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5 ゲームに「参加できなかった者」たち?
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春馬と未奈は、康明に建物を案内してもらっていた。
この城は5階建てで、上から見ると正方形をしていて、中央に中庭がある。
城の四隅には、建物よりも2階分くらい高い円柱状の塔が建っている。
春馬たちの入ってきた正門側の扉が南で、クジトラの部屋が北西、礼拝堂は北東になる。
康明は、最初に未奈を4階の部屋に案内した。
女子の部屋は4階で、男子の部屋は5階になっている。
「ここで、暮らせというの!?」
部屋を見た未奈が、不満そうに言った。
6畳ほどの部屋は、石の壁に小さな窓が1つ空いているだけ。
家具は粗末な木製のベッドのみで、テレビやパソコンやエアコンなどの電気製品は1つもない。
それに、明かりは蠟燭だ。
「いやなら、出ていくしかないですよ」
康明は、申し訳なさそうに言った。
「出ていくって、外にはオオカミがいるんでしょう?」
「ぼくにはなにもできません」
康明に言われて、未奈はむっとして言う。
「つまり、出られないということじゃない」
「ベッドの上にある制服に着替えたら、中庭にきてください」
康明はそう言うと、部屋を出ていく。
ベッドの上に、みんなが着ていたポンチョのような服がおかれている。
「これが、ここの制服なの?」
未奈は、不満そうにつぶやいた。
5階の春馬の部屋も、未奈と同じ窓が1つの簡素な部屋だった。
「着替えたら、中庭にきてください」
そう言って部屋を出ようとした康明に、春馬が声をかける。
「この部屋には、電灯がないんだけど?」
「明かりは蠟燭だけです」
「クジトラの部屋には電気製品があったから、電気はきているんだろう?」
「あそこはボスの部屋なので、特別です」
「そう言えばさっき、クジトラは正式なボスだと言っていたけど、正式とはどういう意味なんだ?」
「それは……」
康明は、口ごもる。
「なんだい?」
「説明すると長くなるから……。とにかく、クジトラさまはここの正式なボスなんです」
康明の答えに、春馬は首をかしげる。
「とにかく、制服に着替えたら、中庭にきてください」
康明は、早口で言うと部屋を出ていった。
「これが雅先輩たちがおそれていた『奈落』か……」
つぶやいた春馬は、制服に着替えながら考える。
秀介に会えると思って、ここにきたけど間違いだったかな?
中庭では、先に着替えた未奈と康明が待っていた。
「それじゃ、ついてきてください」
康明はそう言うと、建物の角にある円柱状の塔にむかっていく。
春馬と未奈は康明に連れられて、塔の中のらせん階段を下りて地下階へいく。
そこは、広い洞窟のようになっていて、幅の広い川がゆるやかに流れている。
川のまわりにはライトが灯っていて、明るくなっている。
30人ほどの小中学生が、ざるをもって川辺の砂をあさっている。
我雄とエマはうろうろ歩きまわって、そのようすを監視している。
「春馬と未奈には、今日から砂金の採取をしてもらいます」
康明に言われて、未奈は顔をしかめる。
「あたしたちに働けというの?」
「働かざるもの、食うべからず。いやなら、オオカミの群れの中を歩いて帰るんだな!」
我雄が、意地わるく言った。
「……本当に、砂金がとれるのかな?」
そう言いながら、春馬は砂金採取をしている人たちの顔をちらちら見る。
「とれるよ。その砂金と、食料を交換しているんだ」
我雄が言った。
「食料? その食料は、だれがここに運んでくるんだ?」
春馬が聞くと、我雄があきれたように言う。
「今の時代、ネットがつながっていれば、地の果てだって荷物は届くんだよ」
「ネットがつながっているのか?」
「おまえはいちいちうるさいな! それより、働け!」
我雄は、春馬をつかまえると川に投げいれた。
バシャーン!
川の水はおどろくほど冷たく、一瞬で凍りつきそうだった。
春馬が体をふるわせて、水面から身をおこす。
「ちょっと、ひどいじゃない!」
未奈が、我雄に食ってかかる。
「おまえも、冷たい目にあいたいのか!」
我雄がおどかすが、未奈は動じない。
みんなが作業の手をとめて、春馬と未奈をちらりと見る。
しかし、すぐに作業にもどる。
ここにいる者は、ただひたすらに砂金をさがしている。
「……これじゃ、まるで牢獄だ」
春馬が、体をふるわせながら言った。
「牢獄って、あなたは牢獄に入ったことがあるの?」
川の中からそう言ったのは、中庭で会ったきりっとした顔立ちの宝来有紀だ。
「なんだ、有紀か」
我雄が言い捨てる。
有紀と呼ばれた女子は、砂金採取の作業をやめて春馬と未奈の前にくる。
「あなたたちがどう思うかなんて知らないけど、ここはわるい場所じゃないわ」
有紀が、静かな口調で言った。
「ぼくは、そうは思えないけど……」
春馬が言うと、有紀が首を横にふる。
「砂金採取さえしていれば、文句は言われない。食べ物だってもらえる。生きていけるわ」
「でも、自由がないでしょう」
未奈が言うと、有紀が苦笑いで聞く。
「外の世界のほうが、不自由に思う人もいるわ」
「ここより、外の世界のほうが不自由なんて……?」
けげんな顔をした未奈に、有紀はうらやましそうに言う。
「あなたは、恵まれているのね」
有紀は、さびしそうに言った。
「ふつうだと思うけど……」
「それが恵まれているのよ。外の世界に、安全な場所がない人が大勢いるよ」
有紀の話を、ここにいる者たちはじっと聞いている。
我雄とエマも、つい、聞き入っている。
「……『絶体絶命ゲーム』に出ていたら、こうじゃなかったんだ……」
康明が、感情のたかぶった声で言った。
「『絶体絶命ゲーム』だって!」
春馬が、思わず大きな声を出した。
「やっぱり、あなたたちも『絶体絶命ゲーム』に裏切られたの?」
有紀に聞かれて、春馬と未奈は顔を見合わせる。
「……『絶体絶命ゲーム』に裏切られたって、どういうこと?」
春馬が質問した。
「ゲームに勝てば1億円をくれるとか、どんな願いでもかなえてくれるとか。期待だけさせておいて、結局、参加もさせてくれない。──あなたたちも、そうだったんでしょう?」
有紀の説明に、春馬は目を見ひらく。
「もしかして、ここにいるのは『絶体絶命ゲーム』に応募したのに、参加できなかった者なのか?」
春馬に聞かれて、不思議そうに有紀は首をかしげる。
「そんなところだけど……」
「そうか……」
春馬は、ここにいる者をまじまじと見た。
みんな、なにかをあきらめたような生気のない顔をしている。
『絶体絶命ゲーム』への参加を希望したが、参加できなかった者たち。
命の保証のない危険なゲームだが、人生に追いつめられた状況なら、一か八かでも勝負をする価値はある。
しかし、応募した全員が『絶体絶命ゲーム』に参加できるわけではない。
むしろ、参加したくても、できない人のほうが多いのか。
そして、参加できない人は、どうなるか?
最後の望みだった『絶体絶命ゲーム』に参加できないのは、生きていく望みが完全に消えたも同じではないのか……。
「……もしかして、あなたたち、『絶体絶命ゲーム』に参加したことがあるの?」
無言になった春馬に、有紀が聞いた。
春馬と未奈は、小さくうなずいた。
「本当に!? 本当に『絶体絶命ゲーム』に参加したの?」
有紀が念を押す。
「……参加した」
春馬が答えると、川辺の砂をあさっていた人たちも、手をとめてこちらを見た。
「参加して、結果はどうだったんだ!?」
いきおいこんで聞いたのは、康明だ。
「それは……」
春馬は言いしぶるが、未奈がまっすぐに答える。
「あたしはゲームに勝って1億円をもらったわ。それで、妹は手術ができたの」
全員の刺すような視線が、未奈に集まる。
「……そうなんだ。運のいい人がいるんだな。やっぱり、ぼくは運がわるいんだ」
康明は、泣きそうな声で言った。
「なるほど、あなたたちは選ばれた人なのね」
有紀は、冷たい声で言った。
「話はそれくらいでいいだろう。それよりも、仕事をしろ」
我雄が我に返って言うと、春馬と未奈にざるをわたした。
「春馬、どうするの?」
未奈が、とまどったように聞いた。
ここにいる全員が、春馬と未奈の行動に注目している。
「今は、言われた通りにしよう。ここがどういうところか、もっと知りたい」
春馬と未奈はざるを持って、見よう見まねで砂金の採取をはじめる。
……なんだろう?
砂金採取中、春馬は何度もまわりからの視線を感じた。
顔をあげると、視線をむけていた者はすぐに目を伏せる。
新人に興味をしめしているのかもしれないが、もっとちがう重苦しい雰囲気を感じる。
その日は夜まで、春馬と未奈は、砂金の採取をさせられた。
春馬は、作業をしながら、秀介をさがしたが、見つけられなかった。
康明が言うように、秀介はここにいないのかもしれない。
疲れきって部屋にもどった春馬は、ベッドに横になると、一瞬にして眠りにおちた。