく約束をした心陽と玲央。
それなのに、なぜか、玲央からの連絡はとだえてしまって……。
再会を願いつづける心陽に、このあと、奇跡が起こります!
次回 第5回「キセキの再会」を今すぐチェック


『さよならは、言えない。② ずっと続くふたりの未来へ』のためし読み公開中!




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\新シリーズを、先行連載でだれよりも早くおためし読み!/



作:高杉六花  絵:杏堂まい

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322166

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『君のとなりで。(1)~(9)』も好評発売中!


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