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ものがたり

【先行連載】『君のとなりで。』7巻発売直前 スペシャルれんさい 第3回 さよならの予感


冬合宿が終わって、冬休みが終わったら……やってくるのは、バレンタインと、定期演奏会。
定期演奏会は、今のメンバーでいっしょに演奏ができる、最後の場。
そして、3年生の、卒業前の引退イベントでもあって……?

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♪さよならの予感

 

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 あっという間に冬休みが終わって、学校が始まった。

 

 黒羽中吹奏楽部は、3月に開催される定期演奏会の練習の真っ最中。

 

「マーチングの練習はこれで終わります。音楽室に移動して、合奏の準備をしてください」

 

「「「はい!!!」」」

 

 新部長の新田先輩の声と、気合いがこもった部員たちの返事が体育館に響き渡った。

 

 一時は気持ちが離れてしまった1、2年生と新役員だったけど、合宿を通して一致団結することができた。

 

 新部長と新役員が中心になってみんなの心をまとめていて、演奏も、部内の雰囲気も、とってもいい状態だと思うんだ。

 

「定期演奏会でもマーチングができるの、うれしいね」

 

 ろうかを歩きながら、加代ちゃんがニコニコして言った。

 

「うん!」

 

 コンクールの全国大会前に、体育祭でマーチングをやるかやらないかで部活内が険悪になったことがあった。

 

 でも、足なみだけじゃなく、心もそろえて演奏するマーチングの練習のおかげで、みんなの心がひとつになった。

 

 私たちにとって、マーチングは特別なもの。

 

 だから、いくつもの危機をいっしょにのりこえてきた、吹奏楽部みんなで演奏する定期演奏会でも、マーチングをすることになったんだ。

 

「マーチングの練習、楽しかったね!」

 

 加代ちゃんと柴田さんと私、3人でろうかを歩いていると、カレンが駆けよってきた。

 

 私たちは一度マーチングをやっているけれど、カレンは初めて。

 

 カレンも楽しいって思えてよかった。

 

「カレン、歩きながらの演奏、だいぶ上手になったよ」

 

「本当!? うれしいよ!」

 

 カレンは加代ちゃんといっしょに、マーチングシロフォンっていう楽器を担当してる。

 

 マーチング用の、小さな木琴なんだ。

 

「カレン、すごいわ。私もがんばらなくちゃ」

 

 いつもはピアノを弾いている柴田さんは、マーチンググロッケンっていう、マーチング用の小さな鉄琴を演奏してるの。

 

 マーチングシロフォンと、マーチンググロッケンは、隊列の中でおとなり同士なんだ。

 

 そんなことを話しながら歩いていると、ろうかの先からざわめきが聞こえてきた。

 

「あれ? 今日はやけに人が多いね。どうしたんだろう」

 

 歩きながら、カレンが首をひねった。

 

 部外の生徒たちが、体育館前のろうかに立っているみたい。

 

 なぜか、女子ばかり。

 

「部活以外の生徒は、とっくに帰ってる時間なのに」

 

「誰かを待ってるみたいね」

 

 でも、いったい、誰を?

 

 私と柴田さんがキョロキョロしていると、加代ちゃんが苦笑いを浮かべた。

 

「伊吹先輩を見たい、部外のファンの人たちだよ」

 

「なるほど……!」

 

 私も柴田さんもカレンも納得。

 

「体育館から音楽室までのろうかで、楓を見るチャンスを待ってるんだね」

 

「音楽室は、部外の人は入れないものね」

 

 どんどん増えていくファンの人たちを眺めながら、カレンと柴田さんが言う。

 

 加代ちゃんは、思い出したようにうなずいた。

 

「そういえば、楽器を持った伊吹先輩が見たいって、クラスでも言ってる人がいたよ」

 

「楓の人気、すごいね。冬合宿のときみたい」

 

 カレンの言う通り、冬合宿のときも、他校の吹奏楽部員たちが伊吹先輩を見にきて、ちょっとしたさわぎになったんだ。

 

「体育祭のマーチングの練習をしていたときも、ファンの人たちがたくさん見にきてたしね」

 

「あのときよりも、多い気がするわ」

 

 加代ちゃんと柴田さんの言葉に、私もうなずく。

 

 でも、その気持ち、ちょっとわかるんだ。

 

「先輩、あと2ヶ月で卒業しちゃうからかな」

 

 ぽつりとつぶやいたら、本当に卒業なんだなって実感して、さみしくなっちゃった。

 

 卒業したら、今みたいに伊吹先輩のことを見られなくなってしまうんだな……。

 

 加代ちゃんが、私の気持ちを受け止めるように、さりげなく肩をポンポンってしてくれた。  

 

「来たっ! 伊吹先輩だ!」

 

 そのとき、ひときわ大きな声があがった。

 

 おどろいた私たちは、、立ち止まって、振り返る。

 

 そこには、銀色のトランペットを持って、体育館から出てきた伊吹先輩がいた。

 

 キャーキャー黄色い声をあびながら、先輩は無表情で歩いていく。

 

 いつも通りの塩対応。クールで人をよせつけない、伊吹先輩だ。

 

 かっこいいな……。

 

 いつ見ても、先輩はキラキラ輝いてる。

 

 この校舎を歩く先輩の姿を、しっかり心に刻みつけておこう。

 

 同じ校舎で過ごせる今を、大切にしよう。

 

 前向きな気持ちに切りかえて、みんなといっしょに歩き始めた。

 

 

 音楽室での合奏も終わり、今日の練習はおしまい。

 

 フルートを片づけて楽器庫を出ると、音楽準備室からトランペットの音が聞こえてきた。

 

 この曲は、アーバン作曲の『The Beautiful Snow(ザ ビューティフル スノー)』。

 

 伊吹先輩がソロコンテストで吹く曲だ。

 

「きれい……」

 

 すてきな演奏に、耳も心も奪われる。

 

 先輩の演奏を聞いていると、いろんななやみが消えて、心が透き通っていくように感じる。

 

 先輩は来月出場するソロコンテストの県大会に向けて、毎日残って練習をがんばっていた。

 

「すごいな……」

 

 伊吹先輩の卒業ムードが高まって、部活内だけじゃなく、学校中がざわついてる。

 

 まわりがどんなにさわがしくても、先輩はいつも平常心を保っている。

 

 自分のやるべきことを、ひたすらコツコツとがんばってる。

 

 そんな伊吹先輩を尊敬してるし、すべてがかっこいいって思うんだ。

 

「さくら、帰るよ~」

 

「あ、うん! 今行く!」

 

 先輩が、ソロコンテストの練習に集中できますように。

 

 県大会を突破して、全国大会に行けますように。

 

 心の中でいのって、私はさっこと加代ちゃんが待つろうかに出た。

 

 

さくらも、学校中の伊吹先輩ファンも、先輩といっしょに過ごせるのは、あとわずかな時間だけ。
そんななか、次回、大事件発生の予感……? 次回も見のがせません!!

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先輩は、もうすぐ卒業…。せまる恋の『終わり』に、大事件発生!?
吉川さくら、12歳。冬合宿の最終日、伊吹先輩に「好き」の気持ちを受け止めてもらえた…!
先輩が、私のことをどう想っているのかは分からない。けれど、私は、先輩のことを好きでいていい――。
想いをかたちにして届けるためにがんばった勝負のバレンタイン、学校中を巻きこんでまさかの大事件発生!
…チョコが、渡せない!?
先輩は、もうすぐ卒業。遠くに行ってしまうのに…。
恋の『終わり』まで、あと少し。大注目の第7巻です!


作:高杉 六花 絵:穂坂きなみ

定価
726円(本体660円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046321336

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