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3 新たなチームメイト?
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「敗者復活戦に勝ったのは、吉良鏡一と林田七菜です」
ルーが、陽気な声で言った。
「棚から落ちてきた牡丹餅を手にしたのは、鏡一と七菜か……」
つぶやいた春馬を、鏡一がにらむ。
「おれは、『棚から牡丹餅』はきらいだ」
「それって、牡丹餅がきらいということ?」
春馬が、首をかしげながら聞いた。
「牡丹餅は、きらいじゃない。『棚から牡丹餅』ということわざがきらいなんだ。棚に牡丹餅があるとわかっているなら、落ちるのなんか待たずに、棚からとって食べたらいいだろう」
「棚の高いところにあって、とれないんじゃないの?」
七菜が、かるい口調で言った。
「それなら、棚をはいあがって、とればいいんだよ」
「バカバカしい!」
鏡一の話を聞いて、アリスがはき捨てるように言った。
「なにがバカバカしいんだ?」と鏡一が聞く。
「それはね、鏡一が平和な環境で育ったから言えるのよ。棚の牡丹餅を勝手に食べたら、わたしなら半殺しにされるわ」
アリスが言うと、その場が暗い雰囲気になる。
「はいはい、そこまでです。話をもどします。……瀬々大器、瀬々晩成は残念だったわね。あなたたちは、もう少しⅡ区でがんばってね」
ルーはそう言うと、大器と晩成をつれてレクリエーション・ルームを出ていく。
部屋は、ぎこちない沈黙につつまれる。
少しして、ルーが笑顔でレクリエーション・ルームにもどってくる。
彼女を待っていたように、未奈が質問する。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「なに、滝沢未奈?」とルー。
「敗者復活で勝った鏡一と七菜は、Ⅱ区のメンバーでしょう。それなら、ユウヤのチームが6人で、あたしたちのチームが4人になるんじゃないの?」
「それはちがいますよ。吉良鏡一と林田七菜のどちらかに、滝沢未奈のチームに入ってもらいます。そうすれば、5人対5人になるでしょう」
ルーの答えに、未奈は不満そうに言う。
「……でも、鏡一と七菜はⅡ区のメンバーで、数時間前まであたしと戦っていたのよ」
「それは、滝沢未奈のチームに入った敗者復活のメンバーが、スパイになって、Ⅱ区のチームに情報を流したり、ゲームの邪魔をしたりすることを心配しているということですか?」
ルーが、聞いた。
「そうよ。にわかチームメイトは信用できないわ」
未奈が、はっきり答えた。
「今の滝沢未奈の意見ですけど、どうですか?」
ルーに聞かれて、鏡一がため息まじりに答える。
「その心配は無用だよ。Ⅱ区のメンバーで、このゲームを『チーム戦』と考えている者はいない。これは、Ⅲ区の昇格テストだ。チームに関係なく、全力で勝ちにいくよ」
「同じでーす」
七菜が、だらだらした口調で言った。
「そういうことです。わたしも、心配いらないと思います。もし、不正を行った場合は、わたしが、その者を脱落させます」
ルーに言われて、未奈はしぶしぶ引き下がる。
「そのことなんだけど。七菜がゆるしてくれるなら、おれは未奈のチームに入りたいんだ」
鏡一の言葉に、七菜は大げさに不快な顔をする。
「えっ、え、え、えっ、それって、どういうこと?」
「どういうことも、こういうこともない。おれか七菜の、どちらかが未奈のチームに入らないとならないんだ。それで、おれは未奈のチームに入りたいと言っているんだ」
「あやしいなぁ。どうしてわざわざ、弱いチームに入りたいのかな」
七菜がつぶやくと、春馬が口をはさむ。
「未奈のチームが弱いと、決めつけないほうがいいよ。メイサも亜久斗も栄太郎も優秀だ」
「一般的にはそうかもしれないけど、Ⅱ区のチームはそれ以上に優秀よ。Ⅱ区のリーダーのユウヤ、認めたくないけどⅢ区にあがった蘭々、七菜とは相性最悪だけど優秀なアリスがいるのよ。絶対に強いわ」
「……だから、おれが未奈のチームに入って、七菜がユウヤのチームに入ると、バランスがとれるだろう」
鏡一が言うと、七菜が少し考えてから、顔を真っ赤にして怒る。
「それって、七菜がチームの足をひっぱるってこと!?」
「まぁ、そうかな」
鏡一が、苦笑いで言った。
「——吉良鏡一、どうして滝沢未奈のチームに入りたいのか、本当の理由を教えてもらえますか?」
ルーに聞かれて、鏡一は素直に答える。
「理由は簡単だ。未奈のチームのメンバーなら、勝ったら願いを1つかなえてくれるんだろう。それなら、活躍に関係なく、チームが勝てば、おれはⅢ区に昇格できるだろう」
「たしかにそうですね。林田七菜、吉良鏡一が滝沢未奈のチームに入ることを許可しますか?」
ルーに聞かれて、七菜は納得した顔で答える。
「いいわよ。七菜は、ユウヤのチームがいいわ。鏡一の考えはわかるけど、チームが負けたら元も子もないでしょう」
「それなら、決まりですね。吉良鏡一は、滝沢未奈のチーム。そして、林田七菜は、甲斐ユウヤのチームに入ってください。それから、チーム名ですが、甲斐ユウヤのチームは『Ⅱ区チーム』、滝沢未奈のチームは『ゲストチーム』とします」
「鏡一は、敵になったか。これは、おもしろいゲームになりそうだ」
ユウヤが、余裕の表情で言った。
「ゲームの参加者は、建物の奥に用意した部屋で休んでもらいます」
ルーが言うと、鏡一が表情をくもらせる。
「建物の奥? というと、廃墟になっているところか?」
「そうです。みなさん、ついてきてください」
ルーはそう言うと、レクリエーション・ルームを出て、廊下を歩いていく。
春馬、未奈、メイサ、栄太郎、亜久斗、Ⅱ区のメンバーは、ルーのあとをついていく。
ルーは中庭を通って、建物の奥にむかう。
春馬たちは、ルーについていく。
レクリエーション・ルームはリフォーム工事をして新築の建物のようになっていたが、建物の奥は廃墟のままで、壁や床に亀裂が走っている。
ルーは、今にも壊れそうな階段をあがっていく。
春馬たちは、無言でルーについていく。
ルーは階段をあがりきると、暗いホールをひたすら歩いていく。
「この先は、崩壊する危険があるので、立ち入り禁止と言われていたけど……?」
ユウヤが、先を歩くルーに聞いた。
「ゲームに危険はつきものですよ。もう少しだけ先なので、ついてきてください」
前を歩くルーに、春馬が質問する。
「敗者復活戦で負けた瀬々兄弟が、あとをつけてきているようだけど。これはゲームに関係あるのかな?」
「ハイ、おおありです。気づかれてしまったら、ここまでですね」
ルーは立ちどまると、「出てきていいですよ」と言う。
うしろから、大器と晩成があらわれる。
2人は大型のウォーターガンを持っていて、背中には大きなタンクを背負っている。