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6 真夜中の追跡
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春馬と未奈が、『奈落』にきてから1週間がすぎた。
朝早くから夜遅くまで、ただただ砂金の採取をする生活だ。
食事は砂金の採取量で決まるらしいが、ここにきてからは1日1食、パンひと切れほどだ。
それでも、ここの者たちは文句ひとつ言わず、黙々と砂金の採取をしている。
そのようすは、ここから抜け出すことをあきらめたというよりは、ここの生活に満足しているようにも思える。
彼らは本当に、ここが安住の地だと思っているのだろうか?
その夜、砂金の採取を終えた春馬は、部屋にもどって考えていた。
このままここにいても、無駄な時間をすごすだけだ。
そろそろ、なにか行動したほうがよさそうだ。
作業にも慣れて、夜でも体力が残っている。
まずは、城の中がどうなっているか、調べよう。
コンコン
春馬が部屋を出ようとしたとき、ドアがノックされた。
だれだろう?
春馬がドアを開けると、廊下に未奈がいる。
彼女には、部屋の場所を教えていた。
「こんな時間に、どうし……」
春馬が聞こうとすると、未奈は待ちきれずに部屋に入ってくる。
「えっ……?」
驚いた春馬だが、以前にも同じようなことがあった。
小学5年生の夏、最初に『絶体絶命ゲーム』に参加したときだ。
春馬の部屋に、突然、未奈がやってきた。
あのときのことを思いだして、不意に笑みがもれる。
「……あれ、今、笑った?」
未奈に指摘されて、春馬は下をむいた。
「い、いや、なんでもない。……それより、どうしたの?」
「建物の中を調べていたんだけど……」
「こんな時間に、1人で部屋を出るなんて……」
春馬が言うが、未奈がさえぎる。
「そんなことより、廊下を歩いている人影を見たの。あやしいでしょう」
「えっ?」
「まだ、廊下にいるはずよ」
未奈はそう言うと、ドアを少しだけ開ける。
2人がのぞくと、真っ暗な廊下を歩いていく人がいる。
顔は見えないが、女子のようだ。
春馬と未奈は、その人物を目で追うが……。
廊下の曲がり角で、その人物は消えた。
「あとをつけてみよう」
未奈はそう言って、廊下に出ようとする。
「危険だよ」
春馬がとめると、未奈が顔をしかめる。
「怖いの?」
「そ、そんなことないよ。ただ、こういう古い城は、色々な因縁があるかも……」
春馬の話の途中で、未奈は廊下に出ていく。
「まぁ、いいか……」
春馬はため息をついて、部屋を出た。
2人は、女子が消えた廊下の角にやってくる。
暗さに目がなれて、まわりが見えるようになってくる。
そこに、角の塔に入るドアがある。
「消えたんじゃないわ」
未奈が言うと、春馬がほっと胸をなでおろす。
「おばけじゃなかったね」
「いってみましょう」
未奈が、ドアを開けて中に入っていく。
「しょうがないな……」
春馬も、塔に入る。
塔の中は、らせん階段になっている。
耳をすますと、上から話し声が聞こえてくる。
春馬と未奈は音をたてないようにして、階段を上がっていく。
「遅くなって、ごめんね。食事を持ってきたよ」
女子が、だれかに話しかけているようだ。
この上に、だれかいる。
もしかして、秀介だろうか?
砂金取りの中にはいなかった、それなら……!
春馬は、足ばやに階段を上がっていく。
突然、前からまばゆい光がむけられた。
「えっ!」
春馬が、思わず声を出した。
階段の上にいたのは、有紀と呼ばれていた女子だ。
彼女が、春馬に懐中電灯の明かりをむけたのだ。
「懐中電灯を持っているのか……?」
そう言った春馬に、有紀が冷たい声で質問する。
「わたしに、なにか用事でもあるの?」
「それは……」
とまどう春馬にかわって、未奈が言う。
「夜中にどこへいくのか興味があって、つけてきたのよ」
「どこにいこうと、わたしの勝手でしょう」
答えた有紀の背後に、鉄格子が見える。
その先は暗くてわからないが、だれかいるようだ。
「うしろに、部屋があるのか?」
春馬が聞いた。
「答える必要はないわ」
有紀はきっぱり言った。
「それなら、勝手に見せてもらうよ」
春馬が階段を上がろうとすると、有紀が立ちふさがる。
「……いいよ」
有紀のうしろから、少女の声がきこえてきた。
「……秀介じゃないのか!?」
「……」
有紀が黙って道をゆずると、春馬と未奈は階段を上がっていく。
そこに、鉄格子のはまった部屋があり、中におかっぱボブの小柄な少女がいる。
「はじめまして、ぼくは土黒虹子。きみたちのことは、有紀から聞いている。おもしろそうな新入りが入ったとね」
虹子は、おだやかな口調で言った。
春馬と未奈が自己紹介すると、虹子は満足そうな顔で言う。
「ぼくと会えるなんて、これは運命かもしれないな」
「虹子は、どうして閉じこめられているの?」
未奈が、心配そうに聞いた。
「悪い子だから、お仕置きで閉じこめられているんだ」
「お仕置きって……、だれからのお仕置きなの?」
未奈が聞くと、虹子は首をかしげる。
「よくわからないけど、ぼくは悪い子らしいよ」
虹子の説明に、未奈が怒る。
「だれのお仕置きにしろ、こんなところに閉じこめるなんてひどいわ!」
「いいんだよ。ここは、静かで心が休まる。それよりも、春馬と未奈は『絶体絶命ゲーム』に参加したことがあるんだって? その話を聞かせてよ」
「あるけど……」
未奈が言うと、春馬が口をはさむ。
「その話の前に、1つ教えてほしいことがあるんだ」
「なに?」
「ぼくたちは、人をさがしにここにきたんだ」
春馬が言うと、有紀がけげんな顔で聞きかえす。
「こんなところに、人さがしにきたの?」
「そうなんだ。上山秀介といって、ぼくの親友だ」
短い間のあと、虹子が思いだしたように言う。
「そういえば、前に1人、いなくなったよね。たしか、運動神経のいい男子だ」
虹子の答えを聞いて、春馬ははっとなる。
「もっとくわしく教えてくれないか」
「ぼくは、ここから出られないからよく知らないんだ。有紀は知っているだろう」
虹子に言われて、有紀がしかたなさそうに話をする。
「……それなら、7カ月くらい前にきた男子かな。ここではいちいち名乗らないから、名前まではわからないけど、サッカーをやっていたとか言っていたわね。……身長は、あなたよりも少し低いくらいかな」
「秀介だ。……それで、彼はどうなったんだ!?」
やっと、手がかりを見つけた!
春馬は、興奮をおさえながら聞いた。
「ここにきて、2カ月くらいでいなくなったわ。おそらく、出ていったのね」
「……出ていったって、正門からかい?」
春馬が聞くと、有紀が首を横にふる。
「あそこから出ていけば、だれかが気がつくし、外のオオカミが騒ぐからわかるわ」
「それじゃ、秀介はどこから出ていったというの?」
未奈が聞いた。
「もう1つ、裏口の扉があるのよ」
「──もしかして、礼拝堂の扉かな?」
春馬が聞いた。
「そうよ。あれの奥は長い通路になっていて、その先には──『Ⅱ区』があるそうよ。ただ、わたしもくわしくは知らないわ」
「……秀介は、裏口の扉からⅡ区にいったのかな?」
春馬は、首をかしげて言った。
「ここの中にいなくて、外のオオカミにも食べられていないとしたら、Ⅱ区にいるんじゃない」
有紀の言葉に、春馬は勇気がわいてきた。
秀介は、Ⅱ区にいるかもしれない。
「春馬、明日にでも礼拝堂の扉のむこうを調べよう!」
未奈が言うと、有紀が首を横にふった。
「あの扉は開かないわ。ただ、開く方法はあるわ」
「方法って?」
春馬が聞くと、有紀は少し考えてから答える。
「……ぺ・天使と勝負をするの。勝ったら、裏口の扉は開くのよ」
「ぺ・天使って、だれ?」
未奈が、けげんな顔で聞いた。
「ぺ・天使は名前のまんま、ペテン師のような女だ」
虹子が口をはさんだ。
「そのぺ・天使とは、どうすれば勝負できるんだ?」
春馬が、興奮をおさえて聞いた。
「ここの建物内の会話はすべて盗聴されているわ。だから、ぺ・天使との勝負を希望すれば、彼女があらわれるわ」
「盗聴って、クジトラに聞かれているということ?」
未奈が聞くと、有紀が首を横にふる。
「もっと上の、ここを管理している連中よ。クジトラは、ここの監視人みたいなものよ」
「ぺ・天使と勝負して、負けたらどうなるんだ?」
春馬が聞いた。
「そのときは、正門から出ていかないとならないの」
「……オオカミのえさになれってこと?」と未奈。
「そういうことね」
「裏口の扉を開けるためだけに、命をかけさせるのか!?」
春馬が、疑問を口にした。
「そうじゃないの。……ぺ・天使に勝ったら裏口の扉が開いて、ゲームがはじまるのよ」
「ゲームって、まさか……」と春馬。
「『絶体絶命ゲーム』よ」
有紀の話を聞いて、春馬は頭をかかえる。
「ここにきても『絶体絶命ゲーム』なのか」
「『Ⅰ区』と『Ⅱ区』の間に、『絶体絶命ゲーム』のゲーム・エリアがあるらしいわ」
「裏口の扉のむこうへいくには、『絶体絶命ゲーム』をやらないとならないのか」
春馬は、頭をかきながら言った。
「もしかして、その『絶体絶命ゲーム』も、勝ったら、願いをかなえてもらえるの?」
未奈の質問に、有紀はうなずいた。
「1年半前、クジトラがゲームに勝って、ここを仕切るボスになったのよ」
「そうか。それで、クジトラが正式なボスなわけか」
春馬が納得した。
「『絶体絶命ゲーム』で決められたボスだから、逆らうと、なにをされるかわからないの。城の外に出されるかもしれないし、最悪……」
有紀はそこまで言って、口を閉ざした。
「最悪、なに?」と春馬が聞く。
「『Ⅱ区』送りかも知れないわ」
有紀は、暗い声で言った。
「『Ⅱ区』には、いったことがないんでしょう? どうして、そんなにおそろしいところだと思うの?」
未奈の質問を聞いて、困った顔をした有紀にかわって、虹子が答える。
「春馬と未奈は、日本で最低最悪と思えるような人と会ったことある?」
「うん、まぁ……、そうだな。いやな人に会ったことはあるけど。それが、どうかしたの?」
春馬の答えに、虹子は満足そうな顔をする。
「『Ⅱ区』は世界中の、そういう人を集めた場所だよ。ぼくは、そこにいたんだ」
「「えーっ!」」
春馬と未奈が、同時に言った。
「それで、春馬と未奈はぺ・天使と勝負するの?」
虹子に聞かれて、春馬は少し考えてから答える。
「ぼくは勝負する」
「当然、あたしも勝負するわ」
未奈が、すかさず言った。
「それなら、今回のゲームのプレイヤーは、ぼくをいれて3人だ」
虹子が言うと、有紀が目を丸くする。
「な、なに? 虹子もぺ・天使と勝負するつもりなの?」
「そうだよ。ここでの暮らしもあきたし、少し刺激がほしくなった。あぁ、そうか、忘れていた。有紀はどうする?」
「わたしは……」
有紀は躊躇する。
「迷うなら、参加しなくていいよ。ぼくがぺ・天使に勝って、『絶体絶命ゲーム』を開始させるから。そこから、参加すればいい」
「ほかにやってくれる人はいないのかな?」
春馬が聞いた。
「いないよ。ここにいる者は、生きてないんだ」
虹子が言うと、どこからか博多弁の女の声が聞こえてくる。
『それなら、『絶体絶命ゲーム』の準備をするばい。それまで、みんなは眠っとってくれん』
春馬は声の主をさがすが、まわりには自分たちしかいない。
「今のは、だれの声かな?」
春馬が聞くが、だれも答えてくれない。
まわりを見ると、有紀、虹子、未奈が倒れている。
「……そ、そういうことか」
春馬も睡魔におそわれて、その場に倒れた。
第2回へ続く(3月24日公開予定)
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046322906
〈奈落編〉の完結となる最新16巻は、4月9日(水)発売予定!
- 【定価】
- 836円(本体760円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323347
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