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ドキドキいっぱいの黒羽中吹奏楽部の冬合宿が終わったら、次なるイベントは……バレンタイン!
さくらの、さっこの、加代ちゃんの、バレンタインの作戦とは……?
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♪バレンタインの計画
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次の日、約束どおり、さっこと加代ちゃんが私の家に遊びに来てくれた。
「ちょっと待って、さくら!」
「『恋愛対象じゃないなんて、言ってないだろ』……って」
「「どういうこと!?」」
昨日の伊吹先輩の言葉を報告すると、ふたりは目を丸くして、ずいっとせまってきた。
「私もよくわからなくて。どういう意味か聞き返せなかったんだ。でも……」
「「うん」」
「『またウワサされて傷つくの、イヤだろ』って、先輩が言ったの」
その言葉を聞いたさっこと加代ちゃんは、声にならない悲鳴をあげて、クッションにつっぷした。
「ちょ、ちょっと!?」
うろたえる私の前で、ふたりは上げた顔を見合わせて、口を開いた。
「それはさー。もうそういうことだよね、加代ちゃん」
「そうさね~、さっこ」
ふたりとも、なんだかすごくニヤニヤしてる。
「え? なになに? どういうこと?」
どういうことなのか、私には、ぜんぜんわからないよ。
さっこは私の肩にポンと手を置いて、力強く言った。
「やっぱりさくらは、伊吹先輩にフラれたわけじゃないよ!」
加代ちゃんも、うんうんとうなずいた。
「私もそう思う! さくらの告白を『聞かなかったことにする』って、つまり……はっきり断りたいわけじゃないってことだもん」
「そうかなぁ……」
私もそうだったらいいな、なんて思ったけど。
自分に都合よく考えちゃってる気がして、自信がないんだ。
さっこが、真面目な顔で言った。
「それどころか、伊吹先輩、本当はさくらのことが好きなんじゃない?」
「ええ!?」
信じられない言葉に、悲鳴が出てしまった。
加代ちゃんも、さっこにうなずいて言う。
「私もそう思う。でも、全国大会の前みたいに、またウワサされてさくらが傷つくのがイヤだから、『好き』も『つきあいたい』も言えないとか?」
「そうかなぁ……」
伊吹先輩が、私のことを……?
そうだったらいいなとは思うけど、『まさか!』って気持ちのほうが勝ってしまう。
さっこは、ちょっぴり真剣なまなざしで私を見つめた。
「昨日、伊吹先輩が私に、さくらの荷物を保健室に持っていくように頼んだのも、さくらがあぶない目にあったのが、ぜんぶ自分のせいだと思ってるからなんじゃない?」
「伊吹先輩って、どうしても目立っちゃうからね。伊吹先輩の近くにさくらがいると、誰かがさくらのことを傷つけてしまうって思ってるのかも。合宿のときのやなぎ中の人みたいに」
加代ちゃんも、合宿のことを思い出すように、天井を見上げて言う。
「そうそう。好きだけど、だからこそ傷つけたくなくて、いっしょにはいられない……ってことなのかもしれないよ」
まじめな顔をしているふたりの言葉を、胸に手を当てて受け止める。
「そう……なのかな」
たしかに、先輩は、かまくらの中で話していたとき、私がケガをしたのを『俺のせいだよな。悪かった』と言って、悲しそうな目をしていた……。
「それと、高田先輩と同じで、部活内恋愛禁止のオキテがあるから、引退するまではつきあえないって思ってるのかも」
「あー、それ、あると思う。伊吹先輩、自分に厳しそうだもん。しっかりオキテを守りそう!」
さっこと加代ちゃんは、目を輝かせながら、私をはげましてくれてる。
その気持ちがとってもうれしくて、胸がいっぱいだよ。
「さっこ、加代ちゃん、ありがとう。どうしていいかわからなかったけど、元気が出てきたよ!」
先輩のこと、好きでいていいですか?
そう聞いた私に、先輩は『ダメ』とは言わなかった。
ということは……。
ぎゅっとこぶしをにぎって、私はふたりに宣言した。
「私、先輩のことを好きでいてもいいって、前向きに受け止めることにする!」
「「うん!」」
さっこと加代ちゃんは、ピカピカの笑顔でうなずいてくれた。
そしてさっこが、いたずらっぽく言う。
「来月は、乙女の一大イベント、バレンタインがあるしね!」
「そうだよ、さくら! 先輩に気持ちを伝えるチャンスだよ!」
「私、ホラーなチョコ、手作りして高田先輩に渡すんだ~」
「私も、今度こそ、村中先輩に渡せるようにがんばるつもりだよ。さくらもいっしょに、がんばろうよ!」
ウキウキしてるふたりの顔を見ていると、私もがんばろうって気持ちになってきた。
「うん。私も、伊吹先輩にチョコを渡せるようにがんばるよ!」
バレンタインは、女の子から男の子に想いを伝えるイベント。
先輩に「つきあってください」とは言えなくて、もどかしいけれど。
そのぶん、想いをこめたチョコを渡せたらいいな。
「じゃあさ、2月13日に、3人でチョコ作りしようよ!」
「賛成!」
さっこの言葉に、加代ちゃんが手をあげて、ステキな提案をしてくれた。
「うちで集まろうよ。3人で、がんばろう!」
「「うん!」」
3人で約束して、私たちはほほえみあった。
さっこと加代ちゃんのおかげで、楽しみがひとつ、増えたんだ。
三人が、それぞれにいどむ、大切な恋イベント・バレンタイン!
それぞれの想いが、どうかかないますように……!
次回も、お楽しみに♪
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恋の『終わり』まで、あと少し。大注目の第7巻です!