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「1%」「スキ・キライ相関図」で大人気!
このはなさくらさんの新シリーズ『海斗くんと、この家で。』を一足早く公開中!
『海斗くんと、この家で。 ①初恋はひとつ屋根の下』は、2022年2月9日発売予定です!
2 押しつけられた約束
次の日の朝。玄関で靴(くつ)をはいていたら、「詩衣(しい)、ちょっと!」とお母さんによびとめられた。
「今日は、おそうじ当番か何かある?」
「ううん、登校日だから何もないよ」
「そう、よかった。お昼ごろ大切なお客さまがいらっしゃるの。詩衣にも会ってほしいから、はやく帰ってきてね」
「え、お客さま?」
お母さんがこんなこと言うの、はじめてだ。どんなお客さまだろ?
くわしく聞いてみたかったけれど、時間がなかった。もう行かなきゃ。
「うん、わかった。はやく帰ってくるね。いってきます」
と返事をして、家をでた。
カーブのとちゅうで、和花(わか)と合流した。
「おはよう、和花」
「詩衣、おはよー」
ペチャクチャおしゃべりしながら行くと、波の音が大きくなってきた。道に沿って、砂浜とうすみどり色の海が広がっている。サーフィンをするひとたちで、浜は今日もにぎやかだった。
わたしたちみたいな、このあたりに住む小学生にとっては、いつもの見慣れた景色。なのになぜか、浜におりていけるコンクリートの階段のところに、ギャラリーが集まっている。
そのギャラリーのほとんどは、女の子だった。みんな、海を見ながら「キャアキャア」と大きな声をだして騒いでいる。
なかでも目立っているのは、岡野(おかの)くららさん。
彼女は負けず嫌いの勝ち気な性格で、うちのクラスの女王さまみたいな存在なんだよね。
「あれれ、見物人でいっぱいだね。あんなとこで何を見ているんだろ」
遠くを見わたそうとでもするように、和花は目の上に手をかざす。
わたしも、みんなが見ている方向に、目を向けてみたら。
大人たちに交じってボードの上にすわり、海のなかで波待ちをしている男の子を見つけた。
学校が小さいから、ほとんどの子どもは顔見知りだ。けれども、あの子は、はじめて見たように思う。観光客か、だれかの親せきかな。
「みんな、あの男の子を見ているみたいだね」
と、和花。
そのとき、水平線からめくれるみたいに、海面が持ちあがった。
「大きいのがきた!」
ギャラリーのだれかがさけぶ。
すると男の子は、クロールをするように腕を動かして、波に向かって水をかいていったんだ。
えっ、あの波に乗ろうとしているの?
だいじょうぶかな。大人でもむずかしそうだよ。
ちょっと不安になって、胸がドキドキしてきた。
だけど、心配なんていらなかった。男の子は、やってきた波のうねりにボードをあわせてスタンディング。軽々と乗ってみせたんだ!
あざやかにボードをジグザグと動かし、ターンを決めながら波の斜面をすべる彼。
「あっ……!」
わたしの心臓は、はねあがった。
あのひと! どこかで見たことあるような。
えー、どこでだろう。すれちがったのかなー。思いだせそうで思いだせない。
「あのひと、スゴいねえ」
めったにひとをほめない和花が、めずらしくそう言った。
「うん、スゴいね……」
わたしもうなずいた。
知り合いでもなんでもないのに、なんだか誇らしく感じた。
心のなかが、サイダーのようにピチピチはずんでいる。
あんなふうに波に乗れたら、きっとキモチいいだろうな。
うらやましいなあ。
*
しばらくたって、彼が海からあがってきた。
キュッとひきしまったシルエット。ぬれた髪を片手でかきあげ、ボードをかかえ浜をのぼってくる。そんなさりげない動作さえも、めちゃくちゃ絵になっている。
岡野さんたちは、「きゃあ!」と目がハートマークだ。
「いい題材になりそう!」
和花もサッとメモ帳をとりだし、ペンを走らせた。
じつは、和花は小説家志望。なんでもアイディアに結びつけちゃう。
彼を見てピンとひらめいたのかな。スゴくカッコよかったもんね。
背が高いせいか、どことなく大人っぽくて、自分たちとはちがうフンイキだし……あれっ。
やっと彼の正体に気づいた。
あのひと、まさか、まさか……!
「おっ、王子さま、だ……!!」
しまった!
あわてて口をふさいだけれど、遅かった。
階段をのぼってこちらにやってくる彼に向かって、大きな声でさけんでいた。
彼が「?」と顔を上げて、その目が大きくなる。
「おまえ、昨日の――!」
ひええっ!
彼の目が、ググッとつりあがった。
「おい、アレはなんだったんだ? おかげで、あのあと、説明が大変だったんだぞ!」
やっぱり、怒ってる――――!
まわりにいた女の子たちが、ざわっ。
「えっ、知り合いなの?」
「王子さまって何?」
ひいー!
「いえっ! ひっ、ひとちがいですー!」
またしても和花の手をにぎってダーッと走りだす。
「あっ、逃げた!」
「待ちなさーい!」
岡野さんたちの声が追いかけてきた。
*
結局、逃げ切れなくて、昇降口の手前で追いつかれちゃった。
みんなに、ぐるっと取り囲まれる。
岡野さんは両手を腰において、わたしたちの前に仁王立ちになった。
「小倉さん、どうして逃げたの? どこで知りあったの?」
「え、ええっと、どこで、って……」
わたしがしどろもどろになっていたら、
「昨日プールでおぼれた詩衣を、彼が助けてくれたの」
和花がサラッと明かしてしまった。
わたしはあわてて、和花のそでをひっぱった。
「どうして話しちゃったの~!?」
「心配いらないって。まあ、見ててよ」
ええっ! そんなっ、コト、言ったってえええ!
ガシッ。
突然、岡野さんは、お祈りをするように、胸の前で両手を組んだ。
「おぼれている子を真っ先に助けにいくなんてステキ! 勇敢(ゆうかん)なひとなのね~!まさに王子さまだわ……」
と、ウットリ。
「決めた! あのひとを、わたしのカレにするわ!」
岡野さんは、恋多き女の子。カッコいい人を見つけたら、勝手に『わたしのカレ』に任命しちゃうんだ。
「小倉さん!!」
「は、はいいっ」
「もし彼のことがわかったら、イチバンに教えてね!」
力いっぱい、おねがいをされちゃった!
「で、でもぉ、どこの、だれかも、わからないの、に……」
「だから、もしよ、もし! 彼もあなたのこと覚えているようだから、いいでしょ! 今度会ったら名前だけでも聞いといてね。約束よ!」
そ、そんな~!!
<第3回へつづく>
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
『海斗くんと、この家で。』を読んだあとは…
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