最悪の地【奈落】から生きて帰ったことで、さらに伝説的存在になった春馬と未奈。
けれど、そんなころ渋神中では、なんと春馬たちの学年である2年生の全員が、1年生の奴隷にされて、ひどい目にあっていたのだ――!
「春馬が帰ればなんとかしてくれる!」と待っていたみんなのために、春馬はふたたびゲームをすることに…!!
この立場をひっくりかえすには、もう一度、絶体絶命ゲームやるしかない!? ーーそして、春馬と未奈の関係にも変化が……。
読みどころいっぱいの絶体絶命ゲーム最新巻をためし読み!(全3回・水曜日更新、公開は2026年5月6日(水)まで)
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0.羽田空港の意外な再会?
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羽田空港第1ターミナル。
飛行機をおりた武藤春馬(むとう・はるま)は、動く歩道に乗って、到着口にむかっていた。
最悪の地『奈落』から無事に帰ってこられた。
けれど、その表情は、くもっている。
ようやく再会できた親友の上山秀介(うえやま・しゅうすけ)と、また離ればなれになってしまったからだ。
結局、『奈落』にいく前と、なにもかわらない。
「……ぼくは、なにをしているんだ?」
つぶやいた春馬に、前にいた滝沢未奈(たきざわ・みな)が、あきれ顔でふりかえる。
「秀介を連れもどせなかったことを、まだくやんでいるの?」
「未奈に迷惑をかけてまで、『奈落』へいったのに……」
「あのね、全部が自分の責任だと思わないで。秀介には、秀介の意思があるのよ。あそこから、抜けだしたくなったら、自分でなんとかするでしょう」
「そうだけど……」
「そんなことより、ようやく東京に帰ってきたんだから、おいしいものを食べましょう。羽田空港のレストランって、充実してるのよ。お寿司、焼き肉、ハンバーガー、それにスイーツもたくさんあるのよ。そうよね栄太郎」
未奈が、わざと明るい口調で言った。
「……えっ、えっ、なに、なに、なに!?」
うしろにいたマッシュルームヘアの小柄な男子、花宮栄太郎(はなみや・えいたろう)はなぜか動揺している。
「どうしたの? 考えごとでもしていた?」
「い、いや、べつに……」
顔を上げた栄太郎を見て、未奈が首をかしげる。
「顔色がわるいけど、飛行機によった?」
「……な、な、なんでもないよ」
栄太郎は動く歩道をおりると、不自然に、そそくさと歩いていく。
「そういえば、栄太郎。機内でも元気がなかったな。飛行機、苦手だったのかな?」
春馬は、栄太郎を追っていく。
「ちょっと、待って」
未奈もそのあとを追うと、うしろにいた金色のストレートヘアの永瀬(ながせ)メイサもつづく。
「栄太郎、待ってくれ……」
春馬に言われて、やっと栄太郎は、立ちどまってふりむいた。
深刻そうな顔をしている。
「栄太郎、どうしたんだ?」
「悩みがあるなら、早いうちに、話したほうがいいんじゃない」
メイサが、おだやかな口調で言った。
「……う、うん。そうだよね。あの、ぼく……」
栄太郎が覚悟を決めて、話しだそうとしたとき、
「あれ、なんで、いるんだよ……」
三国亜久斗(みくに・あくと)の、不機嫌そうな声が聞こえてきた。
春馬と未奈が目をむけると、到着口のドアの前に亜久斗がいる。
ふわふわのボブヘアの女子が、亜久斗にかけよる。
「……あれ? あの娘、どこかで見たことあるような?」
春馬が言うと、未奈が思いだす。
「あぁ、あのときよ。絶叫列車の『絶体絶命ゲーム』に参加していた……」
そこまで言われて、春馬も思いだした。
「「早川鈴香(はやかわ・すずか)!」」
春馬と未奈が、口をそろえて言った。
その女子は、1年半前の年末に、絶叫列車でおこなわれた『絶体絶命ゲーム』に参加していた早川鈴香だ。
「どうして彼女が、ここにいるの?」
未奈の質問に、春馬は「さぁ……」と首をひねる。
「危険なことはしないって、約束したわよね」
鈴香が、亜久斗にむかって言った。
「……関係ないだろう」
「アイさんから聞いたわよ。……恵(めぐみ)の治療費のために、『奈落』へいってくれたんでしょう?」
「それよりも、春馬と未奈がいるぞ。あいさつくらい、しろよ」
「……えっ?」
鈴香はようやく、春馬と未奈に気づいた。
「こんにちは」
未奈が言うと、鈴香は急にはずかしくなったようで顔を赤くする。
「こ、こんにちは……。未奈、春馬」
「元気そうだね」
色々と聞きたいことはあるが、春馬は当たりさわりのないあいさつをした。
「う、うん……。春馬と未奈も、元気そうね」
鈴香が、春馬と未奈と話しているあいだに、亜久斗は人ごみにまぎれて歩いていく。
「あっ、ごめんなさい。……亜久斗、ちょっと待って」
鈴香は、あわてて亜久斗を追っていってしまう。
「……あの2人、連絡を取りあっていたのね」と未奈。
「そうみたいだな」
「なんか……、いいね」
未奈は、亜久斗の人間的な一面を見たようで、うれしかった。
「……うん。そうだね」
春馬も、同じ気持ちだ。
「……亜久斗が『奈落』にきてくれたのは、わたしたちが誘ったからじゃなかったみたいね」
メイサはそう言って、栄太郎をちらりと見た。
栄太郎は、心ここにあらずという顔をしている。
「ところで、鈴香さんって、だれなの?」
メイサが質問すると、春馬が説明する。
1年半前、鈴香は自殺未遂をした親友にかわって、『絶体絶命ゲーム』に参加した。
春馬と未奈と亜久斗も、そのゲームに参加していたのだ。
そして鈴香は、見事に優勝して、願いごとをかなえてもらえた、はずだ……。
春馬の話を聞いて、メイサは首をかしげた。
「それって、おかしいわ。彼女は身分を偽って、『絶体絶命ゲーム』に参加したんでしょう。それなら、優勝しても、願いはかなえてもらえないんじゃない?」
メイサの言葉に、未奈ははっとなる。
「たしかに、メイサの言うとおりよ。鈴香は、願いをかなえてもらえてないわ」
「……うん、そうかもしれないな。鈴香の願いごとは、おそらく自殺未遂をした親友のことだ。彼女を転校させるとか、けがの治療とか……」
「さっき鈴香、『恵の治療費のために、奈落へいってくれたんでしょう?』って言ってたわね」
未奈の言葉に、春馬がうなずく。
「亜久斗が『奈落』にきてくれたのは、鈴香さんのためだったみたいね。……意外とやさしいじゃない」
メイサはさらっと言うと、シャトルバスの案内板に目をやる。
羽田空港からは、あちこちの主要なターミナル駅にむかって、シャトルバスが出ている。
「わたしは横浜方面行きに乗るから、ここでお別れね」
メイサはそう言って、空港ビルを出ていく。
「ぼくたちも帰ろう」
春馬が、渋谷方面行きのバス停をさがしていると、
「……あの、春馬たちに話があるんだ」
栄太郎が、思いつめた顔で言った。
「……やっぱり、なにかあるのね」
未奈が、栄太郎にむきなおる。
「それで、なにがあったんだ?」
春馬に聞かれると、栄太郎は体をふるわせ、とつぜん、2人にむかって深く頭をさげた。
「……春馬、未奈、ごめんなさい」
「おい、頭なんかさげるなよ。それよりも、なにがあったのか話してくれ」
頭をあげた栄太郎は、今にも泣きだしそうだ。
「……か、か、隠していたわけじゃないんだ。ただ、まさか、ぼくが『奈落』で、『絶体絶命ゲーム』をやるなんて、考えてもいなかったから、伝えるタイミングがなくて……」
「その話はいいから、なにがあったの?」
未奈が問うと、栄太郎は落胆したように大きく息をはいた。
「……負けたんだ」
「負けたって、なにに?」と未奈。
「新入生との『絶体絶命ゲーム』だよ。……ぼくたちは、去年、『渋神四星(しぶかみしせい)』と戦っただろう」
栄太郎に言われて、春馬は去年の入学式を思いだす。
「渋神四星」というのは、去年の3年生で、学校を牛耳(ぎゅうじ)っていたカリスマ4人組だ。
小学校時代から『絶体絶命ゲーム』で知る人ぞ知る存在だった春馬は、入学前から、四星たちに目をつけられていた。
未奈が「渋神四星」に誘拐され、春馬と栄太郎、そして偶然、巻きこまれた松山亜沙美(まつやま・あさみ)は、渋神中学の恒例行事だという入学式の『絶体絶命ゲーム』に参加することになった。
「でも、入学式のゲームは、在校生が新入生に仕掛けるものだろう。だから、在校生が実行しなければ、ゲームはないんじゃ……」
春馬が言うと、栄太郎は首を横にふる。
「在校生は、2年生だけじゃないだろう」
「そうか、仕掛けたのは3年生ね! もしかして、ミッシェル先輩が、なにかしたの?」
未奈が、不安そうに聞いた。
ミッシェル先輩とは、3年生の風祭(かざまつり)ミッシェル。
3月の『絶体絶命ゲーム』で春馬たちが負けた相手だ。
「ぼくは、ゲームをやるつもりはなかったんだ。それなのに……。入学式の朝、ミッシェル先輩がやってきて、新入生相手の『絶体絶命ゲーム』をやるから、2年生も参加してくれって……」
「断ればよかったじゃない」
未奈が言うと、栄太郎は首を横にふる。
「先輩からの命令を、断れるわけないだろう。それに、ぼくたちは『絶体絶命ゲーム』の学年対抗戦で、ミッシェル先輩たちに負けてるんだよ」
「ごめん、栄太郎。ぼくのせいだ……」
春馬が、すまなそうに言った。
「そんなことないよ。あのゲームには、ぼくも参加していたんだ。春馬だけの責任じゃない」
かばいあう春馬と栄太郎に、未奈がいらいらした口調で言う。
「それは、もう終わったことでしょう。それよりも、1年生とは、どういうゲームをしたの?」
「3人対3人の『鬼ごっこ』だ。最初、1年生の3人が逃げて、鬼役の2年生3人がつかまえるんだ。次に、2年生の3人が逃げて、鬼役の1年生3人がつかまえる。どちらが長い間、つかまらずにいられたかで、勝負したんだ」
栄太郎の話を聞いて、春馬は考えこむ。
最初に逃げるほうが有利なのか、あとで逃げるほうが有利なのか?
逃げるのと追うのでは、どっちが体力を使うだろう?
黙りこんだ春馬に、栄太郎が気まずそうに言う。
「それが……、1年生のリーダーは、あの塩鳥一輝(しおどり・かずき)だったんだ」
「塩鳥って、どこかで聞いたことがあるけど……?」
「商業施設などを経営している塩鳥グループだよ。一輝は、塩鳥グループ会長の孫なんだ」
「塩鳥グループの会長って、『なにごとも一番にならないと意味がない』が口癖の有名な人でしょう?」と、未奈。
「そうなんだ。孫には一番輝くようにという願いをこめて、一輝と命名したらしいよ」
栄太郎が説明した。
「おじいちゃんのプレッシャーすごそうだな。……それで、ほかは、どういう生徒なんだ?」
「体の大きな男子と、ギャル風のメイクをした女子だった。ぼくたちが油断したのもあるけど……。でも、負けた原因は、ほかにあると思うんだ」
「どういうこと?」と未奈。
「彼ら、逃げる側だったときはふつうだったんだ。……それが、鬼になったら、3人が完ぺきなフォーメーションで、あっという間に、ぼくたちはつかまってしまったんだ」
「やるのが『鬼ごっこ』だってことを、前もって知っていたのか……?」
「3年生から知らされていたんじゃないかな……」
栄太郎が、弱々しく言った。
「おそらく、そうだろうな。勝つ作戦も、伝授されていたかもしれない」
「あたしたちがいない間に、勝手なことを……」
未奈が、くやしそうに言った。
「栄太郎、それで『絶体絶命ゲーム』に負けた罰はどういうものだ?」
春馬の問いに、栄太郎は言葉をつまらせながら答える。
「……2年生は……、1年生の奴隷になったんだ」
「はぁぁぁぁ!?」
未奈が、まわりの人がふりかえるような大きな声をあげた。
「……で、でも、ぼくも……、抵抗したんだ。……そ、そして、約束させた」
話をする栄太郎の、様子がおかしい。
「約束って、どういうこと?」
未奈が、首をかしげて聞いた。
「ゲームに、春馬と未奈がいなかっただろう。……だ、だから、2人が帰ってきたら、1年生と再戦することを……」
栄太郎のひたいに汗がういて、目もうつろだ。
「おい、どうしたんだ?」
春馬が心配して聞くが、栄太郎はかまわずに話をつづける。
「……だ、だ、だから……、春馬と未奈が……もどったら、また『絶体絶命ゲーム』を……」
栄太郎の異変に気づいた春馬は、彼のひたいにやさしくふれる。
「すごい熱だ。救急車を呼んでもらおう」
第2回につづく(2月25日(水)更新予定)
書籍情報
- 【定価】
- 858円(本体780円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323743
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