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冬合宿が終わって、冬休みが終わったら……やってくるのは、バレンタインと、定期演奏会。
定期演奏会は、今のメンバーでいっしょに演奏ができる、最後の場。
そして、3年生の、卒業前の引退イベントでもあって……?
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♪さよならの予感
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あっという間に冬休みが終わって、学校が始まった。
黒羽中吹奏楽部は、3月に開催される定期演奏会の練習の真っ最中。
「マーチングの練習はこれで終わります。音楽室に移動して、合奏の準備をしてください」
「「「はい!!!」」」
新部長の新田先輩の声と、気合いがこもった部員たちの返事が体育館に響き渡った。
一時は気持ちが離れてしまった1、2年生と新役員だったけど、合宿を通して一致団結することができた。
新部長と新役員が中心になってみんなの心をまとめていて、演奏も、部内の雰囲気も、とってもいい状態だと思うんだ。
「定期演奏会でもマーチングができるの、うれしいね」
ろうかを歩きながら、加代ちゃんがニコニコして言った。
「うん!」
コンクールの全国大会前に、体育祭でマーチングをやるかやらないかで部活内が険悪になったことがあった。
でも、足なみだけじゃなく、心もそろえて演奏するマーチングの練習のおかげで、みんなの心がひとつになった。
私たちにとって、マーチングは特別なもの。
だから、いくつもの危機をいっしょにのりこえてきた、吹奏楽部みんなで演奏する定期演奏会でも、マーチングをすることになったんだ。
「マーチングの練習、楽しかったね!」
加代ちゃんと柴田さんと私、3人でろうかを歩いていると、カレンが駆けよってきた。
私たちは一度マーチングをやっているけれど、カレンは初めて。
カレンも楽しいって思えてよかった。
「カレン、歩きながらの演奏、だいぶ上手になったよ」
「本当!? うれしいよ!」
カレンは加代ちゃんといっしょに、マーチングシロフォンっていう楽器を担当してる。
マーチング用の、小さな木琴なんだ。
「カレン、すごいわ。私もがんばらなくちゃ」
いつもはピアノを弾いている柴田さんは、マーチンググロッケンっていう、マーチング用の小さな鉄琴を演奏してるの。
マーチングシロフォンと、マーチンググロッケンは、隊列の中でおとなり同士なんだ。
そんなことを話しながら歩いていると、ろうかの先からざわめきが聞こえてきた。
「あれ? 今日はやけに人が多いね。どうしたんだろう」
歩きながら、カレンが首をひねった。
部外の生徒たちが、体育館前のろうかに立っているみたい。
なぜか、女子ばかり。
「部活以外の生徒は、とっくに帰ってる時間なのに」
「誰かを待ってるみたいね」
でも、いったい、誰を?
私と柴田さんがキョロキョロしていると、加代ちゃんが苦笑いを浮かべた。
「伊吹先輩を見たい、部外のファンの人たちだよ」
「なるほど……!」
私も柴田さんもカレンも納得。
「体育館から音楽室までのろうかで、楓を見るチャンスを待ってるんだね」
「音楽室は、部外の人は入れないものね」
どんどん増えていくファンの人たちを眺めながら、カレンと柴田さんが言う。
加代ちゃんは、思い出したようにうなずいた。
「そういえば、楽器を持った伊吹先輩が見たいって、クラスでも言ってる人がいたよ」
「楓の人気、すごいね。冬合宿のときみたい」
カレンの言う通り、冬合宿のときも、他校の吹奏楽部員たちが伊吹先輩を見にきて、ちょっとしたさわぎになったんだ。
「体育祭のマーチングの練習をしていたときも、ファンの人たちがたくさん見にきてたしね」
「あのときよりも、多い気がするわ」
加代ちゃんと柴田さんの言葉に、私もうなずく。
でも、その気持ち、ちょっとわかるんだ。
「先輩、あと2ヶ月で卒業しちゃうからかな」
ぽつりとつぶやいたら、本当に卒業なんだなって実感して、さみしくなっちゃった。
卒業したら、今みたいに伊吹先輩のことを見られなくなってしまうんだな……。
加代ちゃんが、私の気持ちを受け止めるように、さりげなく肩をポンポンってしてくれた。
「来たっ! 伊吹先輩だ!」
そのとき、ひときわ大きな声があがった。
おどろいた私たちは、、立ち止まって、振り返る。
そこには、銀色のトランペットを持って、体育館から出てきた伊吹先輩がいた。
キャーキャー黄色い声をあびながら、先輩は無表情で歩いていく。
いつも通りの塩対応。クールで人をよせつけない、伊吹先輩だ。
かっこいいな……。
いつ見ても、先輩はキラキラ輝いてる。
この校舎を歩く先輩の姿を、しっかり心に刻みつけておこう。
同じ校舎で過ごせる今を、大切にしよう。
前向きな気持ちに切りかえて、みんなといっしょに歩き始めた。
♪
音楽室での合奏も終わり、今日の練習はおしまい。
フルートを片づけて楽器庫を出ると、音楽準備室からトランペットの音が聞こえてきた。
この曲は、アーバン作曲の『The Beautiful Snow(ザ ビューティフル スノー)』。
伊吹先輩がソロコンテストで吹く曲だ。
「きれい……」
すてきな演奏に、耳も心も奪われる。
先輩の演奏を聞いていると、いろんななやみが消えて、心が透き通っていくように感じる。
先輩は来月出場するソロコンテストの県大会に向けて、毎日残って練習をがんばっていた。
「すごいな……」
伊吹先輩の卒業ムードが高まって、部活内だけじゃなく、学校中がざわついてる。
まわりがどんなにさわがしくても、先輩はいつも平常心を保っている。
自分のやるべきことを、ひたすらコツコツとがんばってる。
そんな伊吹先輩を尊敬してるし、すべてがかっこいいって思うんだ。
「さくら、帰るよ~」
「あ、うん! 今行く!」
先輩が、ソロコンテストの練習に集中できますように。
県大会を突破して、全国大会に行けますように。
心の中でいのって、私はさっこと加代ちゃんが待つろうかに出た。
さくらも、学校中の伊吹先輩ファンも、先輩といっしょに過ごせるのは、あとわずかな時間だけ。
そんななか、次回、大事件発生の予感……? 次回も見のがせません!!
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