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2.2年生の地獄生活
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「春馬、未奈、ひさしぶりだな!」
「元気そうで、よかった。心配していたんだよ」
2年1組の教室にやってきた春馬と未奈に、クラスメイトが声をかける。
『奈落』にいかされていたため、2年生としては初登校だったけど、1年からのクラス替えはないので、見知った顔がならんでいる。
会えなかったのは、たったの2カ月なのに、なつかしくて、目頭が熱くなった。
「事情は栄太郎から聞いたよ。すごく怖いところにいってたんだろう」
「未奈がいなくて、さみしかったよ」
明るい口調で言うクラスメイトたちだが、その顔は疲れている。
「ぼくたちがいないあいだ、なにがあったのか、聞かせてくれないか?」
春馬が冷静になって聞くと、クラスメイトたちはつらそうに下をむく。
「その手、どうしたの? すごく肌が荒れてるじゃない」
未奈が、クラスメイトの女子の手を心配する。
「2年生は、1年生と3年生のトイレを掃除させられているの、素手で……」
「それだけじゃない。体育用具の片づけから、ボールみがきまで、全部2年だけでやらされているんだ」
「ぼくが体育館の掃除をしていたときなんて、『おまえがゴールだ』とか言われて、みんなでぼくめがけてボールをけるんだ。……ぼくたちは、彼らの先輩なのに……」
クラスメイトたちが、くやしさをぶちまけた。
そのとき、バタバタバタ……と、廊下を駆けてくる音が聞こえてくる。
教室に飛びこんできたのは、2年3組の松山亜沙美(まつやま・あさみ)だ。
「こうなったのは、全部、春馬のせいだからね!」
亜沙美の一言で、教室は静まりかえった。
「……うん、そうだな」
春馬は、亜沙美にむかって、素直に深く頭をさげる。
「亜沙美、ごめん。……それと、みんなも、ごめん」
未奈も、クラスメイトたちに頭をさげた。
「あぁ、もう、そうじゃない! 素直にあやまられたら、わたしの怒りをどこにぶつけたらいいのよ。ここは、『ぼくだけのせいじゃないだろう』くらい言いかえしてくれないと……」
「そう言われても……。もとはと言えば、『絶体絶命ゲーム』の学年対抗戦で、ぼくが負けたのが原因だ」
春馬が言うと、亜沙美が不満そうに言いかえす。
「あのゲームには、わたしも参加してたのよ。だから、わたしにも責任があるわけで……」
「亜沙美は怒ってるの? それとも、あやまってるの?」
未奈に聞かれて、亜沙美は顔をしかめる。
「あぁ、もう、なにを言っているのかな……。とにかく、春馬と未奈が無事にもどってきてよかったわ」
そう言って、やっと亜沙美は笑顔になった。
「亜沙美、放課後にまたうちの教室にきてくれないか」
春馬に言われて、亜沙美は「わかった」とおとなしく教室を出ていく。
放課後、春馬と未奈は、あらためて、クラスメイトと亜沙美から渋神中学でおきたことを聞いた。
入学式の『絶体絶命ゲーム』で2年生が1年生に負けたあと、学校の雰囲気は一変した。
ミッシェル先輩が学校のリーダーになり、彼の命令は絶対になった。
そして、1年生のリーダーに指名された一輝は、2年生に命令した。
「奴隷である2年生は見ぐるしいので、1年生と3年生の前にはすがたをあらわさないように」
そのため、2年生は1年生と3年生が登校する前の早朝に登校して、授業が終わったあとは1年生と3年生が帰ったのを確認してから、学校を出ていた。
そのほかにも、クラスメイトたちが言っていたように、1年生と3年生のトイレや、体育館の掃除までやらされていた。
売店や食堂の使用時間も、制限されている。
剣道部に入っている亜沙美は、もっと大きな不満があった。
「わたしより弱い1年生が、1年生というだけで、渋神中学の代表として、剣道大会に出ているの。春馬、どうにかできないの?」
亜沙美の苦情を、春馬は真剣に考える。
なんとか『絶体絶命ゲーム』の再戦をさせて、そこで1年生に勝たなければならない。
「もう少し待ってくれ、ぼくがなんとかするから……」
「あぁ、また春馬のわるいところが出た。なんでも、1人でやろうとするんだから。あたしがいることを忘れないで」
未奈が言うと、亜沙美があきれた顔をする。
「そこが、未奈のわるいところよ。わたしもいるし、クラスメイトもいるのよ」
気がつくと、2年1組の教室の前には、ほかのクラスの2年生もやってきている。
春馬がもどってきたからには、きっとなんとかしてくれる。
みんなの期待のまなざしが、集まっている。
「これは、2年生全体、いや、学校全部の問題だ。なんとかしよう」
春馬は決意を口にする。
だが、ミッシェル先輩に直談判することもできない。
解決策は、なかなかうかばなかった。
◆
春馬と未奈が学校にもどって、1週間がすぎた。
その間、春馬と未奈も授業開始の1時間前に学校にきて、1年生と3年生に見られないように 登校し、教室でも、まるで学校にいないかのように声をひそめていた。
少しでもさわがしくすると、1年生が乗りこんでくることもあるそうだ。
授業が終わったあとは、1年生と3年生のトイレを掃除してから、学校を出た。
その日、体調不良の栄太郎がようやく登校してきた。
「みんな、ごめんなさい。長いこと学校を休んで。その間も、みんなが奴隷あつかいに耐えてるのに、ゲームに出た、当のぼくが…………」
教室に入ってくるなり、栄太郎はクラスメイトに深々と頭をさげた。
「あやまることないよ、危険な場所にいって、春馬と未奈をつれてかえってきたんだろ?」
「体調はよくなったのか?」
ほとんどの生徒は栄太郎を気づかっているが、中には冷ややかな意見もある。
「ほんとにな。おまえがゲームに負けたせいで、学校生活が真っ暗だよ」
このクラスは、分断されつつある。
「栄太郎、お帰り。……これからどうすればいいかを、みんなで考えていたところだよ。栄太郎も加わってくれ」
春馬が言うと、栄太郎は泣きだしそうな顔をする。
「ありがとう……」
「こんなことがつづくようなら、2年生全員で、授業をボイコットしようと思うの。渋神中が、生徒の自治にゆだねる方針だってことは知ってるけど、やりすぎよ。抗議するべきよ!」
未奈が言うと、クラスメイトが真顔でうなずく。
「学校が、ぼくらの抗議を聞き入れずに、ミッシェル先輩たちの肩をもったらどうする?」
栄太郎が、不安そうな顔で質問した。
「そのときは、ぼくが責任をとる。学校をさわがせた責任をとって、退学するよ」
「春馬、なに言ってるの!?」
未奈は、驚いて聞きかえした。
「心配しないで。退学は最悪の事態のときだ。ただ、それくらいの覚悟がないと、ミッシェル先輩に『絶体絶命ゲーム』をやらせることはできない」
「……クラスメイトたちのために退学をかけるなんて、春馬は、お人よしだな」
廊下から、聞いたことのある声がした。
春馬と未奈が、廊下に目をやる。
第3回につづく(3月4日(水)更新予定)
書籍情報
- 【定価】
- 858円(本体780円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323743
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