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1 入区テストのやりなおし?
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教室よりもひとまわり広い部屋、『奈落』Ⅱ区のレクリエーション・ルーム。
武藤春馬と滝沢未奈は、メイサ、栄太郎、亜久斗と再会した。
「メイサ、栄太郎、それに、亜久斗。……どうして、ここにきたんだ?」
春馬が、迷惑そうな顔で聞いた。
「どうやら、おれたちは招かれざる客のようだぞ」
亜久斗が、皮肉っぽく言った。
メイサは、春馬の意外な反応にとまどっている。
「春馬、どうしたの? みんな、あたしたちを心配してきてくれたのよ」
未奈に言われて、春馬は秀介と再会したときを思いだした。
秀介に会うために、春馬はわざわざ『奈落』まできた。
しかし、秀介は歓迎してくれなかった。
もしかすると、あのときの秀介は、今の春馬と同じ気持ちだったのかもしれない。
——友だちを、危険に近づけたくない。
「ごめん。でも、本当はきてほしくなかった」
春馬が言うと、栄太郎はすぐに言いかえす。
「ぼくは、後悔したくないんだ。春馬と未奈が、『奈落』にいくことになったとき、ぼくもいっしょにいくべきだったんだ。……ぼくは、友だちを裏切ってしまったようで、ずっと後悔していたんだ。だから、もう後悔したくないんだ」
「……栄太郎、ありがとう。あたしは、栄太郎が裏切ったなんて、少しも思ってないわ」
未奈の言葉に、栄太郎は救われたような顔になる。
「それは、ぼくも同じだよ。栄太郎は、大切な友だちだ」
春馬が言うと、しんみりした空気になる。
「わたしたちが、ここにきたのは、ある人から未奈を助けてほしいと、たのまれたからなの」
メイサが、話を進める。
「えっ!? あたしを、助けてほしいとたのまれた……?」
未奈が、首をかしげた。
「未奈の妹が、わたしをたずねてきたのよ」
メイサが言うと、未奈が心配そうに口をひらく。
「由佳は……、由佳は元気なの!?」
「元気だったよ。わたしに会いに、聖マリーナ学園まできたわ」
「そう……、よかった」
未奈が、ほっとした顔で言った。
「由佳ちゃんから、『おねえちゃんを助けてほしい』と、たのまれたの」
メイサの話を聞いて、春馬が栄太郎に視線をむける。
「そうか。それで、栄太郎から、ぼくたちが『奈落』に送られたと聞いたのか……」
「うん。でも、情報通のぼくでも、『奈落』のことはわからなかったんだ。ぼくとメイサをここまでつれてきてくれたのは、亜久斗なんだ」
栄太郎が言うと、『奈落』Ⅱ区のメンバーの視線が亜久斗に集まる。
部屋のすみで、春馬たちの話を聞いていた長い黒髪に白い肌の少年・吉良鏡一や、小柄な瀬々大器と長身でがっしりした体格の瀬々晩成も、興味をしめすような顔をしている。
「……なんだよ。おまえたち、おれのファンなのか?」
亜久斗が、不機嫌そうに言った。
「納得できないわ!」
大きな瞳に七色の髪の少女、林田七菜が大きな声を出した。
「なにが、納得できないのですか?」
日焼けした肌に端整な顔立ちの青年、『奈落』Ⅱ区のリーダー、甲斐ユウヤがおだやかな口調で聞いた。
「七菜の許可なく、あの3人をⅡ区に入れるなんて、ゆるせない!」
「……それよりも、ここの場所は秘密のはずよ。あなたたち、どうしてここがわかったの?」
茶色の髪に涼しげな瞳の美人、藤木アリスが質問した。
「なんとなく歩いていたら、ここについたんだ」
亜久斗が、平気な顔でうそをついた。
「わたしは、真面目に聞いているのよ!」
アリスが大きな声で言うと、亜久斗はそっぽを向く。
「かれらがここにこられたのには、理由があるんだ。そこにいる三国亜久斗は……」
ユウヤが亜久斗の名前を言うと、長い黒髪に大きな瞳で、アイドルのようなかわいい顔の天真蘭々が驚きの声をあげる。
「三国亜久斗って……、たしか、代表が才能を見こんで、『奈落』のⅢ区にスカウトした人よ!」
「蘭々の話は、本当なの?」
アリスが、うたがわしそうな顔でユウヤに聞いた。
「うん、代表に聞いたら、たしかに、招待はしたらしい。ただ……、勝手にやってきたようだ」
ユウヤの言葉に、亜久斗がわざとらしくため息をつく。
「わざわざ、きてやったのに、散々な言い草だな」
「いきなりだったから、警戒しているんだ。悪く思わないでくれ」
そう言ったユウヤに、アリスが質問する。
「三国亜久斗はいいとして、ほかの2人はどうなの?」
「代表が、2人の身元も確認した。女子は、聖マリーナ学園2年の永瀬メイサ。男子は、春馬と未奈の同級生の花宮栄太郎。『絶体絶命ゲーム』をやることを条件に、この建物に入ることをゆるすそうだ」
ユウヤの話に、七菜が不満を口にする。
「そういうことじゃない! 春馬と未奈は、ここに入るのにテストをクリアしたでしょう。その3人は勝手にここに入ってきたわ!」
「つまり、七菜は3人にも、ここに入るテストを受けろと?」
ユウヤが聞く。
「そのテスト、受けてもいいわよ」
メイサが、笑顔で言った。
「いい度胸ね。気に入ったわ」
七菜はそう言うと、メイサ、栄太郎、亜久斗を外につれていく。
春馬と未奈も、4人を追うように外に出る。
外はうす暗くなっていて、小雪がちらついている。
レンガ造りの壁の前で、七菜がメイサたち3人に説明するところを、春馬と未奈は少しはなれて見ていた。
壁には、4本の黒い縦線が描かれていて、中央部が紙でかくされている。
4本の線の上には右端から①、②、③、④と番号が書かれている。
①と②と④の線の下には、×印が描かれていて、③の線の下は〇印が描かれている。
「……テストは、あみだくじよ。1つ選んで、その先が×印だったら、帰ってもらうわ」
「これって、あたしたちのときの使いまわしじゃない?」
少しはなれたところで見る未奈がつぶやいた。
「あみだくじって、これじゃテストじゃなくて運試しだと思うけど?」
栄太郎が、文句を言った。
「不満のようだから、選んだあと、かくしている部分を見せてあげるわよ。そのあと、1回だけ交換していいわ。それじゃ……、選ぶのは3人を代表して、栄太郎にやってもらうわ」
「えっ、ぼく?」
七菜に言われて、栄太郎は目を白黒させる。
「せ、せ、責任重大だな。……どうしよう」
「1回交換できるんだから、好きなところを選んで」
メイサが、悩んでいる栄太郎に声をかけた。
「そうか、交換できるんだよな。それじゃ、②にするよ」
栄太郎が②を選ぶ。
と、七菜はあみだくじの中央部分をかくしていた紙をとる。
③の線は途中で切れていて、その下に×印がついている。
そして、×印の下からどこともつながっていない縦線が〇印にのびていた。
どの線を選んでも、×印にいく仕組みだ。
「こ、これって……」
栄太郎は、あっけにとられている。

「——やっぱり、ぼくたちのときと、同じだ」
春馬がひそひそ声で言うと、未奈がつづく。
「でも、栄太郎が選んだ番号がちがうわ」
「あぁ、うるさいな。部外者はだまっていて!」
七菜が、春馬と未奈に注意する。
「そうか、選んだ場所を『変更』するんじゃなくて、『交換』するのね」
メイサは、からくりに気がついたようだ。
「でも、どうすればいいんだ?」
栄太郎は、考えこんでいる。
と、亜久斗があみだの前にいく。
「雪が降っているのに、いつまで外にいさせるんだ。長居するのはごめんだ。建物にもどるぞ」
亜久斗はそう言いながら、①と書かれたレンガの3つ下のレンガと、〇印の描かれたレンガを引きぬいた。
2つのレンガを、入れ替えてはめ込む。
「あっ!」

栄太郎が、短く声をあげた。
亜久斗はすでに、建物にむかって歩きはじめている。
「ずるいわよ。解答者は、栄太郎なのに……」
七菜が言うが、メイサも亜久斗を追って建物にもどっていく。
春馬と未奈も、つづく。
「あぁ、もう!」
七菜が、ほおをふくらませる。
第2回へ続く(4月8日公開予定)
書籍情報
〈奈落編〉の完結となる最新16巻は、4月9日(水)発売予定!
- 【定価】
- 836円(本体760円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323347
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046322906
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