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ものがたり

【先行連載】『君のとなりで。』7巻発売直前 スペシャルれんさい 第5回 3人で、想いをこめて


伊吹先輩に、バレンタインチョコを渡したい人が、あまりにもたくさんいることを、あらためて思い知ったさくら。
でも、どんなにライバルがいても、さくらのやることはただ一つ、「想いをこめてチョコを作ること」!
さっこ&加代ちゃんと、楽しいお菓子づくりの始まりです♪

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3人で、想いをこめて

 

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 バレンタインの前日。

 

 加代ちゃんの家には、チョコレートの甘い香りがただよっていた。

 

「オキテはあるけど、チョコ、なんとか渡せるようにがんばろう!」

 

 って、気を取り直した私たちは、3人でいっしょに、チョコ作りをしてるんだ。

 

「このチョコを湯せんで溶かして、シリコンの型に半分だけ入れて、冷蔵庫で冷やして固める、と……。ふんふん」

 

 加代ちゃんはレシピを見ながら、大きなボウルに、白い板チョコをバキバキと割り入れた。

 

 お菓子作りが得意なさっこは、むずかしいチョコに挑戦するみたい。

 

 何枚もあるレシピを真剣に読みながら、袋から材料を取り出していた。

 

「まずはカップケーキを作らなきゃ。マーガリンを溶かす……。加代ちゃん、レンジ借りてもいい?」

 

「もちろん。好きに使って」

 

「ありがとう。えーっと、次は……。小麦粉と、ココア、ベーキングパウダーをいっしょにふるっておく。よし!」

 

 さっこはお皿に入れたマーガリンをレンジにかけると、粉ふるいにいろいろと粉を投入した。

 

 なれた手つきに、私は感動してしまった。

 

「さっこ、手際がいいねー! さすがだよ」

 

「ていうか、『まずはカップケーキを作る』ってすごいよね。カップケーキがゴールじゃないんだ」

 

「だってバレンタインだもん。カップケーキをチョコでコーティングするんだよ」

 

「すごいね~~!」

 

 私と加代ちゃんが感心してる間にも、さっこはどんどん手を動かす。

 

「さくらは何作ってるの?」

 

「私はビターな生チョコだよ」

 

 ビターチョコを、包丁で刻みながら答える。

 

「先輩は甘いものそんなに好きっぽくないから、甘さひかえめなほうがいいかなって思って」

 

「ほろ苦い感じの、ビターな生チョコか~。伊吹先輩、よろこびそう!」

 

 夏休みに、幼稚園演奏会の実行委員をしたとき、暑さでバテてしまった私に、伊吹先輩はいちごミルクのジュースを買ってきてくれた。

 

 私がいつもいちごミルクを飲んでいたのを、先輩はなぜか知ってたみたい。

 

 そのとき、先輩は「そんな甘いの、よく飲めんな」って言ってた。

 

 だからきっと、甘いものが好きじゃないんだろうなって、わかったんだ。

 

 ほろ苦い生チョコなら、伊吹先輩も食べてくれるかもしれない。

 

 お鍋(なべ)であたためた生クリームに、きざんだビターチョコを入れた。

 

「よろこんでくれるといいなぁ」

 

 願いをこめて、生クリームとビターチョコを、泡立て器でゆっくり混ぜ合わせた。

 

「よろこんでくれるよ!」

 

「うん! 絶対大丈夫!」

 

 さっこと加代ちゃんの言葉に背中を押されて、心配事よりも、わくわくする気持ちのほうが大きくなっていく。

 

「さっこと加代ちゃんのチョコも、よろこんでもらえるよ!」

 

「だといいなぁ~。村中先輩、甘いの好きみたいだし」

 

「私も、絶対に高田先輩を感動させるよ!」

 

 想いが伝わりますように、って願いながら、手を動かす。

 

 3人でいっしょにお菓子作り、すごく楽しいな。

 

 さっこと加代ちゃんがいてくれて、本当によかった。

 

 

「そろそろ、焼き上がったかな」

 

 さっこが、オーブンの中をのぞきこんで言った。

 

「すごい! もうカップケーキができちゃうんだ!」

 

 オーブンからは、いい香りがただよっている。

 

 ふっくらとふくらんだカップケーキを見たら、私の気持ちもはずんできた。

 

「楽しみにしてて。さくらと加代ちゃんの分も作ってるから」

 

「私も! 生チョコ、ふたりの分も作ってるよ」

 

「私もだよ。みんなで食べようと思って、たくさん作ってるんだ」

 

「じゃあ、できあがったら試食会だね!」

 

「「うん!」」

 

 さっこのカップケーキも、加代ちゃんのチョコも、とっても楽しみ!

 

 ハートの型にチョコを流し入れながら、加代ちゃんはうーんとうなる。

 

「あとは、どうやって渡すかなんだよな~~」

 

「そうだよね。引退前だから、みんなオキテがあるもんね」

 

「『いつもお世話になってます!』って、義理チョコっぽく渡せば大丈夫かな~」

 

「それいいね!」

 

「あ! ひらめいた!! 義理チョコっぽく渡すけど、中には『好きです』のメッセージを入れちゃうとか!?」

 

 策士・さっこのひらめきに、加代ちゃんは真っ赤になった顔を両手でかくした。

 

「わ~~どうしよう~~。メッセージ入れちゃおうかな~~。ドキドキしてきた!」

 

「さっこはどうするの?」

 

「私は直球勝負! 明日の部活中に、『部活が終わったら、いつもの公園に来てください』ってメッセージ送るんだ」

 

 さすがさっこ。感心していると、加代ちゃんが食いついた。

 

「いつもの公園って!?」

 

「ああ、クリスマスプレゼントを渡すときに先輩を呼び出した、近くの公園だよ。たま~にそこで待ち合わせして、映画を観に行ったりしてるんだ。観に行くのはホラー映画だから、ロマンチックなのかなんなのか、わかんなくて笑えるでしょ」 

 

「ロマンチックだよ~~~~!」

 

「ふたりの『いつもの場所』があるなんて。すてき!!」

 

 おいしそうに焼き上がったカップケーキに、あやしげな紫色と緑色のチョコを塗りたくりながら、さっこが私を見た。

 

「さくらは、伊吹先輩にどうやって渡すの?」

 

「うーん。どうしようか、なやみ中なんだ」

 

「そういえば!」

 

 冷蔵庫からチョコを出していた加代ちゃんが、ガバッと振り返った。

 

「伊吹先輩のバレンタイン伝説、知ってる?」

 

 

楽しいお菓子作りで急に話題に出てきた、『伊吹先輩のバレンタイン伝説』……!
次回、その伝説が明かされる!! おたのしみに♪

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先輩は、もうすぐ卒業…。せまる恋の『終わり』に、大事件発生!?
吉川さくら、12歳。冬合宿の最終日、伊吹先輩に「好き」の気持ちを受け止めてもらえた…!
先輩が、私のことをどう想っているのかは分からない。けれど、私は、先輩のことを好きでいていい――。
想いをかたちにして届けるためにがんばった勝負のバレンタイン、学校中を巻きこんでまさかの大事件発生!
…チョコが、渡せない!?
先輩は、もうすぐ卒業。遠くに行ってしまうのに…。
恋の『終わり』まで、あと少し。大注目の第7巻です!


作:高杉 六花 絵:穂坂きなみ

定価
726円(本体660円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046321336

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