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【先行連載】第10回つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作『学校の怪異談 真堂レイはだませない』第6回1-5 さあ考えよう。どうして幽霊は泣いているのか


こわい話にはウラがある?
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『学校の怪異談 真堂レイはだませない』は2022年12月14日発売予定です! お楽しみに♪

表紙・もくじページ

【1-5 さあ考えよう。どうして幽霊は泣いているのか】

アグリさん。そのウワサはボクも知ってる。うむ。目撃者(もくげきしゃ)に会うのは、はじめてだ」

 先輩はうでを組んで、興味(きょうみ)深そうにうなった。

「わたしが視(み)たアグリさんは、なにかの見まちがいだったのですか? でも、わたしには、とてもそうは思えないんです」

「見まちがいとは思えない……か。柊(しゅう)は、それでいいのかい?」

「え?」

「柊は言っていたね。オカルトが好きじゃないって。柊にとっては、見まちがいであったほうが、オカルトではなかったほうが、都合(つごう)がいいのでは?」

 たしかに、オカルトは好きじゃない。幽霊なんて見たくない。

 でも。

「柊には、ほかに言いたいことがあるんじゃないか?」

 先輩の言葉で、わたしは自分の気持ちに気づく。

「……えっと、アグリさんは、たしかにいたんです。泣きながら、うらめしそうに、わたしを見ていたんです。それを、無かったことには、できません。無かったことにしてはいけない、気がするんです」

 先輩はだまって先をうながす。

「幽霊は視たくないです。でも、アグリさんは、だれにでも視えるものではなくて。だから、その、わたしだけは、視えるわたしだけは否定(ひてい)したくない、というか。……そうじゃないと悲しい、というか……」

 なにを言っているのか、自分でもわからない。だけど、これがわたしの本音だった。

 あきれてるんじゃないか。そう思って、先輩の表情をうかがう。

 先輩は、あきれてはいなかった。その代わりに、おどろいていた。

 意表(いひょう)を突(つ)かれたとか、意外なことを言われたとか、そんな感じの表情。

「……なるほど、なるほどなるほど、なーるほど。柊、きみってやさしいんだね」

「っ!? わたし、やらしいですか!?」

「やらしいじゃない、やさしいだ」

「あぁ、やさしいですか……自分がほめられるイメージがなくて……」

「やらしいと言われるイメージはあるのか」

 まあ、やさしい、よりは。というか、なんでわたしがやさしいの?

「柊、考えてみようか」

「え?」

「どうしてアグリさんは泣いているのか。いや、そもそも、どうしてこの学校に〝出る〟のか」

「でも、先輩は、怪異(かいい)は存在しないって」

「存在しないよ。ボクの中では。でも、ちがうんだろう? 柊、きみの中では、怪異は存在するんだろう?」

 わたしはだまってうなずいた。

「じゃあそれは、きみの中では真実だ。きみは幽霊を視た、幽霊を視た――と思った。そう思って、心が納得(なっとく)したのなら、それが、きみの中では真実だ」

 そうだ、わたしは納得している。心の底から、幽霊はいると、納得している。

「ボクはそれを否定しない。それをどうこう言ったりしない。ボクにはボクの納得が、柊には柊の納得が、ボクときみには、それぞれの世界がある

 幽霊が存在する、わたしの世界。幽霊が存在しない、先輩の世界。

「だから、考えてみよう。柊が納得できるように、柊の世界で」

「……どうして、ですか?」

「うん?」

「どうして、そこまでしてくれるんです? 先輩は、ちがう世界の住人なのに」

「納得したから、かな」

 先輩はほほ笑んだ。まぶしすぎて、目をそらす。

「柊の言葉に、納得したんだ。たしかに、存在しているものをナシにするのは悲しい。それに」

 なぜか先輩は、意味ありげに、わたしを見ながらうなずいた。

「さあ、アグリさんはどうして泣いているのか考えよう。柊、くわしく話してくれるかい?」

「あ、はい、もちろん」

 もちろん、なんて積極的(せっきょくてき)な言葉、使うのはいつぶりだろう。いや、はじめてかもしれない。

 そうか、わたしって、だれかと幽霊の話がしたかったんだ。

「うむ。一から十まで、細大(さいだい)もらさず、委曲(いきょく)を尽くして、余(あま)すところなくお願いするよ」

 胸に手を当て、深呼吸。さきほどの体験を、わたしは先輩に語った。


***


「……なるほど、なるほどなるほど、なーるほど」

 わたしが語り終えると、先輩は神妙(しんみょう)な面(おも)もちでうなずいた。

 先輩なら、わたしの話をしっかり受けとめてくれるとは思っていたけれど、思ったよりも真剣(しんけん)な目つきだ。

「……先輩?」

「少し、時間をくれないか」

「は、はい」

 先輩は目を閉じて、眉間をつまむように押さえた。

 たったそれだけの動作が、おそろしいほど絵になる。

 でも、わたしの話を聞いただけで、ほんとうにアグリさんの正体がわかるの――と、思っていたら、先輩はすぐに目を開けた。

「うむ、わかったかもしれない。幽霊の正体が」

「ほんとうですか!?」

「ただ……」

 先輩は言葉をにごし、わたしの顔をじっと見る。目力が、強い。

 だけど、その目の奥が、一瞬、ゆれたようにも見えた。

「えっと、ただ……なんです? 話しにくいのです?」

「そうだね、話しにくいな」

 先輩の視線は、わたしをとらえつづけていた。

「ねえ柊、ほんとうに、霊の正体を聞きたいかい?」

 わたしは気づいてしまった。

 先輩はたぶん、わたしを心配している。アグリさんの正体は、わたしがショックを受けるものなんだ。

「……聞きたい、です。先輩、聞かせてください」

 でも、わたしはそう答えていた。いまさら引き下がれなかった。

 

 

 

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<第7回は2022年11月22日更新予定です!> 

※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・伝承等とは一切関係ありません。


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作:星奈 さき 絵:negiyan

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322104

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