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ものがたり

【先行連載】第10回つばさ文庫小説賞《金賞》受賞作『泣き虫スマッシュ!』第2回


第10回角川つばさ文庫小説賞《金賞》受賞作☆
大注目の新シリーズをひと足はやく公開中!
泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』は、2022年11月9日発売予定です!

 



※前回のお話を読む


あたしが急にさけんだので、千里(ちさと)はびっくりしている。

「な、なに?」

「あたし、東京に遊びに行かない。千里とも会わない」

 ズバッと言うと、千里は「えっ」と固まってしまった。

「次に千里と会うのは、全国大会で、だよ。それまでは会わないって決めた」

「ああ、なるほどね。……いいね、そういうのも」

 千里がほほ笑む。余裕(よゆう)だね。

 でも、決めたのはそれだけじゃない。

「全国大会に出て千里に勝つよ、あたし」

「いや、奈央(なお)じゃむりだよ」

「はっきり言ってくれるね! ……シングルスは、そうかもね」

 痛いくらいに、わかってる。一番近くで千里のプレーを見てきたから。

「けど、ダブルスだったらわかんないよ。あたし、新しくペアを組む相手を香川で見つける」

 まっすぐ千里の目を見て、言った。

「全国大会ではダブルスで勝負だよ。負けないからね!」

「……うん」

 あたしが本気だってわかったのか、千里はもう笑っていなかった。

 

 千里にダブルスで勝とうと思ったら、パートナーが必要だ。

 あたしだからこそ輝けるパートナーが。そして、あたしを輝かせてくれるパートナーが。

 そんな子が香川にいるか、わからない。

 でも、大きな目標があるからこそ、やる気がわいてくるってもんじゃないの!

 

 千里の向こう側に目を向けてみる。

 ガラスばりの建物の外側には、雲ひとつない青空が広がっていた。

 

※     ※     ※

 

「つまり、あたしとペアを組む女子がいない……ってこと!?」

 

 年が明けて、一月。お正月気分は抜けたけど、まだ冬休み期間中だ。

 香川へ引っ越して『美空(みそら)バドミントンクラブ』の練習に初めて参加している。

 学校の体育館よりややせまい練習場に集まった小学生は、あたしをふくめて男女合計二〇人。

 今日からこのクラブの一員ってことで、みんなとおたがいに自己紹介したんだけど……そこでショーゲキの事実が判明してしまった。

 あたしと同じくらいの年ごろに見えた女子四人が、みんな一つ上の六年生だったんだよね。

 つまり、もうすぐ小学校を卒業しちゃうわけ。

 他に女子はといえば……背が低いあたしよりも、さらに小さな女の子ばかりが五人。聞けば、みんな二年生以下なんだって。

 

 そうなると、あたしとペアを組む相手がいないっ!

 さすがに体の大きさも実力も差がありすぎるし、そもそも三学年も下の子とはペアを組めない大会が多いと思うし……。

 

 いや、問題はそれだけじゃない。

「青葉(あおば)カップって、どうなるの……?」

 あたしが疑問を口にすると、

「あ~、七人いないと出られないもんね。わたしたちは去年、低学年の子もふくめてなんとか予選に出ることができたけど」

 と、六年生の子がのんびりした声で言った。

 青葉カップっていうのは、毎年夏に京都で行われる小学生バドミントンの全国大会。クラブ単位で戦うんだ。

 男女別に、ダブルス二試合、シングルス三試合で行われる。

 つまり、女子だけで七人の選手がいることが県予選へ出場するために必要になる……。

「ダメじゃーん! 女子が足りない! 予選に出ることもできないじゃん!」

「わあ、『じゃん』って本当に言うんだ、東京の子って」

「本場(ほんば)もんだ、本場もん」

 あたしがさけぶと、六年生の子たちは楽しそうにキャッキャしていた……。

 

※     ※     ※

 

 初めての練習が終わった。ラケットバッグをせおって、夕方の商店街を一人でぶらぶらと駅へ向かって歩く。さすが香川、うどん屋が多いね……。

 まだ見なれない光景の中でも、頭に浮かぶのはやっぱり女子が足りないっていう問題のことだ。

 

 青葉カップが夏。ということは県予選はもっと早く行われるわけで、出場の申し込みしめ切りはもっともっと早くて、三月末なんだって。

 卒業しちゃう六年生をのぞいて、美空バドミントンクラブに女子は六人。一人足りない!

 あたしはもちろん、低学年の子が試合を経験するためにも、大会出場まではこぎつけたいんだ。

 そして、できればあたしと同じ五年生が入ってくれればうれしい。

 やっぱり、ペアを組んでダブルスで大会に出たいからね! 千里に宣言(せんげん)したし……!

 明日から、三学期が始まる。

 学校で、運動神経(しんけい)が良さそうな子をスカウトしてみようかな。

 

 そんなことを考えながら商店街の長いアーケードを出たとき、とても目立つ女の人が前から歩いてくるのが見えた。

 

 背が高い!

 

 一七〇センチ以上あるんじゃないかな。きれいな黒髪を長く伸ばしていて、脚も長い。

 モデルさんかな? と思っちゃった。美人さんだったし。

 メイクなんかはほとんどしてなさそうだけど……。

 あたしもこれくらい身長があれば……って、うらやましく思ったときだった。

 

「いやあああああぁぁぁぁっ!」

 

 どこからか、女の人のものすごい悲鳴が聞こえてきたので、足を止めた。

 周りを見ると、他の通行人も立ち止まり、何ごとかときょろきょろしている。

「あ! 上だ!」

 だれかの声につられて上を見る。目に入った光景に、ゾッとした。

 

 マンションの七階だか八階あたりのベランダを、小さな子が乗りこえようとしている!

 

 よく見えないけど、手に何か持っているようだ。

「こっちへ! こっちへ来て、早くっ!」

 母親らしき女の人のさけび声が、また聞こえてきた。

 た、大変だ……!

 スマホから救急車を呼んでいる人もいるけど、たぶん、落ちてしまったら間に合わない!

 

 そう思ったとき、何かがベランダから落ちた。
 

 

<第3回へとつづく>(10月26日公開予定)

※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。


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『泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』11月9日発売!

信じてみてよ、二人だからできること! 

あたし奈央! バドミントンが大好きな小学5年生。
二人で一つのチームを組む「ダブルス」の大切な試合、あたしのせいで負けちゃった。
けれど、このままじゃ終われない!

転校先で出会ったのは、トクベツな才能(!?)をもった、ことりちゃん。
最高の新しいパートナーを見つけた!
でも「スポーツはもう絶対にしない」って完全キョヒ!?
それには、あたしと同じように、「らしさ」を押し付けられたことが関係していて? 

「好き」のために一歩をふみ出したいキミへ、勇気をくれる応援ストーリーです!!


作:平河 ゆうき 絵:むっしゅ

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322067

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