最悪の地【奈落】から生きて帰ったことで、さらに伝説的存在になった春馬と未奈。
けれど、そんなころ渋神中では、なんと春馬たちの学年である2年生の全員が、1年生の奴隷にされて、ひどい目にあっていたのだ――!
「春馬が帰ればなんとかしてくれる!」と待っていたみんなのために、春馬はふたたびゲームをすることに…!!
この立場をひっくりかえすには、もう一度、絶体絶命ゲームやるしかない!? ーーそして、春馬と未奈の関係にも変化が……。
読みどころいっぱいの絶体絶命ゲーム最新巻をためし読み!(全3回・水曜日更新、公開は2026年5月6日(水)まで)
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1.渋神中学の新たな支配者?
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翌日。
春馬と未奈は、代官山駅の改札で待ちあわせて、渋神(しぶかみ)中学にむかった。
2カ月ぶりの学校だ。
だが、クラスメイトたちと会う楽しみよりも、学校がどうなっているのか、不安が大きい。
栄太郎から、もっと学校の状況を聞いておきたかった。
でも、彼はあのまま救急車で運ばれていった。
そのあと、栄太郎から入院すると報告があった。
春馬と未奈は、不安を抱えたまま学校に到着した。
まわりを警戒しながら、正門から、校内に入る。
女子生徒が、なぜかじろじろと春馬たちを見てくる。
まだ制服が新しいから、おそらく1年生だ。
そのあとは、1年生の男子、3年生の女子、3年生の女子、1年生の男子、1年生の男子……。
「ねぇ、おかしくない……?」
未奈に聞かれて、春馬はうなずいた。
「うん、おかしい。ここには、1年生と3年生だけだ。まるで、2年生はこの学校にいないかのようだ」
「どういうことかな?」
「とにかく、教室にいってみよう」
春馬が2年生の教室にむかって歩きだそうとしたとき、うしろから声をかけられた。
「あれっ、そこにいるのは、目ざわりな2年生じゃないかな?」
ふりむくと、さわやかな笑顔の茶髪の少年、塩鳥一輝(しおどり・かずき)がいる。
「2年生が、こんなところにいたらダメだよ。1年生や3年生の邪魔になるだろう」
「それ、どういうこと?」
未奈が、むきになって聞いた。
「あれ、邪魔の意味がわからないのかな? そんなことだから、奴隷(どれい)なんだよ」
「きみは、1年生だよね?」
春馬が、問いつめるように質問した。
面長で体の大きな少年、佐藤渉(さとう・わたる)が、右手首につけたカラフルなミサンガをさわりながら答える。
「おまえは、2年生だろう! 1年生に敬語を使えよ!」
「自分から話しかけてくるのもダメよ。奴隷なんだから。……ほれ、ポチ、ワンと言いなさい」
制服を着くずして、ギャル風のメイクをした手足の長い女子、神宮寺樹里(じんぐうじ・じゅり)が言った。
「土下座で、許してやるよ」
渉が言うと、未奈は困惑する。
「な、なによ、それ! どういうこと!?」
「どうして、ぼくが土下座しないとならないのかな?」
春馬が、きぜんとした態度で言った。
「それは、2年生は奴隷だからだよ。おれたちの視界に入ったらダメなんだよ」
一輝が、半笑いで言った。
「土下座しないなら、2年生は売店の使用を禁止、……いや、トイレの使用を禁止にしちゃおうかな……」
樹里が、楽しそうに言った。
「ぼくは、きみたちの奴隷になった覚えはない」
「あれ、2年生のくせに1年生に逆らうつもりなの? おまえたちは『絶体絶命ゲーム』で、おれたち1年生に負けたんだよ。1年生に逆らうことは、ゆるされないんだ」
「それは、ぼくと未奈が登校するまでの話だ。奴隷なんて、認めない」
春馬を見て、一輝は大げさに天をあおぐ。
「あぁ、そうか。おまえが、武藤春馬だね。そして、滝沢未奈だね。おまえたちのうわさは、聞いているよ。でも、奴隷は奴隷だよ」
「認めないわ!」
未奈が、強い口調で言った。
「春馬、未奈、お帰り。あいかわらず、威勢がいいね」
さらさらの金髪にととのった顔立ちの風祭(かざまつり)ミッシェルが、きらきら光る刺繍(ししゅう)の入った大きなマントを羽織(はお)って優雅に歩いてくる。
今まで騒いでいた1年生が、みな同時に直立不動になって「おはようございます」と、直角にミッシェルに頭をさげる。
そのようすは、独裁国家のようだ。
「まさか『奈落』から、生きて帰ってくるとはねぇ……」
ミッシェルが感心する。
「先輩、これは、どういうことですか?」
春馬は、むっとした顔で聞いた。
「どういうことかって、事情は花宮栄太郎に聞いたんじゃないのかい?」
「聞きました。でも、このあつかいは、ひどすぎるんじゃないですか?」
「ゲームに負けて、奴隷になったんだ。我慢するんだな」
ミッシェルは、そっけなく言った。
「……わかりました。それなら、再戦をしましょう。ぼくと未奈がもどったら、再戦をする約束ですよね?」
「そんな、約束をしたかな?」
とぼけるミッシェルに、未奈が怒りをこらえて言う。
「栄太郎が嘘を言うわけないわ。約束したはずよ!」
「あぁ、そうだった。約束した。最近、忙しくて、忘れていました」
「再戦は、いつですか?」
春馬の質問に、ミッシェルはわざとらしくこまったような顔をする。
「そのことなんだけど……、問題があってね」
「なんですか?」
「『絶体絶命ゲーム』をやる場所がないんだ」
「学校を使わせてもらえばいいでしょう。体育館でもグラウンドでもいいわ」
未奈が言うと、ミッシェルは大げさに首を横にふる。
「簡単に言わないでほしいね。体育館やグラウンドは、授業や部活で使っているだろう」
「約束をやぶるつもりですか?」
春馬が、ミッシェルの目を見て言った。
「そうじゃないよ。でも、とつぜん、やってきて『絶体絶命ゲーム』をしろと言われても、準備が必要なんです」
「いつなら、できるんですか?」
「……そうだなぁ。来年の卒業式かな。その日は、学校から校舎を使っていいと言われている」
「卒業式まで、あと10カ月もあるじゃない! それまで、2年生には、ずっとこんなあつかいがつづくの?」
未奈は怒りで、体をふるわせている。
「まぁ、そうだね」
「そんなのおかしいわ。あたしたちがもどったら、再戦をやる約束でしょう?」
「『もどったらすぐに』とは言わなかったよ。再戦がわたしたちの卒業式の日だって、約束をやぶったことにはならない。それに、1つ言っておくけど、今、きみたちは、奴隷なんだよ。本来なら、カーストのトップ・オブ・トップの生徒会長のわたしと、まともに話をすることは、ゆるされないんだよ」
ミッシェルが言うと、取りまきの1年生が大きくうなずく。
春馬はくやしいが、じっと我慢する。
「あぁ、無駄な時間をすごしてしまったな。一輝、あとはたのむよ」
ミッシェルは、マントをひるがえして、廊下を歩いていく。
「1年生の塩鳥一輝だ。春馬、未奈、今日は大目に見る。でも、明日からは1年生、3年生の邪魔にならないようにするんだ。わかったな!」
春馬が黙っていると、樹里が拳銃を撃つポーズをして、
「バ———ン! 返事しないと、処刑よ!」
「樹里、物騒なことを言うな。校内では、平和にすごさないとダメだぞ」と渉。
「わたしは、樹里じゃない。JJ(ジェイジェイ)よ」
「はいはい、わかりました。JJね。……それよりも、春馬、未奈、返事をしろよ!」
渉が、めんどうくさそうに言った。
「……わかったわ」
未奈が無愛想に言った。
「その返事はなんだよ? わかりました。だろう!」と渉が言った。
未奈が不満そうな顔で言いかえそうとするのを、春馬がとめた。
「ここは我慢しよう……。わかりました」
春馬が言うと、未奈もふてくされたように、「わかりました」と小さな声で言った。
「まぁ、いいんじゃないか。がんばって勉強しろよ、2年生」
一輝はそう言うと、取りまきの1年生を連れていく。
春馬と未奈は、生意気な1年生たちに言葉が出ない。