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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第6回

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13    謎解きは、未奈におまかせ!?

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『爆発まで、残り2分よ』

 蘭々の声が、スピーカーから聞こえてくる。

「額縁のガラスに書かれた文字にも、なにか意味があるんじゃない?」

 未奈が聞くと、春馬は難しそうな顔で言う。

「板にも文字が書かれているから、額縁と合わせると、なにか文章になるのかもしれないな。……でも、額縁に板がはまらないと、どうにもならない」

「そうか、そうよね」

 未奈はそう言って、タイマーに目をむける。

……01:50……01:49……01:48……01:47……

 春馬は、じっと考えている。

 バラバラになった板を見ていた未奈は、ふと壁に飾られた数枚の細長い板に目をやる。



「これって、みんな、有名な小説のタイトルよね。夏目漱石の『吾輩は猫である』、太宰治の『走れメロス』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、ヘミングウェーの『老人と海』。でも、タイトルの、『猫』『走』『道』『と』という文字が欠けている。……その文字は、この板にある」

 未奈は



と書かれた板を手にして、小説のタイトルの板の前にいく。

 そして、吾輩は□であるの□の部分に、板に書かれた猫をあわせてみる。

「……これで、『吾輩は猫である』は完成する」

 未奈が考えていると、春馬がやってきて話しかける。

「この板は、関係ないんじゃないかな……?」

「どうして?」

 未奈が聞くと、春馬は小説のタイトルの書かれた板を見ながら、

「猫と走と書かれた板は、これ以上バラバラにはならないだろう。『吾輩は猫である』は完成させられても、となりに飾られている『□れメロス』の□に走の文字が入れられないよ。それに『吾輩は□である』の板の□に、板の猫の文字をあわせたら、『吾輩で猫走ある』になってしまう」

「そうだけど……」

 未奈はそう言いながらも、じっと考えている。

「壁に飾られた小説のタイトルの板は、ぼくたちをまどわすためのものだと思うよ」

 春馬の意見に、未奈は納得がいかない。

「そうかな……? 例えば、額縁と板の謎を解いたら、『爆発をとめる方法は、小説のタイトルを完成させる』になるとか……」

「どうだろうな。……どちらにしても、バラバラにした板と額縁がこの謎を解くヒントだよ」

 春馬はそう言うと、机の前にもどっていく。

「小説のタイトルは関係ないのかな……?」

 未奈は、しぶしぶ机の前にもどった。

 そして、バラバラになった板に目をむけると、道の板だけ、1文字しか書かれていないことに気がつく。

「『銀河鉄道の夜』なら、完成させられるけど……」

 未奈が、ぼそっと言った。

『爆発まで、残り1分よ』

 蘭々の声が、スピーカーから聞こえてくる。

 春馬は、まだ考えこんでいる。

 未奈は、机の上で、バラバラになった板を、色々に組み合わせてみている。

 しかし、すべての板を使うと、額縁に入る長方形はできない。

「こんなことをしても、意味はないのかな?」

 未奈がいらいらした口調で言うと、春馬が重い口を開く。

「組み合わせを変えても、板をあわせた面積は変わらないからな……」

「面積が減らないと、額縁にはまらないのよね……」

 そう言いながらも、未奈は壁に飾られた『銀河鉄□の夜』の板が気になる。

 そして、道と書かれた板を手に持ったまま、板を組み合わせていく。

「……すべてを、はめる必要はないのか」

 春馬が、つぶやいた。

「どういうこと?」と未奈が聞いた。

「6つの板のどれかを、減らせばいいんだ。そうすれば、面積が減る」

 春馬が大声で言った。

「それなら、できるわ!」

 未奈は、道と書かれた板をはずして、A4サイズほどの長方形を作る。



「これなら額縁に、はまる!」

 春馬は、ちらりとタイマーを見た。

……00:16……00:15……00:14……

 春馬と未奈は、組み合わせた板を、



 という額縁にはめる。

 板は、額縁にぴたりと合う。

「春馬、文章が完成してるわ!」

 未奈が、額縁にはまった板を見て言った。



「爆発をとめる方法は、宮沢賢治の小説のタイトルを完成させて、大声で猫走ると言う、だ!」

 春馬が、完成させた文章を読みあげ、タイマーに目をやる。

……00:10……00:09……00:08……00:07……

「ダメだ。間に合わない……!」

 タイマーを見た春馬が言った。

「あれ、未奈は……?」

 横にいたはずの未奈の姿がない。

 春馬が、視線をめぐらす。

 未奈は道と書かれた板を持って、壁にダッシュしている。

「いけ、未奈!」

 春馬が叫ぶ。

……00:06……00:05……00:04……

 未奈は手を伸ばして、銀河鉄□の夜と書かれた板の□の部分に、道をはめた。そして、

「「猫走る!」」

 春馬と未奈は、声をあわせて言った。

 タイマーが『00:01』でとまる。

『────春馬と未奈、「チャレンジ」成功。1回戦は、あなたたちの勝ちよ』

 蘭々の声がスピーカーから聞こえてきた。

 春馬は、ほっとして、未奈を見る。

「未奈、ありがとう」

「やっぱり、小説のタイトルは関係していたでしょう。あたし、こういう勘は鋭いんだから」

 未奈が、笑顔で言った。

『春馬と未奈、喜ぶのは早いわよ。まだ、たかだか1回戦よ。それじゃ、第2回戦のゲームを決めてちょうだい』

 蘭々の声が聞こえてきたあと、

バン!

 壁の一部が爆発して、サッカー・ボールくらいの穴があいた。

『第2回戦のゲームを決めるサイコロは、その中よ。さあ、ふって!』

 蘭々の声を聞いて、春馬と未奈が穴に目をむける。

 手のひらくらいの大きさのサイコロがあるが、さっきのものとはちがうようだ。

 春馬が、穴の中からサイコロをとりだす。

 サイコロの6つの面には、『力自慢』と『持久力』が、3面ずつ書かれている。

「『力自慢』でも『持久力』でも、瀬々兄弟は得意そうだな」

 春馬が、顔をしかめて言った。

「どんな勝負でも、あたしと春馬なら負けないわ。サイコロは、あたしにふらせて」

 未奈はそう言うと、春馬の手からサイコロをとって床にころがした。

 サイコロは『力自慢』と出た。

「……最悪かも」

 未奈が苦笑いで言った。

シュッ……

 なにかを噴射するような音が聞こえてくる。

「この音って……!」

 春馬が、ぎょっとしながら音のするほうに目をむける。

 スマホのような装置につながれた透明な筒から、ガスが噴射されている。

「これって、悪臭の……あれ、臭くない?」

 未奈はそう言ったあと、倒れた。

「…………そうか、これは催眠ガスのほうだ……」

 春馬は、意識が遠くなる。


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