―――――――――――――――――――
13 謎解きは、未奈におまかせ!?
―――――――――――――――――――
『爆発まで、残り2分よ』
蘭々の声が、スピーカーから聞こえてくる。
「額縁のガラスに書かれた文字にも、なにか意味があるんじゃない?」
未奈が聞くと、春馬は難しそうな顔で言う。
「板にも文字が書かれているから、額縁と合わせると、なにか文章になるのかもしれないな。……でも、額縁に板がはまらないと、どうにもならない」
「そうか、そうよね」
未奈はそう言って、タイマーに目をむける。
……01:50……01:49……01:48……01:47……
春馬は、じっと考えている。
バラバラになった板を見ていた未奈は、ふと壁に飾られた数枚の細長い板に目をやる。

「これって、みんな、有名な小説のタイトルよね。夏目漱石の『吾輩は猫である』、太宰治の『走れメロス』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、ヘミングウェーの『老人と海』。でも、タイトルの、『猫』『走』『道』『と』という文字が欠けている。……その文字は、この板にある」
未奈は

と書かれた板を手にして、小説のタイトルの板の前にいく。
そして、吾輩は□であるの□の部分に、板に書かれた猫をあわせてみる。
「……これで、『吾輩は猫である』は完成する」
未奈が考えていると、春馬がやってきて話しかける。
「この板は、関係ないんじゃないかな……?」
「どうして?」
未奈が聞くと、春馬は小説のタイトルの書かれた板を見ながら、
「猫と走と書かれた板は、これ以上バラバラにはならないだろう。『吾輩は猫である』は完成させられても、となりに飾られている『□れメロス』の□に走の文字が入れられないよ。それに『吾輩は□である』の板の□に、板の猫の文字をあわせたら、『吾輩で猫走ある』になってしまう」
「そうだけど……」
未奈はそう言いながらも、じっと考えている。
「壁に飾られた小説のタイトルの板は、ぼくたちをまどわすためのものだと思うよ」
春馬の意見に、未奈は納得がいかない。
「そうかな……? 例えば、額縁と板の謎を解いたら、『爆発をとめる方法は、小説のタイトルを完成させる』になるとか……」
「どうだろうな。……どちらにしても、バラバラにした板と額縁がこの謎を解くヒントだよ」
春馬はそう言うと、机の前にもどっていく。
「小説のタイトルは関係ないのかな……?」
未奈は、しぶしぶ机の前にもどった。
そして、バラバラになった板に目をむけると、道の板だけ、1文字しか書かれていないことに気がつく。
「『銀河鉄道の夜』なら、完成させられるけど……」
未奈が、ぼそっと言った。
『爆発まで、残り1分よ』
蘭々の声が、スピーカーから聞こえてくる。
春馬は、まだ考えこんでいる。
未奈は、机の上で、バラバラになった板を、色々に組み合わせてみている。
しかし、すべての板を使うと、額縁に入る長方形はできない。
「こんなことをしても、意味はないのかな?」
未奈がいらいらした口調で言うと、春馬が重い口を開く。
「組み合わせを変えても、板をあわせた面積は変わらないからな……」
「面積が減らないと、額縁にはまらないのよね……」
そう言いながらも、未奈は壁に飾られた『銀河鉄□の夜』の板が気になる。
そして、道と書かれた板を手に持ったまま、板を組み合わせていく。
「……すべてを、はめる必要はないのか」
春馬が、つぶやいた。
「どういうこと?」と未奈が聞いた。
「6つの板のどれかを、減らせばいいんだ。そうすれば、面積が減る」
春馬が大声で言った。
「それなら、できるわ!」
未奈は、道と書かれた板をはずして、A4サイズほどの長方形を作る。

「これなら額縁に、はまる!」
春馬は、ちらりとタイマーを見た。
……00:16……00:15……00:14……
春馬と未奈は、組み合わせた板を、

という額縁にはめる。
板は、額縁にぴたりと合う。
「春馬、文章が完成してるわ!」
未奈が、額縁にはまった板を見て言った。

「爆発をとめる方法は、宮沢賢治の小説のタイトルを完成させて、大声で猫走ると言う、だ!」
春馬が、完成させた文章を読みあげ、タイマーに目をやる。
……00:10……00:09……00:08……00:07……
「ダメだ。間に合わない……!」
タイマーを見た春馬が言った。
「あれ、未奈は……?」
横にいたはずの未奈の姿がない。
春馬が、視線をめぐらす。
未奈は道と書かれた板を持って、壁にダッシュしている。
「いけ、未奈!」
春馬が叫ぶ。
……00:06……00:05……00:04……
未奈は手を伸ばして、銀河鉄□の夜と書かれた板の□の部分に、道をはめた。そして、
「「猫走る!」」
春馬と未奈は、声をあわせて言った。
タイマーが『00:01』でとまる。
『────春馬と未奈、「チャレンジ」成功。1回戦は、あなたたちの勝ちよ』
蘭々の声がスピーカーから聞こえてきた。
春馬は、ほっとして、未奈を見る。
「未奈、ありがとう」
「やっぱり、小説のタイトルは関係していたでしょう。あたし、こういう勘は鋭いんだから」
未奈が、笑顔で言った。
『春馬と未奈、喜ぶのは早いわよ。まだ、たかだか1回戦よ。それじゃ、第2回戦のゲームを決めてちょうだい』
蘭々の声が聞こえてきたあと、
バン!
壁の一部が爆発して、サッカー・ボールくらいの穴があいた。
『第2回戦のゲームを決めるサイコロは、その中よ。さあ、ふって!』
蘭々の声を聞いて、春馬と未奈が穴に目をむける。
手のひらくらいの大きさのサイコロがあるが、さっきのものとはちがうようだ。
春馬が、穴の中からサイコロをとりだす。
サイコロの6つの面には、『力自慢』と『持久力』が、3面ずつ書かれている。
「『力自慢』でも『持久力』でも、瀬々兄弟は得意そうだな」
春馬が、顔をしかめて言った。
「どんな勝負でも、あたしと春馬なら負けないわ。サイコロは、あたしにふらせて」
未奈はそう言うと、春馬の手からサイコロをとって床にころがした。
サイコロは『力自慢』と出た。
「……最悪かも」
未奈が苦笑いで言った。
シュッ……
なにかを噴射するような音が聞こえてくる。
「この音って……!」
春馬が、ぎょっとしながら音のするほうに目をむける。
スマホのような装置につながれた透明な筒から、ガスが噴射されている。
「これって、悪臭の……あれ、臭くない?」
未奈はそう言ったあと、倒れた。
「…………そうか、これは催眠ガスのほうだ……」
春馬は、意識が遠くなる。