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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第6回

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14 押したり引いたり倒したり

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「おぼっちゃんとおじょうちゃん、そろそろ起きたら、どうなんだぁ」

 大器の陰険な声で、春馬と未奈は目を覚ました。

「ここは、どこだ?」

 春馬が、まわりを見て言った。

「おまえたちの墓場だよ」

 大器が、半笑いで言った。

 となりには体の大きな晩成がいる。

「墓場って。ゲームに負けても、殺されるわけじゃないのに」

 未奈が言いかえした。

「まったく口の減らねぇやつだな。立ちなおれないくらいの痛い目にあわせてやるってことだよ」

 大器は、未奈をにらみつけた。

「第2回戦のゲームって、もしかして……」

 春馬は、うんざりしたように言った。

「これって、あれよね?」

 未奈は、頭をかかえる。

 4人がいるのは、部屋の中に作られた土俵の上だ。

「第2回戦のゲームは『力自慢』だから、相撲をやれということか……。でも、これはどういうことだ?」

 春馬が聞くと、未奈も「さぁ……」と答える。

 円形の土俵の中心を横につらぬくように、長く、太いロープがのびている。

ペタッ、ペタッ、ペタッ……

 そのとき、部屋の隅から、足音が聞こえてくる。

 春馬が目をむけると、蘭々が草履をはいた行司の衣装でやってくる。

「やっぱり、相撲なのか……」

 春馬がつぶやいた。

「それでは、2回戦の説明をしまーす」

 蘭々が手にした軍配を4人にむけて言った。

「どうせ、2対2で相撲をとれって言うんだろう?」

 大器が言うが、蘭々は無視する。

「2回戦のゲームは──『綱引き』よ」

 蘭々の言葉に、春馬と未奈は声をそろえて言う。

「「綱引き!?」」

「4人の前にある綱は、土俵の中心を通って、土俵の外に5メートルずつのびているわ。土俵の直径が4メートル55センチだから、綱の長さは14メートル55センチになるわね」

「なんだよ、相撲じゃないのか。春馬をぼこぼこにしてやりたかったのによぉ」

 大器が、物騒なことを言う。

「ただの綱引きなら、この土俵は、どういう意味なんだ?」

 春馬が聞くと、蘭々が不機嫌そうな顔で言う。

「あのね、ゲームの説明は途中なのよ。ちゃんと最後まで聞いてよ。それじゃ、つづきを話すわよ。『綱引き』をしながら『相撲』をとってもらうわ」

「……『綱引き』をしながら『相撲』をとるって、どういうこと?」

 未奈が質問した。

「綱を引っぱって、相手チームをころばすか、土俵の外に出せば勝ちよ。ただし、直接、相手にふれることは禁止よ。だから、相手を叩いたり、投げ飛ばしたりするのはダメよ」

 蘭々の説明を聞いた大器が、しらじらしく言う。

「偶然、体がぶつかることはあるだろう」

「……ふれたくらいなら、罰則はないわ。だけど、故意にぶつかったり、叩いたりしたら、反則負けよ。故意か偶然かは、わたしが判断するわ」

「でも、2人がぶつかったときって、どっちが故意でやったのか、わからないだろう?」

 春馬が、疑問を口にした。

「そのときは、力の弱いほうが、ぶつかられたということになるのかな……?」と蘭々。

「あいまいなルールだな。晩成、力の強いおまえには不利なルールだ。用心しろよ」

 大器が言うと、晩成がうなずいた。

「ルールはそれだけか?」

 春馬が聞くと、蘭々が首を横にふる。

「まだあるわ。チームのどちらか1人は、綱にふれていないと負けよ」

「……それって逆に言うと、チームの1人が綱をさわっていたら、もう1人は綱から手を離してもいいということ?」

 未奈が、たしかめる。

「そうよ。それと、この勝負は1回だけ。春馬と未奈が負けたら、ここで『絶体絶命ゲーム』は終わりよ」

「瀬々兄弟は2人とも男子で、しかも晩成はかなり体が大きい。それに比べて、こちらは未奈は女子だ。なにか、ハンデはないのか?」

 春馬が聞くと、蘭々が大げさに首を左右にふる。

「それは、運が悪かったわね。ゲームには、『謎解き』のような体力差が関係ないものだってあるし、対戦相手だって、瀬々兄弟のほかには、鏡一と七菜、秀介とアリスのように、男女混合のチームがあるでしょう。未奈のころがしたサイコロが、『力自慢』になったのよ」

「……ハンデも、ゲームの変更もできないんだな?」

 春馬が、再確認する。

「できないわ」

 蘭々が短く答えた。

「1つ言っておくけど、おれたちにとって『絶体絶命ゲーム』は、神聖なものだ。だから、ずるはしねぇ。そうだよなぁ、ずるでⅢ区へ進んだ蘭々さんよぉぉぉ」

 大器が、いやみたっぷりで言った。

「そうね。ずるはしてないわ。瀬々兄弟との対戦は、サイコロの結果で『力自慢』になったのよ。……それから、わたしがⅢ区へあがれたのは、代表が認めてくれたからよ。ずるじゃない、立派な作戦だってね。これ以上、とやかく言うことは、代表への反抗とみなすわよ」

 蘭々が強い口調で言うと、大器は肩をすくめる。

「おぉぉ、こわいねぇぇぇ……」

「最後に、確認したいんだけど。……このゲームに勝つには、対戦チームの2人をころばせるか、土俵の外に出すということで、いいのね?」

 未奈が質問した。

「あとは、チームの2人ともが、綱から手を離したら負けよ。それと、さっきも言ったけど、故意に投げたり叩いたりした者は失格になって、そのときは、残った1人で戦ってもらうわ」

 蘭々の説明を聞いて、春馬が疑問を口にする。

「地面におかれた綱をさわるとき、地面についたことになるのか?」

「あぁ、そうね。そのことを、言うのを忘れていたわね。綱は空気としてあつかうわ。だから、地面におかれた綱にふれても地面に手をついたことにはならないわ」

 蘭々が答えると、春馬は土俵を注意深く見る。

 俵で円形の境界線が作られていて、本物の相撲につかう土俵と、同じつくりだ。

「説明を聞くと、このゲームって、あたしたちが圧倒的に不利よね」

 未奈が言うと、春馬がおさえた口調で言う。

「不利は不利だけど、圧倒的ではないかもしれない」

「なにか、作戦があるの?」

 未奈が声をひそめて聞いた。

「うん……実際に戦ってみないと、どういう状況になるかはわからないけど……、体に直接ふれられないなら、腕力はあまり関係ないんだ」

「でも、綱引きはどう?」

「綱を引いて、相手チームを丸い土俵の外まで出すのって難しいよ」

「あぁ、そうね」

 未奈は、思いついたように言った。

「それから未奈。大器だけじゃなく、晩成にも用心してくれ」

「もちろん、用心するわ。すごく力が強そうだもの」

「それだけじゃない。晩成は体が大きくて、乱暴そうに見えるが、実は頭の回転が速くて、優秀かもしれない」

 春馬は、フットサルの勝負で、ゴール前で晩成と1対1になったときのことを思いだした。

 晩成の裏をかいてゴールの右下にシュートしたが、見事にとめられた。

 あれは、勘や瞬発力だけでとめたわけではない。

 右下へのシュートが、あるかもしれないと、晩成は予測していたのだ。

 大器が口数が多く挑発するような発言をするから、人の注意を集めているけど、瀬々兄弟で本当に頭が切れるのは晩成かもしれない。

「わかった。春馬が言うなら要注意ね。それで、作戦って?」

 未奈が聞いたとき、蘭々が話をさえぎる。

「ハーイ、相談はそこまでよ! そろそろ、ゲームをはじめるわ。……春馬と未奈、瀬々兄弟、左右にわかれて、綱を持ってちょうだい」

 春馬と未奈は土俵の右側、瀬々兄弟は左側にわかれる。

 そのとき、春馬はそっと未奈の耳もとでささやいた。

「綱は引っぱらない」──と。


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