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「1%」「スキ・キライ相関図」で大人気!
このはなさくらさんの新シリーズ『海斗くんと、この家で。』を一足早く公開中!
『海斗くんと、この家で。 ①初恋はひとつ屋根の下』は、2022年2月9日発売予定です!
4 だいじょうぶかな
引っ越しの日。
段ボール箱に荷物をつめていると、「プップー!」とクラクションの音が鳴った。
ドアをあけて外を見てみたら、一台の見慣れない車がアパートの前に停車していた。前方がふつうの車のようなボンネット、うしろがトラックのような荷台になっている車だった。
そこからおりてきたのは、海斗(かいと)くん!
「あっ、お母さん、ケンさんたちだ! 海斗くんたちが来たよ!」
海斗くんは自分がおりたあと、歩夢(あゆむ)くんのチャイルドシートのベルトを外しているようだった。
運転席からおりてきたケンさんが、ニコニコと部屋の前にやってくる。
「モーニン、詩衣(しい)ちゃん!」
ケンさん、朝から元気だなあ。
「おはようございますっ」
わたしもつられて、大きな声でアイサツしちゃう。
それから、ケンさんは部屋のなかに入って、
「マリコ!」
感動したみたいに名前をよびながら、お母さんにハグをした。
う、わあ!
スゴーい! ここに和花(わか)がいたら、「いい題材になる!」ってメモをとるところだよ。
そこに、海斗くんが歩夢くんを連れてやってきた。
「モーニン、しーちゃん!」
と、元気な歩夢くん。
「……おはよう、入っていい?」
海斗くんがボソッとたずねてくる。
「うん、ちょっと待って!」
勝手に閉じてしまわないように、ストッパーでドアをおさえてから、「どうぞ!」と、二人を招きいれた。
すると、海斗くんは歩夢くんに英語で何か話しかけた。そうしたら、歩夢くんはうなずいて、ちょこん、と部屋のすみにすわったんだ。
危ないからすみで待ってて、とでも言われたんだろうな。
まだ小さいのに、おりこうさんだなあ。
ピコン、とメッセージアプリの着信音が鳴った。
ポケットからスマホをとりだし、トーク画面を見てみると、和花からだった。
和花【引っ越しは順調?】
つづけて、ピコン、ピコン。
和花【それにしてもビックリ!】
和花【こんなことがあるんだね!】
詩衣【うん、ビックリだよね】
わたしもそう返した。
こないだ和花にメッセージアプリで報告をしたときもそうだった。
自分の身に起きたことが、まだちゃんと信じられない。
詩衣【海斗くんもね、二学期から同じ学校にいくんだよ】
事実をたしかめるように、文字を打ったら。
和花【わあ、おもしろくなりそう! 岡野(おかの)さんたちがどんな顔をするか楽しみだね!】
詩衣【どうして?】
和花【これからひとつ屋根の下で暮らすわけでしょう? 絶対くやしがるに決まってるじゃん!】
ひとつ屋根の下!
その言葉に、ドキンってしちゃった!
そうだ、今まではお母さんと二人きりだったけど、これからはちがう。
男の子といっしょに暮らすんだ……!
だ、だいじょうぶかな。今ごろ気づくなんてー。
わたしの頭の回転、自分が思ってるよりずっと、ずっと、遅いのかもしれない……!
*
引っ越し先は、海の近くの一軒家。学校からは、前にすんでいたアパートよりちょっと遠くなっちゃうけど、バツグンのロケーション! 潮風が心地いい。
「ここなら、いつでも好きなときにサーフィンができるよなあ」
海斗くんは車からおりると、満足そうに海をながめた。
落ち着いた口調なのに、新しい生活にワクワクしているのが、わたしにもわかった。
……夢中になれるものを持ってる男の子って、カッコいいかも。
車からおろした段ボール箱を持って、ぼうっと見ていたからかな。
彼が突然こっちをふり返って、ニヤッと笑った。
「ついでに泳ぎ方を教えてやろうか?」
かあっと耳まで熱くなった。
「けっこーです!」
思わずツンケンしたような言い方、しちゃった。
すぐに後悔したけれど、引っ込みがつかない。
海斗くんにサッと背中を向け、プンプン怒りながら家に入る。
広い玄関を通り、右手の部屋に入ったら、大きなソファとテレビがあった。
「どうしたの、ムスッとして」
お母さんがあきれた顔をしていた。
「だって海斗くんが……」
いつもそうしているように「聞いて聞いて!」という感じで話しだしたら。
クマのぬいぐるみやオモチャの飛行機を抱えた歩夢くんが、トコトコ目の前を通りすぎていった。
ダメじゃん、わたし!
歩夢くんは、ちゃんとやっているのに。
「ううん、なんでもない! あの、ケンさん、わたしの部屋は二階でいいですか?」
お母さんの横で、段ボール箱のフタをあけていたケンさんにたずねる。
「詩衣ちゃんの荷物は、あらかた運んであるからね」
「ハイ、わかりました! ありがとうございます!」
わたしは、さっそく自分の部屋を見にいった。
「うれしー! ベッドだ~!!」
段ボール箱を床に置いて、ベッドにダイブ。夢みたい。これからは毎日ここで眠るんだ。
ウットリ目を閉じて、聞こえてくる波の音を数えていると。
コンコンとドアをノックされた。
「はじめてのひとり部屋はどう?」
「お母さん!」
ガバッと飛び起きて、部屋に入ってきたお母さんに抱きつく。
「ありがとう! スゴくうれしい!」
「フフッ、よかった! 片づけがまだのとこわるいけど、歩夢ちゃんを見ていてくれる? しばらく玄関と窓をあけっぱなしにするから」
おねえさんとして、はじめて任されたお手伝いだ。
「わかった!」
はりきって返事をして、再び一階におりる。
だからって、いきなり『おねえちゃん』面(づら)するのはよくないよね……?
うーん、どうしよう。考えつつ、さっきのリビングルームへ。
大きなソファに、ちょこんとすわっている歩夢くん。
なんだかつまらなそう。荷ほどきの最中だから、まだ遊べないもんね。
わたしは、そのとなりに腰(こし)をおろした。
「ねえ、歩夢くん。おうちのなかを探検してみない?」
「たんけん!?」
歩夢くんの目が大きくなった。
「わあ、する~!」
よかった、よろこんでくれた~!
「じゃあ、行こう。手をつないで探検しようね」
「うん! ぼくのおへや、こっちだよ」
歩夢くんの部屋は、お母さんとケンさんの寝室の真向かいだ。
「おじゃましまーす」
と、なかに入った。
わたしの部屋の色はアイボリーがメインだけど、ここはとってもカラフル。壁の色が青で、白い雲と虹が浮かんでいる。天井からは飛行機の模型(もけい)がいくつか、糸と棒(ぼう)でぶらさがっていた。
なんてかわいい部屋だろう!
歩夢くんは、飛行機が大好きなんだね。
「あのね、ここに、ぼくのテントおくの! ダディがあとでつくってくれるの」
と言いながら、歩夢くんは真ん中の床をパンパンたたいた。
「テント? わあ、いいなあ」
「できたら、いっしょにあそぼうね」
「うん、遊ぼう!」
歩夢くんと笑顔で約束をかわす。
「カイトのおへやにも、いこっ!」
ええっ、海斗くんの部屋に?
パッと和花の言葉が頭に浮かんだ。
『ひとつ屋根の下で暮らすわけでしょう?』
汗がたらたらでてきた。
いくらおにいちゃんでも男の子の部屋だもん。
それはちょっとマズイんじゃ……!
「あっ、歩夢くん! 探検はわたしの部屋にしない?」
と言う前に、歩夢くんはタタッと走って、部屋をでていっちゃった!
た、大変!
「待ってー!」
あわてて追いかけ部屋をでたら、歩夢くんはちょうど海斗くんの部屋に入るところ!
パタンとドアが閉じる。
あーあ、まにあわなかった……。
くぐもった二人の会話が聞こえてくる。英語だった。会話の内容はわからない。
こうなったら、行くしかないじゃん。わたしは海斗くんの部屋の前に立った。けど、やっぱりノックをするのをためらっちゃう。
男の子の部屋なんて、はじめてだもん。緊張して、胸がドキドキする……。
「詩衣と探検?」
海斗くんが日本語でけげんそうに言う。
歩夢くん、わたしと遊んでいること、海斗くんに説明してたんだ!
わたしは急いでドアをノックした。
「し、詩衣です。歩夢くん、そこにいると思うんだけど……!」
ちょっとたって、ガチャッとドアがひらいた。
「ああ、来てるよ」
海斗くんは、ジッとわたしを見つめてきた。
「どうしたんだ? 探検しにきたんだろ? なかに入れよ」
とドアを大きくあける。
「!」
一瞬、ドキッと大きく鼓動(こどう)が鳴った。足が動かなかった。
でも、歩夢くんの面倒をちゃんと見なきゃ。
そうだよ、わたしは歩夢くんのおねえちゃん。
そして、海斗くんはわたしのおにいちゃん。
意識するほうがおかしいんだ!
きょうだいとしてなかよくなるためにも、親睦(しんぼく)を深めよう!
「おっ、おじゃまします!」
わ、ちょっと力が入りすぎちゃった。不自然だったかも。
言いなおすのもおかしいので、がんばってなんでもない顔をした。
ただ、ドギマギする胸のほうだけは、どうにもできなかった。これ以上ドキドキしないよう、慣れる必要があった。そろそろ歩いて、少しずつゆっくり海斗くんの部屋のなかへ。
歩夢くんのとちがって、こざっぱりとした部屋だった。
壁にはウエットスーツがかけられ、ボードも立てかけられている。
あっ、あのときのだ。波をすべる、彼のカッコいい姿を思いだした。
「サーフィンが好きなんだね……」
「泳ぐのも好きだけどな」
海斗くんはフッと笑った。
好きなコトを話しているからかな。その瞳(ひとみ)は、やさしげで。
ちょっとドキッとしてしまった。
「ふ、ふうん……」
何も言えず、わたしはあいづちをうつだけ。
すると、
「しーちゃん、これね、かわいいよ!」
歩夢くんが何かを持ってきた。
見ると、それはイルカのマスコット。
鼻先が丸く、なだらかなカーブの背中、ピンとのびた尾っぽ。グレーと白の二色の生地でぬいあわされている。ひと目で手作りだとわかった。
「わあっ、かわいい!」
わたしもさわってみたい!
手をだして受けとろうとしたら、
「歩夢!」
海斗くんに取りあげられちゃった!
「これにさわっちゃダメだって、いつも言ってるだろ」
海斗くんが「めっ」としかるように、声をとがらせた。
「ごめんなさい……」
歩夢くんは、しょんぼり。
わたしは、なんとなく、いっしょに怒られたような気分になった。
歩夢くんは、わたしに見せてくれようとしただけなんだよね。
わたしもさわりかけたし……。
「ちょっとさわっただけなのに、そこまで強く言わなくても……」
「ダメだ。していいことといけないこと、ちゃんと教えなきゃ」
海斗くんはキッパリと首をふった。
くやしいけど、返す言葉がない。
よっぽど大事なものなんだな。
ハワイにガールフレンドがいて、その子からのプレゼントだったりして……。
どんな子だろう。髪がロングの子かな? それともショートの子?
「どうした?」
その声でハッとした。海斗くんがうで組みをして、わたしをうかがうように見ている。
やだ、わたし……!
会話のとちゅうなのに、いつのまにかもの思いにふけっていた!
うそー、信じらんない!
「なっ、なんでもないっ」
めちゃくちゃ焦って、思いっきり笑みを浮かべた。
これで、ごまかせたかな……。
いやいや、ツッコまれたら、言い訳できる自信がないよう。
海斗くんに何か言われる前に、くるっ、と歩夢くんのほうを向いた。
「歩夢くんっ、おなかすいたでしょう。おやつ食べにいこうかっ。海斗くん、おじゃましました!」
ふり返らずに、歩夢くんをつれて海斗くんの部屋をでていく。
はあ、ビックリした!
海斗くんのガールフレンドが気になるなんて、へんなの……。
トゲに刺されたように、胸の奥がチクチクしてきた。
ホントにわたし、こんな調子でだいじょうぶかな。
海斗くんとうまくやっていけるかな。
<第5回へつづく>
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
『海斗くんと、この家で。』を読んだあとは…
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