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ものがたり

〈奈落編〉クライマックス『絶体絶命ゲーム16』先行ためし読み 第2回

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3 新たなチームメイト?

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「敗者復活戦に勝ったのは、吉良鏡一と林田七菜です」

 ルーが、陽気な声で言った。

「棚から落ちてきた牡丹餅を手にしたのは、鏡一と七菜か……」

 つぶやいた春馬を、鏡一がにらむ。

「おれは、『棚から牡丹餅』はきらいだ」

「それって、牡丹餅がきらいということ?」

 春馬が、首をかしげながら聞いた。

「牡丹餅は、きらいじゃない。『棚から牡丹餅』ということわざがきらいなんだ。棚に牡丹餅があるとわかっているなら、落ちるのなんか待たずに、棚からとって食べたらいいだろう」

「棚の高いところにあって、とれないんじゃないの?」

 七菜が、かるい口調で言った。

「それなら、棚をはいあがって、とればいいんだよ」

「バカバカしい!」

 鏡一の話を聞いて、アリスがはき捨てるように言った。

「なにがバカバカしいんだ?」と鏡一が聞く。

「それはね、鏡一が平和な環境で育ったから言えるのよ。棚の牡丹餅を勝手に食べたら、わたしなら半殺しにされるわ」

 アリスが言うと、その場が暗い雰囲気になる。

「はいはい、そこまでです。話をもどします。……瀬々大器、瀬々晩成は残念だったわね。あなたたちは、もう少しⅡ区でがんばってね」

 ルーはそう言うと、大器と晩成をつれてレクリエーション・ルームを出ていく。

 部屋は、ぎこちない沈黙につつまれる。

 少しして、ルーが笑顔でレクリエーション・ルームにもどってくる。

 彼女を待っていたように、未奈が質問する。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

「なに、滝沢未奈?」とルー。

「敗者復活で勝った鏡一と七菜は、Ⅱ区のメンバーでしょう。それなら、ユウヤのチームが6人で、あたしたちのチームが4人になるんじゃないの?」

「それはちがいますよ。吉良鏡一と林田七菜のどちらかに、滝沢未奈のチームに入ってもらいます。そうすれば、5人対5人になるでしょう」

 ルーの答えに、未奈は不満そうに言う。

「……でも、鏡一と七菜はⅡ区のメンバーで、数時間前まであたしと戦っていたのよ」

「それは、滝沢未奈のチームに入った敗者復活のメンバーが、スパイになって、Ⅱ区のチームに情報を流したり、ゲームの邪魔をしたりすることを心配しているということですか?」

 ルーが、聞いた。

「そうよ。にわかチームメイトは信用できないわ」

 未奈が、はっきり答えた。

「今の滝沢未奈の意見ですけど、どうですか?」

 ルーに聞かれて、鏡一がため息まじりに答える。

「その心配は無用だよ。Ⅱ区のメンバーで、このゲームを『チーム戦』と考えている者はいない。これは、Ⅲ区の昇格テストだ。チームに関係なく、全力で勝ちにいくよ」

「同じでーす」

 七菜が、だらだらした口調で言った。

「そういうことです。わたしも、心配いらないと思います。もし、不正を行った場合は、わたしが、その者を脱落させます」

 ルーに言われて、未奈はしぶしぶ引き下がる。

「そのことなんだけど。七菜がゆるしてくれるなら、おれは未奈のチームに入りたいんだ」

 鏡一の言葉に、七菜は大げさに不快な顔をする。

「えっ、え、え、えっ、それって、どういうこと?」

「どういうことも、こういうこともない。おれか七菜の、どちらかが未奈のチームに入らないとならないんだ。それで、おれは未奈のチームに入りたいと言っているんだ」

「あやしいなぁ。どうしてわざわざ、弱いチームに入りたいのかな」

 七菜がつぶやくと、春馬が口をはさむ。

「未奈のチームが弱いと、決めつけないほうがいいよ。メイサも亜久斗も栄太郎も優秀だ」

「一般的にはそうかもしれないけど、Ⅱ区のチームはそれ以上に優秀よ。Ⅱ区のリーダーのユウヤ、認めたくないけどⅢ区にあがった蘭々、七菜とは相性最悪だけど優秀なアリスがいるのよ。絶対に強いわ」

「……だから、おれが未奈のチームに入って、七菜がユウヤのチームに入ると、バランスがとれるだろう」

 鏡一が言うと、七菜が少し考えてから、顔を真っ赤にして怒る。

「それって、七菜がチームの足をひっぱるってこと!?」

「まぁ、そうかな」

 鏡一が、苦笑いで言った。

「——吉良鏡一、どうして滝沢未奈のチームに入りたいのか、本当の理由を教えてもらえますか?」

 ルーに聞かれて、鏡一は素直に答える。

「理由は簡単だ。未奈のチームのメンバーなら、勝ったら願いを1つかなえてくれるんだろう。それなら、活躍に関係なく、チームが勝てば、おれはⅢ区に昇格できるだろう」

「たしかにそうですね。林田七菜、吉良鏡一が滝沢未奈のチームに入ることを許可しますか?」

 ルーに聞かれて、七菜は納得した顔で答える。

「いいわよ。七菜は、ユウヤのチームがいいわ。鏡一の考えはわかるけど、チームが負けたら元も子もないでしょう」

「それなら、決まりですね。吉良鏡一は、滝沢未奈のチーム。そして、林田七菜は、甲斐ユウヤのチームに入ってください。それから、チーム名ですが、甲斐ユウヤのチームは『Ⅱ区チーム』、滝沢未奈のチームは『ゲストチーム』とします」

「鏡一は、敵になったか。これは、おもしろいゲームになりそうだ」

 ユウヤが、余裕の表情で言った。

「ゲームの参加者は、建物の奥に用意した部屋で休んでもらいます」

 ルーが言うと、鏡一が表情をくもらせる。

「建物の奥? というと、廃墟になっているところか?」

「そうです。みなさん、ついてきてください」

 ルーはそう言うと、レクリエーション・ルームを出て、廊下を歩いていく。

 春馬、未奈、メイサ、栄太郎、亜久斗、Ⅱ区のメンバーは、ルーのあとをついていく。


 ルーは中庭を通って、建物の奥にむかう。

 春馬たちは、ルーについていく。

 レクリエーション・ルームはリフォーム工事をして新築の建物のようになっていたが、建物の奥は廃墟のままで、壁や床に亀裂が走っている。

 ルーは、今にも壊れそうな階段をあがっていく。

 春馬たちは、無言でルーについていく。

 ルーは階段をあがりきると、暗いホールをひたすら歩いていく。

「この先は、崩壊する危険があるので、立ち入り禁止と言われていたけど……?」

 ユウヤが、先を歩くルーに聞いた。

「ゲームに危険はつきものですよ。もう少しだけ先なので、ついてきてください」

 前を歩くルーに、春馬が質問する。

「敗者復活戦で負けた瀬々兄弟が、あとをつけてきているようだけど。これはゲームに関係あるのかな?」

「ハイ、おおありです。気づかれてしまったら、ここまでですね」

 ルーは立ちどまると、「出てきていいですよ」と言う。

 うしろから、大器と晩成があらわれる。

 2人は大型のウォーターガンを持っていて、背中には大きなタンクを背負っている。


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