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ものがたり

〈奈落編〉クライマックス『絶体絶命ゲーム16』先行ためし読み 第1回

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1 入区テストのやりなおし?

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 教室よりもひとまわり広い部屋、『奈落』Ⅱ区のレクリエーション・ルーム。

 武藤春馬と滝沢未奈は、メイサ、栄太郎、亜久斗と再会した。

「メイサ、栄太郎、それに、亜久斗。……どうして、ここにきたんだ?」

 春馬が、迷惑そうな顔で聞いた。

「どうやら、おれたちは招かれざる客のようだぞ」

 亜久斗が、皮肉っぽく言った。

 メイサは、春馬の意外な反応にとまどっている。

「春馬、どうしたの? みんな、あたしたちを心配してきてくれたのよ」

 未奈に言われて、春馬は秀介と再会したときを思いだした。

 秀介に会うために、春馬はわざわざ『奈落』まできた。

 しかし、秀介は歓迎してくれなかった。

 もしかすると、あのときの秀介は、今の春馬と同じ気持ちだったのかもしれない。

 ——友だちを、危険に近づけたくない。

「ごめん。でも、本当はきてほしくなかった」

 春馬が言うと、栄太郎はすぐに言いかえす。

「ぼくは、後悔したくないんだ。春馬と未奈が、『奈落』にいくことになったとき、ぼくもいっしょにいくべきだったんだ。……ぼくは、友だちを裏切ってしまったようで、ずっと後悔していたんだ。だから、もう後悔したくないんだ」

「……栄太郎、ありがとう。あたしは、栄太郎が裏切ったなんて、少しも思ってないわ」

 未奈の言葉に、栄太郎は救われたような顔になる。

「それは、ぼくも同じだよ。栄太郎は、大切な友だちだ」

 春馬が言うと、しんみりした空気になる。

「わたしたちが、ここにきたのは、ある人から未奈を助けてほしいと、たのまれたからなの」

 メイサが、話を進める。

「えっ!? あたしを、助けてほしいとたのまれた……?」

 未奈が、首をかしげた。

「未奈の妹が、わたしをたずねてきたのよ」

 メイサが言うと、未奈が心配そうに口をひらく。

「由佳は……、由佳は元気なの!?」

「元気だったよ。わたしに会いに、聖マリーナ学園まできたわ」

「そう……、よかった」

 未奈が、ほっとした顔で言った。

「由佳ちゃんから、『おねえちゃんを助けてほしい』と、たのまれたの」

 メイサの話を聞いて、春馬が栄太郎に視線をむける。

「そうか。それで、栄太郎から、ぼくたちが『奈落』に送られたと聞いたのか……」

「うん。でも、情報通のぼくでも、『奈落』のことはわからなかったんだ。ぼくとメイサをここまでつれてきてくれたのは、亜久斗なんだ」

 栄太郎が言うと、『奈落』Ⅱ区のメンバーの視線が亜久斗に集まる。

 部屋のすみで、春馬たちの話を聞いていた長い黒髪に白い肌の少年・吉良鏡一や、小柄な瀬々大器と長身でがっしりした体格の瀬々晩成も、興味をしめすような顔をしている。

「……なんだよ。おまえたち、おれのファンなのか?」

 亜久斗が、不機嫌そうに言った。

「納得できないわ!」

 大きな瞳に七色の髪の少女、林田七菜が大きな声を出した。

「なにが、納得できないのですか?」

 日焼けした肌に端整な顔立ちの青年、『奈落』Ⅱ区のリーダー、甲斐ユウヤがおだやかな口調で聞いた。

「七菜の許可なく、あの3人をⅡ区に入れるなんて、ゆるせない!」

「……それよりも、ここの場所は秘密のはずよ。あなたたち、どうしてここがわかったの?」

 茶色の髪に涼しげな瞳の美人、藤木アリスが質問した。

「なんとなく歩いていたら、ここについたんだ」

 亜久斗が、平気な顔でうそをついた。

「わたしは、真面目に聞いているのよ!」

 アリスが大きな声で言うと、亜久斗はそっぽを向く。

「かれらがここにこられたのには、理由があるんだ。そこにいる三国亜久斗は……」

 ユウヤが亜久斗の名前を言うと、長い黒髪に大きな瞳で、アイドルのようなかわいい顔の天真蘭々が驚きの声をあげる。

「三国亜久斗って……、たしか、代表が才能を見こんで、『奈落』のⅢ区にスカウトした人よ!」

「蘭々の話は、本当なの?」

 アリスが、うたがわしそうな顔でユウヤに聞いた。

「うん、代表に聞いたら、たしかに、招待はしたらしい。ただ……、勝手にやってきたようだ」

 ユウヤの言葉に、亜久斗がわざとらしくため息をつく。

「わざわざ、きてやったのに、散々な言い草だな」

「いきなりだったから、警戒しているんだ。悪く思わないでくれ」

 そう言ったユウヤに、アリスが質問する。

「三国亜久斗はいいとして、ほかの2人はどうなの?」

「代表が、2人の身元も確認した。女子は、聖マリーナ学園2年の永瀬メイサ。男子は、春馬と未奈の同級生の花宮栄太郎。『絶体絶命ゲーム』をやることを条件に、この建物に入ることをゆるすそうだ」

 ユウヤの話に、七菜が不満を口にする。

「そういうことじゃない! 春馬と未奈は、ここに入るのにテストをクリアしたでしょう。その3人は勝手にここに入ってきたわ!」

「つまり、七菜は3人にも、ここに入るテストを受けろと?」

 ユウヤが聞く。

「そのテスト、受けてもいいわよ」

 メイサが、笑顔で言った。

「いい度胸ね。気に入ったわ」

 七菜はそう言うと、メイサ、栄太郎、亜久斗を外につれていく。

 春馬と未奈も、4人を追うように外に出る。


 外はうす暗くなっていて、小雪がちらついている。

 レンガ造りの壁の前で、七菜がメイサたち3人に説明するところを、春馬と未奈は少しはなれて見ていた。

 壁には、4本の黒い縦線が描かれていて、中央部が紙でかくされている。

 4本の線の上には右端から①、②、③、④と番号が書かれている。

 ①と②と④の線の下には、×印が描かれていて、③の線の下は〇印が描かれている。

「……テストは、あみだくじよ。1つ選んで、その先が×印だったら、帰ってもらうわ」

「これって、あたしたちのときの使いまわしじゃない?」

 少しはなれたところで見る未奈がつぶやいた。

「あみだくじって、これじゃテストじゃなくて運試しだと思うけど?」

 栄太郎が、文句を言った。

「不満のようだから、選んだあと、かくしている部分を見せてあげるわよ。そのあと、1回だけ交換していいわ。それじゃ……、選ぶのは3人を代表して、栄太郎にやってもらうわ」

「えっ、ぼく?」

 七菜に言われて、栄太郎は目を白黒させる。

「せ、せ、責任重大だな。……どうしよう」

「1回交換できるんだから、好きなところを選んで」

 メイサが、悩んでいる栄太郎に声をかけた。

「そうか、交換できるんだよな。それじゃ、②にするよ」

 栄太郎が②を選ぶ。

 と、七菜はあみだくじの中央部分をかくしていた紙をとる。

 ③の線は途中で切れていて、その下に×印がついている。

 そして、×印の下からどこともつながっていない縦線が〇印にのびていた。

 どの線を選んでも、×印にいく仕組みだ。

「こ、これって……」

 栄太郎は、あっけにとられている。



「——やっぱり、ぼくたちのときと、同じだ」

 春馬がひそひそ声で言うと、未奈がつづく。

「でも、栄太郎が選んだ番号がちがうわ」

「あぁ、うるさいな。部外者はだまっていて!」

 七菜が、春馬と未奈に注意する。

「そうか、選んだ場所を『変更』するんじゃなくて、『交換』するのね」

 メイサは、からくりに気がついたようだ。

「でも、どうすればいいんだ?」

 栄太郎は、考えこんでいる。

 と、亜久斗があみだの前にいく。

「雪が降っているのに、いつまで外にいさせるんだ。長居するのはごめんだ。建物にもどるぞ」

 亜久斗はそう言いながら、①と書かれたレンガの3つ下のレンガと、〇印の描かれたレンガを引きぬいた。

 2つのレンガを、入れ替えてはめ込む。

「あっ!」



 栄太郎が、短く声をあげた。

 亜久斗はすでに、建物にむかって歩きはじめている。

「ずるいわよ。解答者は、栄太郎なのに……」

 七菜が言うが、メイサも亜久斗を追って建物にもどっていく。

 春馬と未奈も、つづく。

「あぁ、もう!」

 七菜が、ほおをふくらませる。


第2回へ続く(4月8日公開予定)

書籍情報

〈奈落編〉の完結となる最新16巻は、4月9日(水)発売予定!


作: 藤 ダリオ カバー絵: さいね 挿絵: チヨ丸

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323347

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作: 藤 ダリオ 絵: さいね

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322555

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作: 藤 ダリオ カバー絵: さいね 挿絵: チヨ丸

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322906

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