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【先行連載】海斗くんと、この家で。 第3回


「1%」「スキ・キライ相関図」で大人気! 
このはなさくらさんの新シリーズ『海斗くんと、この家で。』を一足早く公開中!
『海斗くんと、この家で。 ①初恋はひとつ屋根の下』は、2022年2月9日発売予定です!

      3 家族になろう

 今日は家庭科の宿題の提出日。
 夏休み中になんでもいいから一点作って、持ってくることになっている。
 そっと教室を見わたすと、期限を守って、ちゃんと持ってきたひとがけっこういた。
 ティッシュケースだったり、きんちゃく袋だったり、みんなスゴい!
 上手だなあ。どうやって、あんなふうに作ったんだろう。
 わたし、ぬいものは好きだけど、作れるのはぞうきんだけなんだ。
 宿題を持ってきていないからよけいに、いたたまれない気分……。
「忘れたひとは、夏休み明けの最初の授業には持ってきてね」
 先生がそう言ってくれたので、ホッとした。
 けど、今までに過ぎた時間とくらべたら、期間はわずかだ。今度こそ、宿題、やらなきゃ……。

 その帰り道。
「ぞうきんじゃなくて、ほかのものでストレス解消するしかないね」
 和花(わか)は、ちょっと困ったように笑った。
「う、ん……」
 じつは、うちの教室の掃除道具入れは、学校の七不思議に入っている。使っても真っ黒になって捨てても、ぞうきんがへらない、ってうわさになってる。
 期待させて申し訳ないけど、その正体は、わたし、なんだよね。
 わたしが家でチクチクぬったぞうきんを持ってきて、こっそり補充しているんだ。今日もそう。帰りの会のあと、みんなにナイショでぞうきんを置いてきた。
「いつかはやめなきゃって思ってはいるんだけど……」
「元気だして! そのうちほかの方法が見つかるって、だいじょうぶだよ~。その感じじゃ、家庭科の宿題も進んでなさそうだね。今度、詩衣(しい)んち行ってもいい? あたし、手伝うよ」
 和花の友情がうれしくて、やっと笑顔になれた。
「あ、ありがとう……!」

      *

 アパートに帰ったら、お母さんはいなかった。でも、ちゃぶ台の上に置き手紙がしてあった。
『お客さまをバス停まで迎えにいってくるから待っててね』
 そういえば、お客さんが来るって言ってたっけ!
 ちょうど思いだした、そのとき。
「ピンポーン、ピンポーン」。
 インターフォンの音が鳴りひびいた。
 宅配便か何かかな? そう思いつつ、モニターをのぞいてみてビックリ!

 おっ、王子さまだっ!

「わわっ!」
 ビクッと、モニターから顔を離した。
 女の子たちに、あんなにもてはやされていたひとが、どうして! 今、うちのインターフォンを鳴らしているの? あんな大きな花束を持って! わけがわかんないようっ。
 すると、「ピンポン、ピンポン!」とまた鳴った。まるで「はやくあけろ」って怒っているみたい。そっ、そうだ、応答しなきゃ!
 なんとか気をと
りなおし、おそるおそるスイッチを押す。とりあえず「ハイ」とだけ言ってみた。
「小倉さんのお宅、ですか?」
 モニター越しに聞く彼の声は、なぜか、ほんのちょっとかたく聞こえた。
 彼のコトは知っているけど、どこのだれかわからない以上、ドアをあけられない。
「そうです、けど……」
 慎重に答える。
 岡野(おかの)さんにムリヤリ押しつけられた約束が頭のすみっこに浮かんだ。
 あっ! 名前を聞いておかなくちゃ。
「どっ、どちらさま、ですかっ?」
 男の子は、首をかしげた。
「……? おれたちのこと、聞いてない?」
「おれたち……?」
 ガチャ。急にドアがひらいた。
「あっ!」
 勝手に入られちゃう!?
 ダッシュで飛んでいったら、目の前にいたのはお母さん!
 玄関の段差でつまずき、「うわっぷ!」お母さんの胸に飛びこむような形になった。
「あらあら、何やってるの?」
「お母さん、帰ってきてたんだ~」
 わたしはホッとして、そのままギュッと抱きついた。
「ねえ、聞いて! 今さっきね、ヘンな子が――」
 と言いながら、お母さんのうしろにいるひとたちに気づいた。
 げげっ、人数が増えてる!
 さっきの花束を抱えた男の子と、大人の男のひとと、小さな男の子!
「おっ、お母さん! このひとたちは……?」
「お客さまよ。ハワイからいらっしゃったの」
「ええっ! ハワイ!?」
 ハワイ、って、あのハワイ? 南の島の……?
「ハイ! きみが詩衣ちゃんだね」
 男のひとが近づいてきて、わたしに向かって大きな手のひらを差しだした。
「僕はケン・アンダーソン、よろしく!」
 わたしは、ポカーンとそのひとを見あげた。
 お、おっきい……!
 なんて大きいひとだろう。頭がドアより高い! はみだしている! かがまないと通れなそうだよっ。
「は、はあ……よろしく、おねがいします……」
 おずおずとだしたわたしの手を、ケンさんは軽くにぎった。それから、かたわらにいた小さな男の子を抱きあげた。
「そして、僕の息子たち。こっちは歩夢(あゆむ)、四歳になったばかりなんだ」
「はろー」
 つぶらな瞳に丸いほっぺをした男の子がニコッと笑った。
 わっ、かわいい! 絵本にでてくる天使みたい……。
 わたしもつられて思わずニコニコ。
「こっちは海斗(かいと)。詩衣ちゃんと同じ、十歳だよ」
 次にケンさんは、問題の彼を紹介してくれた。
 海斗……くん、っていうのかあ。
 年上かと思ったけど、同じ年だったんだね。
 やっぱり何度見てもカッコいい。みんなが騒ぐキモチわかるなあ。
「はじめまして」
 彼はすました顔で、わたしに花束を差しだした。
「えっ、わたしに?」
 バラと、えっと、これは、ガーベラ? 明るくてかわいい花束だ。
「あ、ありがとう」
 彼の手から花束を受けとった。うふふ、花束をもらうなんてはじめて!
 和花に話したら、また「いい題材になる!」って言うかもね。
 ……だけど、おかしいな。
 これで会うのは、三度目のはずなのに。海斗くんは、なんにも言ってこない。「はじめまして」だなんて言っている。
 そりゃあ、おたがいほとんど知らないのだから、この場合「はじめまして」がふさわしいのだろうけど。ひょっとして、わたしに気づいてないのかな。
 わたしがゴチャゴチャ考えているあいだに、
「さあ、あがって。あ、靴は脱いでね。シューズ・オフよ!」
 お母さんは、三人を部屋に招きいれた。
 ケンさんと歩夢くんにつづいて海斗くんも入ろうとしたけれど、歩みを止めてわたしをふり返った。
「ホントは『はじめまして』じゃない。だよな?」
「!」
 やっぱり、覚えてるじゃーん!
 同時に、彼が怒っていたことも思いだしてしまった。
「あのっ、あのときはっ、ご、ごご、ごめんなさい……急に逃げて……」
「なんで逃げたんだよ? 朝も言ったけど、あのあと大変だったんだぞ」
「だって、恥ずかしかった、からっ」
「恥ずかしい? そんな理由だったのか……」
 ひええっ! お、怒られる……!
 けれども、彼はフッと白い歯を見せて笑った。
「こっちこそわるかったな。そこまで気がまわらなかったよ」
 うわあ、まぶしい! 破壊力が高めだ……!
「どうしてっ、覚えていない、フリしたの?」
 わたわたと聞いてみたら。
「親の前だったろ? めんどうなことは、抜きにしたかっただけさ」
 彼はそう言うと、サッサと部屋のなかに入っていっちゃった。
「………………」
 ふうん、そうだったのかあ。
 たしかに親への説明がわずらわしいときってある。わたしだって、プールでおぼれたこと、お母さんに話していないし。
 あのクールな態度。ひょっとして、かばってくれた、のかな……?
 わたしも海斗くんのあとにつづいた。キッチンを通って居間へ。
 すると、ちゃぶ台のまわりにすわっていた全員が、いっせいにこっちを見た。
 ななな、何!?
 わたしはビクビクしながら、お母さんのとなりにすわった。
「おっ、お母さん! ハワイからお客さんなんてスゴいね……! どうやって知りあったの?」
「あのね、詩衣……」と言いかけたお母さんを、「マリコ、僕に言わせて」とケンさんが止めた。
「詩衣ちゃん、僕らはね、きみに会いにきたんだ。ぜひ、お母さんといっしょに僕らの家に来てほしい。ここにいる五人で家族になろう」
 一瞬(いっしゅん)、頭のなかがまっしろになった。

「かぞ、く……?」

 ええっ!
 どっ、どういうこと!?

      *

 ふだんはお母さんと二人だから、意識しなかったけれど、居間として使っている、この六畳の部屋はせまかった。
 目の前には山のように大きな男のひと、何を考えているのか、ちょっとよくわからない男の子、そして小さな男の子がきゅうくつそうにちゃぶ台のまわりにすわっている。
 説明を聞き終えたわたしは、夢のなかにいるような気分だった。
「お母さん、ケンさんと結婚するの……? それで、ケンさんはわたしの新しいお父さんで、海斗くんと歩夢くんは新しいきょうだいなの……?」
 つまり、家族が三人いっぺんにできる、ってことなんだね。
 あれっ? ちょっと待って。
 うんと年下の歩夢くんはともかく、海斗くんは、わたしと同い年だ。
「あのっ、海斗くんの誕生日は? 念のために確認しときたいんだけど……」
 海斗くんは、「なんだ」という顔をした。
「十二月三日」
 十二月三日……わたしは十日だから、たった一週間しかちがわない。それでも海斗くんのほうが年上、わたしのおにいちゃんだ。そして、わたしは妹……。
「ゴメンね、詩衣。おどろかせて」
 お母さんがあやまってきた。
「あやまらないで、お母さん。ちょっとビックリしただけだから……」
 そうは言ったものの、急な展開で頭が混乱していた。冷静に考えるための時間がほしい。できれば、ひとりになれたらいいのだけど。
 歩夢くんの前に置かれた空のコップが目に入る。そうだ!
「歩夢くんのジュースを買いにいってくる!」
 わたしは立ちあがり、歩夢くんに話しかけた。
「リンゴジュース好き? それともオレンジがいい?」
「ぼく、パイナポ!」
 歩夢くんはうれしそうに答えた。
「パイナポ?」
 って、なんだろう?
「パイナップルだよ」
 すかさず海斗くんが教えてくれる。
「へえ、そうなんだ。うん、わかった!」
 小さい子の発音って、聞きとるのがむずかしいなあ。これからだいじょうぶかな、わたし……。
「海斗、おまえもいっしょにいきなさい」
 ケンさんがいきなりそう言った。
「いっ、いいですっ。だいじょうぶですっ。すぐ近くのコンビニだから……!」
 わたしはパタパタ両手を横にふった。
「それでもいいんだ。まんがいち何かあったらいけないからね」
 ケンさんの茶色の目が細くなる。
 あんまりやさしいほほ笑みだったので、それだけで胸がいっぱいになってしまった。
 もしかして、お父さんって、こんな感じ……?
 ケンさんはカメラマンだって聞いているけど。
 不思議だなあ。お母さん、どうやってケンさんと知りあったんだろう?

      *

 コンビニのレジでジュース代を払っているあいだに、海斗くんが買い物袋にジュースを入れてくれた。
「あっ、ありがとう」
 自分で持つつもりだったのに、海斗くんがそのまま持っていっちゃった。
 歩道をてくてく歩いていく。
「………………」
「………………」
 き、気まずすぎる……。
 息がつまりそうだった。行きも帰りも無言、会話がまったくなかったから。
 これからは家族になるんだよ。なかよくしないといけないんだよ。
 よ、ようし!
 わたしはがんばって話しかけることにした。
「あっ、あのっ!」
 前を向いて車道側を歩いていた海斗くんがふり向いた。
 わっ、緊張しちゃうなっ。
「荷物を、持ってくれて、あ、ありがと……」
 焦(あせ)って、ごまかし笑いなんかしちゃったりして。
 すると海斗くんは、首を少しかたむけた。
「べつにふつう
のことだろ? 親切にするのは。それにおれたち、家族になるんだし」
「えっ」
 車が何台か通りすぎた。
 強い風がわたしたちのあいだを通り抜けていく。
 じゃあ、買い物袋を持ってくれたり、車道側を歩いたりしているのは――。
「スゴいね、海斗くん。大人みたい!」
 なんか、もう、めちゃくちゃ感動してしまった。
「そんなことないって、社会でのマナーっていうか……」
 海斗くんは、視線をそらした。ほっぺが、ほんのり赤い。
 あっ、照れてる!
 なあんだ、意外に照れ屋さんなんだ。
 この調子で、ほかのことも、もっと聞いてみようっと。
「海斗くん、ハワイではどんな学校に行ってたの?」
「なんで?」
 と、海斗くんはきょとん。
「な、なんで、って……」
 えっ?
 わーっ、わたしのバカバカ!
 せっかくなかよくなれそうだったのに、ヘンな質問しちゃった……。
 これじゃあ、海斗くんのことじゃなくて、ハワイのことを知りたがっているみたいだよ。
「平日は地元のスクールに通ってたけど、日本語はケンに習った。土曜日は日本人学校にも行ってて日本人の友だちもいたから、言葉に不自由はないよ」
 海斗くんは、質問にちゃんと答えてくれた。
 でも、その答えを聞いているうちに、また、べつの疑問がでてきちゃった。
どうして海斗くんは、お父さんを「ケン」と名前でよぶんだろう?
 ハワイでは、それがあたりまえなのかな……?
「で? ほかには? まだ質問ある?」
 と、聞かれて。
わたしはハッとした。ブンブンと首を思いっきり横にふる。
「じゃ、これからよろしくな。おれのことは海斗でいいから。なかよくやろう」
 海斗くんは、わたしに右手を差しだした。
「へ?」
 あ、握手(あくしゅ)?
 あわてて、彼の手をにぎる。
「わたし、詩衣です。よろしく……」
 はじめてにぎった彼の手はひんやりしていた。


<第4回へつづく> 

※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。


海斗くんと、この家で。 (1)初恋はひとつ屋根の下

  • 作:このはな さくら 絵:壱 コトコ
  • 【定価】748円(本体680円+税)
  • 【発売日】
  • 【ISBN】9784046321367

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