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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第1回

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5    ゲームに「参加できなかった者」たち?

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 春馬と未奈は、康明に建物を案内してもらっていた。

 この城は5階建てで、上から見ると正方形をしていて、中央に中庭がある。

 城の四隅には、建物よりも2階分くらい高い円柱状の塔が建っている。

 春馬たちの入ってきた正門側の扉が南で、クジトラの部屋が北西、礼拝堂は北東になる。

 康明は、最初に未奈を4階の部屋に案内した。

 女子の部屋は4階で、男子の部屋は5階になっている。

「ここで、暮らせというの!?」

 部屋を見た未奈が、不満そうに言った。

 6畳ほどの部屋は、石の壁に小さな窓が1つ空いているだけ。

 家具は粗末な木製のベッドのみで、テレビやパソコンやエアコンなどの電気製品は1つもない。

 それに、明かりは蠟燭だ。

「いやなら、出ていくしかないですよ」

 康明は、申し訳なさそうに言った。

「出ていくって、外にはオオカミがいるんでしょう?」

「ぼくにはなにもできません」

 康明に言われて、未奈はむっとして言う。

「つまり、出られないということじゃない」

「ベッドの上にある制服に着替えたら、中庭にきてください」

 康明はそう言うと、部屋を出ていく。

 ベッドの上に、みんなが着ていたポンチョのような服がおかれている。

「これが、ここの制服なの?」

 未奈は、不満そうにつぶやいた。


 5階の春馬の部屋も、未奈と同じ窓が1つの簡素な部屋だった。

「着替えたら、中庭にきてください」

 そう言って部屋を出ようとした康明に、春馬が声をかける。

「この部屋には、電灯がないんだけど?」

「明かりは蠟燭だけです」

「クジトラの部屋には電気製品があったから、電気はきているんだろう?」

「あそこはボスの部屋なので、特別です」

「そう言えばさっき、クジトラは正式なボスだと言っていたけど、正式とはどういう意味なんだ?」

「それは……」

 康明は、口ごもる。

「なんだい?」

「説明すると長くなるから……。とにかく、クジトラさまはここの正式なボスなんです」

 康明の答えに、春馬は首をかしげる。

「とにかく、制服に着替えたら、中庭にきてください」

 康明は、早口で言うと部屋を出ていった。

「これが雅先輩たちがおそれていた『奈落』か……」

 つぶやいた春馬は、制服に着替えながら考える。

 秀介に会えると思って、ここにきたけど間違いだったかな?


 中庭では、先に着替えた未奈と康明が待っていた。

「それじゃ、ついてきてください」

 康明はそう言うと、建物の角にある円柱状の塔にむかっていく。

 春馬と未奈は康明に連れられて、塔の中のらせん階段を下りて地下階へいく。

 そこは、広い洞窟のようになっていて、幅の広い川がゆるやかに流れている。

 川のまわりにはライトが灯っていて、明るくなっている。

 30人ほどの小中学生が、ざるをもって川辺の砂をあさっている。

 我雄とエマはうろうろ歩きまわって、そのようすを監視している。

「春馬と未奈には、今日から砂金の採取をしてもらいます」

 康明に言われて、未奈は顔をしかめる。

「あたしたちに働けというの?」

「働かざるもの、食うべからず。いやなら、オオカミの群れの中を歩いて帰るんだな!」

 我雄が、意地わるく言った。

「……本当に、砂金がとれるのかな?」

 そう言いながら、春馬は砂金採取をしている人たちの顔をちらちら見る。

「とれるよ。その砂金と、食料を交換しているんだ」

 我雄が言った。

「食料? その食料は、だれがここに運んでくるんだ?」

 春馬が聞くと、我雄があきれたように言う。

「今の時代、ネットがつながっていれば、地の果てだって荷物は届くんだよ」

「ネットがつながっているのか?」

「おまえはいちいちうるさいな! それより、働け!」

 我雄は、春馬をつかまえると川に投げいれた。

バシャーン!

 川の水はおどろくほど冷たく、一瞬で凍りつきそうだった。

 春馬が体をふるわせて、水面から身をおこす。

「ちょっと、ひどいじゃない!」

 未奈が、我雄に食ってかかる。

「おまえも、冷たい目にあいたいのか!」

 我雄がおどかすが、未奈は動じない。

 みんなが作業の手をとめて、春馬と未奈をちらりと見る。

 しかし、すぐに作業にもどる。

 ここにいる者は、ただひたすらに砂金をさがしている。

「……これじゃ、まるで牢獄だ」

 春馬が、体をふるわせながら言った。

「牢獄って、あなたは牢獄に入ったことがあるの?」

 川の中からそう言ったのは、中庭で会ったきりっとした顔立ちの宝来有紀だ。

「なんだ、有紀か」

 我雄が言い捨てる。

 有紀と呼ばれた女子は、砂金採取の作業をやめて春馬と未奈の前にくる。

「あなたたちがどう思うかなんて知らないけど、ここはわるい場所じゃないわ」

 有紀が、静かな口調で言った。

「ぼくは、そうは思えないけど……」

 春馬が言うと、有紀が首を横にふる。

「砂金採取さえしていれば、文句は言われない。食べ物だってもらえる。生きていけるわ」

「でも、自由がないでしょう」

 未奈が言うと、有紀が苦笑いで聞く。

「外の世界のほうが、不自由に思う人もいるわ」

「ここより、外の世界のほうが不自由なんて……?」

 けげんな顔をした未奈に、有紀はうらやましそうに言う。

「あなたは、恵まれているのね」

 有紀は、さびしそうに言った。

「ふつうだと思うけど……」

「それが恵まれているのよ。外の世界に、安全な場所がない人が大勢いるよ」

 有紀の話を、ここにいる者たちはじっと聞いている。

 我雄とエマも、つい、聞き入っている。

「……『絶体絶命ゲーム』に出ていたら、こうじゃなかったんだ……」

 康明が、感情のたかぶった声で言った。

「『絶体絶命ゲーム』だって!」

 春馬が、思わず大きな声を出した。

「やっぱり、あなたたちも『絶体絶命ゲーム』に裏切られたの?」

 有紀に聞かれて、春馬と未奈は顔を見合わせる。

「……『絶体絶命ゲーム』に裏切られたって、どういうこと?」

 春馬が質問した。

「ゲームに勝てば1億円をくれるとか、どんな願いでもかなえてくれるとか。期待だけさせておいて、結局、参加もさせてくれない。──あなたたちも、そうだったんでしょう?」

 有紀の説明に、春馬は目を見ひらく。

「もしかして、ここにいるのは『絶体絶命ゲーム』に応募したのに、参加できなかった者なのか?」

 春馬に聞かれて、不思議そうに有紀は首をかしげる。

「そんなところだけど……」

「そうか……」

 春馬は、ここにいる者をまじまじと見た。

 みんな、なにかをあきらめたような生気のない顔をしている。

『絶体絶命ゲーム』への参加を希望したが、参加できなかった者たち。

 命の保証のない危険なゲームだが、人生に追いつめられた状況なら、一か八かでも勝負をする価値はある。

 しかし、応募した全員が『絶体絶命ゲーム』に参加できるわけではない。

 むしろ、参加したくても、できない人のほうが多いのか。

 そして、参加できない人は、どうなるか?

 最後の望みだった『絶体絶命ゲーム』に参加できないのは、生きていく望みが完全に消えたも同じではないのか……。

「……もしかして、あなたたち、『絶体絶命ゲーム』に参加したことがあるの?」

 無言になった春馬に、有紀が聞いた。

 春馬と未奈は、小さくうなずいた。

「本当に!? 本当に『絶体絶命ゲーム』に参加したの?」

 有紀が念を押す。

「……参加した」

 春馬が答えると、川辺の砂をあさっていた人たちも、手をとめてこちらを見た。

「参加して、結果はどうだったんだ!?」

 いきおいこんで聞いたのは、康明だ。

「それは……」

 春馬は言いしぶるが、未奈がまっすぐに答える。

「あたしはゲームに勝って1億円をもらったわ。それで、妹は手術ができたの」

 全員の刺すような視線が、未奈に集まる。

「……そうなんだ。運のいい人がいるんだな。やっぱり、ぼくは運がわるいんだ」

 康明は、泣きそうな声で言った。

「なるほど、あなたたちは選ばれた人なのね」

 有紀は、冷たい声で言った。

「話はそれくらいでいいだろう。それよりも、仕事をしろ」

 我雄が我に返って言うと、春馬と未奈にざるをわたした。

「春馬、どうするの?」

 未奈が、とまどったように聞いた。

 ここにいる全員が、春馬と未奈の行動に注目している。

「今は、言われた通りにしよう。ここがどういうところか、もっと知りたい」

 春馬と未奈はざるを持って、見よう見まねで砂金の採取をはじめる。

 ……なんだろう?

 砂金採取中、春馬は何度もまわりからの視線を感じた。

 顔をあげると、視線をむけていた者はすぐに目を伏せる。

 新人に興味をしめしているのかもしれないが、もっとちがう重苦しい雰囲気を感じる。


 その日は夜まで、春馬と未奈は、砂金の採取をさせられた。

 春馬は、作業をしながら、秀介をさがしたが、見つけられなかった。

 康明が言うように、秀介はここにいないのかもしれない。

 疲れきって部屋にもどった春馬は、ベッドに横になると、一瞬にして眠りにおちた。


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