KADOKAWA Group
ものがたり

かっこよさが、クセになる!【大量ためし読み】『怪盗ファンタジスタ』先行連載 第1回



「――待たせたね。はじめようか、胸おどるSHOW TIME(ショータイム)を」


織戸恭也、15歳。 ある日「師匠」に呼びだされ「2代目怪盗ファンタジスタ」を受け継ぐことに!?

「おまえには翼がある。どこまでも、飛んでいけ――」

そしてはじまる、恭也の胸のすくような大冒険。 怪盗レッドシリーズの秋木真さんが贈る、痛快無比な怪盗ストーリーです。
このかっこよさは、クセになる!
6月14日発売のつばさ発の単行本『怪盗ファンタジスタ』を、どこよりも先にためし読みできます。
あなたもぜひ、この風に乗ってね!(毎週火曜日、全4回)

【このお話は…】
物語のはじまりは、ある事故現場。
悲劇の現場にふらりと現れた「その男」は、たった1人で奇跡的に生きのこったこどもを見つける。

すすと涙によごれていても、その顔は目を見はるほど美しかった…。
男に救われたその子どもこそが、
のちに、ひとの心を躍らせるあの「怪盗ファンタジスタ」となる――。



Plorogue 黄金を拾った男

炎が燃えあがり、灰色の煙が、そこら中から立ちのぼっている。
その原因と見られる、小型飛行機の残骸が、森の中に散らばっていた。
男は、まわりを見まわして、その惨状に顔をしかめる。
「いやな情報をきいて、きてみたが……」
これでは、助かっている人間はいないだろう。
男は、きびすをかえそうとすると――。
ひっく ひっく。
小さな子どもの泣き声らしきものが、かすかにきこえた気がして、ふりむく。
まさか……。
男は、注意深くあたりを見まわす。
……いた。
炎と煙の中、小さな男の子が座りこんで泣いている。
まさか、生存者がいるとは……。
男は奇跡という言葉は好きではなかったが、そう思いたくなる。
男は、男の子にかけよると、しゃがみこむ。
「だいじょうぶか?」
「……だれ?」
男の問いに、男の子はおびえた顔をする。
全身をすすだらけにして、顔は涙のせいで黒いすすがのびて、全体に広がってしまっている。
それでもわかる顔の造形の美しさや、おびえた目の宝石のような色合いに、男は目を見はる。
だが、それも一瞬のことだ。
男の子の警戒を解いてやりたいが、ここは長くいるべき場所ではない。
男は、男の子のことをむりやり抱きかかえる。
男の子に、自分の胸しか見えないように。
近くに、倒れたおとなの男女のすがたが見えた。
もしかしたら、この子の両親かもしれない。
意外にも、男の子は、いやがるそぶりは見せなかった。
1人でこの場にいることのほうが、不安だったのだろうか。
コロン。
その男の子のにぎりしめていた手から、キラリと光る、なにかが落ちる。
男は地面に落ちる前にキャッチすると、目の前にかざして確認する。
「この印は……花里家の指輪か。……それならこの子は」
男は、自分が抱きかかえた男の子を見おろす。
花里家は日本の名家で、世界的企業である花里グループの創業一族だ。
この指輪に彫られた印は、花里家の家紋でまちがいない。
しかし、指輪は男の子が持つには、サイズがあわない。ペンダントになっているわけでもなかった。
その指輪を持っていたところを見ると、両親が最後にこの子に指輪をにぎらせたのか……。
その事実だけでも、この子の存在の重要さがわかる。
やっかいごとの種かもしれない。
が、見捨てる気にはならなかった。
この現場を見て、怒りを感じていたのかもしれない。
男のつかんだ情報では、この飛行機の墜落は仕組まれたものだ。
飛行機の乗客のだれかを、狙った凶行だとすれば……。
男は、抱いている男の子に視線をむける。
「むっ」
男は、するどい視線を森の奥にむける。
人が近づいてくる。
しかも、その気配をかくしながら……だ。
「追っ手か」
助けにきたのなら、もっと大さわぎしているだろう。
この惨状を生みだした人間の可能性も高い。
男は、男の子をかかえたまま、その場をはなれることにした。



1 2代目怪盗のステージ

フランス、パリ。
深夜12時30分という時間にもかかわらず、ルーブル美術館のまわりは、まるで昼間のようにライトアップされている。
その中を、100人単位の警官たちが、あちらこちらに立って、警戒の目を光らせている。
おれ――織戸恭也は、その光景をビルの屋上から、オペラグラスでながめていた。
「――いいね。ずいぶん気合いが入っているじゃないか」
おれは警備状況を見て、ニヤリと笑う。
観客が多いのは、大歓迎だ。
「それはそうでしょう。あんな予告状が届いたら、全力で警戒するのは当然です」
おれのとなりに立つ、マサキが、ため息まじりに言う。
マサキは、おれと同じ15歳ぐらい。正確な年齢は、本人も知らないだろう。
黒の短髪に、するどい目つきをした少年だ。
幼いころに出会い、それからずっと、おれにつき従っている。
「それくらいでないと、おもしろくないだろう」
「はあぁ……本当に、あそこにむかわれるのですか?」
マサキが、心配そうな顔できいてくる。
「当然だ。ここからが本番だからな。それに今日は、ヤツもいない。楽勝だよ」
事前に確認したかぎりでは、このパリにヤツはきていない。
借りをかえすいい機会だったというのに、残念だ。
だが、それならば、この仕事を失敗する可能性はゼロに近い。
「ご武運を」
「まかせろ。さあ、怪盗ファンタジスタのショータイムだ」
おれは、顔の半分をかくす、白いフェイスマスクをつける。

美術館の中に入りこむのは、かんたんだ。
山ほどいる警官の1人に変装し、すいすいと美術館の中を進んでいく。
予告状を出した、目的の装飾品は、特別室に展示されている。
300年前の王族が使っていたという、ダイヤがちりばめられたブローチ。
歴史的価値も高いと言われる逸品だ。
警官のすがたをしたおれは、特別室の前の警備についているふりをする。
予告状に記した時刻は午前1時ちょうど。
その、3分前だ。
じっと時間を待つ。
警備する警官たちから、ピリピリとした気配が伝わってくる。
5……4……3……2……1。
  シュ―――
おれは予告時刻と同時に、袖から取りだした、特別製の発煙弾を床にころがす。
  カランカラン
音につられて警備の者たちの目が追った瞬間、発煙弾から煙が噴きだす。
あっという間に、煙が特別室をおおっていく。
「な、なにごとだ!?」
「ファンタジスタだ! くるぞ! 警戒しろ!」
だれかがどなるのが、きこえる。
だが、無駄だよ。
おれは、頭に叩きこんだ、特別室の配置図を思いだしながら、煙の中をつっきって、まっすぐにブローチのもとにむかう。
そして、警官のすがたから、怪盗ファンタジスタのすがたへと変わると、ブローチが飾ってある、ガラスケースの上に飛び乗る。
煙が晴れていく。
「き、貴様! ファンタジスタ!? かこめ!」
スーツを着た警察らしき中年の男が、どなっている。
今回の警備の指揮をとる、警察のお偉いさんだったはず。
指示を受けて、制服の警官たちが、おれのことを20人ぐらいで、かこんでくる。
おれは、懐からブローチを取りだしてみせた。
指先でかざす。
「なっ! それは……! しかし、ケースの中にはたしかに……」
指揮官の男が、とまどった顔をしている。
それもそのはず。
おれの足もとのガラスケースには、ブローチが入ったまま。
だけど、おれの手には、それとそっくりのブローチがある。
「本物はおれがいただいた。かわりと言ってはなんだが、こちらで用意した偽物をプレゼントしよう」
おれは、左の足先で、コツコツとガラスケースを叩く。
「ど、どうなっているんだ?」
「どっちが本物だ」
警官たちが、混乱している。
「ええい! どちらが本物かはいまはいい! そいつを捕まえればいいだけだ!」
指揮官の男の号令で、制服の警官たちが、おれにむかって詰め寄ってくる。
「きみたちにも、プレゼントをあげよう」
おれは、自分の四方にむけて、特別製の缶を投げる。
  シュ―――
缶から噴きだした催眠ガスが、特別室に広がっていく。
「ふざけ……」
「捕ま……え……」
催眠ガスを吸った警官たちが、バタバタとその場で倒れていく。
倒れた警官たちは、みんな眠りにおちている。
「お、おのれ……」
指揮官の男は、最後までねばって意識を保っていたが、眠気に抗えずに床に倒れこむ。
おれは、ガスマスクをつけて、眠っている警官たちの横をゆったりと通りすぎる。
「――いい夢を」
おれは、そのまま特別室を出ると、美術館から脱出した。


2 従者たちはそりが合わない

ヨーロッパの、とある小国。
そこに建つ豪華な屋敷に、おれはいた。
応接間のソファにすわり、おれは鼻歌まじりにタブロイド紙を広げる。
フランス語で書かれたその新聞には、『怪盗ファンタジスタ、ルーブル美術館からブローチを盗みだす!?』という見出しとともに、おれのあざやかな手口が記されている。
その新聞をたたんでおくと、おれは昨日いただいてきたブローチを、手に取ってながめる。
「やはり、いいね。歴史を感じる」
おれは、満面の笑みをうかべ、ブローチをくるくるとまわして、すみずみまで鑑賞する。
おれの名前は、怪盗ファンタジスタ。
世界をまたにかける怪盗として、名をとどろかせる存在だ。
あるときは難攻不落と言われる警備から宝石を盗みだし、あるときは侵入不可能と言われる場所に現れる。
怪盗ファンタジスタと言えば、そんなふうに語られている。
……といっても、おれが初代怪盗ファンタジスタから、「2代目」を襲名したのは、ほんの4カ月ほど前のこと。
だから、経歴のほとんどは、初代のものなんだけど……ね。
おれがいるこの屋敷も、「初代」から受け継いだものだ。
先代のファンタジスタは、飛行機事故の現場で命を落とす運命だったおれを拾って、育ててくれた親がわりのような存在だ。
もちろん感謝はしている。
が、とつぜんおれに役目を押しつけて、すがたを消した初代の行動は、まったく理解ができない。
いま「初代」がどこにいるのか、まったく行方がつかめない。
自分勝手さにはいささか自信があったが、初代は、おれの上をいっていたらしい。
「恭也様。今回の仕事、あんなまねをする必要があったのですか?」
おれの正面に立った、従者のマサキがきいてくる。
おれの前に香り高い紅茶をおき、そのままなにか言いたげに立っていたのだが……それがききたかったのか。
おれ……つまり「2代目」のやりかたに、まだとまどっているらしい。
たしかに、あんなまねは、初代なら決してやらなかったことだから。
堅物のマサキからしたら、みずから危険に飛びこむかのようなおれのやりかたは、理解しがたいのかもしれない。
だが、おれの従者というなら、理解してもらわなければ困る。
「まだそんなことを言っているのか? 予告を出したなら、その日時にすがたを見せなければ、怪盗の名が廃るというものだろう」
おれは、ていねいにマサキに解説する。
「ですが、恭也様。宝石は、すでに盗んであったではないですか、なのに……」
「――――だからおまえは、半人前だと言うんだ」
不意に、低い声が割りこんだ。
細身のすがたが、ふっとマサキの背後に現れる。
金髪と青い目、マサキよりもかなり小柄で、一見では、その性別はわからない。
1秒前には、その気配さえなかった。
だが、おれもマサキも驚かない。
彼女が近くにいることには、気づいていた。
この少女の名は、ツバキ。
おれの、もう1人の従者であり、マサキが常におれのそばにいる守護者の役目なら、ツバキは情報収集に特化した役目を担っている。
そのため、おれやマサキの前以外には、ほとんど真のすがたを見せることはない。
ツバキの父親は、長年「初代」の片腕をつとめていた。
2代つづけて怪盗ファンタジスタに忠誠を誓う、忠実な配下だ。
ただし、このツバキとマサキの2人は、それぞれ有能ではあるのだが、問題もある。
「なんと言った?」
マサキが、目を細め、剣呑な目つきでジロリとツバキを見る。
「主様のお考えもわからないから、半人前だと言ったんだ」
ツバキも、マサキをにらみかえす。
「なら、おまえにはわかるのか?」
「もちろんだ。予告状で指定した日より前に、宝石を盗み、偽物と代えておく。そして、それをさも予告当日に盗んだかのように印象づけることで、警察に、こちらの手口をつかませない。……すばらしい手並みです。ファンタジスタ様」
ツバキはそう言って、片ひざを床につき、おれにむけて頭を下げる。
「……!」
マサキは、くちびるをかんで、悔しそうな顔になる。
ツバキには、情報収集をたのんでいたから、おれの計画の全容を知っていて当然なのだが、そのことを伝えても、火に油を注ぐことになりそうだ。
「まあ、そういうことなんだ。ツバキ、事前の情報収集助かったよ」
おれは、そう言うだけに止めておく。
「ありがとうございます。今後も、このような無能者より、お役に立ってみせます」
ツバキは、マサキをちらりと見て言う。
「無能者って、おまえ!」
マサキも我慢しきれなかったのか、おれの前だということも忘れて、ツバキにつっかかっていく。
「私は真実を言ったまでだ」
「~~~~!!」
はあぁ……またはじまったか。
この2人は、とても仲がわるい。
仕事となれば、きちんとこなすのだが、こういう場では、気がゆるむのか、言い争うのが日常だ。
おれは肩をすくめて、言い合いをしているマサキとツバキから、視線を外す。
あいかわらず、マサキのいれる紅茶はうまいんだが……そうぞうしくてかなわないな。
ファンタジスタの2代目を継いでから、4カ月。
厳格で、口うるさかった初代がすがたを消し、その配下の者たちの多くも去った。
この屋敷に残っているのは、おれと同世代のこの2人くらいだ。
年寄りたちの目が離れ、のびのびと怪盗をやれている。
そのことに、もちろん不満はない。
だが、それだけでは少々スパイスが足りなくなってきたことも、たしかだ。
――ただ刺激を待っていても、はじまらないな。
「街でも見にいってみるか」



Memory 先代からの餞別

それは、いまから4カ月前のことだ。
おれの育ての親であり、師匠であり――初代怪盗ファンタジスタである、アルフォンスから呼びだされて、おれは屋敷の執務室にむかっていた。
いそぎ呼びだされたのは、なぜだろう?
「至急」と言われなくても、おれが後回しにすることはないのに。
なにか、特別な「仕事」でも入ったのだろうか?
頭の中に、いくつかの想像がうかんだが、どれも確証がない。
ろう下を歩き、執務室のドアの前で立ち止まる。
ドアをノックする。
「恭也です」
「ああ、入れ」
中から返事があり、おれはドアを開ける。
室内では師匠が椅子にすわっていて、その片腕であるアランが執事服すがたで給仕をしていた。
アランは、ツバキの父親だ。
2人がどこの出身かは知らない。
師匠は金色の髪と彫りが深い顔をしていて、アランは金髪で、かなり整った顔だちをしている。
年配の2人がならぶと、奇妙な威圧感があって、おとなもすくみ上がる雰囲気があるのだが、それにも、ずいぶん前におれは慣れていた。
いつもどおり、気がるな調子で声をかける。
「師匠、いきなり呼びだしなんて、また仕事の手伝いですか」
「いや。おまえに伝えるべきことがあるから、よんだ」
師匠は顔をあげ、するどい目をおれにむけてくる。
「伝えるべきこと?」
「今日かぎりで、私は怪盗ファンタジスタを引退することにした」
……………………は?
「はあっ!?」
おれは、思わず大きな声を出す。
「やかましいぞ、恭也。ともかくそういうわけだ。─2代目は、恭也。おまえにまかせる」
師匠は淡々と言う。
それだけで話は終わったとばかりに、椅子を回して手もとの書類に目を落とそうとする。
ちょ、ちょっと待てよ。
いったいなにを言いだしたんだ、この人は!
「なにを言ってるんですか、師匠。今日は、冗談やウソを言う日じゃありませんよ」
エイプリルフールには、半月遅い。
「冗談でもウソでもない。ただの事実だ」
「どうしてやめるんですか? 師匠はこれからどうするんですか?」
次々と疑問が湧きあがってくる。
師匠が、ケガをしたり体を壊したりした、という話はまったくきいていない。
そうであれば、いっしょに暮らすおれも、気づいている自信はある。
そもそも、2週間ほど前に大仕事をしたばかりで、そのときにも師匠の動きには衰えなど微塵も感じられなかった。
師匠が怪盗をやめる理由が、まったく思いあたらない。
「やるべきことができた。しばらくは、おまえにも会うことはないだろう」
師匠は、書類に目を落としたまま、あたりまえのことのように告げる。
ダメだ。
これは完全に、決定事項になっている。
おれがなにを言おうが、くつがえることはないだろう、とわかった。
「……あいかわらず、師匠は自分勝手というか、マイペースというか」
事態を受け入れることにしたおれは、げんなりした顔になる。
「それ、おれが2代目を引き受けない、と言ったら、どうするんですか」
「おまえにそんなつもりは、ないだろう。仮定するだけ無駄だ」
うぐっ。
たしかに、そのとおりだ。
怪盗ファンタジスタを継げるのは、魅力的だ。
おれには断る理由がない。
さすが師匠。おれの性格を見ぬいている。
師匠もいなくなり、自分だけで2代目怪盗ファンタジスタをはじめられる。
それは願ってもないことだ。
師匠の日々のしごきからは解放されるし、自分の好きに怪盗もできる。いいことしかない。
あとはただ、おれが受け入れるだけ、というわけか。
「決まりだな」
おれの表情の変化を見て、師匠が言う。
「見透かされてるのは、気に入らないですが、引き受けますよ。2代目」
「2代目への祝いの品を用意しておいた。恭也の部屋においてある。あとで確認するといい」
師匠は席を立つ。そして、ドアの前で止まった。
「──恭也、おまえには翼がある。どこまでも飛んでいけ」
そう言って、おれの反応を待たずに、さっさと部屋を出ていってしまう。
「翼、ね……」
おれは肩をすくめる。
そして、いつの間にか、師匠の片腕のアランのすがたもない。
気配を消したまま、師匠のあとをついていったらしい。
おれの目の前で、気配をつかませることもなく。
さすが、師匠の片腕だけあって、あいかわらず、とんでもない実力だ。
「はあぁ……それにしてもな」
おれは、2人がいなくなった部屋で、1人ため息をつく。
まったく。
自分で決めて、あっという間に行動する。
師匠は、判断と行動力の化物のような人だ。
おれはその場で少しばかり時間をかけて頭を切りかえると、部屋を出る。
自室にもどると、言われたとおり、部屋の中央に、大きめの白い箱がおかれていた。
これが師匠が言っていた、祝いの品だろう。
まずは、箱にトラップなどの仕掛けがないか確認する。
以前、同じような方法で、トウガラシスプレーが仕掛けられた箱を開けてしまい、ひどい目にあったのだ。
なにもないことを確認してから、箱を開けた。
「こいつは……!」
箱の中には、黒いマントが入っていた。
それに顔の半分をかくす、フェイスマスク。
「……怪盗の衣装か」
師匠が着ていたものと似ているが、少しデザインがちがうところもある。
おれは、さっそく身につけてみる。
マントは、わずらわしいかと思ったが、素材がいいのか、着けていることを感じないぐらいにかるい。
「わるくない。このおれが、今日から怪盗ファンタジスタ――か。マサキがきいたら、おどろいて言葉を失いそうだな」
マサキの表情を想像して、おれはクスリと笑った。


次のページへ


この記事をシェアする

ページトップへ戻る