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ものがたり

怪盗レッド スペシャル 第11話 アスカの誕生日

           

 

 誕生日パーティーが終わって、わたしは実咲たちとわかれると、家に向かう。

 お父さんは、片づけをしてから帰るらしい。

 わたしも手伝おうかと言ったんだけど、お店のキッチンには、部外者は勝手に入れないことになっているんだって。

 それで、1人で家に向かって、歩いているところだったんだけど……。

 少し先の道のはしに、あやしい男が立っていた。

 (ぼう)()をやけに()(ぶか)にかぶって、色の濃いサングラスをかけている。

 帽子からはみだしているのは、きれいな金髪だ。

 (けい)(かい)するなっていうほうが、無理がある。

 だけど、わたしはそのあやしい男のところへ、スタスタと近づいていく。

「…………ここで、なにしてるわけ?」

 わたしは、ジト目であやしい男を見る。

「有名人には(へん)(そう)も必要でね」

 男がサングラスをずらすと、そこには思ったとおり、(かい)(とう)ファンタジスタこと、(おり)()(きよう)()の整った顔が見えた。

 本当に、こんなところでなにをしてるんだろう? この人……。

「それで、なんの用? またラドロからの連絡?」

 最近は、ラドロの連絡役として、わたしに会いにくることが多い。

「つれないなぁ。今日は子猫ちゃんの誕生日だときいてね。お祝いにお茶でもどうかなと思って」

「ことわるって、わかってて言ってるでしょ」

 わたしは、ため息をついて恭也を見る。

「そんなこともないんだけどな。とにかく、お祝いぐらいは受けてくれるだろう?」

「なに?」

 わたしは、警戒する。

 恭也のお祝いなんて、ろくなことじゃない気がしちゃうんだけど……。

 恭也は、きざなしぐさで、左手をわたしの目の前まであげると、そこで、くるりと手首をひねってみせる。

 ポンッ!

 すると、手のひらの上に、小さなくまのぬいぐるみがあらわれる。

 恭也が得意なマジックだ。

「誕生日おめでとう、子猫ちゃん」

 恭也が、うやうやしく頭を下げて、ぬいぐるみをわたしてくる。

「……ありがとう」

 わたしは、ぬいぐるみを受けとる。

 ここまでくれば、恭也にほかに(ねら)いがなさそうなのは、なんとなくわかる。

「それじゃあ」

 恭也は、わたしがぬいぐるみをうけとると、すぐにくるりと背を向ける。

「もう行くの?」

「用事は、これだけだからね」

 恭也は、背中()しにひらひらと手をふって、そのままさっていく。

 本当に、わたしの誕生日のお祝いのためだけに、きてくれたんだ。

 なんだか調子がくるっちゃうけど、うれしいのは、まちがいない。

 ――ありがとう、恭也。

 もう見えなくなった、恭也に向けて、わたしは心の中で、もう一度お礼を言った。

 

           

 

 家に帰ると、ケイが部屋にいる。

 いつもと変わりなく、パソコンに向かって、キーボードをたたいている。

 ま、ケイは変わるわけないよね。

 わたしは、そんなふうに考えつつ、もらったプレゼントをながめたり、トークアプリで送られてくる「おめでとう」のメッセージに返事をしたりして、時間をすごした。

 夜になって夕食とお風呂をすませてから、自分のベッドに入る。

 ケイは、変わらずにパソコンに向かっている。

「はあ~あ」

 わたしは、すぐに眠気がおそってきて、ぐっすりと眠りについた。

 それから……どれぐらい眠っていただろう?

「――――――ハッピーバースデー、アスカ」

 ん?

 今、ケイの声がきこえたような……。

「……あ~~うん……?」

「…………いつもありがとう」

 えっ?

わたしは一瞬だけ目が覚めたような気がするけど、すぐにまた眠りに落ちてしまった。

 

           

 

「んん~」

 窓からさしこむ朝日に、わたしは目を覚ます。

 ベッドから上半身だけ起こして、ぼんやりと考える。

 あれ、昨日の夜、ケイに話しかけられたような気がするけど……。

 夢だったのかな。でも、たしかにきこえた気がする。

 ……って、待って!

「ケイがわたしに『ハッピーバースデー』って言った!? まさか!……夢? 現実? ええっ、寝ぼけてたからどっちかわかんないよ!」

 わたしは、ベッドの上で頭をかかえる。

 記憶が、ぼんやりしてる。どうしたら……。

「そうだ、ケイに直接、きけばいいんだ!」

 わたしは二段ベッドからおりて、下をのぞく。

 そこには、ケイがすやすやと、寝息をたてて眠っている。

「ねえ、ケイ。昨日の夜、わたしになにか言わなかった?」

 わたしは、ケイの肩をゆらして起こそうとする。

「…………」

 だけど、ケイはまったく起きる気配がない。

「ケイが眠ったら、午前中はまともに話せないんだった……。しかも起きないし!」

 わたしは、さらに頭をかかえる。

「ああもう! あれは夢だったの!? 現実だったの!? 気になるよぉ~!!」

 

 アスカ、誕生日おめでとう! 
 おそくなっちゃったけど、記録係からの誕生日プレゼントです。
 アスカとも長い付き合いになったけれど、これからもよろしく。
 怪盗レッド20巻でも、活躍を期待してるよ。
 記録係・秋木真より


おわり

【怪盗レッドスペシャルはまだ続くよ、お楽しみに!】

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