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特別ためし読み 『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』第4回 「いじめ」の裏に隠れたトラブルが見えてきて…?

73万部突破の『こども六法』、待望の小説版!
いじめ、ブラックバイト、DV……法律の知識と思考力で、事件を解決することはできるのか!?
自分を守る力がつく法律エンタメ、ためし読み4回目は、「いじめ」の裏に隠れたトラブルが見えてきて…?


 第1~3回を読みたい人は…


 藤沢と藤沢のお母さんが帰った後、チー姉は珍しく、自分のデスクでしばらく何か考えこんでいる様子だった。
 そんなチー姉に冷蔵庫で冷やしておいたほうじ茶を差し出しながら、ボクはたずねた。
 ──さっきの話、どう思う?
「残念ですけど、『証明』にはまったくなってませんでしたね」
 チー姉の返答はそれだった。
「まとめると、『私はそんなことしてない』、でした。むしろ、先生たちに訴えたっていう先輩たちの話の方が真実味はありそうです。こういう時、先生だって、何の根拠もなしに藤沢さんのことを疑ったりはしないものですからね」
「だけど、あの子、昔、自分がいじめられた経験があるから、いじめられる辛さを知ってるって」
「祐君、間違えないように。それを口にしたのは、藤沢さん本人じゃなく、お母さんの方ですよ」
「……そう、だったね」
「第一、その理屈が通るなら、誰かに殴られた経験のある人は、暴行事件や傷害事件を起こさないことになってしまいます。自分がやられて嫌なことは他人にしない──道徳の指導としては正しいですけど、そういう指導が存在する時点で、それを実践できない人も世の中には多いってことです」
 そっか。
 けど、仮にそうだとしたら、どうして姫崎は先生たちに何も話さないんだろう?
 それこそ、自分をいじめてたっていう藤沢恭子のことが怖いから?
 それとも──。


 翌日、放課後になると、ボクは校舎の玄関の前で、帰ろうとしていた一人の男子生徒を呼びとめた。
「藤沢と姫崎? ああ」
 その男子生徒は、少し迷惑そうな顔をしながらも、話には応じてくれた。
 名前は、舘林達哉。
 知ってる人の間では、「カンタツ」のあだ名で呼ばれることが多い。今はボクとクラスが違うけれど、小学生のころ、一度だけ同じクラスになったことがある。で、実は美術部の唯一の男子部員。これは浩二から聞いた話なんだけど、うちの学校の美術部って、そんなに人気があるわけじゃなくて、一年生の部員は姫崎と藤沢と、このカンタツの三人。あと、三年生はいなくて、二年生の女子の先輩が数人いるだけなんだって。
「ファイッ、オー! ファイッ、オー!」
 グラウンドの方角から、運動部のかけ声が聞こえる。
 ボクらが今いるのは、そのグラウンドから少し離れた場所にある図書館棟の裏手だった。図書館の入口側と違って、生徒がわざわざ通りかかるような場所じゃない。無関係な人にはあんまり聞かれたくない話だったから、ボクがカンタツをここまで連れてきたのだ。
 そのカンタツはボクから「藤沢と姫崎のことなんだけど」と切り出されると、すぐに何かに思い当たったようにうなずいた。
「そっか。久家も知ってるんだ」
「え?」
「あれだろ? 藤沢が姫崎に万引きさせたって話だろ?」
 いきなり核心をついた話を持ち出されて、さすがにボクは目をしばたたかせた。
「えっと……やっぱり本当なんだ、それって」
「らしいよ。オレもスマホで見たもん。藤沢がシャベッターの鍵垢でそれっぽいこと、つぶやいてるの」
 シャベッターは広く普及している短文投稿型のSNSだ。書きこんだ内容は基本的に誰でも見ることができるけれど、アカウントに制限をかけて、特定の人にしか見えなくすることもできる。そういう制限をかけたアカウントのことを、鍵をかけたアカウント、略して鍵垢って呼ぶ人もいる。
「姫崎の名前とかは、さすがに出してなかったけどさ。他はかなり匂わせてたんだよな、藤沢のやつ。『冗談で言っただけなのに、ホントにパクった』とか、『ヤバ、あいつ、退学になるかも』みたいなこと、悪ノリした感じで。先生にバレたあとは、あわてて書きこみ自体、消してたけど」
 なるほど。
 それじゃ、先生たちも疑うわけだ。
 もちろん、シャベッターだとアカウント乗っ取りみたいなケースもあるから、100%確実な証拠とは言えない。ただ、カンタツの話じゃ、藤沢はシャベッターでつぶやくだけじゃなく、似たような話を笑い話にして、同じクラスの男友達とかにも吹聴してたんだそうだ。ネットに加えて、リアルの証言。これじゃ、さすがに言い逃れのしようがない。あと、これはボクの想像だけど、そのことは多分、藤沢本人も分かってるんじゃないだろうか。昨日、うちの事務所でチー姉と話をしていた時のあの態度。熱くなっているお母さんの手前、「やってない」って一度否定してしまった自分の言葉を撤回することもできなくて、引っこみがつかなくなってるだけのようにも見えたし。
「久家も、藤沢のあの書きこみ、見たのか?」
「あーいや、ボクは」
 逆にたずねられて、ボクは少し言葉を濁した。
「そっちは知らなかったけど……知り合いから、そういう話を聞いてさ」
 藤沢のお母さんの相談をチー姉が受けたのは、チー姉の弁護士としてのお仕事。
 ボクもあんまり詳しいことを外でペラペラしゃべるわけにはいかない。
「で、姫崎とは同じクラスだし、本当ならひどい話だし。色々気になっちゃって」
「ああ、そういうことか」
 と、カンタツは納得したように、またうなずいた。
 そのカンタツに向かって、ボクは胸の内で「ウソついてるわけじゃないけど、それに近いことしてゴメン」と謝りながら、
「やっぱり姫崎って藤沢にいじめられてたんだ?」
 実はこれが、カンタツにボクが一番聞きたいことだった。
 姫崎はなぜ何も話さないのか?
 その理由がどうしても分からなかったからだ。
「ん〜それなあ」
 と、カンタツは少し困ったように顔をしかめた。
「姫崎と藤沢が部内で仲良くなかったのは本当だよ。ほら、姫崎ってさ。やっぱ無口っていうか、無愛想っていうか。人に話しかけられた時、ちょっと態度悪いじゃん? しかも、そういう態度取ってる上に、絵の方は藤沢よりも断然上手かったし」
 ふと、ボクの脳裏に小学六年生の時に見た姫崎の絵がよみがえった。
 ボクの印象に残ったのは別のことだけれど、確かにあれは素人目にもきれいな絵だった。少なくとも、普通の小学六年生が描けるレベルの絵じゃなかったと思う。都で入賞するくらいなんだから、当たり前だけど。
「つまり、嫉妬されてたってこと?」
「そういうのもあったんじゃね、って話」
 ボクの問いに、カンタツはあっさりと答えた。
「実際、あの二人、五月の終わりごろに大喧嘩してんだよな」
「大喧嘩?」
 これにはボクも驚いた。
「姫崎と藤沢が?」
「まあ、喧嘩って言っても、藤沢が姫崎にブチ切れたってだけなんだけど」
 カンタツの話によると。
 五月から六月にかけて、美術部の部員は、夏に開催される市の展覧会に向けた絵を制作していたらしい。
 ところが、その最中、藤沢の描きかけの絵に、姫崎が誤って筆洗いの水をこぼしてしまう、という事件が起こったそうなのだ。
「すごかったよ」
 と、カンタツはその時の様子を思い出したのか、少し首をすぼめて、そう言った。
「オレはその時、たまたま美術室の外にいてさ。姫崎が水をこぼすのは見てなかったんだけど。藤沢のすっげえ怒鳴り声であわてて美術室に戻ったもん。『あんた、私のこと、バカにしてんでしょ!』みたいなのが、もうえんえんと」
 いや、でも、それって、
「姫崎だって、わざとじゃなかったんじゃ?」
「そうかもしれないけど、普段からムカついてた相手にそれやられたら、やっぱ腹立つもんじゃね?」
「……それで。その水をこぼされた絵はどうなったの?」
「そりゃもう描き直すしかないよ。水って言っても、筆洗いの、がっつり汚れた水だったし。そういや、あの辺りからだったんだよな。藤沢の姫崎への態度がますますキツくなったの」
「…………」
「先輩たちも話してたんだよ。あれ、ほっとくとヤバそうだから、夏休み前にいっぺん、一年女子に話し合いさせようって。けど、結局、その前にあんなことが起きてさ」
 少し、見えてきた気がする。
 五月の終わりごろ、か。


ためし読みの続きは…
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こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!

  • 著:岩佐 まもる 原案:山崎 聡一郎 監修:飯田 亮真 カバーイラスト:佳奈
  • 【定価】1,320円(本体1,200円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】四六判
  • 【ISBN】9784041122112

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